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日本の医療を守るための沖縄県民集会
〜受診時定額負担導入・TPP交渉参加阻止〜

真栄田篤彦

常任理事 真栄田 篤彦

沖縄県医療推進協議会(加盟28 団体)主催 の標記県民集会が、去る11 月9 日(水)、ロワ ジールホテル那覇において、加盟各団体より約 700 名が参加して盛会に開催された。

当県民集会では、「混合診療」の全面解禁や 医療への営利企業参入に繋がり、国民皆保険制 度の崩壊をもたらすTPP 交渉参加を反対する と共に政府が導入する方針を示している「受診 時定額負担」導入の反対を訴えた。

当日は、当医療推進協議会の神村武之副会長 (沖縄県薬剤師会長)より開会の挨拶が述べら れた後、主催者を代表して医療推進協議会の宮 城信雄会長(沖縄県医師会長)が概ね以下のと おり挨拶を述べた。

挨 拶

宮城信雄
(沖縄県医療推進協議会会長・沖縄県医師会長)

宮城信雄

沖縄県医療推進協議 会は、沖縄県における 医療・介護・保健およ び福祉行政の充実強化 を目指し、積極的に活 動を推進することを目 的に掲げ、当該趣旨に 賛同する28 団体が参加し、平成16 年11 月に 設立された。

当協議会では、これまで「混合診療の解禁阻 止」、「高齢者のさらなる負担に反対」、「国民不 在の医療制度改革反対」等を求め、署名活動や 県民集会等各種活動を展開してきた。お陰様 で、一定の成果を得ることができた。これも偏 に当医療推進協議会各加盟団体のご協力の賜と 感謝申しあげる次第である。

ご存知のとおり、報道によると、野田総理が 明日にでもTPP 交渉参加を表明する見通しが 明かとなっている。

TPP へ加入した場合、農業だけではなく、 医療をはじめ様々な分野に影響を及ぼし、国民 生活の根幹を揺るがす可能性がある。

医療分野においては、医療の営利産業化につ ながり、高い収益が見込める自由診療、自由価 格の医療市場が拡大し、混合診療の全面解禁を 後押しすることになる。

その結果、公的医療保険の給付範囲が縮小し ていくなかで、世界から高く評価されている国 民皆保険制度が完全に崩壊していくことは明か である。野田総理は「公的医療保険制度の在り 方そのものは、議論の対象となっていない」と 言っているが、一方では、外務省は、「米国が 医薬品分野の規制改革を重点要求としているこ と」を認めており、また「混合診療の全面解禁 が議論される可能性は排除されない」との見解 を示している。

既に米国と自由貿易協定を結んでいる韓国で は、米国の病院が参入し、600 床規模の大病院 が建設されている。

我が国がTPP に加入すれば、同様な要求を してくることは必至であり、混合診療の全面解 禁、医療への株式会社参入は確実である。国民 皆保険制度の崩壊につながる、こうした政策は 断じて許されるものではない。

また、政府は、高額療養費の負担軽減策のひ とつとして、その財源を、かかった医療費とは 別に医療機関を受診するごとに、一定の金額を 患者さんから徴収する「受診時定額負担」の導 入を提案している。これは患者負担を引き上げ ることによって受診抑制が生じ、医療費が減少 するという効果を見込んでおり、負担金と受診 抑制による給付費の削減の両方を狙っているこ とが明かである。

我が国の患者一部負担割合は先進諸国と比べ ても高い水準にある。そうした中で、患者にこ れ以上の負担を強いることは、特に受診回数の 多い高齢者や病気がちの方等の受診抑制へとつ ながり、症状の重篤化など健康被害を招くこと が懸念される。

そもそも我が国の医療・介護は公的保険で まかなわれており、したがってその財源は本 来、保険料や税収に幅広く求めるべきであると 考える。

かかる状況に鑑み、現在全国各地でこれらの 動きを阻止する運動が展開されているところで あり、本県においても、「受診時定額負担」導 入、TPP 交渉参加を阻止し、国民生活の基盤 である「安全で安心な医療」を守るため、本日 「日本の医療を守るための沖縄県民集会」を開 催した。

