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社会が病気をつくる――「持続可能な未来」のために
著者:玉城 英彦(たましろ・ひでひこ)

石川清司

国立病院機構沖縄病院院長
石川 清司

1948 年生、沖縄本島北部、古宇利島が著者 の出生の地である。国立水俣病総合研究センタ ー、そして長年のWHO 本部勤務の後、北海道 大学医学部において教鞭をとっている。疫学・ 国際保健学分野を専攻。「恋島への手紙」(新星 出版、2007 年)、「世界へ翔ぶ―国連機関をめ ざすあなたへ」(彩琉社、2009 年)に継ぐ著書 であり、現代社会に対する彼の警鐘でもある。

沖縄県医師会史―祖国復帰から新会館建設ま で―の編集作業が進行している。その中で、 1995 年の「沖縄県長寿の検証と世界長寿地域 宣言」開催に際して、WHO の中嶋宏事務総長 の招聘にあたり著者が仲介の役割を果たしたこ とが記載されている。グローバルな著者の視点 は、15 年余にわたるWHO での活躍の舞台に根 ざしたものである。

本書の構成は、1.社会が病気をつくる、2. WHO の「健康の定義」とは、3.保健政策と 健康、4.健康観の変遷―病気の治療から福祉 転換まで、5.ヘルスプロモーション、6.「持 続可能な未来」のためにとなっている。まさし く、高度経済成長の時代の終焉と少子高齢化社 会における「健康で文化的な生活」を維持する ための方向性と個々人の果たすべき役割、意識 の改革に関して持論を展開している。

戦後の混乱期に結核が蔓延し、多くの若い命 が奪われていった。貧困を背景にした衛生環境 が生んだ感染症であった。高度経済成長の時代 は、感染症から生活習慣病へと疾病構造の変化 をもたらした。世界的には、エイズという疾患 もまた社会が生み出した疾患と言える。得てし て病気は、社会的弱者をターゲットにして猛威 を振るう。疾病への挑戦は、格差社会の是正、 貧困の撲滅と衛生環境の改善への視点を忘れて はならない。

著者の行動の原点は、「グローバルに考えて、 ローカルに行動する」とする考え方にある。一 つの生命には限界があることを自覚する。しか し、自然は、社会は、そして健康は未来へと持 続する方向性を堅持しなくてはならない。社会 の諸々の構図の中で、法律の網から漏れた者に 対してはローカルに最善の処方を下すことの必 要性を強調している。

キリストの十字架が長い縦の線と短い横の線 から構成されていること、そしてこの二本の線 の接点で人間がもがいていることを表現してい るのかもしれない。「持続可能な未来」を目指 す方向性と渡り鳥が羽を休める横の線の接点 は、二本の線がいずれも不可欠なものであるこ とを解説している。この著者の思想の原点が、 沖縄本島北部、古宇利島という小島に映された 夕陽が心を癒す役割を果たし、昇る朝日に夢を 託した偉大な自然の力にあるのかもしれない。

アカデミック・ライブラリー
社会が病気をつくる――「持続可能な未来」のために
玉城 英彦著(角川学芸出版: 2010 年)