副会長 玉城 信光
去る11 月18 日(金)から20 日(日)の3 日間にわたり、佐賀市において 九州医師会連合会総会・医学会関連諸行事が開催されたので、その概要を報 告する。
定刻になり、佐賀県医師会徳永剛委員の司会のもと、会が進められた。
挨 拶
池田秀夫九州医師会連合会長
本日は、日本医師会より原中会長はじめ、横 倉副会長、今村常任理事、藤川常任理事にご臨 席頂き、心からお礼申し上げる。
私ども佐賀県の担当により本日から3 日間、 九州医師会総会医学会および関連諸会議を開催 させていただく。昨年5 月の委員総会で私共の担当が決定し、以降鹿児島県医師会の運営を 多々ご参考とさせていただき、鋭意準備を進め てきた。この間、連合会副会長の稲倉宮崎県医 師会長はじめ九州各県の先生方に暖かいご支援 を頂き、何とか総会・医学会を迎えることが出 来、改めて九州各県の先生方に厚くお礼申し上 げる。担当県としては、万事遺漏の無いよう一 生懸命取り組んできたが、不行き届きの点も 多々あろうかと思うが、何とぞご容赦いただき たい。
また、当臨時委員総会では、明日の総会に提出する宣言・決議案についてご審議いただく。 事前に各県医師会にご意見をお伺いし、常任委 員会でも2 回に亘って確認させていただいたの で、満場一致でご承認賜りますようお願い申し 上げる。今年度は、年度当初より東日本大震災 に伴う九州ブロックからのJMAT 派遣等、九 州各県医師会には大変なご尽力とご協力を頂 き、担当県として感謝に堪えない。
担当県として、この3 日間の諸行事を滞りな く成功裡に開催できるよう念願しており、重ね てご協力をお願い申し上げ、ご挨拶に代えさせ ていただく。
来賓祝辞
原中勝征日本医師会長
東日本大震災に際しては、先生方にはいち早 く現場に駆けつけて頂いた。JMAT Tから JMAT Uに移り、現在、心のケア、自殺防止、 小児等のあらゆるケアをさせていただいている。 この度、先生方のご尽力により、今まで長年に 亘って念願としてきた中央防災会議へ参画でき ることになった。中央防災会議は今まで私物化 され、開催されていなかった中、新しいプロジ ェクトチームが誕生した。その中に医療分野か らの唯一の代表として日本医師会が入ることに なり、私が委員として参加することになった。
3 月11 日以降、世の中は原発の話ばかりにな り、強制的に避難を命じられた方々の生活は、 3 週間経っても過酷な環境の中で過ごしていた。 政府が原発の事故処理に追われ被災地への対応 が遅れる中、各県から様々な情報が寄せられた 日本医師会は、直接内閣に種々の提言を行うこ とができた。中央政府と県のパイプが機能して いなかったことは残念に思ったが、日本医師会 と県医師会とのつながりによる情報は国を動か す大きな力となったことは確かである。それを 反省した政府から要請を受け、東日本大震災の 被災者の方々の健康を維持するための被災者健 康支援連絡協議会が設置されることになった。 当初8 団体の加盟であったが、現在は日本の殆 どの医療関係団体が加盟している。私が代表を 務め、横倉副会長が事務局長として運営にあた っているところであり、この会が今後起こりう る大災害における医療支援の中核となる。現 在、厚労省、文科省、総務省、内閣府が加わ り、政府と日本医師会を中心とした民間団体 が、今後について検討を行うことになっている。 私どもは仕分けの対象となっている福祉医療機 構を存続させ、低利子での融資の継続と共に、 債務の免除も考慮に入れながら被災された先生 方の支援に努めている。東北は元々医師、医療 機関共に不足しており、今後、高地へ町を移す 計画があるようだが、それが実行されない状態 が続いている。被災しても将来に対して明るい 気持ちが持てるようなアクションを政府が起こ さない限り、苦労の連続であると考える。特に 福島県においては放射線問題があり、先生方が 子どもを連れて福島の地を離れてしまい、極端 な医師不足の問題が起きている。この問題に対 しても、全国の医学部長・病院長会議と共に話 し合いを持ち、医師派遣について対処している。
発災から現在に至っても将来の計画が実行さ れておらず、計画すらはっきりしていない状況 を一日も早く解決しなければいけないと思って いる。
今回の先生方の迅速な支援活動は、医師会が 常に国民の健康と命を大切に思って活動してい るということを証明してくれた。
