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平成22年度 沖縄県自動車保険医療連絡協議会

金城忠雄

理事 金城 忠雄

平成23 年2 月17 日(木)沖縄ハーバービュ ーホテルクラウンプラザにおいて標記協議会が 開催されたのでその概要を報告する。

この協議会は、毎年開催することになってい たが、運営が軌道に乗り平成16 年からは2 年 に1 回となった。今回は、損害保険協会の担当で開催された。

平成22年度
沖縄県自動車保険医療連絡協議会委員名簿

以前に、沖縄県臨床整形外科医会(OCOS) が自賠責保険に対する見解を県医師会に求めて きたので、三者協議会(医師会・損害保険協 会・保険料率算出機構)で協議した一部もコメ ントする。

日本損害保険協会の稲葉浩一医療担当幹事 の司会により協議会が開かれた。

挨 拶

沖縄県医師会 宮城信雄会長

本協議会は、2 年に1 回の開催となっており、 平成13 年6 月から導入された自賠責保険診療 の新算定基準、いわゆる日本医師会が作成した ガイドラインに関するそれぞれの問題点、改善 すべき点が生じた場合等必要に応じて、三者の 実務者会議を開催し、話し合っていくことにな っている。おかげをもち、今日まで県下の交通 事故医療の給付に関する事項については、皆様 のご協力により円滑に運営されてきており、感 謝申し上げる。他府県では、保険会社が健保へ の切り替えを迫ったり、支払いが遅れる事例が 増えているようであるが、本県ではそのような ことがないよう、保険会社のスムーズな対応を 願っている。

また、明日は、損害保険協会のご協力のもと 自賠責研修会が開催される。この研修会は、自 動車事故医療の現場を担っている医療機関の医 師等に自賠責保険制度の成り立ち、全体的な知 識を習得していただき、円滑な医療費請求、自 動車事故被害者への良質な医療の提供を目的と して開催されるもので、平成13 年から自賠責 保険診療算定基準(新ガイドライン)実施地域を対象に実施している。是非、実りある研修会 となるよう願っている。

なお、県内では、平成23 年1 月28 日の県警の 発表によると、平成22 年に県内で発生した人身 交通事故に占める飲酒絡みの事故の割合は、平 成2 年から21 年間連続ワーストとなったと発表 されている。飲酒運転がらみの事故の構成率は、 全国平均の3 倍と高く、飲酒運転が蔓延している 現状が改めて浮き彫りとなったと示されており、 こうした事故への取り組みが課題となっている。

このような中、世界的な経済不況問題、国内 では、医師不足問題、医療ツーリズムの問題 等、医療環境の最も厳しい状況ではあるが、今 後とも県民医療を一層充実させ、患者さんに安 心して最善の医療を提供することが我々の責務 だと思っている。

本日は、是非忌憚のないご意見をいただき新 ガイドラインについて、三者間でその円滑な運 用を図れるようご協力をお願いもうしあげる。

日本損害保険協会沖縄支部 上間 優委員長

損害保険は広く社会全般のリスクをお引き受 けし、事故の際には適時、適切に保険金をお支 払いすることを通じて、社会の安定や経済への発 展に寄与しているものであり、これまで広く社会 に貢献してきたものと自負している。しかしなが ら、昨年のわが国の経済は、政府の経済対策の 効果などが見られたものの、デフレの継続、円高 進行の懸念など、現時点では劇的な回復を見せ る可能性は低く、今年も引き続き厳しい環境で あると思われる。損保各社の経営も、保険収入 が伸び悩む中、自動車保険の損害率が上昇する など、厳しい状況が続いており、新たな商品やサ ービスの開発、業務品質の向上に向け不断の努 力を続けているところである。損害保険業界で は、適正な保険金支払いを図ることを目的に、 各都道府県に自動車保険医療連絡協議会を設置 している。自動車保険医療連絡協議会の活動の 推進に当たっては、医師会の皆様と日頃から連 携を密にし、信頼関係をさらに強めることが大変 重要である。本日の会議が、沖縄県医師会と当 損保業界との、より一層緊密な連携の場を構築 する機会となることを期待している。

議 題

1.交通事故および損害保険概況について報告

損害保険協会沖縄支部の保泉彰事務局長か ら、資料に基づいて説明があった(資料1)。

交通事故発生件数は、全国的には着実に減少 しているが、沖縄県はほぼ横ばいの状況であ る。死者数は、全国的にも沖縄県でも大幅に減 少して、5 年間で25 %近い減少である。負傷者 数は、全国的には着実に減少しているが、沖縄 県はほぼ横ばいである。まとめると沖縄県で は、死者数は着実に減っているが、発生件数、 負傷者数は、横ばいの状況が続いている。

交通事故の発生状況(2010 年度データ)(資料1)

(資料1)

―しかし、沖縄県は、事故発生が人口割全国の 100 分の1 から計算すると、事故724,811 対6,430、沖縄県の事故発生数は少ない―

全国の交通事故による経済的損失額は、年間3 兆119 億円。

沖縄県の経済的損失額は、年間248 億円。 (人身損失額: 68 億円、物的損失額: 180 億円) 資料2 の通りである。

交通事故による経済的損失額(2008 データ)(資料2)

