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増えている食物アレルギー

玉那覇康一郎

小児クリニックたまなは 玉那覇 康一郎

はじめに

「国民の3 人に1 人は何らかのアレルギー疾 患を持っている。」という歴史的な報告が平成7 年(1995 年)に厚生省からありましたが、そ れ以来「アレルギー疾患は国民病である。」と まで言われています。

気管支喘息は、ステロイド吸入療法が導入さ れてから症状のコントロールが比較的容易にな り、死亡率も年々低下しているのは周知の事実 です。成人と同様に小児の喘息においても重症 発作が少なくなり、長期の入院患児が激減して います。適正量の吸入ステロイドでは成長抑制 が極めて稀というのが、小児科領域でも普及し てきた主な理由です。

一方、アレルギー学会において発表数が増加 しているのが「食物アレルギー」関連の演題で す。特に最近の「日本小児アレルギー学会」に おいては、喘息と食物アレルギーが2 分し、一 部アトピー性皮膚炎というのが現状です。20 年前、私がアレルギー学会に入会した時には食 物アレルギーはマイナーな分野でしたので隔世 の感があります。

食物アレルギーの実態

小学生から高校生のアレルギー疾患有病率は 図1 のとおりです。これは文科省が学校へのア ンケート調査で得られた数値ですので、学校側 が把握していない軽症例を入れると実際はその 2 倍はいると言われています。食物アレルギー の年齢での内訳は、乳児10 %、幼児5 %、学 童2.6 %、成人1 %となり、乳幼児に多くみら れるのが特徴です。

図1

図1 小学〜高校生のアレルギー疾患有病率文部科学省
アレルギー疾患に関する調査研究委員会 2007(36,061 校)

食物アレルギーとは?

食物に対する反応には、免疫機序を介する食 物アレルギーと非アレルギー食物過敏症があり ます(図2)。一般に問題にしているのは、食べ た直後から2 時間以内に反応する即時型で、 IgE 抗体に依存する食物アレルギーです。

図2

図2 食物による不利益な反応の分類

食物アレルギーの症状

食物アレルギーによる症状は、蕁麻疹や湿疹 の悪化など皮膚症状が主ですが、アナフィラキ シーと言われるように消化器や呼吸器症状を呈 し、徐々にショック症状に至る事もあります。

アトピー性皮膚炎で食物アレルギーが関与している割合は、乳児から幼児は70 〜 50 %、学 童・成人では10 %程度といわれています。個 人的には、乳幼児アトピー患児の90 %以上に 食物アレルギーの関与があると思っています が、小児科医と皮膚科医、一般小児科医とアレ ルギー専門医、アレルギー専門医の間でも食物 アレルギーへの関心度によって見解の相違があ るのが現状です。

中高校生になると新しいタイプの食物アレル ギーとして、「口腔アレルギー症候群」や「食 物依存性運動誘発アナフィラキシー」が散見さ れます。(図3)

図3

図3

症例1 :

30 代で県外出身の女性が来院、1 カ月前から 果物や野菜を食べると口の中がただれ、痒みと 痛みで寝られないという訴えでした。特にトマ トを食べると症状がひどくなるという事です。 以前、スギ花粉症と診断された事があるという 事実から、口腔アレルギー症候群と診断しまし た。スギ花粉とトマトには交差抗原性がありま す。できるだけ加熱したものを食べるよう指導 し改善しました。

症例2 :

近所の美容室に働いていた20 代のスタッフ が、ゴム手袋で手が荒れて仕事ができないとい う理由で辞めてしまいました。彼女は長い間グ レープフルーツダイエットをしていたようです ので「ラテックス・フルーツ症候群」と臨床的 に診断しました。予防策としては毎日のように 同じ果物を大量に摂らない事です。

症例3 :

12 歳の男児。給食でパンを食べた後、サッカ ーで遊んでいたところ蕁麻疹が出現、徐々に全 身に広がり、呼吸が苦しく意識が朦朧としてき たため救急室に運ばれました。後日、小麦摂取 後の運動負荷で「食物依存性運動誘発アナフィ ラキシー」と診断されました。小麦製品を食べ た後2 時間は運動しないように指導しています。

食物アレルギーの原因食物

小児の食物アレルギー原因食物は、1)卵、2)牛乳、3)小麦、4)大豆の順です。しかし、この 順位は乳幼児までで、小学校に入る7 歳頃から は1)甲殻類、2)卵、3)そば、4)小麦の順とな り、年令と共に牛乳や卵に対しての耐性ができ て食べられるようになります。

