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平成22年度 日本医師会医療情報システム協議会

理事 佐久本 嗣夫

去る2 月12 日(土)13 日(日)、日本医師会 館大講堂において、標記協議会が開催されたの で、以下のとおり報告する。

1 日目:平成23 年2 月12 日(土)

日本医師会石川広己常任理事の司会により会 が開かれ、冒頭、原中勝征日本医師会長並びに 小森貴運営委員会委員長(石川県医師会長)よ り、下記のとおり挨拶が述べられた。

挨 拶

○原中勝征日本医師会長

ご承知のように、長年続いた医療費抑制政策 により引き起こされた地域医療の崩壊により、 医療の現場は荒廃の危機にさらされている。

こうした中、国が進める医療分野における IT 化は、医療費抑制、管理医療のツールとし て位置付けられ、半ば強引に推し進められよう としている。このような医療の現場を無視した 財務省主導の政策にならぬよう、一層厳しい目 を持って対応していく所存である。

また、「医療情報化に関するタスクフォース」 において、現在、議論が行われている「どこで もMY 病院」や「シームレスな地域医療連携」 等では、電子化した医療情報がやり取りされる というものだが、情報の帰属や取り扱い、運営 主体の在り方、セキュリティレベルや関連法令 の検討を優先すべきであると指摘しているとこ ろである。

IT 化は「適切に使用すれば、医療現場がよ り正確で便利になる」という利点もあり、本会 はORCA プロジェクトの推進を始めとするIT 化について、積極的に取り組んできており、 ORCA の通信機能を活用した感染症サーベイ ランスも実証実験の段階に入っている。

医療分野におけるIT 化は、安全で効率的な 医療提供体制を実現するための手段であり、医 療と患者に貢献するIT 化であってこそ推進する価値があると位置付けている。

この協議会が、会員の先生方にとって有意義 なものとなることを期待している。

○小森貴運営委員会委員長(石川県医師会長)

今回、「IT は人間の心と体の健康を守るため に如何に活用されているか?−そしてIT 医療 の更なる発展に夢と希望を−」をメインテーマ に取り上げさせていただいた。

二日間と長丁場になるが、熱心な討論をお願 いしたい。

シンポジウムT 「医師会事務局のIT 化は本当に役立っているか
−平成22年度 医師会事務局情報化調査報告−」

(1)「全国の医師会事務局のIT 化の現状とその問題点
−平成22 年度医師会事務局情報化調査報告−」

名古屋工業大学大学院准教授の横山淳一先 生より、平成22 年12 月から平成23 年1 月、 全国の都道府県医師会及び郡市区医師会事務局 を対象にウェブ上で実施した「平成22 年度版 都道府県・郡市区医師会事務局の情報化調査」 の結果について報告があった。

本調査は、全国の医師会事務局において、1)現在のIT 化問題に対する取り組み状況、2)IT 化推進に向けて必要な(求めている)支援、3)それぞれの医師会事務局におけるIT 化の問題 点、等の状況を明らかにすることを目的に実施 されており、全国937 医師会のうち477 医師会 (回答率51 %)から回答が得られたと報告があ った。

調査結果より、現在のIT 化の問題点として、 「お金がかかる」、「事務職員の不足(人数・ス キル)」、「会員意識のバラツキ」、「効果が見え ない」等が示され、問題解決に向けての課題と して、情報化の現状と適切な認識を持つととも に、情報化(IT 化)の定義の再確認と、自組 織の視点でのメリット・デメリットだけではな く、医師会全体の視点でメリット・デメリット を考えていく必要があると考察された。

(2)「石川県医師会事務局におけるIT 化につ いて」

石川県医師会事務局の村田紀文氏より、石川 県医師会におけるIT 化の取り組みについて報 告があった。

石川県医師会では、平成9 年度より「石川県 医師会情報ネットワーク検討委員会」が設置さ れIT 化の取り組みについて種々の検討が行わ れていると報告があった。

具体的な取り組みとして、平成11 年度より 石川県医師会の独自サーバーを立ち上げ、感染 症情報、花粉症情報等のWEB 上での情報配 信、平成16 年度より全会員対象のML の運用 が行われていると紹介があった。また医師会事 務局のIT 化としては、平成12 年度に会員管理 システムの稼働、平成13 年度に役員と事務局 職員間のグループウエアの導入、平成15 年度 の新医師会館への移設に合わせ、行事予定のデ ータベース化及びWEB 上での閲覧が可能な仕 組みを構築していると紹介があった。