(資料2)

受傷部位別にみると、死亡者数は頭顔部受傷 によるものが2,476 人、で最も多く、後遺障害数 は、頚部受傷によるものが16,029 人で最も多い。

一方、重症化する割合をきると、腹部受傷が 最も高く、致死率が3 . 7 %、後遺障害率が 9.7 %にのぼる(資料3)。

高額判決例(2010)

人身事故の高額判決によると、最も高い認定総 損害額は、名古屋地裁の3 億8,281 万円がある。 被害態様は、若者の後遺症害がほとんどである。

特異なのは、開業医(38 歳)死亡 で3 億6,750 万円の高額判決が出てい る(資料4)。

自動車保険には、自賠責保険(強 制保険)と任意保険の2 種類がある。

自賠責保険(強制保険)は、対人 賠償に限られ物損の保障はない。

死亡事故の場合: 3,000 万円まで(葬儀費、逸失利益、慰謝料)

傷害事故の場合: 120 万円まで(治療費、休業損害、慰謝料)

後遺症が残る場合: 1 級4,000 万円〜14 級75 万円の程度に応じて保障。

任意保険は、自賠責保険で足りな い部分を補う。

自動車事故で治療費が120 万円を 超えるのはざらにある。

受傷部位別の死亡者数・致死率と後遺症害者数・後遺症害率(2008)(資料3)

(資料3)

高額人身損害(資料4)

(資料4)

沖縄県における任意保険加入率は、2009 年 3 月末現在、対人賠償52.3 %である。全国平均 は、72.8 %となっている。沖縄県は、3 台に1 台が任意保険に加入していない。任意保険に加 入していないで事故を起こすと悲惨である。

保険会社としては、沖縄県は車社会でもあ り、自動車事故に対処するためにも是非任意保 険に加入するよう啓発したい。また、管理者に 対しては、従業員がおこした事故で賠償できず、 管理者の責任を問われた判例があるようだ。

任意自動車保険の加入率(2008 年度データ) (資料5)

(資料5)

1.自賠責保険請求件数推移について

20 年まで減少傾向にあったが、21 年から増 加傾向にある。

2.自賠責保険診療費算定基準導入の経緯について

昭和59 年に大蔵大臣の諮問機関である自賠 責保険審議会答申の中で、交通事故医療費の支 払い増大に対して、自賠責保険審議会が基準案 の取り組みを行うことで、医療費の適正化を図 るよう指摘され、この答申を受けて、日本医師会、損保協会、自算会(自動車保険料率算定 会)の3 者間で基準案について合意した。沖縄 県では、平成13 年3 月に自動車保険医療連絡 協議会において、同基準の実施を決定して6 月 からスタートしている。

3.沖縄県の自賠責保険診療費算定基準の定着状況

平成22 年6 月末現在取り扱い6 件以上は 110 医療機関で、42 医療機関が同基準を採用 し、移行率は38.2 %である。残りの68 につい ては、健康保険または自由診療となっている。
同基準を普及させる必要があると考える。

4.ご協力のお願い

(1)自賠責保険の支払いの算定には、治療内 容、治療日数が大変重要であり、そのため にも経過診断書、診療報酬明細書および後 遺症害診断書は算定に絶対に必要な資料で ある。一部に同資料の提出を拒否される医 療機関があるので、被害者保護の観点から ご協力をお願いしたい。

(2)文書料についても地域での相場が存在す るものと考えているが、過去に文書料の高額変更を通知されてきた医療機関があるの で、自賠責保険の立法趣旨を理解していた だき、ご協力をお願いしたい。

(通常文書料として2,000 〜 5,000 円の請求 であるが最高1 万円の請求もあった。)

損保料率機構の業務報告
―自賠責保険診療費算定基準―について(資料6)

(資料6)
2.「人身傷害保険」の概要について報告

損害保険協会沖縄支部の徳永康典部会長か ら、新しいタイプの保険「人身傷害保険」につ いて説明があった。

人身傷害保険とは、自動車の人身事故にあっ た場合、過失割合に関係なく保険金額の範囲内 で保険金が支払われる。治療関係費や休業損 害、精神的損害や逸失利益や家族の自動車事故 も補償の対象になるなど新しい保険を紹介した。

< コメントと沖縄県臨床整形外科医会(OCOA)からの申し入れ>

平成23 年1 月14 日の新聞は、自賠責保険料 を上げると報道している。理由は、交通事故の 後遺障害への支払いが増加しているためだと、 保険会社の事情によるものである。現在、2 年 契約の保険料、2 万2,470 円を支払いしている。

自賠責保険は、治療費・休業損害・慰謝料含 め120 万円しか保障されない。現在、交通事故 の治療費120 万円ですむものではない。診療側 としては、治療費保障も120 万円より増額する よう要望すべきと思う。保険会社の方にこの事 情を聞くと、医師会の努力が足りないのでは と、腑に落ちない説明である。

