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平成23年度全国医師会勤務医部会連絡協議会

城間寛

沖縄県医師会勤務医部会会長 城間 寛

平成23 年度全国医師会勤務医部会連絡協議 会(日医主催、富山県医師会担当)が、「勤務 医の働き方と生きがい(よりよい就労環境を求 めて)」をメインテーマに、去る10 月29 日(土) 富山県富山市で開催されたので、その概要を報 告する。全国から450 名の参加者があった。

開会式

南里泰弘富山県医師会理事より開会の挨拶が あり、続いて、主催者を代表し原中勝征日本医 師会長(代理:横倉義武副会長)から、「勤務 医は過重な労働を強いられながらも、懸命に地 域の医療を支えているが、現在の勤務医を巡る 環境は、もはや勤務医個人の使命感や努力だけ では解決できないほど厳しいものになってい る。医師が、医師としての力を最大限に発揮で きる環境を整備していくことが、国民の利益に つながるということを、国民にも理解してもら わなければならない。また、今回の震災に係る 復興支援においては、すべての医師が被災地の 医療を守り献身的な活動を行った。まさに「医 師としての本分」を強く再確認した。今こそす べての医師が、「国民の生命と生活を守る」と いう大局観を持ち、大同団結することが肝要で ある」と挨拶があった。

続いて、岩城勝英富山県医師会長から、「メ インテーマは、『勤務医の働き方と生きがい (よりよい就労環境を求めて)』と題し、勤務医 の明るい未来が展望でき、就労環境の改善に向 けて諸問題の解決に繋がることを期待し企画し た。各分野の方々に活発な議論をいただき、勤 務医の大同団結に向けて、また、本協議会が勤 務医の明るい未来を示唆する有益な協議会にな ることを期待している」と挨拶があった。

続いて、来賓祝辞として石井隆一富山県知事 と森雅志富山市長より歓迎の挨拶があった。

特別講演

1.「日本医師会の医療政策について」
日本医師会副会長 横倉義武

1)東日本大震災への対応

日本医師会では、東北地方太平洋沖地震にお ける被災直後から対策本部を立ち上げ、各県の 協力のもとJMAT を結成し、各被災地での災 害医療、健康支援活動を行ってきた。JMAT の 活動状況については、7 月15 日をもって活動を 終了し、延べ1,384 チームが派遣された。

翌16 日以降は、地域医療支援に活動を切り 替え、JMAT Uとして小児検診や予防接種、健 康診断、心のケアなどの支援活動を行ってい る。9 月22 日現在、187 チームが登録され「派 遣中・派遣済み」が160 チーム、「派遣予定」 が27 チームとなっている。

また、今後も一層の取り組みを進めていくた め、関係省庁や多職種の医療関係団体との協働 による被災者健康支援連絡協議会(34 団体加 盟)を設けており、復興に向けた支援活動を展 開していく。

2)次期診療報酬改定への課題と日医の基本方針

次回改定への課題については、前回改定で改 善されなかった診療所や中小病院をはじめとす る地域医療機関への十分な配慮が必要である。 また、特定機能病院や地域医療支援病院等の役 割の明確化と見直しの検証が必要である。

さらに、次期診療報酬改定にかかる日医の基 本方針は、1)前回の診療報酬改定の結果、医療 費が大規模病院に偏在し、地域医療がまさに危 機的状態に瀕していることから、診療所、中小 病院に係る診療報酬上の不合理を重点的に是正 する。2)被災地では、患者、医療従事者が大き く移動しており、人員配置基準を満たせなくな っている医療機関が少なくない。当面の間、人 員や施設に関する基準の緩和を実施し、今回改 定では、施設基準等を要件とする新たな診療報 酬項目は創設しない。

また、必要な医療制度改革については、医療 提供体制上に生じている歪みを是正するための 機能の見直し(たとえば地域医療支援病院や特 定機能病院のあり方の見直し)を行なう。一方 で、患者負担引き下げなどの医療制度改革も行 なう。

3)「税と社会保障一体改革」への意見

2011 年7 月1 日に閣議報告された「社会保 障・税一体改革成案」では、高額療養費の負担 軽減の財源として、「受診時定額負担」を導入 することが示されたが、受診時定額負担の導入 に断固反対である。

