常任理事 真栄田 篤彦
去る10 月29 日(土)午前10 時より、ホテ ルセンチュリー静岡・ホテルアソシア静岡にお いて、「『学校医』我々にできること〜子ども達 の健やかな身体とゆたかなこころを育むために 〜」をメインテーマに標記大会が開催された。
午前の部は5 分科会が開催され、各県医師会 から応募のあった演題について、発表と活発な ディスカッションが行われた。各分科会の内容 は、第1 分科会が「心臓検診・腎臓検診」をテ ーマとした9 題、第2 分科会が「脊柱検診・運 動器検診・生活習慣病健診」をテーマとした 10 題、第3 分科会が「こころ・精神保健・ア レルギー疾患・性教育・感染症」をテーマとし た10 題、第4 分科会が「耳鼻咽喉科」をテー マとした9 題、第5 分科会が「眼科」をテーマ とした14 題となっている。
午後の部は、都道府県医師会連絡会議が行わ れ、第42 回学校保健・学校医大会開会式、日本 医師会長表彰式(学校医、養護教諭、学校関係 栄養士)、シンポジウム、特別講演が行われた。
シンポジウムでは、「学校における検診シス テムの現状と課題」をテーマに、小児科、腎臓 内科、整形外科の各専門医より、それぞれ意見 が述べられた。
特別講演では、静岡理工科大学理工学部物質 生命科学科教授の志村史夫先生より、「21 世紀 の幸福論− IT は人を幸せにするか−」と題し た講演が行われた。
シンポジウム並びに特別講演の概要について は、以下のとおり。
シンポジウム
テーマ「学校における検診システムの現状と課題」
座長 日本小児科学会静岡地方会理事長/
静岡県立こども病院前院長 吉田隆實
静岡県小児科医会副会長 谷口和利
基調講演
始めに、「学校検診は疾患の早期発見や予防が中心的役割であるが、健康についての教育・ 啓発、医療と教育のネットワーク形式等の意義 も注目されている。また、心臓、腎臓、脊柱等 をはじめ、耳鼻、眼、精神等の領域においても 検診の有用性が指摘されるとともに、現在で は、生活習慣病が現代の主要な死亡原因である 脳血管や冠動脈の疾患とも深く関連することか ら、生活習慣の確立の点からも小児期からの対 応の必要性が提唱されている」と説明があり、 近年の小児のライフスタイルの変化や肥満傾向 小児の頻度推移、平成22 年度に実施された 「子供の食生活実態に関するアンケート調査結 果」について報告が行われるとともに、小児の 生活習慣病予防に向けての学校医の役割等につ いて意見が述べられた。
説明では、日本人小児のためのメタボリック シンドローム診断基準として、1)腹囲の増加 (80cm 以上)、2)中性脂肪120(食後2 時間以 降150)mg/dl 以上ないしHDL-コレステロー ル40mg/dl 未満、3)収縮期血圧125mmHg 以上 ないし拡張期血圧70mmHg 以上、4)空腹時血 糖100(食後2 時間以降100)mg/dl、以上の 項目のうち@を必須とし2)〜4)のうち2 つを含 む場合に診断されていると報告があった。また これに加え、腹囲/身長が0.5 以上である場合 にも内臓脂肪の増加と判断されるとして、腹囲 80cm(小学生は75cm)を赤信号、腹囲/身長 が0.5 を超える場合は黄信号として、健康管理 の目安として提唱していると説明があった。
最後に、「肥満・メタボリックシンドロームの 予防のためには、運動に加え、食事の内容・摂 取方法、睡眠等の生活習慣全般に対する注意が 必要であり、学校医は、その医学的対応によ り、また関連する教員や医療専門職とのネット ワークを形成することにより、子どもたちのヘ ルスプロモーションにおいて中核的役割を果た すことが社会的にも要請され、その活躍が期待 されている」と述べられた。
シンポジウム
静岡県で行っている再調査事業では、平成 22 年度は89 例の再調査に対し55 例が適正な 運動管理区分に変更されており、平成17 年度 との比較では、再調査数は128 例から89 例に 減少し、かつ適正に変更された例数は59 例 (46.0 %)から55 例(61.8 %)に改善してい ると報告があった。また、両年に共通して変更 例の大多数は、E 可→管理不要であるが、平成 17 年度はD 区分→管理不要3 例、E 禁→ E 可1 例等、過度の管理からの変更例があったことに 対し、平成22 年度は逆に1 例の心筋症でE 可 → C 区分に、3 例の心室性期外収縮で管理不要 → E 可に等、管理を強化した変更例があったと 報告があった。
