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予防接種講習会

理事 宮里 善次

平成23 年2 月27 日(日)午後1 時より、日 本医師会館において開催されたみだし講習会に ついて報告する。

挨 拶

原中勝征日本医師会会長
(保坂シゲリ感染症危機管理対策室長代読)

日頃の地域における感染症対策、予防接種事 業へのご尽力をいただき心から感謝申し上げ る。日本医師会においては、平成9 年に感染症 危機管理対策室を設置するなど、感染症対策は 本会の事業の中でも最も重要な一つと認識して いる。皆様の協力で、平成15 年度より実施し ている子ども予防接種週間では、平成21 年度 の接種人数が約15 万6 千人となり、皆様のご 協力で活発に行われている。また、本年度は必 要な予防接種の公費負担、定期接種化を目的と して、予防接種キャンペーン“希望するすべて の子どもに予防接種を!”を実施し、約250 万 名をの署名を集めることができた。署名は、要 望書とともに、12 月16 日に厚生労働大臣宛に 提出した。

一方で、本年度の政府補正予算において、ヒ ブ、小児用肺炎球菌、HPV のワクチン接種費 用が計上され、公費による接種が可能となっ た。また、厚生科学審議会感染症分科会予防接 種部会においては、水痘ワクチン・おたふくか ぜワクチン・B 型肝炎ワクチン・不活化ポリオ ワクチン・百日咳ワクチンの定期接種化等の検 討が行われている。

いずれにしても、国の予防接種政策が、継続 的かつ実効性のあるものとなるよう日本医師会 としても政府、厚生労働省に対し、今後も強く 働きかけを行っていく。

本日は、「予防接種週間・麻しん排除に向け て」を及川馨先生、「厚生科学審議会感染症分 科会予防接種部会の検討状況」を宮崎千明先 生、「補正予算で公費接種が開始されている3つのワクチンについて」を岩田敏先生、今村定 臣日本医師会常任理事、「予防接種スケジュー ルのモデルについて」を齋藤昭彦先生からご講 演いただく。本講習会の成果をふまえ、各地域 において予防接種が混乱なく円滑に実施される よう今後とも引き続きご協力をお願いする。

細川律夫厚生労働大臣
(外山千也厚生労働省健康局長代読)

医療関係者の皆様においては、日頃から予防 接種をはじめとする感染症対策について、格段 のご支援とご協力を賜り、感謝申し上げる。感 染症予防対策を総合的に進めるにあたって、有 効性や安全性が確認されている予防接種を公的 に推進し、防ぐことのできる病気を予防してい くことは、いのちと健康を守る観点からも、非 常に大切なことである。そして、予防接種を推 進するためには、国民に、その必要性などにつ いて、十分ご理解をいただくことが重要であ る。特に、すべての子供たちが必要な予防接種 を受けられるよう保護者の方々の関心を高める ことが重要である。このため、毎年日本医師会 のご協力をいただき、普及啓発をすすめている ところであり、今年の来る3 月1 日から7 日を 子ども予防接種週間として、広報や相談対応な どの取り組みを行っている。

わが国の予防接種については、諸外国とのワ クチンギャップなど、様々な課題が指摘されて いるところであり、厚生科学審議会感染症分科 会予防接種部会において、その見直しについて 議論をすすめている。平成22 年度補正予算に おいては、予防接種部会等からの緊急提言をふ まえ、平成23 年度末までの間に、子宮頸がん 予防ワクチン、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌 ワクチンの3 つのワクチン接種を緊急に促進す るための事業を実施することとした。この事業 は、多くの地方自治体のご協力を得て、平成 23 年度中にほとんどすべての市町村において、 3 つのワクチンの接種をいただく見込みとなっ ている。

さらに予防接種法の対象となる疾病、ワクチ ンのあり方や、予防接種に関する評価、検討組 織のあり方など、予防接種制度を取り巻く諸課 題について、引き続き予防接種部会における議 論等をふまえて検討をすすめ、予防接種制度の 適切な実施を図っていく。予防接種を円滑に推 進するためには、日頃から地域で医療を担って いただいている医療機関の皆様のご理解、ご協 力が不可欠である。今回、本講習会が開催さ れ、新たに公的接種を推進するワクチンについ て、ご理解いただく会が設けられたことは、非 常に有意義である。厚生労働省においては、今 後とも予防接種の推進に取り組むので、引き続 きご支援とご協力をお願い申し上げる。

