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トンデモ本の世界から

宮城一文

医療法人ほくと会 北部病院
宮城 一文

あけましておめでとうございます。

およそ、ひと干支前から「トンデモ本の世 界」(と学会編、洋泉社など)シリーズを愛読 しています。UFO や心霊現象などいわゆる “まっとうな科学”では取り上げられない仮説 や主張の本をおもしろおかしく読んでいこう、 というスタンスの本ですが、仮説の元になった 事実の確認や、実験の検討など、なかなかに “科学的(合理的)”であります。シリーズはす でに二、三十冊ほど出版されておりますが、ま とまった情報としては「トンデモ超常現象99 の真相」(と学会編、宝島社文庫)がおすすめ です。子供や孫、甥や姪に「ネッシー」や「雪 男」、「エリア51 に墜落した異星人の空飛ぶ円 盤」、「魂の体外離脱体験」などについて質問さ れても、自信を持って答えることが出来るはず です(夢は壊してしまいますが)。

しかし中には笑い事では済まないトンデモな い仮説が見受けられます。特に健康、医療につ いては、現代医学を敵視して、医療機関への受 診を控えるよう主張するものも珍しくありませ ん。比較検討のない著効報告と一方的な思いこみの推論から組み立てられた怪しい仮説は「現 代医学」の合理性とは相容れられません。その ような「トンデモ説」を信じてしまいますと、 結果として健康被害を生じてしまうこともあり ます。さらには社会を指導、啓発する立場の人 が反科学的な仮説にはまってしまいますと、当 の本人だけの問題でなく、多くの人たちに多大 な苦しみと負担をかけてしまいます。「エイズ を弄ぶ人々」(セス・C ・カリッチマン著、科 学同人)では南アフリカ共和国で起きた悲劇を 取り上げています。当時のムベキ大統領、マン ト保健大臣がエイズの原因を「貧困から生じる 栄養障害による免疫力低下」と信じ、「エイズ ウイルス原因説は欧米がアフリカに押しつけた 陰謀」と判断したことにより、国内での抗レト ロウイルス薬の普及を阻害しました。その結 果、南アフリカ共和国では、エイズの感染率、 死亡率ともに抑えることはできませんでした。

南アフリカ共和国のエイズ政策の過誤は極端 な例ですが、医療関係者だけでなく、社会一般 が科学的な知識を共有し、合理的な判断を心が けないと、そのむくいは国民に返ってきます。 副作用のない薬が存在しないことは、医療従事 者であればみんな知っています。しかし、その 「常識」さえ世間では一般的ではありません。 医療の安全に100 %はありえません。「安全」 を過大に重視すれば、医療は成り立ちません。 良い医療には合理的な「メリット」と「害」の バランスが必要です。このことは世間に理解し てもらえる必要があります。その点から県医師 会が定期的に行っているマスコミとの懇親会は とても良い企画です。回が進むごとにマスコミ 関係者の医療への理解が深まっているのがよく わかります。ぜひ、今後も続けて欲しいと思い ます。

世間一般に影響力の大きいメディアは、今は まだまだマスメディアです。医学の常識は科学 的考え方を基にしており、マスコミの医療に対 する理解が深まれば、それは医療の分野にとど まらず、合理的思考を養い、科学的知識を基 に、世界を見る視点にも、また考え方にも影響 を与えるでしょう。マスコミの成熟は世間への 啓発につながる。

と考えました。