地域医療再生のため、医療従事者の適正配置にも気を配り、二次・三次医療圏を見据えた、予防医療・急性期医療・慢性期医療・在宅医療・リハビリ・介護などを統合した、未来に向けた地域医療のシステム作りが急務となっています。
Q1.当講座についてご紹介いただくと共に、 教授に就任されてのご感想と今後の抱負を お聞かせください。
琉球大学医学部附属病院の地域医療システム 学講座は沖縄県の寄附講座として平成22 年12 月に新設されました。全国的な地域医療再生へ の取り組みの中で、国が主導して各都道府県が 開設する形をとっています。既存組織である琉 球大学医学部附属病院の地域医療部との連携の もとに事業を展開していきます。
当講座の事業の柱は3 つあると考えていま す。第一は地域枠学生の教育を中心に、医学部 全体での地域医療教育を充実させ、将来の県内 の地域医療を担う人材を育てる事業を行うこと です。当講座は医学部教育カリキュラムの改訂 や新たな教育法の導入、さらに臨床実習の充実 (クリニカルクラークシップの充実)に関わっ ています。
第二は初期臨床研修医や離島研修中の若手医 師に対して臨床研修の補助を行うことでありま す。大学病院の臨床各科、シミュレーションセ ンターや専門研修センターとの連携事業として、 総合医的能力を併せ持った専門医育成の手助け を行い、離島や県北部地域の医療に貢献できる ような態勢を整えたいと思っています。専門性 を持った大学病院の医師がいかに地域医療に関わっていくか、新たな方向性を模索しています。
第三に沖縄県や県立病院、医師会などと連 携の上で、琉球大学医学部が県内の離島や北 部地域での地域医療再生に関与したいと考え ています。
今まで私は大学教員あるいは内科医として大 学病院と地域の医療機関等で活動して来ました が、今後は地域医療教育を中心とした医学教育 と、沖縄県での地域医療の再生や再構築へ関与 することで県民に貢献したいと思っています。
Q2.平成24 年春に完成するおきなわクリニカ ルシミュレーションセンターは、質の高い 医師や医療従事者の養成が期待されるとこ ろですが、当講座は、どのような連携をと っていかれるのでしょうか。お聞かせください。
当講座と同様に地域医療教育開発講座がシミ ュレーション事業を県内に普及させる目的で平 成22 年9 月に開設されました。両講座が協力し 合って沖縄県の地域医療に関わっていく訳です が、シミュレーション事業は医師・看護師・薬 剤師など多職種に渡って利用可能なものであり ます。琉球大学医学部の敷地内に完成予定の 「おきなわクリニカルシミュレーションセンタ ー」は、質量ともに日本で最高のものとなります。シミュレーション事業は24 時間の事業展開 を目指して、県内の医療従事者がいつでも学べ る体制を整える予定です。琉球大学の医学部学 生が卒前の学習として日本で最も進んだシミュ レーション教育を受けることができます。さら にセンターを利用して学生のチュートリアル学 習(問題解決型の学習、学生による能動的な学 習形態)も可能となり、他大学より遅れていた 教育方法の改革を実現できるようになります。
さらに初期臨床研修医や離島研修中の若手医 師が定期的にクリニカルシミュレーションセン ターで学ぶことにより、より充実した研修が可 能となり、結果として沖縄の地域医療に貢献で きるものと考えています。このような事業に地 域医療教育開発講座と協力しながら主体的に関 わりたいと考えています。
Q3.地域医療の確保について、県行政、大学 病院、県立病院、民間の病院、医師会の役 割などをどのようにお考えでしょうか。ま た沖縄県の各々の連携について今後の課題 はどこにあるとお考えでしょうか。お聞か せください。
新たな臨床研修制度の導入があり、その結果 として我が国の多くの地域で医師の偏在化や地 域医療の崩壊が加速されてきました。このよう な状況を打破すべく、県行政・大学病院さらに は中部病院をはじめとした県立病院が一体とな って、本県における地域医療再生のための事業 を展開すべきと考えます。これの実現のために は医師会や県内の民間病院との連携も必要にな ってきます。この事業推進のためには、県や行 政が主体となり実行力を伴う協議機関を設立す る必要があると考えます。県内の諸機関との連 携の中で、実効的な地域医療再生のための組織 やシステム作りが必要であります。
医師のみならず、県内の医療従事者全体の適 正なる配置にも気を配り、二次・三次医療圏を 見据え、予防医療・急性期医療・慢性期医 療・在宅医療・リハビリ・介護などを統合的に できる枠組みを構築していくことが急務であり ます。既に他県では行政や保健所などが関与し て組織作りが行われていると聞いています。予 算を使った建物建設や機材の購入ではなく、未 来に向けたシステム作りが必要となっていま す。残念ながら、本県においては、この主導す る組織自体はあるようですが、現実の事業が進 捗していないと思います。私が関与していない だけかもしれませんが、少なくとも多くの医療 関係者の目に見えてきていません。本講座の設 立にも関係する事業でもあります。早急な組織 的な取り組みを県や医師会にお願いしたいと思 います。
Q4.琉球大学医学部は沖縄県において新しい 医療人材を育成する機関として重要な役割 を果たしていると思いますが、若い世代に 対しての期待、または要望などありました らお聞かせ下さい。
繰り返しになりますが、琉球大学医学部は総 合医的能力を併せ持った専門医育成を目指し、 離島や北部地域の医療に貢献したいと考えてい ます。現在琉球大学医学部では地域枠学生の教 育を通じて、医学部での地域医療教育を充実さ せています、地域枠学生を種々のイベントに参 加させており、彼らの医療や医学そのものに対 する意識は格段に向上しています。本年2 月に は地域枠学生が旭川医科大学と周辺地域の研修 に、さらには本年9 月には秋田の地域医療と東 日本大震災の被災地の研修に参加しました。素 晴らしい研修ができ、学生の地域医療に対する 意識も格段に深くなりました。彼らが卒業すれ ば沖縄の地域医療は変わるものと確信していま す。しかし、このような活動に対して少し冷め た見方をする学生たちも存在します。このよう な学生には、医師になろうとして医学部を目指 した頃の気持ちに帰って、地域医療や将来の日 本の医療さらには社会全体について常に関心を 持っていただきたいと思います。
Q5.県医師会に対するご要望がございました らお聞かせください。
当講座は県内の多くの組織との関わり合い中 で、地域医療の再生や充実に貢献したいと思っ ています。この事業の推進のためには、県や各 自治体のみならず、県医師会のバックアップが 不可欠なものとなります。医師会には、地域医 療再生のためのシステム作りに是非主導力を発 揮していただきたいと願っています。
Q6.最後に日頃の健康法、ご趣味、座右の銘 等がございましたらお聞かせ下さい。
健康法としては、水泳を週に1 回、テニスを 月に1 〜 2 回、ウォーキングをごく稀に行って います。趣味は自宅ベランダの鉢植えの世話と 時代小説を読むことです。座右の銘は余りない のですが、しいて言えば、いわゆる四知で、 「天知る地知る我知る人知る」です。小学生の 頃に母によく言われました。
この度は、インタビューへご回答頂き、誠に 有難うございました。
インタービューアー:広報委員 玉井修