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沖縄県におけるDPP-4 阻害薬の使用状況と
インクレチン医療の今後の展望(2011 年度調査)

中山良朗

1 琉球大学 大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)
2 琉球大学 医学部附属病院 九階西病棟(第二内科)
中山 良朗1*、砂川 澄人1、植田 玲1、平良 伸一郎1
新川 葉子1、伊波 多賀子1、神谷 乗史1
大石 麻衣子2、西原 智恵子2、糸数 ちえみ2
山川 研1、池間 朋己1、益崎 裕章1

【要旨】

【目的】

糖尿病患者の急増を踏まえ、発売から1 年を経た沖縄県におけるDPP-4 阻害薬の使用状況とイ ンクレチン医療の今後の課題についてアンケート調査を実施し、実態を把握する。

【対象・方法】

2010 年11 月から2011 年1 月までの3 ヶ月間に沖縄県内89 の医療施設の医師に調査協力を御依 頼し、同意が得られ、アンケート回収が可能であった122 名の医師を対象とした。

1 ヶ月当たりの糖尿病診療患者数、DPP-4 阻害薬の使用状況、使用されているDPP-4 阻害薬の 種類、使用理由、HbA1c 低下への期待、効果の満足度、効果が期待される患者、GLP-1 作動薬の 使用状況とその使用方法について調査を実施した。

【結果】

DPP-4 阻害薬の使用経験のある医師は75 名(61.5 %)であった。使用されているDPP-4 阻害 薬の種類として、シタグリプチンが72 名(94.7 %)を占めていた。選択理由として、服薬回数1 日1 回が41 名(51.9 %)、適応の広さが37 名(46.8 %)であった。DPP-4 阻害薬によるHbA1c 低下度の期待としては平均1.1 %であり、1 〜 1.5 %の低下が38 名(50.7 %)、1.5 %以上の低下は 17 名(22.6 %)であった。効果の満足度では、『やや満足できた』以上が76 名中67 名(88.2 %) であった。低血糖、消化器症状、体重増加など、有害事象に関する不満回答は無かった。DPP-4 阻害薬の効果の期待される患者として、糖尿病罹病期間が10 年未満、血糖コントロールが不十分 な患者、標準/肥満体型、インスリン抵抗性増大例、インスリン分泌低下例であり、SU 薬やビグア ナイド薬との併用が効果的との回答が多くを占めた。GLP-1 作動薬の使用経験のある医師は 13.1 %であった。

【結語】

DPP-4 阻害薬/GLP-1 作動薬の使用状況、DPP-4 阻害薬の満足度、効果が期待される患者、併 用/切り替え/減量など他剤とのコンビネーションに関して多くの情報が得られた。日常臨床の場に おいて、インクレチン医療の有効性ならびに、長期投与の安全性に留意しながら、糖尿病診療にお ける治療法の最適化に役立てて行きたい。

key words : 沖縄県、アンケート調査、DPP-4 阻害薬、インクレチン医療

緒言

沖縄県の糖尿病患者数は全国平均に比べ極め て高いレベルにある。

われわれは2010 年初頭に沖縄県における糖 尿病治療の現状と問題点、インクレチン医療の 展望と可能性についてアンケート調査を実施し た。解析の結果、目標とするHbA1c の達成率 が50 %以下であると回答した医師が76 %に達 していた。また従来の経口糖尿病治療薬の問題 点として、低血糖、服薬アドヒアランスの不 良、治療効果に対する満足度の低さが挙げられ た。従来薬の問題点を解決し、ブレイクスルー をもたらす可能性を持つDPP-4 阻害薬が発売 された1 年経過したことを踏まえ、沖縄県で糖 尿病患者の診療に携わっている医師を対象に、 再びアンケート調査を実施した。