平成2 1 年7 月沖縄県臨床整形外科医会 (OCOA)から、自賠責保険について県医師会 の意見を聞きたいと多項目の要望があった。整 形外科医師は、実際に交通事故診療を担ってお り、その立場からの疑問点である。

早速、医師会・損保協会・保険料率算出機 構の三者集まり、県医師会館において協議した のでこの機会にその概要をコメントする。

沖縄県臨床整形外科医会(OCOA)からの 問題提起は、損保側は、自動車事故患者に健康 保険使用を指導している。交通事故の診療は、 自賠責保険を優先して活用すべきであって、始 めから健康保険使用は合点できない。聞くとこ ろによると、損保側は患者に自賠責では120 万 円の限度額があり治療費に使ってしまうと休業 補償や慰謝料の部分が減ると自動車事故患者の 不安をあおり、テレビでも「交通事故でも国保 が使えます」と宣伝する。その結果、患者は自 賠責保険を使わず、健康保険で治療することに なるとのことである。

損保側の答えは、交通事故を理由に健康保 険の適応範囲の傷病であれば、患者の希望が 優先され健康保険で治療は拒否できない。どち らの保険を使うかは患者の選択であるとの主張 である。

医師会側としては、保険会社に対して自動車 事故はまずは自賠責保険を使うのが本来の仕組 みではないかと申し入れをした。

診断書・証明書の発行について:

医師の自動車事故診療の診断書・証明書作成 は、保険会社側にとって、最も重要な文書であ る。損保側は、自動車事故保険の処理は「診断 書・証明書」が出発点であり、審査判定の基準 になるので保険会社用診断書作成を要求して来 る。しかも、保険会社の文書料金の設定は、社 会通念上の健康保険基準を想定した料金である。

一方、診療側としては、診断書・証明書作成 は、医師の義務とはいえ非常に煩わしく時間が かかり作成に苦心する。自由診療なので、それ 相当の文書料・診断費用を要求することにな る。まずは、文書料のことで衝突が起こる。

次に、保険会社側の症状固定・後遺障害証明 書発行要求は、医師側の悩みである。保険会社 は、治療行為が長くなると、医師に症状固定・ 後遺障害証明書発行を要求してくる。診断書・ 証明書を発行してもらえれば、清算して一件落 着となり、あとは健康保険での治療となるので 執拗に要求するとのこと。

医師側としては、患者の症状がある限り「症 状固定」をそう容易に出せるものではない。診 断書発行は、必ず患者同席か同意書を持参することである。

症状固定・後遺障害証明書は、自賠責調査事 務所で審査し、1 級の3,000 万円から14 級の 75 万円に認定される。しかし、審査内容は個 人情報保護法の名の下に、明らかにされないの で、患者が後遺障害認定に納得しないと、証明 書を提出した医師とのトラブルになる。

整形外科医会が提示した具体的な症例とし て、加療1 年4 ヶ月経過した外傷性頚部症候群 (頚椎捻挫)いわゆる「むち打ち症」の症状固定 をあげている。保険会社は、治療が長期になる と、症状固定しているとして診断書を再三要求 してくるらしい。「症状固定」の診断は、医師の 裁量権であることを保険会社に申しこんだ。

医師の役目は、患者に症状があれば治療する ことであり、治療費をもらうのは当然であり、 過剰診療のいわれはない。保険会社が、症状固 定の診断書を求めたときは、必ず患者本人同席 か同意書を持参させることである。

交通事故診療は、受傷患者を治療するだけで なく損害賠償という保険会社との法律問題が絡 むやっかいな問題が潜んでいる。

南部地区医師会の外間康男理事は、外傷性頚 部症候群(頚椎捻挫)いわゆる「むち打ち症」 の症状固定を6 ヶ月としてはと提案している (南部医会報平成22 年3 月号 No.257)。ほと んどの症状は、6 ヶ月で比較的安定するし、患 者の後遺障害料も追加して対処すると、医師は 保険会社と患者との狭間での苦悩が軽減できる 提案である。医師にも患者にとっても有益では あるが、制度法律の問題は、そう容易に変えら れないのが悩みである。

一方、患者の症状を訴えるまま治療継続して いると、治療費に120 万円使ってしまって休業 保障や慰謝料が受け取れないことにもなる。患 者にとってどちらがいいのか、医師の悩むとこ ろでもある。現在の120 万円限度は安価すぎる ので、保障額を上げるべきと思うが法的制限が ありやむをえない。

自賠責保険・自動車事故医療は、複雑であ り、私ども医師の不得意とする法律問題でもあ る。医師には、保障や法律問題に煩わされず に、治療に専念させて欲しいものである。

担当理事として、交通事故診療を担う整形外 科医の葛藤には同情を禁じ得ない。

参考文献:
1.自動車保険診療費算定基準の手引き 平成13 年 沖縄県医師会発行
2.Q&A 交通事故診療 ハンドブック 医療機関のためのガイドラインと患者対応のノウハウ 「編集」日本臨床整形外科学会 ぎょうせい 2009 年 発行
3.よくわかる 労災・自賠責 請求マニュアル 医学通信社2008 年