現在、受診時定額負担についての署名活動を お願いしているところであるが、TPP 問題に ついては、国民に対して具体的な説明もなしに 進められている。ご承知のとおり、米国商工会 議所の年次要望により郵政民営化が行われ、日 本の国家予算の3 年分以上にあたる額が戻って こないのではないかという状況になっている。 安い医療費で悪者にされながらも我々が一生懸 命守ってきた国民皆保険制度もTPP 加入によ って、あっという間に無くなってしまう危険性がある。
韓国と米国は2 国間協定でありながら、薬価 の設定などアメリカの意見が入っている状況で あり、混合診療がすでに広がっている。
TPP ではそれ以上のことが起こり得る可能 性もあり、自由競争の障壁を理由に国民皆保険 制度の廃止あるいは賠償金を請求されることも 考えられる。
今般、BS フジの生放送に出演することにな っており、当日の対応について検討を行ってい るところである。しかしながら、我々は国民の ためを思ってストライキもせずに国民皆保険制 度を守るために頑張ってきたということを、こ の際に理解してもらわなければならない。ま た、各国との医療費の比較も示していきたいと 考えている。現在の制度では、営利を求める株 式会社が運営する医療機関が入っても配当は行 えない。そのため、混合診療を解禁させ、米国 の保険会社が参入できる基礎づくりを進めてく る。我々は国民運動としてこれを阻止しなくて はならない。
未来に亘って国民が安心して医療に掛かれる 社会を残すことが我々の責務であり、国民と一 緒になって守って行かねばならない。
いずれにしても、先生方のご協力が無ければ 日本医師会としても行動が起こせないことから、 現在の執行部を信じていただくと共に、先生方 のご意見を十二分に受入れ、各都道府県医師会 長にご相談申しあげながら行動していきたい。
座長選出
慣例により、座長に九州医師会連合会長の池田会長が選出された。
報 告
座長の池田会長より、当臨時委員総会に先立って開催された標記常任委員会について報告があった。
横須賀委員(佐賀)より資料に基づき、平成 23 年10 月31 日までに行われた九州医師会連 合会事業(常任委員、委員総会、各種協議会 等)及び関連行事について報告が行われた。
松永委員(佐賀)より資料に基づき、平成 23 年10 月31 日現在の九州医師会連合会歳入 歳出現計について報告があった。
なお、歳入・歳出合計並びに差引残高については下記のとおり。
横須賀委員(佐賀)より資料に基づき、11 月18 日(金)の前日諸会議、19 日(土)の合 同協議会、総会・医学会、20 日(日)の分科 会、記念行事について報告があった。
第1 号議案 第111 回九州医師会連合会総会の宣言・決議(案)に関する件
座長の池田会長より提案理由の説明が行われ た後、横須賀委員(佐賀)より宣言・決議(案) の朗読があり、審議した結果、原案のとおり承 認され、翌19 日(土)の総会に上程すること が決定された。
以上の議事修了後、来賓である横倉日医副会 長、今村常任理事、藤川常任理事より概ね下記 のとおり担当職務の現況について報告があった。
横倉義武日本医師会副会長
先生方のご推挙を得て日本医師会の役員とな って、1 年と8 ヶ月が過ぎようとしている。そ の間、大震災をはじめとした様々な問題が起こ った。私は出来る限り日本の医師会が融和協調 の中で、政府に現場の声をあげていくべく原中 会長のご指導のもと対応してきたが、まだ道半 ばという思いである。
今回の震災において、社会、政治家が日本医師会に対する印象を大きく変えたことは事実であ る。会員の先生方が一生懸命努力されたお陰で、 それまで非常に医師会に対する批判が強かった が、それが少しずつ軽減されている思いである。
その一方で、国の財政は非常に厳しい状況に あると共に、ヨーロッパの経済危機は非常に問 題である。世界医師会が開催されたウルグアイ に訪れた際、ヨーロッパの医師会の先生方にギ リシャやイタリアはどうなるのか聞いたとこ ろ、ヨーロッパのルーツである両国をどんなこ とがあっても各国は支えると言っていたが、ス ペインに対しては冷ややかな意見であった。い よいよそのスペインが危うくなってきており、 これが世界にどう波及していくか非常に大きな 問題である。