議 題

1.予防接種週間・麻しん排除に向けて

日本小児科医会常任理事公衆衛生担当/日本 小児科学会予防接種・感染症対策委員会専門委 員の及川馨先生より、予防接種週間・麻しん排 除に向けて、概ね下記のとおり説明があった。

◇麻疹排除への対策

・平成24 年度(2012)までの排除を目指して、平成20 〜 24 年までの5 年間、第3 期・ 第4 期にも接種を行う。

・平成20 年1 月から全数報告を行う。

・95 %以上の接種率確保が大きなテーマである。

・今後は検査診断体制(PCR、ウィルス分離) が重要な過大だと考えている。

・予防接種週間:平成15 年度より実施、麻疹、 風疹をはじめ予防接種法に基づく予防接種の 接種率を高める。平成22 年度はヒブ・肺炎 球菌・HPV の広報・啓発行う。

◇麻疹排除に向かう3 段階(WHO)

・第1 段階(制圧期)−麻疹患者の発生、死亡の減少を目指す。

・第2 段階(集団発生予防期)−全体の発生を低く抑えつつ集団発生を防ぐ。

・第3 段階(排除期) 日本は、第2段階から第3段階へ移りつつある

◇西太平洋地区の2010 年患者数

・少ない地域では0 に近いところまでいってい るが、カンボジア・ラオス・フィリピンなど は患者数が多い。日本と中国も多く、これら が少なくなっていかないと2012 年までに排 除できない。

・人口100 万人あたり120 人以下を達成する必 要があり、そのためには、1)1 期から4 期の 接種率を95 %以上にする2)不確実な症例を 排除する3)1 例の発生でも即対応する。

・2010 年患者数が0 なのは9 県ある。沖縄県 は、接種率は低いが順位が低い。沖縄県で は、除外の確認をきちんとやっており、怪し いのは入っていないと思われる。

・神奈川・東京・千葉・埼玉・愛知・大坂・ 福岡の7 県は、接種率が低く、重点排除地域 であり、これらの地域をなんとかしないとい けない。

◇紛れ込み例の排除

・1 歳では、1 回接種した児に麻疹とされる例 が多い。突発性発疹や検査データが紛らわしくさせている。

・年齢別感受性者を調べた(島根県)。島根県 では、20 〜 30 代の感受性者が多く、50 代以 上でも感受性が多かった。麻疹が疑われる場 合は、50 代以上でも確認検査が必要である。

・国内でのウィルス株を調べてみると、従来 D5 が多かったが、現在はD9 輸入例が多くな っている。周囲に小流行がなくても輸入例の 可能性を考慮する必要がある。

・A 型ワクチン株ウィルス分離は2010 年6 例 であった。接種したけど間に合わなかったの ではなく、ワクチンそのものを検査している ものが報告されているので、気をつけないと いけない。

・感染研が麻疹の検査診断の考え方を示してお り、これを参考にしていただきたい。

2.厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会の検討状況
(全体の方向と水痘ワクチン・おたふくかぜワクチン・B 型肝炎ワクチン・ポリオワクチン・百日咳ワクチンについて)

厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 医員/福岡市立西部療育センター長の宮崎千明 先生より、厚生科学審議会感染症分科会予防接 種部会の検討状況(全体の方向と水痘ワクチ ン・おたふくかぜワクチン・B 型肝炎ワクチ ン・ポリオワクチン・百日咳ワクチンについ て)について概ね下記のとおり説明があった。

◇予防接種をめぐる新たな動き

・新しい輸入ワクチンの承認(Hib、PC7、HPV)

・ワクチンギャップ(国内外差、経済格差)。 一つ一つが高いワクチンなので。

・Hib ワクチン導入をきっかけにして、ワクチ ンが集中するようになり、複数ワクチンの同 時接種が検討されている。

・ワクチンの混合・多価化の動き(DPT-IPVなど)

・皮下注、筋注問題も内外格差がある

・厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 や予防接種推進協議会(13学会横断的組織) では、上記のようなことを協議している。