学校心臓検診における再調査の今後の課題と して、二次検診を行う新規開業の医師や交代し た病院医師にも本事業の意味を理解していただ くとともに、学校心臓検診結果小委員会の立場 を明確にすることで、学校心臓検診に公的な立 場で関わっていることを理解していただく必要 があるとの見解が述べられた。
学校腎臓検診は、小中学生の尿異常の疫学、 慢性腎炎の早期発見等、大きな役割を果たして きた一方で、フォロー体制の不統一といった問 題も指摘されており、その原因の1 つとして、 有所見者の半数(静岡県では平成21 年度では 有所見者980 人中505 名(51.5 %))を占める 無症候性血尿があげられると説明があった。
このような状況を鑑み、静岡県医師会では各 郡市医師会へ学校検診フォローの実態調査を行い、その調査結果から、現行のシステムを継続し つつ、本当に管理・治療が必要な有所見者がフ ォローされる体制の統一化を目指し、以下のフ ォロー体制を提案したいとの見解が述べられた。
1)三次検診はまず地域の学校・かかりつけ医に
お願いし、統一化のために蛋白尿を中心とし
た判定・フォローのフローチャートを作成・配布する。
2)三次検診用紙は見本を作成し、小児腎臓科医が検討した検査項目の追加・修正を提案する。
3)判定委員会のない地区では判定委員会の設置
を促し、設置できない地区に関しては静岡県
医師会学校腎臓検診結果検討小委員会委員
が判定委員会を行う。判定委員会では、三次
検診用紙をチェックし、今後、要注意有所見
に対して受診した医療機関にフィードバック
を行う。
静岡県の脊柱側弯症検診の現状と問題点を明 らかにすることを目的に、静岡県下の35 の市 町教育委員会に静岡県医師会を通じてアンケー ト調査を行ったとして、その内容について報告 が行われた。
調査結果から、一次検診対象者数は小学生 207,968 人、中学生99,273 人であり、小学生 は、一次検診陽性率は0.47 %で、一次検診陽 性率の高い地域でも陽性者ゼロの学校が多く存 在し、中学生でも、一次検診陽性者ゼロの学校 が全265 校中91 校(34.3 %)あったと報告が あった。また二次検診対象者数は、1,599 人で あるのに対して二次検診受診者は1,241 人とな っており、358 人(対象者の22.4 %)が二次 検診を受診していないことが分かったと報告が あった。
脊柱側弯症は学校保健安全法で検診が義務付 けられている唯一の運動器疾患であり、脊柱側弯症検診において最も重要な点は、上半身裸で 背部の視診を行うことであると説明があり、今 後は、静岡県内の一部地域で行われている前屈 テストを含む脊柱側弯症の視診方法を示した説 明用紙を保護者に配布し、保護者への啓発を行 うことも重要であると意見された。
特別講演
座長 静岡県医師会副会長/
静岡県学校保健会会長 指出昌秀
始めに、「世の中が『情報化社会』と言われ、 現代が『エレクトロニクス時代』と呼ばれるよ うになってから既に久しく、私たちの日常生活 の隅々にまで様々なエレクトロニクス機器が入 り込み、私たちの、少なくとも『社会的生活』 はIT 抜きには成り立たなくなっている。しか し、一方において、そのような『文明』が、人 類を含む全ての生物の生活基盤であるこの地球 の自然環境を痛め、急速に破壊し、少なからぬ 数の動植物を絶滅に追いやっていることも事実 である。また、ほかならぬ現代文明人自身も、 物質的な『豊かさ』や『便利さ』とは裏腹に、 精神的病魔に侵されつつあるように思われる。」 との見解が述べられ、半導体エレクトロニクス の研究者を経て、様々な国で様々なことを見聞 した自身の経験に基づいた知見が講じられた。
講演の最後に、「IT の便利さ、機能は驚異的 であり、現代の社会生活を送る上で不可欠なも のである。しかし、IT はしょせん道具であり、 人間が道具に振り回されてはならない。IT の 功罪を知ること、IT に振り回されてはならな い、IT 漬けになってはならない。」と意見され、 量的幸福観から質的幸福観へ、物質的幸福観か ら精神的幸福観へ移ることが大切なことである と述べられた。
印象記
常任理事 真栄田 篤彦
「学校医」我々にできること
〜子ども達の健やかな身体とゆたかなこころを育むために〜大会主催である日本医師会の原中勝征会長が挨拶で、「今、我が国が直面する様々な問題の中 で、次代を担うこどもたちの健やかな身体と豊かなこころを育むために、学校医がなすべきこと は何か、という学校保健の原点に立ち、建設的な議論を通して地域の学校保健活動に反映して頂 ければ幸いに存じます」と日頃の学校医活動で地域に貢献するよう呼びかけている。