最後にまとめとして、IT 化は事務を行って いく上では時間短縮等に役立っているが、OS の変更等により従来のシステムが使えなくなる ことや、記憶媒体の進化により小型大容量化さ れたため、データの流出等のセキュリティ対策 が不可欠であるとの課題が示された。

(3)「共有資源の活用・標準化への夢と希望
−時代に添ったIT 化サービスの提供から5年の歩み−」

別府市医師会事務局の田能村祐一氏より、別 府市医師会におけるIT 化の取り組みについて 報告があった。

別府市医師会では、5 年前より電子文書の標 準化を目標に、回覧文書の配信や理事会等にお ける不必要な紙を減らし、必要な文書や資料に ついては検索が出来るようなシステムを構築し ていると報告があった。

また、平成20 年度から開始されている特定 健診についての代行請求や、平成21 年度のレ セプトオンライン請求に伴う代行送信を事務局 で取りまとめて実施していると紹介があった。更に、希望する会員間と医師会事務局を光ファ イバーで結び、グループウエアを利用したイン トラネットサービスや、地域医療連携システム の構築・運用、来年度からはiPad を使用した 理事会システムの検討を行っていると報告があ った。

最後に、今後、地域医療連携網が広がるよう に、医師会職員同士の「情報の共有が出来るヒ ューマンネットワーク網」等、地域を超えた横 の連携が今後の「事務局業務の効率化」に繋が ると考えていると意見が述べられた。

(4)「中央区医師会のIT 化への取り組みについて」

中央区医師会事務局の藤島さおり氏より、中 央区医師会におけるIT 化の取り組みについて 報告があった。

中央区医師会では、10 年前からIT 化の取り 組みとして、ホームページやメーリングリスト の開設・運用を行うとともに、平成17 年度か らは、医師会業務におけるIT 化を、「自助によ るIT 化(文書管理等)」と「プロによるIT 化 (会員管理、会計管理等)」に分類し、効率的に IT 化に取り組んでいると報告があった。

最後に、各医師会には似たような業務が多い が、各医師会共通で利用出来る標準的なシステ ムが現在無いことから、日医や都道府県医師会 レベルで、現場に役立つIT ベースの提供を期 待したいと意見が述べられた。

(5)「福山市医師会のIT 化への取り組みと医師会事務局間連携の試み
−システム担当者の立場と事務局担当者の立場より」

福山市医師会事務局の石田英明氏と土井貴博 氏より、福山市医師会におけるIT 化の取り組 みについて報告があった。

福山市医師会では、SE3 名を含む14 名体制 で医師会業務のIT 化に取り組んでいると報告 があり、1996 年に医師会ホームページを立ち 上げ、それと併せて会員へのパソコン貸与やプ ロバイダ事業を開始(2009 年1 月終了)、2000 年には理事会のペーパレス化、職員向けのグル ープウエアの構築、各部門システムの構築等、 医師会業務のIT 化に係るインフラ整備を順次 行ってきたと紹介があった。

また、医師会事務局の業務効率化を目的に、 医師会事務局間の業務連携を模索し、事業形態 が似ている近隣医師会との連絡会の開催等を企 画・運営していると報告があった。

最後に、医師会が事業を継続していく上で、 同様の業務を行っている医師会と連携を取り、 お互いの知恵や工夫を補完することで磐石な体 制が整備できるのではないかと意見された。

シンポジウムU「ORCA の現在と未来」

(1)「日レセの現状報告と今後」

日医総研主任研究員の上野智明氏より、日レ セの現状報告と今後の展開等について報告があ った。

始めに、オープンソースという日本医師会の 果断な決意とともに開始されたORCA プロジ ェクトは、今年度10 年の節目を迎え、日医標 準レセプトソフト(日レセ)は、今やレセコン 市場の第3 位を占めるまでに育ったと説明があ り(導入医療機関数10,556 施設/2011 年1 月 14 日現在)、長い準備期間を経て、ORCA プロ ジェクトはようやく成果を収穫する時期に入っ たと言えるとの意見が述べられた。

