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結核予防週間によせて(9/24 〜 9/30)
〜最近の結核について〜

久場睦夫

国立病院機構沖縄病院 久場 睦夫

はじめに

近年、本県を含めた我が国の結核は減少して きてはいるが、その減少速度は鈍化しており、 未だ中蔓延国の域を脱し得ない現況である。

今回、最近の結核の現状を概観し、更なる結 核減少へ向けての問題点等について述べたい。

我が国と本県の結核について

最近5 年間の本邦の新登録患者数、罹患率は 表1 の如くであり1)、平成22 年度に新規登録さ れた結核患者数は23,261 人で、前年より3.8 % の減である。罹患率は18.2 であり、前年より 0.8 減少している。厚生労働省は、本年5 月に 「結核に関する特定感染症予防指針」の改訂2) を行ったが、それによると、目標の一つに罹患 率を平成27 年度までに15 以下にする事をあげ ている。そのためには年間患者減少率を4 %に する必要があるとされ、平成21 年度までの5年間の平均減少率3.1 %に比すと平成22 年度 は良い傾向にあるが、さらなるアップにより、、 一層の努力を要するものと思われる。

我が国の罹患率を先進諸国と比べてみると、 アメリカの4.4 倍、スウェーデンの3.3 倍、デ ンマークの2.7 倍となっており(表2)、未だ先 進国の仲間入りにはほど遠い。

年齢別にみると、70 歳以上の新規登録患者 の割合は平成18 年度の47.0 %から平成22 年 度は51.2 %とさらに増えている。我が国の結 核罹患率を地域別にみると、大都市で高く、大 阪市の47.4 を筆頭に名古屋市31.5、堺市28.5、 東京都特別区26.0 で最低の長野県に比し、約5 〜 3 倍の高さで地域格差が広がってきている1)

さて、本県はというと、過去5 年間でみる3) と、罹患率は平成18 年度20.8、平成19 年度 18.4、平成20 年度20.1、平成21 年度17.0、 平成22 年度18.7 とほぼ全国平均であるが、年 ごとに増減があり減少の一途をたどっているわ けではなく、むしろ横ばいである(図1、図 2)。年齢別には、平成22 年度の70 歳以上は 60.0 %を占め全国平均に比べ、高齢者の割合 がより顕著に高くなっている。平成18 年度は53.0 %であり、全国同様やはり高齢者の比率が 増加傾向にある。喀痰塗抹陽性患者も70 歳以 上の割合は、平成19 年度47.0 %、平成20 年 度55.2 %、平成21 年度62.1 %(平成22 年度 は未発表)と、塗抹陽性患者の割合も高齢者で 高くなっている。

表1.全国の新登録患者数および罹患率

表1

表2.先進諸国の結核罹患率

表1
図1

図1.沖縄県の新登録患者罹患率(沖縄県)

図2

図2.沖縄県の新規患者数および罹患率

沖縄病院の結核

ここで、筆者の所属する沖縄病院の結核につ いてみると、平成21 年度の結核入院患者数は 104 人(男性70 人、女性34 人)で、年齢は18 歳〜 95 歳、平均68.5 歳であった。年代別に は、80 歳代が31 人・29.8 %と多く、次いで 70 歳代が24 例・23.1 %、50 歳代21 人・ 20.2 %で70 歳以上が60 人・57.7 %と大半を 占めていた(図3)。発見動機別には、咳が43 例・41.3 %、ついで発熱が36 例・34.6 %と多 く、その他、血痰、体重減少、息切れ等であ り、接触者検診は4 例、他疾患治療中発見3 例 で、検診発見は2 例であった(表3)。「発見の 遅れ」については、Pt's delay で3 ヶ月以上が22 例・21.2 %あり、早期受診へ向け、さら なる啓発が必要と考えられる(図4)。Dr's delay については2 週以内が79 例・76.0 %で あり、3 ヶ月以上は5 人・4.8 %であった(図 5)。治療に関連して、結核菌の感受性成績は 82 %が全結核薬に感性で、耐性はEB、INH、 SM、LVFX、PAS にみられたが、RFP には みられず、多剤耐性結核は皆無であった。化療 により大多数は軽快したが、死亡例が17 人・ 16.3 %みられた。その内訳は、年齢が53 歳〜 9 2 歳・平均7 8 . 6 歳で7 5 歳以上が1 5 例・ 88.2 %と大部分を占めていた。しかし他の2 例 はいずれも50 歳代で、症状発現より受診まで60 日、120 日と長期間経過しており、来院時 は超重症結核で各々入院9 日、5 日で死亡した。 17 例の死亡原因は、重症結核が5 例と最も多 く、その他心不全、窒息、敗血症、衰弱、肺 癌、誤嚥性肺炎等であった。比較的若年者を含 む結核死亡を考えると、やはり早期発見・早期 治療の重要性を再認識させられる。