食物アレルギーが増えた背景

日本国民の1 人1 日当たりの食物摂取量は、 昭和25 年(1950 年)を1 とすると2000 年は 乳製品: 20、肉類: 10、卵: 7、小麦: 1.4、 米: 0.4 です。(厚労省「国民栄養の現状」)つ まり元来、日本人が消化できる能力以上の蛋白 量を摂取しているため、十分に消化できていな いという栄養過剰が背景にあります。またイン スタントやレトルト食品などによるビタミンや ミネラルの栄養素欠乏、そして化学物質(食品 添加物、農薬など)が加味して免疫異常(過敏 症)が起こっていると言われています。

もう一つは以前から注目されている「衛生仮 説」です。リンパ球にはアレルギー反応を抑制す るTh1 細胞とアレルギー反応を促進するTh2 細 胞があります。Th1 細胞は、乳児期に不潔な環 境(細菌感染の多い環境)、農村居住、兄弟が多 いと増え、一方、Th2 細胞は、衛生的環境、清 潔な環境、抗生剤の多用、少子化で増える傾向 があると言われています。従って、周りの環境が きれいになった事が、この数十年アレルギー疾患 が激増した原因ではないかと言われています。

食物アレルギーの診断

一般的な検査はCAP-RAST(血液検査)や プリックテスト(皮膚テスト)ですが、30 %〜 40 %の診断寄与率と言われています。より正 確な診断をするには、実際にその食物を摂取さ せて症状の出現を見る食物負荷テストがありま す。(オープン、盲検法、二重盲検法)

図4 は食物抗原特異的IgE 抗体値と症状誘発 率を示すプロバビリティカーブです。例えば牛 乳においては3.0 kUA/L(測定値0.7 〜 3.4 は RAST スコア2)で同じ抗体値を示していて も、1 歳未満児で実際に症状が出る確率は 90 %、1 歳児では50 %で、2 歳児では30 %に しか症状が出ないというデータです。つまり、 年齢によって症状出現率が異なり、徐々に低下 して行く傾向です。(耐性化)

また、CAP-RAST やプリックテストの陽性 率に比較して、実際の食物負荷テストによる陽 性率はその約1/2 です。つまり血液検査や皮膚 テストでは疑陽性が約半数に出るため、不必要 な除去食を指導してしまう欠点があります。

図4

図4 プロバビリティーカーブ(IgE CAP RAST 値と症状誘発の可能性)

食物アレルギーの対処

除去食(原因食物の除去)が基本になりま す。血液検査、皮膚テスト、食物負荷テストで アレルゲン(原因食物)が特定されているもの を一定期間除去します。家庭においてのみでは なく、学校・保育園にも協力してもらいます。 自然経過として耐性ができ、除去食は3 歳まで に7 〜 8 割、小学校入学時までには9 割以上が 解除されています。

アナフィラキシーへの対応

食物アレルギーで最も注意が必要なのは、ア ナフィラキシーショックです。誤食が最も多く、 早急な対応が必要です。そのため現在は「エピ ペン」が処方できるようになっています。これ はエピネフリン(アドレナリン)のペンタイプ 自己注射器です。0.15mg と0.3mg の2 種類があ り、ペン先を大腿部外側に強く押し当てると針 が出て自動的に筋注されるものです。これまで はスズメバチによるアナフィラキシーショック の治療として林業を営む人々が頻用していまし た。「エピペン」の使用を本人ができない緊急時 には、親、教師や救急隊員も法律上施行してよ い事になっていますが、まだその存在や使い方 も知らない人が多いのでこれからの啓蒙活動が 重要になってきています。但し、保険適応がな く、1 万円以上の高額で有効期限が1 年と短い ため、普及のネックになっているのが残念です。

まとめ

近年徐々に増えてきた食物アレルギーについ て述べましたが、その背景にあるのが 便利になった食生活です。食物は刻々 と酸化し腐っていきます。特に遠方か ら来る食物においては酸化防止剤や防 腐剤を多量に使用せざるを得ません。 これらの添加物や農薬など微量ではあ りますが何らかの免疫異常を誘発する と言われています。アレルギーという 窓から地球環境汚染が見えてきます。

参考文献
1)厚生労働科学研究班による食物アレルギーの診療の手 引き2008. 主任研究者:海老澤元宏
2)食物アレルギーによるアナフィラキシー 学校対応マ ニュアル 小・中学校編. 財団法人日本学校保健会2005
3)食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009. 日 本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会2009
4)特集 食物アレルギー最新情報. 小児科診療7 3(7): 2010
5)特集 食物アレルギー. チャイルドヘルス12(12): 2009