沖縄県医師会女性医師部会副部会長
(琉球大学医学部附属病院) 銘苅 桂子
去る2 月26 日(土)ホテルニューオオタニ 博多に於いて、標記連絡協議会が開催された。 協議会では、九州各県における女性医師等相談 事業の各種支援状況の報告と事例発表及び提案 事項の検討等が行われた。以下に会議の模様を 報告する。
挨 拶
○福岡県医師会会長 松田 峻一良
本会議は各地域からの声を伺うと同時に、女 性医師支援センター事業について理解を深める という趣旨で企画されている。本日はそれぞれ が意見を出し合うことで、実りある会議になる ことを期待する。
○日本医師会常任理事 保坂 シゲリ
この事業も軌道に乗ってきたが、これからも 様々な支援活動を展開して頂くことになると思 うので宜しくお願いしたい。今後の西日本女性 医師支援センターの事業に期待している。
今年1 月、日本医師会女性医師支援センター 事業における就業成立及び再研修紹介における 成立件数が200 件に達した。
女性医師バンクの運用状況は、求職登録者数 273 名、求人登録施設数1,235 施設、求人登録 件数1,010 件である。就業実績は249 件で、そ の内訳は就業成立が233 件、再研修紹介が16 件となっている。求職・求人登録者は都市部に 集中し、九州では福岡県が33 名、その他の県 では10 名以下であった。求人については、県 庁所在地に求職者が集中している。診療科別で は内科系の求職者が多く、次いで皮膚科、小児 科が多い。求職者登録状況における年代別構成では、求職決定者数の半数以上が40 歳以下と なっており、それぞれのライフステージや勤務 の形態の変化を機に本バンクに登録したのでは ないかと推測される。勤務形態別構成について は、非常勤またはパート・アルバイトが大半を 占め、常勤の就業決定者は1 割弱となってい る。地域別の構成では東京が32 %、続いて関 東甲信越が19.6 %、近畿が8 %となっている。 登録時の就業状況については、就業中(パート 含む)が77 %、未就業が23 %となっており、 就業決定者の4 割を占めている。また就業決定 者の7 割が3 年未満の離職期間であったことか ら、短期間で再就業を決定する方が多いと推測 される。
九州各県を対象に行った事前アンケートの集 計結果を基に、各県の取り組み状況を確認し た。内容は次のとおり。
○女子医学生、研修医等をサポートするための 会の開催については、全ての県で開催を実施 している。
○女性医師等就労支援事業を実施している県は 福岡県と宮崎県で、福岡県が「女性医師職場 復帰支援事業」、宮崎が「女性医師等の離職 防止・復職支援事業」を行っている。鹿児島 県、長崎県、熊本県は、今年度県との折衝を 行ったとのことだが、熊本県では県から新規 事業は認められないとの見解が出されたとの ことである。
○また、沖縄県では雇用再生特別交付金を用い てバンクを設置し、就業支援、育児支援のた めの相談員2 名を配置し、相談窓口を設置し ている。この他に年1 回の女性医師フォーラ ムの開催や、勤務環境の整備に関する病院長 等との懇談会を行っていることを報告した。
○大分県は、女性医師等就労支援事業を用いて 保育支援事業を行っており、県内2 ヶ所の医 療機関が院内保育所を設けた。
○男女共同参画に関する部会や委員会があると 答えた県は、福岡、大分、熊本、宮崎、鹿児 島の5 県であった。また、熊本県と福岡県内 の3 大学を除く各県の大学でも、男女共同参 画ないし女性医師就労に関する部署が設置さ れている。
○院内託児所ないしそれに準じる施設の設置に ついては、全ての大学病院で保育所が設置 (熊本大学は全学部対象の保育施設)されてい る。また、延長保育はかなり実施されている が、病児保育は一部でしか実施されていない。
○短期正職員の採用の有無、非常勤勤務職員の 採用の有無では、非常勤職員はほとんどの大 学で採用しており、短時間正職員については 2 県(長崎、熊本)と福岡県内の2 大学で実 施している。
○医師会と大学や行政についての取り組みにつ いては、宮崎県や沖縄県、福岡県で、大学や 行政との連携が取れているとの回答があった。
概要についてそれぞれの県から説明があった。
宮崎県:宮崎大学では、文科省の科学技術振興 調整費を使った女性研究者支援を行っている。 医師会の担当理事が大学に勤務し、また県内の 女性医師の約1/3 が大学に勤務していることか ら、大学と医師会の相互連携が取れている。
