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カルテは誰のもの?

稲福豊

よぎ東眼科 稲福 豊

昨年の正月は90 才になって嘱託医を辞め完 全にリタイアした父と連れ立って、上海に行っ て来ました。那覇から2 時間足らずで、東京よ りも大都会(人口的には)が存在することに驚 き、中国大陸の大きさに圧倒されました。父も 唐旅(昔はあの世へ行くことを意味した)して 帰って来たので、蘇えって後100 年生きると宣 言して1 年が始まりました。4 月には昭和医専 の同窓会が京都で開催されて都をどりを堪能 し、6 月は九州新幹線に乗って桜島観光を楽しみ、9 月には沖縄最北端のホテルに宿泊してヤ ンバルの自然を満喫するなど、これが最後の旅 と言いつつ1 年中元気に動き回り、それをふぅ ふぅ言いながら追い駆けている私も今年で還暦 を迎えます。

父が10 年前に閉院した時に、40 年分の紙カ ルテをヤンバルの山奥で長い時間かけて焼却し ていた記憶が残っています。当院ではレセプト のオンライン化に伴い、電子カルテの構築を始 めましたが、未だに紙カルテを併用しペーパー レスが完成していません、しかし紙に記録する 事はパピルス以来3,000 年の歴史があるのに対 して、電子媒体は高々20 年位しかないのです、 後3,000 年後どちらの記録が残っているのだろ うと考えると、暫くは紙カルテも大事に使って 行こうかと思います。

眼科では眼底写真がデジタルカメラで撮影出 来るようになり、当院でも数万枚の写真がパソ コン1 台に納まり患者名、病名、日付等で自由 に検索出来ようにしています。昔医局員時代カ ビが生えて来たスライドを一枚一枚見ながら探 した事を思い出すと雲泥の差があります。記録 された眼底写真を内科など他院へ報告する時、 プリンターで印刷して郵送していますが、今年 はネット上で診療情報提供書のメールに添付す る形式で報告出来ないかと考えています。これ だけ診療所レベルでの医療データがデジタル化 されて来たので、地域単位でそのデータをセン ターに集積し、コンピュター上での総合病院を 作り上げる事が可能と言われていますが、カル テデータは究極の個人情報であり、それを医師 サイドで集積することが患者個人にとってどれ だけのメリットがあるのでしょうか。ましてや 最近のサイバーテロ攻撃を考えると病歴や遺伝 子情報などが簡単に盗まれてしまう危険性があ るわけで、患者にとっては相当なリスクを背負 うことになってしまいます、もちろん医師サイ ドにとってもセキュリティの責任が生じ膨大な 費用と時間を要求されることになります。個人 の医療情報は一般の個人情報(例えばネット上 で買い物をする時を考えるとカード番号等の情 報がバーチャル店舗に伝わり、ネットを介して カード会社や銀行で清算され、配送会社に繋が って商品が手元に届くシステムになっている) とは違い、ネットに繋げて情報をドンドン外に 出す物ではなく、逆に検査センターなどからの 情報を患者に集積して行かなければ成らないも のと考えます。現在誰でも持っている携帯電 話、特にカメラ機能の付いた機種などは、家族 の写真などを記録して持ち歩いている人が多い のですが、その1 枚に自分の眼底写真を付け加 えることも可能ですし、さらに個人のカルテ情 報を携帯電話に記録し、診療所を受診した時に は携帯をモニターにかざすだけで、眼底写真や 検査データが表示されるようになれば、個人の 記録は患者さん自身が責任をもって保管するこ とが出来、診療所サイドではセキュリティの負 担が軽減されるわけである。電子カルテの情報 を次の世代へどう引き継いでいくのか、今年の テーマとして検討して行きたいと思う。(個人 記録を集積した電子チップを皮下注射された痛 みで初夢より目が覚めてしまった。)