「受診時定額負担」に対する我々の見解は、

1)高額療養費のあり方を見直し、患者負担を 軽減することには賛成である。2)しかしなが ら、その財源として、患者負担を強いることに は問題があり、見直しを求める署名運動等を全 国的に展開している。

日本の患者一部負担割合は、公的医療保険が ある先進諸国と比較してかなり高い。これ以上 患者負担が増加すれば受診を控え重篤化するケ ースが生じかねない。

4)医師養成と質の保証をどうするか

医学部入学定員の推移は2007 年度を基準と すると、2008 年度に168 人増、2009 年度に 861 人増、2010 年度には1,221 人まで増加し ている。これは新設医学部の定員数を100 人と すると約12 大学分に相当する。

初期臨床研修制度については、研修制度が設 けられたお陰で医学教育や研修教育システムが 飛躍的に発展はしたが、深刻な地域医療提供体 制の問題を加速させた。また、大学や同門の 会、学会などの組織と無関係な医師が急増。 5,000 人以上とも言われている。なんとかこの 様な若手医師の卒後ケアができる仕組みにして いかなければならない。

現在の専門医制度の問題点について、様々な 提言を日本医学会と共に行なっている。

5)勤務・生活環境の改善への取り組み

平成20 年度に発足した勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会にて、勤務医の健康 の現状と支援のあり方に関するアンケート調査 を全国的な規模で実施した。同集計・分析結果 をもとに、「医師が元気に働くための7 カ条」と 「勤務医の健康を守る病院7 カ条」のリーフレッ トを作成し、会員や関係団体へ配布した。また、 医療機関の産業医を対象に「医師の職場環境改 善ワークショップ研修会」を開催し、医療機関 における産業保健の役割、医師のメンタルヘル ス支援について研修を各地で開催している。

この他、勤務医の労働時間のガイドライン作 成に向けて、今村常任理事を中心に検討を行っ ている。

6)その他

2011 年1 月25 日にご逝去された池田俊彦前 日医勤務医委員会委員長の執筆本「続・時流に 流されないで―医のあるべき姿を求めて」より。

● 医学医術の恩恵は、社会生活と遊離しては存 在し得ないものです。そして、医師会の存立 使命は、社会生活と医師とを繋ぐ紐帯であっ て、これにより、医師のあり方や進み方が決 められるものと考えます。
● すなわち、医師は進んで医師会に加入するこ とで、社会に対する医師としての責務を認識 すると共に、医業の正当なる名誉と適正なる 対価を、医師会生活を通じて保持していかな ければなりません。
● そのためにも、医師会員の「融和団結」を強 固にしていくことは、団体の自立的使命であ ると考えます。

2.「勤務医の処遇改善」
独立行政法人国立がん研究センター理事長・総長・中央病院長
嘉山 考正

勤務医の処遇改善が取り上げられようにな り、10 年前後が経過しているが、勤務医の勤 務状況が大きく改善したとは言いがたい。地方 だけでなく都市でも勤務医が立ち去り、小児科 医療や救急医療、産科医療ができない地域が出 現、勤務医の処遇が問題化された。

医療崩壊の原因は種々あるが、1)医師数の絶 対的不足、2)医師の仕事量の過重、3)社会的地 位の低下等が上げられる。勤務医の処遇改善を 考慮するときには、この3 つの問題を同時に対 処する必要がある。

医師不足、仕事量の過重問題は、日本以外の 国が行っているように、アクセスを制限すれば問 題は片付く。しかし、日本の医療レベルが世界 一と世界保健機関(WHO)が認定しているの は、この医療のフリーアクセス制度が大きく貢献 している事を考慮すると、フリーアクセス制度を 保ちながら、当問題を解消する方法を探ること になる。医師不足は、医師の仕事量の問題にな るので、医師の仕事量を解決しようとすると、医 師が医師でなければできない仕事を減少するよう 管理者は考えなければならない。当面は医師達 のモチベーションを保つことが急務となる。