沖縄県:沖縄県でも琉球大学の医師が医師会の 役員に就いているため、情報を共有することが できる。本県でも若い女性医師の多くが大学に おり、現状を伝えることは大事だと感じている。
福岡県:本県では医師会と大学が協力して、各 大学で女子医学生との交流会や県医学会を年に 1 回開催している。またそれぞれの大学に医師 会を設置し、県医師会との連携を深めるなど、 今後も発展しつつある。
家守:女性医師支援について、女子医学生や研 修医、産休・育休中の女性医師への広報で悩んでいるところが多い中、沖縄県がかなり活発に 活動されている様である。
沖縄県:これまで4 回開催した女性医師フォー ラムにおいて来場者にメーリングリストへの登 録をお願いしている。来場された先生方には離 職中の先生方への声かけをお願いし、フォーラ ムの際には託児所を設けるなどで年々少しずつ 参加者を増やしてきた。まだ医師会からの一方 的な情報提供だけなので、双方間の情報の共有 がこれからの課題である。
平成19 年度、文科省の大学改革等補助金対 象の『社会的ニーズに対応した質の高い医療人 養成推進プログラム』という3 年間のプロジェ クトとして、本学の『女性医療人きらめきプロ ジェクト』が採用された。
当事業が昨年度末に終了となったため、『九州 大学病院きらめきプロジェクト』と改名し、出 産、育児、介護、自身の病気等により離職を余 儀なくされた医師・歯科医師のキャリアの継続 と休職からの復帰支援を目指し再スタートした。
本プロジェクトでは、ライフステージに応じ た非常勤勤務をしながら、自らの専門性に応じ た外来勤務、検査業務、研究やキャリアの継続 を図ることを目的としている。また、きらめき スタッフミーティングや先輩への育児相談、講 演会、交流会などの企画等、人の見えるネット ワークの構築にも取り組み、ホームページによ る人材登録、e ラーニングを使用した教育研修 プログラムの提供及び研究会や院内で行われた 研修医向けの基礎的な講演会などの配信の他、 年に1 回、実施状況を発表する場を設けている。
現在3 名の専任事務員を置き、女性医療人ス テップアップ外来医師16 名、看護師4 名が在 籍している。看護師については、平成21 年度 に看護師が独自で国から予算を獲得し、『看護 実践力ブロッサム開花プロジェクト』をスター トさせている。
これまでの復職実績としては、常勤医師が2 名、大学病院の歯学部に正規職員として2 名、 看護学校の教諭として1 名が復職している。ま た、在籍中に、2 名が歯科医師の専門医を取得 し、1 名が皮膚科医の博士号を取得した。今年 は常勤職員と大学院へ再入学するものがいる。
次に学生教育として1 ・2 年生を対象とした ジェンダー教育、医療人としての使命等につい て講義を行うと共に、年1 回学生と先輩医師と の交流会を行っている。『育メン医師・歯科医 師参上』と銘打ち、女性医師を伴侶にした男子 医師がどのようにがんばっているのか当事者の 男性医師に講演していただいたところ、大きな 反響があった。また、ジェンダー教育、ミッシ ョン教育については「これまでジェンダー等意 識したことも聞いたこともなかった」といった 声が非常に多く、性差医学と併せて今後も継続 して講義を行う予定である。
以前、元福岡県副知事で医師会会員の先生が 採ったアンケートで、「妻は専業主婦になって 欲しいか」という問いに、かなりの男子学生が 「はい」と答えた。今年、歯学部の学生に同じ 質問をした結果、妻には専業主婦になって欲し いという答えが大多数を占め、女子学生の多く も専業主婦になりたいと思っていることがわか り、医師になるにはどれだけの税金がかかって いるのかなどを認識させるための意識教育もし なければならないと感じた。
本プロジェクトに携わったことで、医師全体 の労働環境が良くならなければ女性医師もキャ リアを伸ばせないことを痛感した。使命感や精 神論に頼らないで働けるシステムを作ることが 必要であり、また女性の力を活かすためには、 労働時間のインプットよりもアウトカムの成果 を重視した評価システムの確立や、多様な働き 手の能力を活かすダイバーシティマネージメン トの確立、産休・育休のポジションの確保、医 療機関の連携による女性医師の活用、等が今後 求められる。