第3 分科会の『からだ・こころ(3)』こころ・精神保健・アレルギー疾患・性教育・感染症の 会場に出席したが、自閉症をかかえる幼児の療育と就学支援の発表では、自閉症の頻度に関して は、1.8 %の頻度で、男女比は2 : 8 とのこと。
IQ が70 以上の群が66.4 %占めたことを報告している。自閉症の療育は、それぞれの子どもの 障害の特性に合わせて、それを少しでもカバーするために行う。障害の程度や特性は一人ひとり 違うので、それぞれの子どもたちの状況に合わせた対応が必要であり、そうしなければ十分な効 果も期待もできないとのこと。療育の代表はTEACCH,ABA があるが、欧米では後者が中心と のことで、公費負担での療育が開始されているとのことである。
演者の施設では、言葉の見られない自閉症の場合でも、2 〜 4 才までに療育を始めることができ れば、60 〜 70 %の子どもたちは動作模倣や音声模倣ができるようになるとのこと。より良い療 育対応と就学支援を行うべきとのことであった。
自閉症の療育方が進歩していることは、非常に大切なことであり、沖縄県内においてもその療 育方法と就学対応が必要だと思う。
昼の都道府県医師会連絡会議では、次年度の同大会開催地として熊本県医師会が担当すること が決定された。来年は九州ブロックでの開催なので、同大会に沖縄県からも多くの関係者が参加 できるものと思う。
印象記
榕原医院 池田 祐之
発端
7 月、中部地区医師会からファックスが届いた。10 月末に静岡で学校医の全国大会があり、出 席希望者を募る、という内容であった。予定演題に脊柱疾患3 題、心電図検査で発見されなかっ た肥大型心筋症の突然死1 題があった。
私は開業して17 年、その数年後から地域の中学校の校医をしている。脊柱疾患は私の専門では ないが、生徒たちの姿勢が悪いことに気付き、注意し、学校当局の努力もあって、それなりに姿 勢改善の成果を挙げていた。他府県では生徒たちの脊柱疾患がどのように把握され、対処されているか、知りたいと思った。一方、肥大型心筋症の特異な病態にかねてから関心があり、突然死 の悲劇を避ける努力をしている。その立場から、この症例の心電図を是非見たいと思った。そん な訳でこの大会への出席を医師会に申し出、承認頂いた。
学校医全国大会、静岡
大会は10 月29 日(土)ホテルセンチュリー静岡並びにホテルアソシア静岡にて開催された。 午前中は5 つの分科会で各種の報告があり、午後は開会式、功労者の表彰、その後にシンポジウ ム、特別講演、最後に懇親会、という日程であった。分科会は、第1 分科会:心臓検診・腎臓検 診、第2 分科会:脊柱検診・運動器検診・生活習慣病健診、第3 分科会:こころ・精神保健・ア レルギー疾患・性教育・感染症、第4 分科会は耳鼻咽喉科、第5 分科会は眼科、という多分野に 亘る構成であった。私は脊柱検診と心臓検診に範囲を絞って聴講した。
10 時から分科会開始。第2 分科会で脊柱検診の3 演題を聴講した。演題1、2 はモアレ装置に よる脊柱側湾の計測であった。モアレ装置は昭和46 〜 7 年頃にME 学会誌に掲載されていた。2 題共、モアレ計測の有用性を示すものであったが、この装置は製造を止めたということであった。 計測は装置がある間、続けられるであろうが、後続を断たれる。ユニークな技術の消滅を惜しむ。 演題3 はシルエッターによる脊柱後湾の検診で、講演者はこの技法の開発者であった。これがモ アレ計測に替わる技法であるか、は今後の課題であろう。ここで、質問と言うより注意喚起の発 言をした。姿勢の悪い学童の背柱下部が突出して椅子の背もたれに当たるため、胸腰椎の蕀突起 に相当する部分の皮膚に3 個の赤褐色の斑点が出現する。脊柱疾患の前駆症状として留意すべき であると。余り反響はなかった。
10 時50 分、第1 分科会に移動した。ここは心臓検診、腎臓検診の分科会であった。演題5、6、 7 を聴講した。自分には演題7 の肥大型心筋症が本大会における最大関心事であった。1 年前の心 電図検査で異常なしとされていた高校生が体育中に突然死し、心エコー検査で著明な左室心筋肥 厚があり、肥大型心筋症と考えられた症例であった。この生徒は、身長164cm、体重47kg、痩 せ形の子であった。注目の心電図には、通常の肥大型心筋症に特徴的なV4 〜 6 の高いR、ST 低 下、巨大陰性T はなかった。V5R は1.8mV 程度であったが、V4R は2.6mV、V2S が− 2.8mV と振幅が大きく、肥大型大動脈弁下狭窄を想定できるものであった。T誘導のR 波が低いことと、 体型から、この生徒は滴状心で、例え心筋肥大があっても、心臓が胸壁から離れているので、V5、 V6 では高いR 波は出ない、と読めた。発言を求め、この心電図は、通常の判定基準では左室肥 大ととれないが、肥大型心筋症を探している目には限局的な左室肥大と読める、と述べた。左隣 に座っていた方が、「やはり変わった心電図ですね」と声を掛けてきた。