社会的地位の低下の問題は、医師の問題とい うよりは、マスコミを含めて社会の誤解を解く ことが解決の糸口になる。患者さんの団体の中 にはこのことに着目し、活動し成果を上げてい る地域もある。患者さん自ら医療崩壊を防ぐ手 だてをしていくことが、結局は日本の医療崩壊 を防ぐことであることを理解して貰うことが大 切と言える。また、日本医師会は従来以上に自 浄作用を発揮していることを社会に情報発信す ることも重要であると考える。

次期担当県挨拶
愛媛県医師会長 久野梧郎

来年度の開催期日は、平成24 年10 月6 日 (土)松山市の全日空ホテルにおいて開催する ので多くの先生方の参加をお待ちしている。メ インテーマについては各方面と相談していると ころであり後日お知らせする。

報告

1.日本医師会勤務医委員会報告
日本医師会勤務医委員会委員長 泉良平

平成22 ・23 年度の会長諮問「全ての医師の 協働に果たす勤務医の役割」について勤務医の 視点から医師会改革を主眼に、これまで9 回にわたり様々な討論を行ってきた。これらの討論 を基に、諮問に対して、以下の項目を挙げて答 申を作成することにしている。

答申内容の主な項目(案)

T.協働がなぜ厳しいのか−現状−

  • 1. 厳しい労働の現状
  • 2. 社会的/潜在的偏見に根ざす問題
  • 3. 社会参加しようとする意欲の低迷
  • 4. 医師組織の現状−皆が信頼し集う団結の場がない−
    勤務医は医師会を知らない/医師会は勤務医に知らせていない(日医のミッション・ビジョン)

U.協働が期待され求められる場

  • 1. 災害医療−東日本大震災での気づき−
  • 2. 医療安全・医療事故への対処
    診療関連死・医療事故調査委員会への勤務医の参加とメディエーション
  • 3. 終末期医療
  • 4. 地域医療連携
  • 5. 医学教育と医療技術の向上
  • 6. 医療への信頼感の醸成

V.協働への道

  • 1. 社会参加できる環境を作る
  • 2. 社会的・潜在的偏見をなくす
  • 3. 組織体制を改革する−特に日本医師会の在り方を巡って−
    (1) 医師会への期待(地区医師会への勤務医の参加、医師会参加促進)
    (2) 医師全員が医師会に加入することを果たすには
    (3) 医師会改革
    (4) 勤務医委員会の目的と部会
    (5) 協働するには何が必要か
    (6) 勤務医の生きがいとは

答申は来年には原中会長に報告すると共に、 日医ホームページにて公表する。また、勤務医 委員会の議論の内容については、日医ニュース に掲載している。

2.「東日本大震災〜現地からの報告・被災地 への医療支援〜」
日本医師会勤務医委員会副院長 望月 泉

3 月11 日の午後2 時46 分、マグニチュード 9 ときわめて強大な地震と引き続いて生じた大 津波が被害を拡大させた。直ちに岩手県災害対 策本部が設置され、自衛隊支援・DMAT 派遣 要請がなされた。翌12 日の昼頃には約100 隊 となり、被災地内の災害拠点病院の支援、被災 した沿岸地域病院の入院患者を内陸の病院にヘ リ搬送した。同時に花巻空港にSCU(広域搬 送拠点医療管理所)を開設し、広域医療搬送も 開始した。今回の震災の特徴は、初期救急医療 の時期が極めて短く、避難所を中心とした救 護、避難所の慢性疾患対応、健康管理が重要と なり、DMAT ・JMAT が医療支援チームとし て、災害拠点病院支援と避難所の巡回診療に携 わった。

岩手県立中央病院もすぐに院内感染対策本部 を立ち上げ、被災の状況等情報収集を行い、診 療方針を決定した。トリアージポストを設置、 発災2 週間で、入院計101 名、外来計92 名、 震災関連手術件数は12 件(整形8、産婦3、消 化器外科1、眼科1)と少なかった。12 日には、 電気が復旧、病院機能は維持できたが、重油、 ガソリン不足は深刻であった。トリアージ・救 急体制を継続しながら、被災地への医療支援に 精力を注ぎ、医師、看護師をチームとして継続 派遣した。物流が回復してきた18 日以降は、 通常の手術室体制となった。