宮崎県医師会から九州ブロックにおける女性 医師担当役員間での情報交換ツールの構築、ま た、日医女性医師バンク登録者の情報が共有で きないかとの意見が出され、保坂日本医師会常 任理事から九州ブロックでメーリングリストを 自主的に設けることは構わないが、医師バンク 登録者の情報共有に関しては、個人情報保護の 観点から協力出来ないとの返答があった。
また、福岡県医師会から地域医療再生基金を 用いて、徳島県のベビーシッター制度や山口県のサポ−ター制度の様な事業を展開出来ないか、 現在、県と調整中であるとの報告があった。
地域医療再生基金に関連して、保坂常任理事 から場合によっては、全額国負担での事業が展 開出来るので、他県でも積極的に活用頂きたい との紹介があった。
閉 会
保坂常任理事より閉会の挨拶があり、本協議 会を終了した。終了後、場所を末広の間に移 し、懇親会が行われた。
印象記
沖縄県医師会女性医師部会副部会長
(琉球大学医学部附属病院) 銘苅 桂子2 月にしては半袖でも十分なほど暖かな週末、博多のホテルの一室にて会議が行われた。円卓 に会した参加者は日本医師会から理事や女性医師バンクコーディネーターの先生方が10 名、九州 各県の医師会において女性医師支援を担当されておられる先生方27 名の総勢37 名。平均年齢よ り明らかに若年であろう私は少々気が引けたが、気を入れ直して席についた。まず、女性医師バ ンクよりその活動の目的が示された。「女性医師支援は女性医師のためだけにあらず」。女性医師 が継続して働けることが、ひいては医師確保につながり、医療現場全体の医師不足対策につなが る、というものである。さらには、ハードワークである医師の世界で、女性が安心して子供を産 める環境を整備することは、日本の少子化対策のロールモデルになり得ること、世界に比較して 進んでいるとはいえない男女共同参画を推進すること、労働法規の遵守、と続いた。平成19 年の バンク設立以来、マッチングにより成立した就業は249 件に上ったとのことである。
次に、九州各県の状況についてそれぞれの県の担当者より報告が行われた。今回は医師会と大 学との連携にフォーカスがあてられ、医師部会の役員に大学の医師が含まれているかどうか、大 学内に女性医師支援の取り組みがあるかどうか、大学院内保育所の有無、学生への教育の有無な どが報告された。印象的だったのは、沖縄県女性部会の活動が、他県よりも積極的に活動してい るように思えたことである。年1 回の女性医師フォーラムや病院長懇談会、研修医を対象に県内 主要4 病院で行われたプチ女性医師フォーラム、女性医師バンクによる相談窓口事業など。より 注目を集めたのは、県内206 名の登録者のある女性医師メーリングリストの存在であり、各県の 担当者が最も頭を悩ましている広報について、非常に参考になるとの声を頂いた。女性医師部会 役員の先生方はそれぞれ日常の診療をこなしながら活動をされており、それが評価されたことを 大変嬉しく思った。女性医師のニーズはさまざまで、その支援方法に答えはないのかもしれない が、継続する必要性は感じることができた。
現在3 人目を授かり、大きなお腹で診療を続けさせていただいている。アラフォーでの妊娠は 20 代に比較して身体的にきつさを感じざるをえないが、医局の先生方の温かい支援により、精神 的には何のストレスもなく過ごさせていただいている。医局の女性医師3 人も昨年お産を終え、 今年中には復帰してくる。家族の支援、短時間勤務や当直免除(これらの制度も職場の先生方の 温かい声かけがなければ‘絵に描いた餅’であろう)、さらに精神的サポートと学び続けられる環 境が、女性医師を復職に向かわせると思われる。
多くの病院が女性医師支援に乗り出しているものの、資金面の問題で実行に移せないことの訴 えが多い。今回の会議でも、国からの資金、各都道府県からの資金をうまく活用してもらいたい、 との言葉が何度も聞かれた。医学教育にはお金がかかる。しかし、一人の成熟した医師が社会に 還元する力はそれ以上のものがあると思われる。少しでも多くの医師が出産や育児を乗り越えて 復職できるよう、より実効的な政策が施されることを願う。
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生年月日の西暦の下2桁、月2桁、日2桁を並べた6桁の数字です。
例)1948年1月9日生の場合、「480109」となります。