そのような中で、税と社会保障の一体改革が 6 月末に纏められ、内閣に報告されている。現 在、国の社会保障や医療政策の基本的な話は全 て一体改革を元にした議論になりつつある。そ のような中、受診時定額負担の問題が出てきた が、この件については私共は始めから保険原理 とは全く違う話であるとして反対しており、大 半の民主党議員からも同意を得ていたことか ら、すぐに無くなるだろうと考えていたが、未 だもって無くなっていない。そのようなことか ら、9 月に全国の先生方に呼びかけ、反対活動 を展開して頂いているところである。署名もこ れまで以上に集まっていると伺っており、12 月 9 日には総決起大会の開催を予定している。現 在、各政党に総決起大会の支援協力をお願いし ているところである。
また、政府与党において税務関係並びに予算 について検討が行われているところであるが、 この一体改革において、2010 年代半ばまでに 消費税を10 %に引き上げるという文言が入っ ている。消費税を社会保障の財源のひとつにす るということは日本医師会が以前から主張して いることであるが、医療に掛かる消費税のあり 方が今のままでは医療機関の経営が持たないこ とも現実である。我が国の医療機関で負担して いる消費税が約3,000 億円〜 4,000 億円あり、 少々診療報酬を上げたところでそれをカバーす ることは出来ない。そのため、消費税を上げる という議論と平行して、医療に掛かる消費税に ついては先ず課税対象にすることを明確にさ せ、その課税対象にした消費税を患者に転嫁し ない方策をどうするかという議論をしてもらう べく要請しているところである。
もう一つは、事業税の問題である。本日、与 党の税調の総会があり、その中で事業税のこと が議論になったとのことである。現在、原中会 長が政治的にも様々な働きかけをしているとこ ろであり、事業税については、現在問題となっ ている点についてはクリアできるのではないか ということである。ただ、本来の趣旨に沿った 四段階経費の利用がされていないとの会計検査 院から指摘があったことから、医師会としても この件については正していきたい。
また、医療提供体制についても社会保障審議 会の医療部会で議論されているところである。 現在、入院病床の区分は一般病床と療養病床と 精神結核病床であるが、一般病床の100 万床を このままにして良いのかという議論がなされて いる。特に一体改革の成案の中では、2025 年 に超急性期と急性期、亜急性期に区分けするこ とが述べられており、その中で急性期に対して は、人・金共に重点配分をする案が出されてい る。昨日の医療部会では、急性期病床を都道府 県知事が認定するようにしてはどうかとの話が 出たが、これも突然に出てきた話であるため、 時期尚早であるとしている。将来的には一体改 革で決められた成案の方向に徐々になっていく が、その中で結局問題となるのは、地域でどう 決めていくかということである。こういった急 性期の問題と医療と介護の連携の問題、特に在 宅医療を重視しようとする話が徐々に広まって おり、将来的にそうなると思われる。そうなる と入院医療と在宅医療のかけはしという点にお いて、地区の医師会が一番重要な役割を果たす べきだと私は主張している。
地域医療は地域の医師会が守り、都道府県の医療は都道府県医師会が集約して守っているということをしっかりと示していかなければならない。
その他、診療報酬改定についても、今回は勤 務医の疲労軽減と介護との連携に対し重点的に 配賦する基本方針が提示されており、近々の中 医協でこの方針が決定されるものと思っている。
今村定臣日本医師会常任理事
ご承知のとおり12 年前の平成11 年に児童相 談所への児童虐待数の報告が1 万件を超え、大 きな社会問題となったが、昨年の児童相談所へ の報告が5 万5,000 件を超えており、増加の一 途である。昨年、厚労省から第6 次報告が出さ れたが、心中を除いた児童の虐待死が67 名と なっており、その内の6 割が0 歳児で、その過 半数が生まれたその日によって実母によって虐 待死に追い込まれているという極めて悲惨な状 況となっている。生まれた日に実母による虐待 死となれば、従来型の児童相談所における対応 では全く不十分であり、国民あるいは妊婦に対 する啓発事業が極めて重要となる。そのような ことから、日医では都道府県医師会と共催とい う形で市民公開フォーラムを開催することにな った。第1 回は既に6 月に浜松市において開催 しており、第2 回目を11 月に東京、第3 回目 を11 月26 日に福岡、第4 回目を来年1 月に京 都において開催する。特に問題となっているの は、虐待死に追い込まれる方の8 割が望まない 妊娠がベースとしているということであり、こ れに対する対応が大切である。そのようなこと から、国としては100 億円の財源を元に、こど も安心基金を立ち上げ、全国の産婦人科に妊娠 で悩んでいる方に対する相談窓口事業を開設す ることになっている。