今後のORCA プロジェクトのイノベーショ ン(案)として、日医の知財に新たな付加価値 を見出すための「ORCA の新たな価値の創造」 や、「持続可能なプロジェクトの体制整備」、 「クラウド化への検討」等を検討していると説 明があった。

(2)「認証局について」

日医総研主任研究員の矢野一博氏より、日医 認証局について報告があった。

始めに、日医認証局は、厚労省の定める基準 を満たした正式なHPKI(保健医療福祉分野公 開鍵基盤: Healthcare Public Key Infrastructure)認証局として稼動しており、 またこれまでの署名基盤に加えて、平成22 年 2 月に厚労省で認証基盤のための証明書ポリシが策定され、日医認証局もそれに対応している と報告があった。これにより、医師等の保健医 療福祉分野の資格を証明し認証する認証局とし て、日医認証局は国内のヘルスケアセキュリテ ィ基盤として重要な位置付けの仕組みになりつ つあると説明があった。

今後、日医認証局を活用し、地域医療連携シ ステムの構築や、電子紹介状、診断書、主治医 意見書等への適用、IT を用いた日医組織強化 ツールとしての活用等が期待されると意見が述 べられた。

また具体的な事例として、沖縄県浦添市で取 り組まれている3 省連携による「浦添健康情報 活用基盤」における署名利用にも活用されてい ると紹介があった。

( 3 )「ORCAの現在と未来−石川県でのORCA の現状から−」

石川県医師会理事の佐原博之先生より、石川 県におけるORCA の現状等について報告があ った。

石川県においてORCA(日レセ)を導入し ている82 医療機関に対し、導入コストや使い 勝手等に係るアンケート調査を行ったとして、 その結果について報告があった。

調査結果(回答率59.3 %)より、「導入時に は29.2 %の医療機関において混乱があり、デ ータの移行作業や慣れるまでの期間に問題があ った。」、「導入後の使い勝手はやや満足以上が 85.5 %」、「買い替え前の旧式レセコンよりはる かに使い勝手は良いが、漢字の入力が不便」、 「コスト面ではやや満足以上が95.8 %」等のデ ータが示されたと報告があった。

まとめとして、「これから開業する若い医師 は、先ず電子カルテの導入を考えるだろう。魅 力的な電子カルテがあるかどうかで、ORCA が 普及するかどうかが決まると思う。」との意見 が述べられた。

(4)「ORCA 連動オーダリングシステムと『健診オートボーイ』」

佐世保市医師会顧問の福田俊郎先生より、自 動健診システム「健診オートボーイ」について 報告があった。

福田先生を中心に、10 年前から運用を開始 している自動健診システム「健診オートボー イ」に、今回新たにORCA 連動のオーダリン グシステムを開発したと報告があり、その概略 について説明があった。

最後に、今後、健診オートボーイを基に ORCA と連動したシステムを発展させ、データ が自動入力できる電子カルテの構築を目指した いとの展望が示された。

2 日目:平成23 年2 月13 日(日)

シンポジウムV
「インターネットによる医療情報交換はどこまで可能か?」

(1)「嘱託医による保育所とのE-mail を介した 健康管理」

わたなべ小児科医院院長の渡部礼二先生よ り、嘱託医による保育所とのE-mail を介した 健康管理の概略について報告があった。

E-mail を介した園児の健康管理の方法とし て、各保育所より、個々の園児の呼吸器、消 化器、皮膚症状、発熱、欠席の5 項目の記号と コメントを入力したExcel ファイルを電子メー ルに添付して送信してもらい、クラス毎の症状 の割合の変動をグラフに描画させることで、 日々の保育所の健康管理を行っていると説明 があった。

この方法により、本体のメールで保育所へ感 染症等の情報提供と助言が可能となり、また保 育所からは相談や行事報告等を受けることで、 相互のコミュニケーションにも役立っていると 紹介があった。