◇米国で定期化されていて、日本で任意、未承 認のワクチン

日本で任意接種:インフルエンザ菌b 型、肺炎急患(7 価、結合型)→ 13 型、水痘、インフルエンザ(小児)、流行性耳下腺炎、B 型肝炎、肺炎 球菌(23 価、多糖)、A 型肝炎(16 歳以上)、ヒトパピローマウィルス、その他定期接種外の予防接種

日本で未承認:ポリオ(不活化)、ロタウィルス、髄膜炎菌

◇厚生科学審議会に正式に分科会として感染症

分科会が設置され、感染症部会・結核部会の他、予防接種部会が新たに作られた。

◇予防接種部会では、予防接種法改正に向け て、新臨時接種の枠組(パンデミックインフ ル対応)が現在法案継続審議中である他、予 防接種法の対象疾病・ワクチン、健康被害認 定・救済方法、情報収集と提供、接種費用負 担、評価・検討組織、ワクチンの研究開発・ 生産基盤を検討している。

◇予防接種部会で定期接種化が議論されているワクチン

・子宮頚がんワクチン(HPV)

・インフルエンザb 菌ワクチン(Hib)

・小児用肺炎球菌ワクチン(PCV7)

※上記3 種は昨年から先行的に実施されて いる。

・水痘ワクチン、ムンプスワクチン、B 型肝炎 ワクチン、百日咳(DT → DPT)、ポリオ (生ワクチン→不活化ポリオワクチン)

◇水痘

・ワクチン接種率は、任意なので30 〜40 %にと どまっているため、罹患率が変わっていない。

・もともとハイリスクの子のために開発された ワクチンであり、副作用がとても小さいの で、定期接種化が強く望まれている。

・2 割以上は軽症疾患だが、意外と重症例が 多い。

・アメリカでは、患者が減ってきたが2 回接種 化に向かっている。

・中途半端にやると成人水痘が増えてくる。成 人は重症化しやすい傾向があるので、一気に 流行をつぶす方向にいかないといけない。

◇ムンプス

・ワクチン接種率は、任意なので30 %

・関西の小児科医の調査では、7,000 例を調査 して難聴が7 例見つかった。ワクチンを打つ ことにより、年間1,000 名の難聴を予防する ことができる。

・定期接種にしたほうがよいが、できれば髄膜 炎率が低い株が望まれる。

・世界的には2 回接種が多い。アメリカでは、 定期接種が開始された年に激減し、2 回接種 開始により0 に近づいている。

・ワクチン株によっても無菌性髄膜炎発生頻度 に違いがあり、統一株は圧倒的に高い。現 在、国産ワクチンは武田と北里の2 つだけ で、髄膜炎の発生頻度は0.04 〜 0.06 %であ る。水痘よりはやや悩ましい部分もあるが、 定期接種化が望まれる。

◇ B 型肝炎

・日本ではセレクティブ(選択的)接種である。 母子感染予防はほぼ成功(95 %以上)だが、 父子感染に注意しなくてはならない。父親の キャリアだと接種対象になっていない。

・慢性化しやすいgenotypeA の水平感染増加

・新生児全員接種(ユニバーサル接種)の議論がある。

・世界的にはユニバーサル接種である。アジ ア・アフリカは高キャリアー率で検査が困難 なので。生まれた子ども全員に接種する。欧 米では、もともとキャリア率が低かったが、 思春期以降の急性B 型肝炎が増加しておりユ ニバーサル接種している。

◇ポリオワクチン

・1960 年代に大流行したが、ワクチン導入に より制圧が可能になり、1980 年以降は日本 から野生ポリオがなくなり、ポリオ症例はす べてワクチン関連麻痺となっている。

・世界的にもWHO の努力により下がってきて 根絶が近いと言われてきたが、なかなか0 に なりにくい状況がある。

・接種率が下がったところで持込により流行す ることがある。

・先進国はIPV(不活化ワクチン)に、発展途 上国はOPV(経口生ワクチン)3 回+α回。

・日本では、年に平均約2 例VAPP(OPV 麻 痺、疑い)が発生し、1 回目の接種で男子に多い。

・IPV − DPT 混合ワクチンを開発中(3 相試 験中)なので、一刻も早い登場を期待してお り、今年中に認可申請が可能だろうと考えて いる。

・OPV もIPV も高い接種率の確保が前提で ある。

◇ DT、DPT ワクチン

・2 期DT ワクチンをDPT(DTap)へ

・成人百日咳が増加しており、欧米ではTd を Tdap へ切り替えてきている。

・日本のDPT はもともと精製度が高いので、 あえてTdap にしなくてもよい。

・DT とDtap の比較試験をワクチン学会WG 研究班がおこなったところ、0.2ml で陽性率 が9 5 %で、副反応に差が無いことから、 DT0.2ml でと提言しているが現在検討中で ある。