20 日以降は、地域の災害医療ニーズに応え ていくことを目的に、岩手医大、県医師会、日 赤、国立病院機構、医療局(県立病院)、岩手 県の6 つの機関が連携しながら、岩手県災害医 療支援ネットワークが立ち上がった。医療チー ムは長期にわたり支援が可能であること、原則 自己完結型であることを優先とした。被災地の 多くは、震災前から医師不足による診療科の閉鎖、地域医療崩壊が進んでおり、医師不足、地 域偏在、診療科偏在という医療界が持つ矛盾が 震災後は一気に露呈し、より多くの医療、介護 支援を必要とした。

発災後、6 か月を経過した現在、被災者は避 難所から仮設住宅を中心とした生活に移行、病 院機能を失った県立3 病院がそれぞれ仮設診療 所を開設、保険診療を開始した。医療チームに よる巡回診療を中心とした医療提供から、検査 機能や専門診療科へのニーズにも対応した医療 を提供できる体制の整備を進めている。新幹線 沿線を背骨とし、横断道路を肋骨に見立てて、 内陸郡市医師会が沿岸の被災地仮設診療所の支 援を行う肋骨支援を基本とし、多くの医療機関 が流され被害の大きかった陸前高田市には新た に岩手県医師会が診療所を開設し、土日の救急 診療応援をはじめ、各病院のニーズに合わせた 支援を行っている。今後は高台移転など新しい まちづくりに対応した医療提供体制の整備につ いて、地域や医療機関と十分協議しながら進め ていく必要がある。

基調講演

「若い外科医の過重労働と改善のための方策」
九州大学大学院医学研究院循環器外科教授
富永 隆治

近年の医療の高度化、複雑化、急激な高齢者 社会や生活環境変化に伴う疾病構造の変化、な らびに医療の質や安全に対する社会的要求に対応 するために、医療者の業務は増大、現場の医師・ 看護師はさらに過酷になっている。労働時間の長 い診療科では若手医師の新規参入は減少し、現 場の医師の疲弊は更にひどく、限界にきている。 マスコミに注目された産科、小児科、救急と同 様、外科の領域でも似た状況となっている。

日本外科学会では、20 年程度前から新規参 入者が減少に転じ、地方における外科医の減 少、さらに新臨床研修制度発足による若手医師 の偏在化により、外科臨床現場の労働環境は悪 化の一歩を辿っている。留意すべきは、過労は 医師の健康を損なうだけでなく、注意力低下に よる医療事故を引き起こすことである。

米国では1984 年、NY 市においてレジデン トの睡眠不足による処方ミスで患者が死亡し、 これを契機にレジデントの長すぎる修練時間は かえって危険であるとの認識が国民や医学教育 機関に生まれ、レジデントの労働条件が立法化 された。その骨子は、1)週80 時間を越えない 勤務時間、2)週1 回の完全フリーな休日の確 保、3)連続勤務時間の上限設定(24 時間、の ち30 時間)。2003 年には米国卒後教育認定委 員会(ACGME)規則として制定され、違反し た病院は修練施設から外されることになってい る。日本では、労働基準法によって週40 時間、 36 協定により最大週15 時間の時間外勤務が規 定されているが、2010 年に行った外科医週間 タイムスタディでは、卒後10 年目までの若手 医師で92 時間/週(オンコール待機時間は除 く)、11 年〜 15 年で84 時間/週と、労働基準 法で定められた適正な労働時間の2 倍以上働い ているとの結果がでた。過労死の判定基準時間 数を大幅に超えており、その多くは手術以外の 周術期管理と雑務であった。

この過酷な労働環境を改善するためには、1) 若い外科医を増やす、2)医療事務を担当するメ ディカルクラークを増員する、3)周術期管理を 任せうる医師と看護師の中間職種を創る必要が ある。米国では、ナースプラクティショナー (NP)の活用で冠動脈バイパス手術での術後死 亡率低減や医療費削減につながっている。フィ ジシャンアシスタント(PA)は、研修医の労 働負担の軽減につながっている。NP は看護を 基礎とするため看護職としての独立性が強いの に対し、PA は医師への従属性が強い。米国の 医療保険制度は日本の皆保険制度に比べて格段 に劣っているが、外科医の労働環境を改善する にはNP ・PA のような中間職種を創設する必 要があると考える。当件に関して、福岡県の日 医会員(A 会員55 %、B 会員43 %)を対象 に、分業化についてのアンケート調査を行っ た。当調査では、ナースプラクティショナー (NP)・フィジシャンアシスタント(PA)・特定診療師の診療行為について、回答者の約6 割が賛成とした。無条件で賛成が7 %、条件付 きで賛成が52 %で、反対は30 %で、どちらと も言えないは11 %だった。