(2)「患者さんへの情報提供、IT からICT へ
−より暖かいコミュニケーションを目指して−」

かわむらこどもクリニック院長の川村和久 先生より、かわむらこどもクリニックにおいて 取り組まれている、インターネットを用いた患 者さんへの情報提供等の概略について報告があった。

かわむらこどもクリニックは、1993 年に 「お母さんの不安・心配の解消」を理念に開業 し、理念実現のためには情報提供が重要と考 え、開設時から院内報の発行を行い、96 年か らはホームページを開設するとともに、E-mail にて医療相談の受け付けを行い、現在までに 5,700 件の相談を受けていると報告があった。

まとめとして、「紙メディアから始まった情 報提供は、インターネットを活用し、より有機 的な繋がりとして展開している。今後ICT は 医療における情報交換の重要な役割を担ってい くに違いない。」との意見が述べられた。

(3)「メール相談の現状」

ウィメンズクリニック・かみむら院長の上村 茂仁先生より、ウィメンズクリニックかみむら において取り組まれているメール相談業務の概 略について報告があった。

ウィメンズクリニック・かみむらでは、クリ ニックの患者さん等に、無料匿名メール相談の アドレスを伝え、個人レベルでのメール相談を 受け付けるとともに、クリニックのホームペー ジからリンクした掲示板においても相談を受け 付けていると説明があった。

メール相談では、現在、一日に平均100 通の メール相談があり、相談内容を多い順に並べる と、性感染症関係、妊娠の不安、デートDV 関 係、いじめ、虐待、月経不順、月経痛、等とな っていると報告があった。

メール相談を行うことで、「診療時間での説明 不足をカバーすることができる」、「医療施設に 行くべきか悩んでいる患者さんを誘導すること ができる」、「詳しく丁寧な対応によって患者さ んに安心感を与え患者数増員に繋がる」等のメ リットが考えられる。しかし若年者に対しては、 携帯電話からのメール相談形式が有効であるが、 その場合メール内容が単純であるため、質問、 回答というメールのやり取りが数回必要となる 等の問題点が上げられると説明があった。

最後に、携帯やネットを利用しての相談事業 は、医療社会にとっても不可欠なものであるとの見解が示された。

(4)「インターネット相談の可能性と限界」

東京学芸大学教授の田村毅先生より、インタ ーネット相談の可能性と限界について報告があ った。

児童・青年期精神科医として、通常の面接に 加え、電話やインターネットを利用した支援を 行い、これまでの経験からインターネット相談 の可能性として、「匿名、無料での相談であり、 支援行動の敷居を下げることができる」、「対人 関係に不安を抱く若者も利用できる」、「既存の 相談、医療機関を利用しにくい社会的弱者も利 用出来る」等が考えられると説明があり、また その限界としては、「IT 技術を使いこなす能力 が必要である」、「本人が語る主観的な情報しか 得られない」、「依存的、あるいは攻撃的になり がちである」、「相談関係が中断しやすい」等が 上げられると説明があった。

(5)「小児科フリートークメーリングリスト〜 私が欲しかったオンライン医局」

たからぎ医院院長の宝樹真理先生より、小児 科フリートークメーリングリストPedftml につ いて報告があった。

日々の診療における些細な疑問を相談する場 として、93 年に掲示板システムを活用したオ ンライン医局を開始し、その後メーリングリス トに移行し、現在の形となっていると報告があ った。

メーリングリストでは、特にテーマを設定せ ず、小児科医療、学校医、健診、ワクチン等、 医療に関することから、税金や趣味等、様々な テーマが取り上げられ、本業に支障なく、簡単 に誰でも安価に使え、時間と空間を超えた医局 づくりが実現できているのではないかと説明が あった。

(6)「オンラインデータベースを利用した地域 のインフルエンザ情報システム」

中村小児科医院院長の中村英夫先生より、オ ンラインデータベースを利用した地域のインフルエンザ情報システムについて報告があった。

地域インフルエンザ情報システムは、地域に おけるインフルエンザの発生や流行の拡大状況 をリアルタイムに把握し、インフルエンザの診 断や治療といった日常診療に役立てるととも に、更には流行拡大の防止にも寄与することを 目的に運用していると説明があった。