◇日本脳炎予防接種

・H22.8.27 省令改正があった。

・1 期不足分(1 〜 3 回)を第1 期(6 ヶ月〜 90 ヶ月未満)と第2 期年齢(9 〜 13 歳未満) で接種できる。

1 回接種後:残り2 回、2 回接種後:残り1 回、0 回接種後:残り3 回。

・2 期で接種可能なワクチン:乾燥細胞培養日 本脳炎ワクチン

・1 期と2 期の隙間(7 歳半〜 9 歳未満)や13 歳以上の年齢層は更に検討する。

・標準的接種年齢の拡大をはかる。

・日本脳炎の今後

1)平成23 年度に9、10 歳になる者を、平成 23 年度において、第1 期接種(すでに一部 の接種を完了している者は未接種分)の積 極的勧奨の対象とする。

なお、平成23 年度の5 〜 8 歳になる者 については、ワクチン供給量を踏まえつ つ、平成24 年度以降、できるだけ早期に 積極的勧奨を実施する。

2)7歳6ヶ月以上9 歳未満の者については、 現在接種対象になっていないが、予防接種 法施行令を改正し、積極的勧奨を逃したこ の年齢の者についても、定期接種として接 種できることとする。

◇予防接種部会の今後

・各ワクチン評価のまとめを行う。予防接種法 改正、費用負担問題、恒久的予算確保、日本 版ACIP について検討していく。

3 .補正予算で公費接種が開始されている HPV ワクチンについて

日本医師会今村定臣日本医師会常任理事よ り、補正予算で公費接種が開始されている HPV ワクチンについて概ね下記のとおり説明 があった。

現在、日本では、年間約15,000 人の女性が 子宮頸がんを発症し、約3,500 人が死亡してい る。特に20 〜 30 歳代の罹患率、死亡率が顕著 に増加している。

子宮頸がん予防ワクチンは、発がん性HPV の中でも特に子宮頸がんの原因とされている HPV16 型と18 型の感染を予防し、子宮頸がん の60 〜 70 %の予防が期待できる。しかし、既 存のHPV 感染に対する治療効果はない。

ワクチン接種方法は、肩に近い腕の筋肉に注 射する。1 〜 2 回の接種では十分な抗体ができ ないため、半年の間に3 回の接種が必要であ る。ワクチンの効果についてはわかっていな い。ワクチンの接種だけではなく、定期的に子 宮頸がん検診を受けることが重要である。

当該ワクチンの接種を普及させるには、接種 費用の一部または、全額を公費負担にする接種 費用の助成。学校での集団接種等の接種機会の 創出。学校、マスメディアへのワクチン、疾患 の教育・啓発等が重要である。世界では、現在 26 カ国で公的補助によるワクチン接種が行わ れている。

4.補正予算で公費接種が開始されているヒ ブ・小児用肺炎球菌ワクチンについて

日本感染症学会ワクチン委員会委員長/慶應 義塾大学医学部感染制御センター教授の岩田敏 先生より、補正予算で公費接種が開始されてい るヒブ・小児用肺炎球菌ワクチンについて概ね 下記のとおり説明があった。

ヒブ・肺炎球菌は、乳幼児の鼻咽頭に常在し ており子どもの体力や抵抗力が落ちた時など に、肺炎・敗血症・喉頭蓋炎・髄膜炎などの感 染症を引き起こす。なかでも重篤な感染症が細 菌性髄膜炎である。細菌性髄膜炎は、脳に細菌 が感染し、死に至ることも多く、生き延びても 後遺症を残す。原因は、ヒブ菌5 割〜 6 割、肺 炎球菌2 割と2 菌種で7 割を占めており、肺炎 球菌性髄膜炎が10 万人あたり2.9 人、肺炎球 菌非髄膜炎が10 万人あたり9.8 人、入院市中 肺炎が1 千人あたり19.8 名、中耳炎が3 歳まで に83 %が1 回は罹患している。