思ったこと
学校医の主務は検診であり、疾患を早期発見し、治療は専門家への紹介となることが多い。大 会のテーマそのものが検診であるから、報告は検診の状況、発見率への言及が主で、予防につい ての言及は少なかった。年に1 〜 2 回の学校訪問では、通りすがりの一瞥に等しく、現状把握が 精一杯で、状況改善(予防、発生率低減)までは手が回りかねている。
脊柱疾患の検診では校医に整形外科医が少ないことが指摘されていた。又、発見が遅れて椎体 変形に至った例が訴訟になった、とも聞いた。他の疾患分野でも専門医が足りないことは同様で あろう。皮肉なことに、検診が普及し、発見率が向上する程、発見漏れに非難や抗議が集中する 理屈である。校医のなり手が少ないと聞いたが、無理からぬことであろう。
学校検診は本来、国または自治体の責任で実施し、校医は地域健康保持のボランティアとして 参加していると理解していたが、訴訟等の話を聞くと、安心して校医活動ができるよう、校医の業務範囲、法的整備を再検討し、関係者に周知しておくことが望ましい。
県外の学会に出席するのは約30 年振りであった。科も年代も違うので、誰一人知人がいなかっ た。まるで浦島太郎であった。そう言えば、竜宮は琉球のなまりであるとも言われている。以前 の学会では様々な体型の人がいた。今回は比較的スリムな人々が揃っていた。人様の健康を気遣 う職種がそれに相応しい容姿をしている、と強く感じた。
印象記
あいわクリニック 比嘉 睦
平成23 年10 月29 日、霊峰富士の麓、静岡県のホテルセンチュリー静岡並びにホテルアソシア 静岡にて第42 回全国学校保健・学校医大会が【『学校医』我々にできること〜子ども達の健やか な身体とゆたかなこころを育むために〜】をテーマに開催されました。
当日は午前中に5 つの分科会が開催され、午後より開会式、表彰式の後、『学校における検診シ ステムの現状と課題』をテーマに基調公演、シンポジウムが行われ、志村史夫先生による特別公 演『21 世紀の幸福論─ IT は人を幸福にするか─』がありました。
私は、第3 分科会『からだ・こころ(3)』こころ・精神保健・アレルギー・性教育・感染症と いった多岐にわたる分野の発表に参加しました。
近年、社会環境や生活様式の急激な変化により子どもたちを取り巻く環境は厳しいものとなっ ています。それに加え、昨年3 月11 日に起こった東日本大震災により、自然災害、放射能汚染の 問題にも向き合うことになりました。私自身このように、子どもたちが直面している多くの課題 を解決するために、一小児科医として、一学校医としてどのように関わっていけば良いのか思い 悩んでいる中、宮城県医師会の高田修先生による「被災地における子どもの心支援活動」を拝聴し ました。
演者の高田先生は、「NPO ここねっと発達支援センター」(http://www.coconet.or.jp/)理事 長である佐藤秀明氏が編成した「緊急こどもサポートチーム」の一員として、被災地、特に宮城 郡七ヶ浜町で子どもの居場所作り、医療的、心理的な後方支援を行なった経験を報告されていま した。その中で、チームの共通の認識として、被災地における子どもたちがトラウマ体験から回 復していくステージを「不安感から安定感」「安定感から安心感」「安心感から期待感」という3 つのプロセスでとらえ、各々のプロセスを順当に歩んでいけるように、ストレス・マネージメン トに取り組む。子どもたちとの関わりの中では「否定しない」「強制しない」「丁寧に関わる」と いう3 つの原則を常に念頭に置く、という大前提の必要性を実感しました。
被災地より遠く離れた沖縄県には1,000 人以上の被災者の方が避難、移住され、その中には小 児も多く含まれていると思われます。継続的な被災者への支援の中で、今後、避難・移住先での 子どもたちの心のケアが必要となることが予測されることから、今回の発表は大変参考になるも のでした。
子ども達の健やかな身体とゆたかなこころを育むために学校医として何ができるか?今後も自 問自答しながら、日々精進が必要だと痛感させられた大会でした。