対象および方法

2010 年11 月から2011 年1 月までの3 ヶ月 間に沖縄県内89 の医療施設の医師に調査協力を御依頼し、同意が得られ、アンケート回収が 可能であった122 名の医師を対象とした。調査 は図1 に示すアンケート用紙を用いた。1 ヶ月 当たりの糖尿病診療患者数、DPP-4 阻害薬の 使用状況、使用されているDPP-4 阻害薬の種 類、使用理由、HbA1c 低下への期待、効果の 満足度、効果が期待される患者像、GLP-1 受 容体作動薬(注射薬)の使用状況とその使用方 法について調査を実施した。

結果

1 ヶ月当たりの糖尿病診療患者数が10 人未 満である医師は11 名(9 %)、10 〜 50 人であ る医師は48 名(39.3 %)、50 〜 100 人である 医師は14 名(11.5 %)、100 人以上である医師 は43 名(35.2 %)を占め、1 ヶ月当たり平均 115 人の患者の診療に当たられていた。DPP- 4 阻害薬の使用経験のない医師は4 7 名 (38.5 %)であったのに対し、DPP-4 阻害薬の 使用経験のある医師は75 名(61.5 %)であった。使用経験のない医師47 名中、回 答のあった41 名においてDPP-4 阻害 薬を使用されない主な理由として、 『長期処方ができない』が2 2 名 (53.7 %)、次いで『長期の有効性、安 全性が確立していない』が1 4 名 (34.1 %)、『DPP-4 阻害薬のことをよ く知らない』が12 名(29.3 %)であ った(複数回答可)(図2-1)。DPP-4 阻害薬を使用されている医師は、平均 9.4 人の患者に投与されており、診療 糖尿病患者当たり20 %未満の患者に 投与されているのが53 名(78 %)で、 20 %以上の患者に投与さ れている医師が1 5 名 (22 %)であった。使用さ れているDPP-4 阻害薬の 種類として、シタグリプ チンが72 名(94.7 %)を 占めていた(複数回答可)。 その選択理由として、服 薬回数1 日1 回が4 1 名 (51.9 %)、適応が広いが 37 名(46.8 %)であった (図2-2)。DPP-4 阻害薬 によるHbA1c 低下度の期 待として、平均1.1 %であ り、1 〜 1.5 %が38 名と 半数を占めた。1.5 %以上 のHbA1c 低下を期待され ている医師が1 7 名 (22.6 %)であった。効果 の満足度では、『やや満足 できた』以上が76 名中67 名(88.2 %)であった。 一方、『やや不満』以下が 76 名中9 名(11.8 %)で あった(図3)。その理由 としては、医師が期待す る効果には至っていない との回答であった。一方、低血糖、消化器症状、体重増加などの有害事 象に関する不満回答は無かった。『やや満足 できた』以上の回答をした医師において、効 果が良かった症例に関する質問では、『罹病 期間が5 年未満』が21 名(42.9 %)、『5 〜 10 年』が23 名(46.9 %)で、『罹病期間10 年未満』が大半を占めた。血糖コントロール 状況では、「不十分」な患者に対して効果的 と回答したのが、53 名中25 名(47.2 %)、 「良」以上の患者に対して効果的と回答され たのが、19 名(35.9 %)であった(図4-1)。 肥満度では、標準体重が5 0 名中3 4 名 (68 %)、肥満型が23 名(46 %)の回答であ った。一方、やせ型が効 果的と回答した医師は2 名(4 %)であった。併用 薬では、SU 薬との併用が 効果的との回答は55 名中 38 名(69.1 %)、次いで ビグアナイド薬が2 3 名 (41.8 %)、チアゾリジン 薬15 名(27.3 %)であっ た。病態として44 名回答 中、インスリン抵抗性増 大例との回答が、2 5 名 (56.8 %)、インスリン分 泌低下例が1 6 名 (36.4 %)、食後高血糖例 が1 3 名(2 9 . 5 %)であった(図4 - 2 )。 DPP-4 阻害薬の使用経験のない医師に対し 今後のDPP-4 阻害薬の使い方、使用経験の ある医師に対し、その使用経験を踏まえての DPP-4 阻害薬の使い方の質問において、両 回答とも他剤への追加が最も多く、それぞれ 58.5 %、69.7 %で、次いで食事・運動療法 に加えてが、それぞれ58.5 %、65.8 %であ った。他の薬剤への追加または併用において は、SU 薬が最も多く、次いでビグアナイド 薬、チアゾリジン薬の順であった。他の薬剤 からの切り替え、減量においても、SU 薬と 回答した医師が最も多かった。GLP-1 作動薬の使用経験のある医師は1 2 2 名中1 6 名 (13.1 %)で、平均1.9 人の患者に対する使用 であった。その使用は、肥満例、他剤からの切 り替えでの使用であった(図5)