ヒブワクチンの接種は、標準的なパターンと して生後2 〜 7 か月未満に接種開始する場合、 4 〜 8 週間間隔で3 回、追加として3 回目の接 種から約1 年後に1 回の計4 回接種。また、上 記の標準的な接種パターン以外では、生後7 か 月〜 12 ヶ月未満に接種開始する場合、同じく4 〜 8 週間間隔で2 回、追加免疫として2 回目の 接種から約1 年後に1 回の計3 回接種。1 歳〜 5 歳未満に接種開始する場合、1 回のみとなる。

肺炎球菌ワクチンの接種は、標準的なパター ンとして生後2 〜 7 ヶ月未満に接種開始する場 合、27 日以上の間隔で3 回、追加として3 回目 の接種から60 日以上の間隔に1 回の計4 回接 種。また、上記の標準的な接種パターン以外で は、7 ヶ月以上12 ヶ月未満に接種開始する場 合、27 日以上の間隔で2 回、追加として2 回目 の接種から60 日以上の間隔に1 回の計3 回接 種。生後12 ヶ月以上24 ヶ月(1 歳)未満に接 種開始する場合、60 日以上の間隔に2 回接種。 1 歳〜 5 歳未満に接種開始する場合、1 回のみ となる。

インフルエンザウイルスを先行感染させ、後 から肺炎球菌を感染させると、単独感染や同時 感染に較べて、マウスの死亡率が有意に高くな る。インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチ ンの同時接種者は、侵襲性肺炎球菌感染症で入 院する率と入院期間が有意に少ない。

ヒブワクチン、肺炎球菌結合型ワクチンが以 下4 つの恩恵をもたらす。1)疾病の予防(小児 への恩恵)、2)子どもが病気にならなければ経 済的・精神的負担が軽減される(家族への恩 恵)、3)発熱児に対して髄膜炎を心配せず、あ る程度安心して診療できる(医療従事者への恩 恵)、4)抗菌薬の適正使用が可能になり耐性菌 抑制につながる(医療全般への恩恵)。

ヒブワクチン、肺炎球菌結合型ワクチン共に 導入された場合、臨床的にも、医療経済学的に も十分な効果が期待できる。より高い接種率を 得るためには、他のワクチンとの同時接種、接 種を受ける上での自治体からの経済的補助が必 要である。効果判定、ワクチン型以外の菌によ る感染症の動向調査のために、接種開始後の疫 学調査が必要である。

5.予防接種スケジュールのモデルについて
―日本小児科学会推奨の予防接種スケジュールについて―

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員 会副委員長/国立成育医療研究センター感染症 課医長の齋藤昭彦先生より、予防接種スケジュ ールのモデルについて―日本小児科学会推奨の 予防接種スケジュールについて―概ね下記のと おり説明があった。

近年の新しいワクチンの開発、普及によって、 ワクチンで予防できる疾患が増え、多くのワク チンを限られた乳幼児期に接種する必要がある。 それを可能にするために日本小児科学会は、 2011 年1 月に同時接種に関する考え方を発表し た。その考え方に基づいた日本小児科学会が推 奨する予防接種スケジュールを提示する。

● 生後2 ヶ月、B 型肝炎(1 回目)、ヒブ(1 回 目)、肺炎球菌(1 回目)の同時接種。

● 生後3 ヶ月、生後2 ヶ月時の接種より、4 週以上の間隔をあけ、B 型肝炎(2 回目)、ヒブ (2 回目)、肺炎球菌(2 回目)、3 種混合(1 回目)の同時接種。

● 生後4 ヶ月、生後3 ヶ月時の接種より、4 週 以上の間隔をあけ、ヒブ(3 回目)、肺炎球 菌(3 回目)、3 種混合(2 回目)の同時接 種。上記の接種終了後1 週あけ、BCG 接種。