ついては、本日の県民集会が所期の目的を達 成すべく、ご支援ご協力賜りますようお願い申 しあげ挨拶とする。

引き続き、小渡副会長並びに小生(真栄田常 任理事)から、「国民皆保険制度とTPP」並び に「受診時定額負担」についてそれぞれ趣旨説 明を行った。

「国民皆保険制度とTPP」については、小 渡副会長より、現在混合診療の全面解禁や医療 への株式会社参入、所得格差による受診抑制な ど、「受診時定額負担」同様に国民皆保険制度 崩壊へ繋がる様々な問題が懸念される「TPP」 参加について詳細な説明があった。

「受診時定額負担」については、いったん導 入されれば、定額負担の水準が引き上げられて いくことは、過去の一部負担割合の引き上げを 見ても明らかで、受診回数の多い患者や高齢 者、低所得者の受診抑制が懸念される。また、 所得によって受けられる医療に格差が生じ、公 的医療保険制度の根幹を脅かす事態に繋がる等 の問題点を説明した。

意見表明では、参加団体を代表して沖縄県社 会福祉協議会常務理事の比嘉成和氏、沖縄県老 人クラブ連合会副会長の山田君子氏のお二人が 以下のとおり意見を述べられた。

意見表明

比嘉成和氏(沖縄県社会福祉協議会常務理事)

比嘉成和氏

沖縄県における社会 福祉の事業の健全な発 展と福祉活動の活性化 を通して、地域福祉の 推進を図る観点から意 見を申し上げる。

ご承知のとおり、我 が国の人口構成は、65 歳以上の高齢者が20 % を超え、今後も、少子化、団塊の世代の高齢 化、人生80 歳時代の到来と引き続き高齢化の 加速が予測されている。

また、経済の低迷は、国の財政悪化をまねく とともに、失業による貧困に加え、「高齢者の 貧困」、「一人親家庭の貧困」、「子どもの貧困」 等構造的な課題を持ちながら存在し、これが深 刻化していることが明らかになってきた。ま た、高齢者世帯、単独世帯の増加が指摘される など、地域で安心してくらすことができるよ う、解決すべき課題が多くある。

この10 年、福祉制度は利用者主体のサービ スを基本に、措置から契約制度へ、介護保険の 開始、施設福祉から在宅・地域福祉の充実へと 大きく変わってきた。その間、利用者だけでな く施設経営者や福祉事業従事者にあっても、時 代に相応しい改革に期待し、勤務環境、経営環 境の変化に対応してきた。しかしながら、事業 の持続的な経営の安定、介護福祉従事者の処遇 改善の面でなお大きな課題がある。

私たちが今、国に期待することは、年金、医 療、介護保険など社会保障の「制度の充実」と これを担保する安定的な財源の確保である。

最近、年金の支給開始年齢の引き上げや、保 険料の標準報酬月額の引き上げ、介護保険料 の総報酬割の導入、介護サービス利用料の引き 上げなど一連の負担増の案が次々に提案されて いる。

国は、社会保障と税の一体改革の全体像・長 期的ビジョンを示し、国民に分かりやくす、速 やかに提示すべきものと考えている。「受診時 定額負担」は、高額医療費の見直しに名を借り たビジョン無き制度改正であり、予算編成に乗 じたつじつま合わせの財源調整である。所得の 低い人、高齢者、障害者、子どもを持つ親に、 新たに負担を押しつける制度の導入であり、 「受診時定額負担」に強く反対するものである。

次に、規制・制度改革、TPP 加盟への参加の問題についてである。

これまでのFTA ・EPA においては、2 国間 でそれぞれの国内事情に配慮した交渉が行われ てきたが、TPP 交渉は「すべての品目の関税 の撤廃を原則」とするなど、日本が主張する関 税の重要品目、国内の法令やシステムについ て、「世界標準」「関税障壁」として日本国内の ルール変更が求められる恐れがある。

現在、インドネシアやフィリピンからの看護 師500 名余、介護福祉士750 名余について、我 が国で実施する国家試験合格を前提として、3 年又は4 年の期限をつけて受け入れている。

先日、野田総理は、ベトナムの原子力発電施 設建設の受注と引き替えに、新たにベトナムか らの看護師、介護福祉士を引き受けるとしてい る。しかしながら、日本語の理解度などから合 格率は、1 %台に止まっている状況にあり、な んらかの改善が求められる。

