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四季

大城喜寿郎

大城 喜寿郎

常夏の邦とか、緑の島等々南国ムードの気候 が強調されすぎるせいか「沖縄には四季がな い」とよく云われる。春夏秋冬、自然はそれな りに季節のうつろいを一生懸命にも告げている というのに我々が余りにも忙しすぎてそれに気 がつかないのか、またはそれに鈍感になってし まったせいなのか。

冬:ヤマトから友人がやって来た。暖かな緑 の島を想像してやって来たのに、どんよりと雲 った寒空を見上げてがっかりした様子であっ た。旧暦十二月八日頃:いわゆる「ムーチービ ーサ」の時分は寒波が襲来し海は大しけとな る。寒さが一段と強さを増し灰色の曇がたれこ めて薄暗い日がつづく。今にも雨が降り出しそ うだ。冷たい風が骨身にしみる。一年中で最も 寒い時期だ。そう云えば昔のガキ大将はこの時 期にはきまって鼻水を垂らし、手足のあか切れ に血をにじませながら元気よく風の中をとびま わっていた。

沖縄の早春は野や畑に若ミンナが出そろう旧 正月頃にやってくる。あのみずみずしい柔らか な芽をみていると春の息吹きが感じられ、やが て訪れる「ウリズン」の季節へのプロローグを 演じているようだ。春はまだ浅いが、竹やぶの 奥ではウグイスが鳴いていた。まだへたな鳴き 声だ。どことなく頼りない。鶯の覚束なくも初 音哉(正岡子規)、この時期の農家はサトウキ ビの刈り取りや積み出しで大わらわだ。製糖工 場は朝からフル操業だ。昔の工場は煙突からも くもくと黒い煙をはき出しながら出来たての黒 糖の甘い香りをあたり一面に漂わせていた。今 は先端技術の導入とやらでそのような情景はみ られなくなった。

若夏の頃は気温は急に上昇し海はおだやかに なり、温和な日がつづく。紅いデイゴの花が空 に映えて美しい。風薫る季節。初夏に吹くさわ やかな南風のことだ。

夏本番:喧騒・酷暑の季節だ。暑さは沖縄の 専売特許みたいだ。じりじり照りつける太陽に 思わず頭がくらくらして気が遠くなりそうだ。 騒々しい蝉の大合唱が一層暑さをかきたてる。 この頃にはきまって台風の2 〜 3 個が暑中見舞 いにやってくる。もっとも最近は島をさけて本 土直行が多くなったようだ。台風一過空は晴れ わたって、もくもくと入道雲がわきあがってく る。夏の夕立は突然やってくる。一天にわかに かき曇り急に風が出て来たかと思う間もなく雷 鳴と共に雨が激しく地面を打ち続くが、長続き はしない。ほどなく雲の切れ目から陽が差しは じめ、今までの豪雨がうそのように晴れわたり 涼風が吹きわたる。九月も末頃になると騒々し かった夏は遠ざかり風向きがかわり、ミーニシ (新北風)が吹く頃はさすがに朝夕涼しくなり、 空気も澄んで空が高く感ずるようになる。サシ バの大群一路南を目差して島の上空をあわただ しく通過していく。風に乗って遠い所から子供 たちの元気な歌声が流れてくる。運動会シーズ ンたけなわだ。この頃は水も冷たく感じられる ようになり、朝夕しのぎやすくなる。夕闇の訪 れと共にこうろぎの声が聞かれ、いかにも涼や かな気分になり秋の深まりを感じる。やがて季 節風が雨戸をゆるがす頃いよいよ冬の到来だ。 自然はまた冬仕度にあわただしくなる。