● 生後5 ヶ月、BCG より、4 週間以上の間隔を あけ、3 週混合(3 回目)、B 型肝炎(3 回目) の同時接種。

● 生後6 ヶ月、生後5 ヶ月時の接種より、4 週 間以上の間隔をあけ、ポリオ(1 回目)の接 種。

● 生後1 歳〜 1 歳6 ヶ月、麻疹・風しん(1 回 目)、水痘(1 回目)の同時接種。1 ヶ月以上 あけて、ヒブ(4 回目)、肺炎球菌(4 回目)、 三種混合(4 回目)、流行性耳下腺炎(1 回 目)の同時接種。

● 生後3 歳、日本脳炎(1 〜 2 回 ※ 4 週あけ る)の接種。

● 生後4 歳、日本脳炎の2 回目接種から6 ヶ月 以上あけて3 回目の接種。

● 生後5 〜 6 歳、麻疹・風しん(2 回目)の接 種。1 ヶ月以上あけて、水痘(2 回目)、流行 性耳下腺炎(2 回目)の同時接種。

● 生後9 歳、日本脳炎4 回目の接種。

● 生後10 歳以上、HPV(1 〜 3 ※初回接種 後、2 回目は1 ヶ月、3 回目は6 ヶ月あける)、 13 歳までに2 種混合(DT)(1 回目)の接種。

● これからの課題として、同時接種の際の正しい 接種部位の理解、Universal B 型肝炎ワクチ ンの理解と接種時期、BCG との同時接種、ポ リオワクチンとの同日接種。水痘、流行性耳 下腺炎ワクチン2 回接種の理解があげられる。

質疑応答

○兵庫県医師会:同時接種の健康被害の救済制 度について教えていただきたい。

○齋藤昭彦先生:予防接種法に基づく定期の予 防接種のワクチン接種後に健康被害が生じた場 合は、「予防接種健康被害救済制度」の適用に なる。任意接種の場合は独立行政法人医薬品医 療機器総合機構法に基づき、通常の医薬品など で副作用が生じた場合に準じた救済になる。

同時接種の場合は、決まっていない。今後、 議論が必要であり、引き続き委員会等で検討し ていく。

○日本医師会:今回の補正予算で接種するワク チンと定期予防接種のワクチンを同時に行った 場合は、「予防接種健康被害救済制度」の適用 になると厚生労働省が発表している。補正予算 で接種するワクチン以外のものについては、決 まっていない。

○千葉県医師会:同時接種の勧奨について、か かりつけ医の判断により勧めてよいのか。小児 科医会の見解により勧めてよいのか。

○齋藤昭彦先生:科学的な判断により、日本の 子どもたちをワクチンで予防できる病気から守 るためには必要な行為である。日本小児科学会 が推奨しているとして問題はない。

○兵庫県医師会:同時接種を行いたいが、兵庫 県下の自治体には、同時接種に関する指針を策 定しているところもあり接種できない。当件に ついてはどのように対応すればよいか。

○日本医師会:小児科学会が示しているスケジ ュールは、1 つのモデルであることを理解して いただきたい。これからご意見等をふまえなが ら修正していきたい。また、同時接種について、 厚生労働省の見解は医師の判断に任せると示し ているので、先生方の判断にお任せしたい。

○岐阜県医師会:ヒブワクチンの接種スケジュ ールでは、4 回目接種は、3 回目からの1 年後 と示されているが、1 割程度抗体の陰転化がみ られる、1 年以内の接種でもよいのではないか。

○岩田敏先生:科学的には、回数のみの判断で かまわないと考える。1 年後に接種しないと効 果が薄れるということはない。

○岐阜県医師会:米国では現在、不活化ポリオ ワクチンは、生後2 ヶ月、4 ヶ月、6 ヶ月〜 18 ヶ月の3 回に加え、4 歳〜 6 歳時に追加接種を 受けるスケジュールが推奨されている。日本で は3 種混合ワクチンの接種が3 ヶ月から始まり ますので、同じスケジュールでは接種できな い。不活化ポリオワクチンについても検討して いただきたい。

○齋藤昭彦先生:現在のスケジュールは、国が 認可しているワクチンで、作成しなければなら ない。今後検討していきたい。

印象記

宮里善次

理事 宮里 善次

平成23 年2 月27 日、日本医師会館・大講堂において“予防接種講習会”が行われた。

13 時〜 16 時まで、計5 題の講演があった。

まず始めに、日本小児科医会常任理事公衆衛生担当の及川馨先生による『予防接種週間・麻疹 排除に向けて』の講演が行われた。

2012 年までに麻疹を排除する目標が設定されており、対策として1)95%以上の接種率確保、 2)検査診断体制(PCR、ウィルス分離)の確立、3)全数報告、4)発生時の迅速な対応、5)麻疹対 策推進会議(国)、麻疹対策会議(地方)の5 つが示されたが、任意接種で95 %以上の接種率を 確保するのは困難との意見があった。