平成22 年度の診療報酬改正において、手術 料の大幅増額が行われ、日本外科学会関連の診 療科では、15.8 %の大幅増収になっているが、 外科医に特化した待遇改善策を執られた病院は わずか10 %前後であった。これでは外科新規 参入者の増加は望めないし、過重労働も改善さ れない。存亡の危機に立たされた日本の外科医 療を救う意味から抜本的な対策が望まれる。

パネルディスカッション
「よりよい就労環境を求めて」

(1)大学病院の勤務環境と提案、(2)地域 の救急医療を維持するために、(3)医師の子育 てを支援するための取り組み、(4)医師の健康 がよりよい医療に不可欠と題しそれぞれの立場 からシンポジスト4 名による発表が行われた。

(1)「大学病院の勤務環境と提案」
富山大学附属病院呼吸器一般外科診療教授
土岐善紀

大学病院の社会的役割は「医学教育・医療者 育成」「基礎・臨床研究」「診療(高度先進医療 + 不採算部門の担保)」「人材の供給」である。 このうち教育、研究は採算や商業ベースで行う 分野ではない。さらに診療においても小児がん 治療やハイリスク分娩、高難度手術など、民間 病院等が担当しづらい不採算部門を担ってい る。本大学30 代外科専門医の週当たりの勤務 時間は112 時間であり、年収で割ると1 時間あ たり1,250 円になる。国立大学外科医の窮状で ある。

勤務医全般にとって建設的で実行可能な対策 を提案する。1)医療政策について、医療費は 「DPC 係数を上げること」「タクシー代わりの救 急車には一部有料化を実施すること」「喫煙者 には増税を行なうこと」から始めたい。医師数 は「30 年後の高齢者人口と比例し医学部定員枠を決めては如何か」「科別偏在は外部矯正せず、 不足領域に資金を出しては如何か」について提 案したい。2)職務環境の問題(salary / work balance)については、過重労働であっても交代 要員がいない現状がある。労基法を遵守すると 術後死亡率は悪化が予想される。環境が整うま では手当てで持ちこたえることが現実的な対応 である。3)医師会の役割については、立ち位置 をぶらさないで欲しい。他方、優秀なスポーク スマンを持ちメディア戦略を行わなければなら ない。政権によって右往左往するようであって はならない。しっかり医療を受ける患者を見な ければならない。メディア側と国家側と国民側 と3 つの方向に複数の媒体を持って欲しい。

まとめとして、1)現場からの素早い医療政 策への働きかけ、2)立場による小異を捨てて 静かに結束を、3)医療者としてのスタンスを 崩さない。

(2)「地域の救急医療を維持するために〜急性期病院における勤務環境の課題〜」
富山県立中央病院内科部長 臼田和生

救急医療の観点から富山県の医療施設従事者 医師数と富山医療圏救急搬送件数の増加率を 15 年前の基準として比較すると、救急搬送は2 倍近くに伸びたのに対し、医師は1.2 倍増に留 まっている。2010 年度受診患者転帰では、救 急車搬送患者の約半数は帰宅できる軽症患者で あり、全患者数の2/3 を占めている。この実態 が現場の過重労働を招いている。また、自治体 病院の医療職員定数も特有の問題として挙げら れる。地方自治体の職員は、定数条例により厳 格に規定され、加えて、公務員の定数削減など も相俟って、救急患者の増加や医療の高度化に 対応できず、常勤職員の疲弊を招いている。

医師の過重労働に対する現状の対策として、1) 救急輪番勤務明けは原則休み。やむを得ず勤務が 必要な場合は、時間外勤務扱いとする。2)医療ク ラークの設置(50 :1 の配置)、3)病診連携の推 進:病院と診療所の機能分化を実施している。

