東村立診療所 外間 章
連休明けの5 月9 日、新しい建物での診療を 開始した。待望の診療所である。基本設計にあ たって、3 つのことを注文した。その一つは、 駐車場から段差なして診療所に入れること、そ の2、履き替え不要にすること、その3、電動 ベッドを入れること。要するに、お年寄りに難 なく入ってもらえるようにすることであった。 旧診療所の難点を改善しようとの思いであっ た。そして、内部はシンプルに、スペースは広 めに、内装は簡素に、と要望した。
村役場庁舎に隣接して、保健福祉部門(保健 指導所、社会福祉協議会)の一角に、コの字型 の端に位置している。駐車場から暖いスロープ で入り口に近づくと電動ドアが開く。重い扉を 開く必要はなくなった。
例年3 月には、東村のつつじ祭りが催され る。会場となるつつじ園エコパークに足を運ば れた諸兄諸氏も少なからずおられることと思 う。残念ながら今年は寒冷のためにつつじの開 花が良くなく、また、東日本大震災のためにつ つじマラソン大会も中止となり、閑散としたも のとなった。「新・診療所」はつつじ園に登っ ていく坂の途中にある。平良の集落を通る海岸 沿いの県道から東村では2 つしかない信号機を 山手に上っていくと右手に「東村立保育所」の 看板が目に入る。この保育所も新築された。県 内では初めてと言うコンクリートのない総木造 の子供たちに優しい建築である。保育所の看板 の手前で右に折れると役場庁舎の赤い瓦の屋根 が現れる。その屋根から目線を右に回すと坂の 斜面に隠れていた新しい建物があらわれる。駐 車場の入り口には、「東村保健福祉センター・ 東村立診療所・保健福祉部門」の新しい看板が 立っている。
診療所の入り口を入ると、右手に待合室と受 付があり、左手には「リハビリ・訓練室」があ る。待合室には3 畳ほどの畳の間もある。「リ ハビリ・訓練室」は「診療所」ではなく、「保 健指導所」の管轄である。総ガラス張りの見晴 らしの良い部屋である。診療所に戻ると、受付 の部屋には、カルテ棚と薬品棚が背中合わせに 並ぶ。隣の診察室に機能よくつながる。広めの デスクの上には電子カルテの画面とシャウカス テンの替わりにフィルムレスの画面が並んでい る。デスクの反対側には電動ベッドがあり、頭 部にはエコーの機器を配置した。診察室に続く 処置・観察室は、手前に小手術可能なスペース に処置台と無影燈および機材・薬品棚が壁に配 列された。奥の方には、観察ベッドを3 台置 く。スペースは広めである。南西に面した窓か らは平良湾を形成する慶佐次の山並みが視界に 入る。絶景である。診察室・処置観察室と廊下 を隔てて反対側には、検査室を挟んで男子用ト イレと女子トイレがあり、レントゲン室、倉 庫、スタッフ休憩室が続く。コンパクトなレイ アウトである。大方、イメージどおりの出来上 がりとなった。一つ設計ミスがあった。完成間 近になって、村長が課長の案内で下見に来られ た。男子用トイレを見て不満を漏らされた。実 は男子用トイレと女子用トイレとの間に検査室 を配置した。これは、検尿コップを両サイドか ら小さいガラス戸こしに検査室に提出出来るよ うにしたのである。そのために、スペースの問 題で男子用トイレに男子用便器の設置を省いた のである。大小兼務で用は足りると思ったのである。村長の不満は、男は男子用でなければや った気がしないと言うことであったと課長から 報告を受けた。後の祭りである。まあいい。隣 の保健福祉施設のトイレには男子用便器がずら りと並んでいる。そちらで気晴らしをしてもら うことにする。
村長の肝いりで診療所の周りには、黒木の幼 木がずらりと植樹された。削られた土手の斜面 に数百本のつつじの苗が植えられた。ここは海 抜20 数メートルの高台にある。15 メートルの 津波が押し寄せても大丈夫である。海岸沿いの 集落の避難場所としても良いだろう。東北では 多くの病院や診療所が災害に会った。東北各地 にいる級友達も被災は免れたものの診療に追わ れる毎日という。県内からも多くのドクターや ボランティアが馳せ参じた。新しい診療所で、 平穏に診療していることに後ろめたさも感じ る。みんなの心は東北にある。テレビのインタ ビューで、マイクを向けられたスポーツ界の人 達や一般市民も、自分の出来ることを一生懸命 やることが東北の復興につながってほしいとい う。私もそうしよう。本年1 月号の本誌に干支 に因んだ駄文を書いたばかりである。あと一周 りは無理としても、半周くらいは走ろうと思っ ている。