特に重点排除地域に指定されている東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、福岡の7 地域に おいては患者報告数が多いだけではなく、未接種者が多いと指摘があった。

2010 年度に患者ゼロの9 県に沖縄県が入っているが、接種率は76.5 %と低い。演者から「沖 縄県の接種率は低いが、除外診断をしっかりやっているので、流行は0 であった」のコメントが あった。

他県においては伝染性紅斑などが麻疹として、紛れ込み例として報告されることが散見され、 特に内科領域にその傾向が強いと報告があった。

沖縄における対策の問題点をふり返ると、1)95%以上の接種率確保だけと言えよう。保護者へ の啓発活動を続けると同時に、集団接種に近い形の方法論も考慮すべきだと云う印象を受けた。

また、毎年東南アジアや中近東から輸入麻疹の報告があるので、周囲に小流行がなくても、輸 入例の可能性を考慮するよう指摘があった。

2 題目に、福岡県西部療育センター長の宮崎千明先生から、現在の任意接種から定期接種化が 議論されているワクチンとして、HPV ワクチン、Hib ワクチン、PCV7 ワクチン、水痘ワクチ ン、ムンプスワクチン、B 型肝炎ワクチン、百日咳、ポリオ(生ワクチン→不活化ポリオワクチ ン)が示されたが、ここでも任意接種の限界が強く印象に残った。

3 題目に、日本医師会常任理事の今村定臣先生による『補正予算で公費接種が開始されている HPV ワクチン』について講演があった。

日本では年間15,000 人が発症し、3,500 人が死亡している。特に20 〜 30 歳代の罹患率と死亡 率が著名に増加している。現在ワクチンで防げる唯一の癌なので、ワクチン接種と定期健診の組 み合わせで多くの命が救える。

中1 〜高1 を公費対象として、昨年11 月から接種が開始されたが、合成ワクチンはDNA が入っ てないので発癌性はない。一部報道で接種時の痛みで失神する例が多発していると報道があった が、痛みに関する副作用も他のワクチンと同程度で、多発ということはないと云う発言があった。

PVC ワクチンに対する関心は高く、現在品薄状態で第一回目の接種を受けた人に優先的に対処 するため、広く出回るのは7 月以降となっている。

4 題目に、日本感染症ワクチン委員会委員長の岩田敏先生による『補正予算で公費接種が開始 されているヒブ・小児用肺炎球菌ワクチン』について講演があった。

小児科領域において、インフルエンザ桿菌と肺炎球菌は侵襲性の強い菌として知られているが、 近年β―ラクタム系薬に対する耐性度が増す可能性があり、β―ラクタム系薬による治療の限界 も懸念される。

幸い欧米で効果を出しているワクチンの導入が決まり、公費接種が始まっている。欧米におけ るHib と肺炎球菌ワクチンの同時接種の効果と副作用反応は単独接種と変わりないとの報告があ ったが、講演後に両者の同時接種といずれかと他ワクチンの同時接種の後に6 人の死亡例が確認 され、一旦中止の事態になったことは今後の展開にも影響を与えると思われる。

最後に、日本小児科学会予防接種・感染対策委員副委員長の斉藤昭彦先生による『予防接種の スケジュールのモデル』について、日本小児科学会奨励の予防接種スケジュールが提示された。

スケジュール表(案)は本文をご参照ください。

近年の新しいワクチンの開発、普及によって、ワクチンで予防できる疾患が増え、多くのワク チンを限られた乳幼児期に接種する必要があり、今回それを可能にするために、日本小児科学会 が2011 年1 月に同時接種に関する考え方を発表した考え方に基づいたスケジュールとなっている。

現在(案)の段階であるが、ほぼ同じ内容で奨励されると思われる。

同時接種後の6 人死亡と異物混入によるアクトヒブ回収が、今後の接種事業のブレーキになら ないことを願いたい。