図3

図3.沖縄病院の患者数:年代・性別(2009 年)

表3.発見動機(重複あり)

表3
図4

図4.Pt's Delay

図5

図5.Dr's Delay

最近の結核についての考察

上記の如く、最近の本邦、沖縄県、沖縄病院 の結核について概観したが、まず言える事は、 結核は減少傾向にあるものの、その速度は鈍化 が続いており、今なお軽視できない疾患である という事である。全国では、年2 万3 千人強の 新発生をみている。沖縄病院の入院患者数でみ ると、平成21 年の新規入院患者は104 人であ るが、約10 年前の平成12 年の新規入院患者は 124 人であり、減少はしているが、顕著ではな い。次に、結核患者の年齢層が高齢者に多くみ られる事である。70 歳以上が全国で51 %、本 県で60 %を占めている。沖縄病院入院患者の 統計でみても、平成2 年、平成11 年の75 歳以 上は各々26 %、40 %であり、現今の58 %を みると如何に高齢化が進んでいるかを窺い知る ことができよう。

結核の治療成績に直結する結核菌感受性検査 成績においては、沖縄病院でみる限り平成20 年以後、多剤耐性菌をみていない4)。それまで は年間1 〜 2 例の発生をみていたが、これは結 核患者の治療完遂を目指し奮闘してきた保健所 を中心とする連携DOTS の成果が大きいもの と推察される。外国においては耐性菌結核の脅 威が大とされる中、今後も本県保健所方式の DOTS 事業の継続が重要と考える。

結核治療成績に関しては、大多数が良好な経 過をたどっているが、結核死亡も5 %程にみら れている。その多くは75 歳以上の高齢者であ るが、比較的若年者もみられる。その原因は受 診の遅れである。死亡に至らずとも、治療の遅 れは、後遺症、他者への伝播等問題が大きくな るのは自明である。やはり早期受診のさらなる 啓発が望まれる。

以上、最近の結核を概略すると、本県を含む 我が国は未だ中蔓延国であり、結核撲滅へ向け て更なる戦略の強化が求められる。そのための 大きな方策の一つは、高齢者を主とする早期発 見に努める事であろう。特に本県においては、 高齢者診療にあたっては、常に結核を念頭に置 くことが重要である。それと共に若年者におい ても咳、発熱、風邪症状等の場合は結核の可能 性を忘れてはならないと考える。

おわりに

本邦、本県の結核は減少速度が鈍化し横這い 状態に近く、未だ多くの発生をみている。咳や 熱等を呈する患者の日常診療においては結核を 看過しないよう、また特に高齢者おいては症状 に囚われる事なく、常に結核を念頭においた診 療が重要と考える。

文献
1.平成22 年結核登録者情報調査年報集計結果(概況)」 厚生労働省健康局 結核感染症課結核対策係 平成23 年8 月15 日
2.結核に関する特定感染症予防指針の一部改正について, 厚生労働省健康局結核感染症課長 平成23 年5 月16 日
3.平成22 年沖縄県新規結核患者年報(速報値) 沖縄県福祉保健部健康増進課結核感染症班 平成23 年8 月
4.久場睦夫:多剤耐性結核について. 沖縄県医師会報 42(6):66-68, 2010