良質な救急医療と勤務医の負担軽減のためには、(1)医師不足の解消が必要、(2)救急医療 を担う医療機関に対する診療報酬上の十分な評 価、(3)看護師、助産師、保健師の業務範囲の 拡大、(4)急性期病院におけるコメディカルの定 数数増、(5)医師事務作業補助体制の充実、(6) 救急隊との緊密な連携、(7)病診連携などによ る診療の役割分担、(8)地域住民への啓蒙(学 校教育の段階から手を打つ)ことが必要である。

地域の救急医療を維持するためには、行政、 住民および医療機関が共通の現状認識に立ち、 医療環境の改善に取り組むことが必要である。

(3)「医師の子育てを支援するための取り組み」
黒部市民病院耳鼻咽喉科部長 丸山裕美子

性別にかかわらず仕事を覚え打ち込みたい時 期と、結婚や子育ての適齢期が重なる。医師が 医師としての職務を果たしつつ、親として過ご すことができるよう、「医師の子育て支援に関 する内規」の作成に取り組んだので報告する。 2006 年4 月当院院長より「女性医師の労働条 件の明文化」の依頼を受けたことを機に、医師 全体について対応できないものか考え、同年6 月院内外の女性医師および院内の男性医師全員 を対象にワーク・ライフ・バランスについてア ンケート調査を実施した。調査結果より「妊娠 中の医師および子どもを持つ医師が、時間・体 力など物理的、精神的制約を感じながら業務を 行う中で、0 %か100 %か以外の選択肢を希望 していること」「フルタイム以外の体制を整え る案に対し大多数の賛同が得られたこと」「回 答を得た医師の大多数より、妊娠・出産・産後 や子育て中の医師の就労形態の考慮に賛同を得 ることができたこと」、そしてその賛否の割合 に著しい男女差は無かったことが分かった。

以上の結果を踏まえて「医師の子育て支援に 関する内規」を作成した。内規の特徴は、(1) 現行の法律で定めている「未就学児を養育する もの」を「学童までの児を養育するもの」に拡 大したこと、(2)家族が病気の際の業務内容へ の考慮について明文化したこと、(3)子どもの 保育園(幼稚園)や学校の親子行事などへの参 加について、医師が参加する権利を主張できる ことを明文化した点である。内規の作成を通じ て、多くの医師が女性医師への妊娠・出産時期 の配慮について違和感や不快感などを抱いてお らず、むしろ協力的に感じていることを知るこ とができた。

全体的な医師不足によりサポート体制が取り 難い場合もあり、一律な対応は困難であるが、 子育てを「女性医師問題」の一つと捉えるでは なく「すべての医師にとっての課題」として、 周囲の理解と協力、本人の努力が必要不可欠で ある。以上、我々の取り組みが勤務医不足の現 状の中で何らかのヒントになれば幸いである。

(4)「医師の健康がよりよい医療に不可欠」
川人法律事務所・弁護士 川人博

23 年前から過労死弁護団が医師等専門家と 協同して「過労死110 番」という活動を始め た。近年では、うつ病や自身の事案での相談が 相対的には増加傾向にある。また、医師の死亡 が労災と認定される事案も増えている。この約 10 年医師の過労死を巡っての労災認定や裁判 を通じて、亡くなるに至るケースは、長時間労 働や深夜労働の問題と共に、医療ミスや患者と のトラブル等に伴う、強度のストレスが合わさ っているケースが多くみられる。これらは医師 のみならず、他職種でも同様のケースが多い。

労働基準法36 条(時間外及び休日の労働) において、厚生労働省は月45 時間を越えては ならないとの通達を出している。他方、労働基 準法41 条(労働時間等に関する規定の適用除 外)にある「断続的労働に従事する者」につい ては、時間外の適用が除外されるとの規定があ る。この例外規定を巡っては、医師の宿直勤務 が「断続的労働」にあたるかどうか問題にな る。この問題について、最近の厚労省の考えで は、宿直の実態は労働時間にカウントすべきだ としている。2009 年、奈良地裁で過酷な労働 に見合う時間外手当の支給を病院側に求める訴 訟を起こし、医師の当直に時間外の支給を命じ る判決を下した。その後、高等裁判所でも同様の判決に至った。