介護福祉士、社会福祉士などは、専門職の資 格制度をもち、それぞれの専門性を明確にしな がら、高齢者の食事、生活介護、日常的な自立 支援など生活文化や高齢者の尊厳を尊重し、住 み慣れた地域で安心して暮らしていけるよう福 祉サービスの質の向上に大きく貢献してきた。 その介護の分野が安価な労働市場としてコスト 減のために資格要件を切り下げ、質の低下をま ねくこととならないように注視していく必要が ある。

混合診療の全面解禁は、いつでも、どこで も、だれでも同じ水準の医療がうけられる国民 皆保険制度の崩壊につながるもので、反対す る。医療技術の進歩を全ての国民が享受するた めにも、先進医療などの保険外診療を保険対象 とするよう努めるべきものである。特に、低所得者、高齢者、障害者の受診する機会を奪うも のであり、強く反対するものである。

また背景にある、外国資本の参入は、株主へ の利益還元の追求にあり、病院そのもの、病床 の一部が利益の大きな自由診療に占められ、又 は医師、看護師などの人材の集中を図る結果、 私たちが利用する公的医療機関の縮小、人材の 不足をきたすなど、地域医療の崩壊と質の低下 が生ずることとなることは明かであり、混合診 療の全面解禁につながるTPP への参加に反対 する。TPP 交渉が、関税の撤廃、農業の問題 だけでなく、金融、保険、医療など国の仕組み や基準が変わり、私たちの暮らしに大きな影響 を与えることを、ひとりでも多くの県民に理解 を求めていくことを決意し、表明する。

山田君子氏(沖縄県老人クラブ連合会副会長)

山田君子氏

政府は、高額療養費 を見直すにあたり、そ の財源を確保するため に、我々が病院、診療 所、クリニック等受診 の際に、今までの一部 負担金とは別途に、毎 回、新たに定額負担金の徴収を提案している。

財源が乏しくなると取りやすい弱者の立場の 患者より徴収しようとしている。取りやすい立 場より徴収しようとする事は民主主義に反して いる。二つも三つも疾患を抱えている高齢者は 病院等の受診回数を減らして我慢する様にな る。疾病の有病率と貧困の相関は比例してお り、病が悪化してから医療機関に受診する様に なると、医療費の高騰はまぬがれない。

医療なくして健康保持の生活は困難であり、 この制度の導入は混合診療を後押しするもの で、金のないものはみじめな思いをして生活し ていくのか。政治に対して不信と不安を抱くも のである。

私たち高齢者は詳細かつ的確な情報は知らさ れておらず、心のこもった説得力のある説明 と、将来どう推移していくのか行政の責任で開 示することを求めるものである。

政府は「高齢者の尊厳を守り、安心、安全な 住みよい環境づくり」をと銘打って発言してい るが、相反する今度の施策発表に非常に憤慨し ている。又、新聞の片隅に今国内を二分してい るTPP の件について、医療と農業は別枠で 「関係ない」と関係閣僚は言い張っているがそ れを立証する発言も文言も聞いた事はない。 TPP のドタバタ劇の裏で定額負担制がまかり 通る事のない様、この大会に願いをかけて、沖 縄県の高齢者を代表して意見表明とする。

その後、司会の安里常任理事より、当初、本 集会でお諮りいただいて決議する予定であった が、政府が、APEC 首脳会議を目前にした11 月初旬にTPP 交渉参加を表明する動きがあっ たことから、早めに決議し、反対運動を展開す べく、去る10 月21 日に開催した沖縄県医療推 進協議会において、受診時定額負担の導入と TPP への参加に反対するとした内容の決議を 採択し、当決議文を内閣総理大臣をはじめとす る国の関係機関、国会議員、及び沖縄県知事、 県議会議長等の関係機関へ送付した旨の報告の 後、引き続き、沖縄県医療推進協議会の比嘉良 喬副会長(沖縄県歯科医師会長)より決議文の 紹介があり、決議の内容が参加者全員の総意で あることを確認した。

最後に、沖縄県医療推進協議会の奥平登美子 副会長(沖縄県看護協会長)より閉会の挨拶が 述べられ、会の幕を閉じた。