図1

図1 アンケート用紙

図2-1

図2-1 DPP-4 阻害薬の使用状況

図2-2

図2-2 DPP-4 阻害薬の使用状況

図3

図3 DPP-4 阻害薬の効果及び満足度

図4-1

図4-1 DPP-4 阻害薬の効果が期待される症例像

図4-2

図4-2 DPP-4 阻害薬の効果が期待される症例像

図5

図5 GLP-1 受容体作動薬(注射薬)の使用状況

考察

糖尿病治療の原則は食事療法と運動療法の励 行が基盤にあり、この二つを行わないで、薬物 療法のみを行っても十分な効果が得られないの は周知の事実である。しかし沖縄県における高 度な自動車社会、外食文化、夜型にシフトした ライフスタイル、身体運動量の低下などを大き く方向転換することは容易でない。前回私達 は、DPP-4 阻害薬発売当初の2010 年1 月6 日 〜 2 月13 日までの期間に、目標とするHbA1c 値、その達成率、従来薬の問題点、従来薬への 上乗せする際の薬剤、シタグリプチンを使用す るに当たっての疑問点、臨床データ蓄積とし て、シタグリプチンに求められることについて 調査を行い、沖縄県医師会報に報告した1)。目 標とするHbA1c 値は6.5 %が最も多く、次い で6.0 %であったが、その達成率は予想以上に 低いものであった。DPP-4 阻害薬発売後1 年 が経過し、徐々に普及しつつあり、約60 %の 医師が使用経験はあるが、使用患者割合は 20 %未満という回答が大半であった。DPP-4 阻害薬使用に当たって、平均1.1 %のHbA1c 低下作用、中には1.5 %〜 2 %の低下が期待さ れると回答もあり、約90 %に近い医師が『や や満足できた』以上の回答であった。一方、 DPP-4 阻害薬の効果については『やや不満』との回答が一定の割合で存在したものの、従来 薬の問題点である体重増加、低血糖、消化器症 状の有害事象で不満とした回答は無く、優れた 有用性が確認された。現在のところDPP-4 阻 害薬として、シタグリプチンを選択している医 師の割合が多く、併用する薬剤の選択幅が広 い、服薬回数が1 日1 回を望む声が多く、糖尿 病患者に対する服薬アドヒアランスの向上に向 けて大きな期待が寄せられていることをうかが わせる。

DPP-4 阻害薬発売後1 年のアンケート調査 であるため、シタグリプチンの長期使用におけ る有効性、安全性に関する成績、糖尿病合併症 の発症予防効果、膵β細胞保護効果、インスリ ン分泌能の改善効果、インスリン製剤との併用 効果についてはさらなる追跡調査を要する。

今回のアンケート結果の解析を踏まえ、沖縄 県の糖尿病診療における質の向上に役立てて行 きたい。

謝辞

本アンケート調査を実施するにあたり、貴重 な御協力を賜りました沖縄県内89 の医療施設、 122 名の医師の皆様に心より感謝申し上げます。

参考文献
1)植田 玲、伊波 多賀子、中山 良朗、新川 葉子、 平良 伸一郎、益崎 裕章
沖縄県における経口糖尿病治療薬の使用状況と問題 点−新規糖尿病治療薬・インクレチン医療の展望と可 能性− 沖縄県医師会報46 : 955-958, 2010