医師法19 条について問題提起したい。医師 たるものは、医師法19 条1 項にある「診察に 従事する医師は、診察治療の求があった場合に は、正当な事由がなければ、これを拒んではな らない」と規定されている。いわゆる応召義務 と呼ばれるものである。私はこの応召義務が、 医師の過重労働や過労死の重要な背景にあると 考えており、19 条を含む医師法全体の法律改 正を検討すべきと考えている。

この規定があるがために、医師は精神的にも 縛られ、医師の意識が法制度の規定によってよ り強固なものにさせられている。他方、国民の 側も医師は多少の無理は利き入れてもらえると する意識状況を助長する背景になっている。

医師の負担を過度に求める社会的風潮の結 果、多くの医師が健康を害し、ときには過労死 にまで至っている。そして、この結果、医療現 場の改善がますます困難に陥っている。

医師法にこの条文を載せるのであれば、別の 箇所に「他方、国は医師の勤務環境が健康的な ものでなければいけない。このような勤務環境 を整える義務・責務がある。」ことを法律上に加 えるべきである。医師が健康的な勤務環境の下 で働ける規定があり、その上で19 条が残るので あれば理解できる。結果として、医師の過重労 働等を醸成していく法制的な根拠になっている。

この他、医師法21 条の異状死届け出義務に ついても、医師にとって不利益になる可能性が あるものについて、国家権力である警察に届け 出義務を負うことは、憲法の黙秘権に反する疑 いがある。死因を明確にする目的であれば、届 け出先は保健所や死因究明委員会等を設けて対 処すべきである。また、現在の医学教育のあり 方についても医学のみならず社会情勢の様々な 問題について学んで欲しい。

各分野からの発表の後、三上裕司日本医師会 常任理事よりコメントがあり、その後、行われ たディスカッションでは、医行為に関する問題 や男女共同参画における意識改革、労働安全衛 生法の認識の問題等について活発な質疑応答が 行なわれた。

この他、先の基調講演で富永隆治九大教授か ら提唱のあった日本でのPA/NP 導入のあり方 について、三上常任理事は、NP/PA/特定看護 師といった業務独占を伴うようなタスクシフテ ィングには日医としては反対である。特にチー ム医療の観点から医師の指示下で働くPA を増 やしていく方が良いと考えている。また、医師 の診療補助を行うPA /専門看護師/認定看護師 /エキスパートナースを各医療機関で養成し、医 師の負担を軽減すべきであるとの考えを示した。

富山宣言採択

全国医師会勤務医部会連絡協議会の総意の下、 医療崩壊のアピールや就労勤務医の環境の改善 を求める「富山宣言」が満場一致で採択された。

富山宣言

地域医療・急性期医療などを担う勤務医の役割は 日増しに高まっている。しかしながら、その就労環境 の厳しさは旧態然としており、勤務医離れはとどまる ことなく、残された勤務医に更なる過重労働を強いる 結果となっている。そのような状況にあっても、東日 本大震災では勤務医は率先して医療活動に加わり多く の被災者に医療を提供してきた。医療は公共のもので あるという認識を踏まえ、勤務医の疲弊をこれ以上に 増やすことなく、個々の能力を遺憾なく発揮できるよ う就労環境の改善に向けて次のことを宣言する。

一、勤務医は各々を尊重し助け合い、医療活動のみで はなく医政活動にも積極的に参加し、医療が崩壊の 危機にあることを広く社会にアピールしていくこと。

一、我々医師は、より良いワークライフバランスを求 めて、女性医師のエンパワーメントを促し、男女共 同参画社会推進におけるリーダー的存在となること。

一、政府は医療費抑制策を改め、医師の養成・確保 に真剣に取り組むこと。

一、政府・病院開設者は、勤務医が医師の使命感に 基づいて過重労働を耐え忍んでいる現実を理解し、 早急に就労環境の改善に着手すること。

平成23 年10 月29 日
  全国医師会勤務医部会連絡協議会・富山