医事法関係については、去る10 月に日弁連 の人権擁護委員会ならびに、患者の権利を守る 会の2 団体が主導し2 つの医療基本法への制定 が提唱された。中身については患者の権利を守 ることに極めて重点を置いた医療基本法となっ ており、もしこれが制定されると私ども医療担 当者は萎縮診療に追い込まれざるを得ない。ま た、医療訴訟の問題も非常に増大してくるもの と思われる。そのようなことから、日医の医事 法制委員会において医療担当者並びに患者の両 方の立場を重視する立場から日医が主導する医 療基本法の制定に向かって対応を進めていると ころである。
この医療基本法については、患者の権利を守 るという点については、ハンセン病の問題に言 えるように患者の権利が非常に阻害されてきた 歴史的な事実を踏まえて、日弁連あるいは患者 の権利を守る会が主張していることから、日医 としてもそのことを踏まえ、誤りの無い対応を していきたい。
藤川謙二日本医師会常任理事
本日、尊厳死における治療延命措置の中止並 びに差し控えについて議員立法すべく、骨子案 が出来つつあるとのことでそれについてのヒヤ リングの依頼があったことから、来週月曜日に 日医の役員会並びに、生命倫理懇談会で議論し 日医としての考えを提示することになってい る。また、厚労省のチーム医療推進会議におい て特定看護師問題、チーム医療推進問題につい て議論を行っているが、日医としては特定看護 師制度創設に反対し、一般看護師の質の向上に 努めグレーゾーンになっている診療補助の範囲 をしっかり提示することによって現場のチーム 医療をスムーズにさせるという立場で臨んでい る。殆ど他の団体も賛同しているが、チーム医 療の中で、各専門職種の業務拡大が常に議論に あがっており、本日話題になったのは、放射線 技師の造影剤の注入などについてであった。そ の他、薬剤師、PT 等様々な職能団体が業務を 拡大したいと要望している。しかしながら、現 在、様々な医師の裁量権を侵し、医療安全が低 下しつつあるということから、日医のスタンス としては、あくまで診療の補助として国家資格 であるそれぞれの職種の道を究めてもらい、全 国で取り組んでいる医療安全運動に逆行しない ような形での業務拡大を訴えてきた。
また、柔道整復師の問題が新たにあがった。医療保険部会で保険者側から取り上げられ、健 康保険で4,000 億円の負担となっているとのこ とである。
育成校が湯水のごとく増えており、将来的に は1 兆円になるのではないかと危惧されている。 保険者側としては、小児科、眼科、皮膚科の収 入を凌駕しており、由々しき問題であるとし て、この件に対して不正請求の問題も含めて、 そろそろ光を当てていかなければならないと考 えている。日医としては、国民の健康被害を防 止するという立場でこれを是正していきたい。
自賠責保険については、健康保険を使って治 療を行っている医療機関の実態調査を行った。 結果として、入院治療費では、国公立病院や民 間医療機関の50 %強が健康保険を利用してい ることがわかった。その中の1 割〜 2 割が自倍 責保険に求償していない実態もわかった。この 件については、厚労省とも打合せを行い、来年 の3 月までに原則、交通事故自賠責診療は自由 診療である日医基準を筆頭に行うよう進めてい る。健康スポーツについては、スポーツ基本法 が出来たことから、日本医師会の健康スポーツ 医認定を取得されている先生方の活躍の場を、 この法律において可能な限り活動領域を確保し ていきたい。
なお、JMAT に関しては、各県の弁済費用に ついては国が負担することになったことから、 各県単位で纏めていただき、厚労省にご提出頂 きたい。
また、日本医師会のホームページをより活用 しやすいよう、リニューアルしたことからご確 認いただき、ご意見を賜りたい。