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平成22年度第2回沖縄県医師会
感染症・予防接種講演会

宮里善次

理事 宮里 善次

平成23 年3 月3 日(木)、沖縄県医師会感染 症・予防接種講演会が県医師会館において開催 され、会員の先生方や看護師など多数の参加が あった。

講師は琉球大学大学院医学研究科環境長寿 医科学女性・生殖医学講座教授の青木陽一先 生で「子宮頸がん予防(HPV)ワクチンにつ いて」と題し講演をして頂いた。

“これだけは知っておきたい子宮頸ガン予防 ワクチン”のタイトルで、90 枚のスライドを使 った素晴らしい講演であった。

講演内容はHPV 発見の歴史からその特性に 始まり、発ガンの機序、疫学と特に本邦での発 生状況、臨床的特徴と経過、HPV ワクチンの 基礎的知識とその有効性と安全性、国内臨床試 験の概要、接種対象者等の内容で、会員にも分 かりやすく、しかも有意義な内容であった。

さらに接種時の患者さんへの説明や接種方法 についても細かい説明があった。

最後に沖縄の子宮頚がんと題して、琉球大学 のデータが示された。

平成22 年11 月から公費負担でワクチン接種 事業が開始されたが、全国の自治体のほとんど が、平成23 年4 月開始となったため、ワクチ ン不足が生じ、新たな患者さんへの接種は7 月 頃となる見通しである。

なお、青木教授の講演内容については本文を ご参照して頂きたい。

「子宮頸がん予防(HPV)ワクチンについて」
琉球大学大学院医学研究科
環境長寿医科学女性・生殖医学講座
青木 陽一
青木陽一

はじめに

1983 年、zur Hauzen らによって子宮頸癌組 織にHPV(humanpapillomavirus ;ヒト パピローマウイルス) の存在することが報告され、その後の疫学・基礎研究により、子宮頸 癌の原因ウイルスであることが明らかとなっ た。さらに子宮頸癌の診断への応用、予防ワク チンの開発と実用化に至り、2008 年にはこの 一連のすばらしい成果に対しzur Hauzen にノ ーベル生理学・医学賞が授与された。

1.子宮頸癌発生とHPV(スライド1)

スライド1

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1)HPV は子宮頸癌の原因ウイルスで、型により発癌リスクが異なる

現在HPV は約100 種類の型が同定され、性 器感染に関与しているのは約40 種類とされる。 発癌に対するLow risk HPV は尖形コンジロ ーマの原因となるHPV6 型、11 型が代表的で あり、high risk HPV にはHPV 16 型、18 型、 31 型、33 型、35 型、2 型、58 型などがある。 日本人女性の子宮頸癌でのHPV 型別頻度は、 HPV 16、18 型がもっとも高頻度で60 数%を占め、とくに20 〜 40 歳代では70 〜 80 %が HPV16、18 型が原因とされる(スライド2)。

スライド2

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2)HPV は性行為により伝播する

多数の疫学研究などにより、HPV が性交に より感染することが明らかとされている。

3)high risk HPV の持続感染が子宮頸癌発生 のリスク

HPV に感染したら必ず子宮頸癌になるわけ ではなく排除されるのが普通であるが、感染の 持続したhigh risk HPV の一部が子宮頸癌へ 進行する。本邦では20、30 歳代で子宮頸癌が 急増していることが問題点の一つである。(ス ライド3)

スライド3

スライド3

2.HPV ワクチン

1)子宮頸癌の予防ワクチン

現在、世界で使用可能なワクチンは、HPV 16、18 型を標的とする2 価ワクチンのサーバ リックス(2009 年12 月から日本で使用可能) とHPV 16、18 型さらに尖型コンジローマの 病因であるHPV6、11 型も対象にした4 価ワ クチンのガーダシル(日本で今年中に使用可 能)である。HPV の外殻であるL1 タンパクの みからなるサブユニットワクチンで、接種によ り誘導された中和抗体が、HPV の細胞内侵入 を阻止し感染を予防する。自然感染ではHPV はほとんど血中に入らず、一度感染しても十分 な抗体が産生されず、同じ型のHPV に繰り返 し何回も感染することがある。これに対して、 ワクチン接種では抗原が血中に入るため高い抗体価が得られ感染が防御される。

2)HPV ワクチンの効果

これまでの臨床試験ではHPV 16/18 による 感染・前癌病変発生の予防効果は100 %に近 い。系統発生学的に近縁であるHPV31、33 型 等に対してもクロスプロテクション効果がいく らか期待できるとされている。現在まで中和抗 体価は7 年間の維持が確認され、さらに長期間 の効果持続が期待されている。このワクチンは 現在の感染者に対する治療効果はないので、既 往感染者を含む集団で、すべての発癌性HPV に起因する前癌病変の予防効果は、30 〜 60 % まで低下してしまう。したがってHPV に感染 していない初交前の接種が最も効果的である。 また、45 歳までの年齢層での有効性も確認さ れており、まだ感染していないHPV 型の予防 が期待できる。

3)HPV ワクチンの安全性

HPV ワクチンの安全性は、臨床的に許容可 能なものであり、一般的に使用されているその 他の既承認ワクチンと同等である。極めてまれ であるが、失神、アナフィラキシーなども報告 されている。

4)日本産科婦人科学会の産婦人科外来診療ガイドライン(2011 年)

産婦人科外来診療ガイドライン(2011 年) でも、接種対象は、10 〜 14 歳女性が第一の推 奨、15 〜 26 歳が第二の推奨、27 〜 45 歳女性 が第三の推奨とし、子宮頸部細胞診軽度異常者 (既往を含む)に接種でき、原則的にHPV 検査 は不要であると記載されている。

ワクチン接種時の説明としては、

  • 1.HPV16、18 の感染を予防し、子宮頸癌の60 〜 70 %の予防が期待できる
  • 2.子宮頸癌やその前癌病変、既存のHPV 感染に対する治療効果はない
  • 3.初交前の接種が最も効果的である
  • 4.接種後も子宮頸癌検診は必要である
  • 5.3 回接種のスケジュールと費用
  • 6.有害事象としての局所疼痛・発赤・腫脹、失神、頭痛、ショックの発生

5)HPV ワクチン接種の普及のために

公的補助と集団接種が普及のための両輪であ る。2010 年10 月厚労省から平成22 年度補正 予算でHPV ワクチンがHib ワクチン、小児用 肺炎球菌ワクチンとともに公費負担の決定が出 され、沖縄県でも全自治体が公費負担へと動き 始めた。また、様々なハードルはあるかと思わ れるが、より高い接種率の実現には集団接種が 理想的とされる。

おわりに

2007 年からHPV ワクチン接種プログラム が開始されたオーストラリアでは、すでに実地 臨床の場で、若年者の子宮頸部前癌病変の減 少、尖型コンジローマの罹患率低下が伝えられ ている。わが国でも、HPV ワクチンの啓発活 動を押し進めるとともに、より多くの公的補助 がもたらされ、HPV ワクチン接種率が高めら れ、子宮頸癌が大幅に予防されることが期待さ れる。

特に子宮頸癌の罹患率が非常に高いこの沖縄 県で(スライド4)、HPV ワクチンの普及によ り子宮頸癌が激減することを強く願いたい。

スライド4

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