システムを今後運用していくにあたっての課 題として、県内全ての小児科や医療機関に参加 を呼びかけるべきか、登録のモチベーションを 保つにはどうしたら良いか、重症例のフォロー アップ情報を共有するにはどうしたら良いか等 が上げられていると説明があった。

(7)「感染症対策におけるインターネットの有用性」

岐阜県医師会常務理事の河合直樹先生より、 感染症対策におけるインターネットの有用性に ついて報告があった。

岐阜市では、1999 年以降、岐阜地区におい て、医療機関におけるインフルエンザの発生状 況や学校の閉鎖状況等を毎日インターネットで 配信しており、2009 年の新型インフルエンザ 発生以降、県医師会がシステムを再構築し、全 県に拡大し運用を行っていると報告があった。

本システムは、流行している地域、規模、年 齢層やA 型・B 型別等の迅速な把握に有用で あり、医療機関や教育関係者のみならず県民等 にも広く利用されていると説明があった。ま た、小児感染症を含め、感染症発生動向調査の 定点医療機関は、データを本システムに入力す れば週報報告が不要になる等、参加医療機関の メリットも多いと説明があり、今後、新たなパ ンデミックや未知の感染症の出現対策を含め、 このようなシステムを運用することは、危機管 理の点でも有意義と考えられると意見が述べら れた。

(8)「全国規模のMLの有用性−16万人のネットは可能か−」

八戸市医師会理事の本田忠先生より、日本医 師会員は現在16 万人となっていることから、 16 万人を包括する全国規模のML 運用の可能 性について、見解が述べられた。

現在の医療系のML の主なものとして、広域 医療情報ML(wami-ml:1,534名)や日本臨 床整形外科学会ML(JCOA-ML:2,014 名) があり、またUMIN ではMLが6,000 以上構築 され、登録者は30 万人となっていることを考 えると、16 万人のML を構築することは十分 可能と考えられると意見され、ML の具体的な デザインとして、ML の運用方法や配信方法、 利点や欠点等についての考えが述べられた。

また、ML を運用する上でのハードルとして、 コストの問題やスパムメールの管理、会員同士 の争い等が発生した場合の対応方法等の課題が 示された。

(9)「インターネットによる医療情報交換はど こまで可能か?」

長崎県医師会常任理事の牟田幹久先生より、 あじさいネットの経験からインターネットによ る医療情報の交換はどこまで可能かとして、そ の見解が示された。

始めに、大村市の2 基幹病院、30 診療所か ら始まったあじさいネットは、現在では、長崎 市にも広がり、11 基幹病院、169 診療所まで拡 大し、全登録患者数も13,000 人を超え、日常 診療に大いに役立っていると報告があり、その 経験から導き出した答えとして、「インターネ ットを用いた医療情報交換は、医療情報が電子 化されていれば運用を十分に工夫することによ って、様々な医療現場のニーズに応じることが できる」と示された。ただしその前提として、 「セキュリティの確保が十分になされている」、 「情報交換を行うために医療現場に大きな労 力・コストの負担を強いない」ということが絶 対条件であると補足された。

(10)「リアルタイムな疾患データベース化を 実現した脳卒中地域連携パス」

鶴岡地区医師会の丸谷宏先生より、鶴岡地区 で取り組まれている脳卒中地域連携パスシステ ムの概略について報告があった。

鶴岡地区では、Net4U という地域電子カル テシステムを10 年にわたり運用しており、セ キュアーな医療情報ネットワークが整備されて おり、脳卒中地域連携パスシステムは、この Net4U の基盤を活用して構築・運営されてい ると報告があった。

IT 化した地域連携パスでは、急性期を退院 した患者情報を各医療機関でリアルタイムに共 有でき、スムーズな連携が図られるばかりでは なく、データベース化された情報の集計、評価 を簡便に行えるため、地区全体の脳卒中発症数 や再発率、診療体制の把握が可能となり、今 後、更に症例を蓄積することで、血圧管理を重 点とした維持期連携パスによる再発率低下等の 疾患管理を目指していると説明があった。

特別講演
「ヒューマン・コミュニケーションの原点」

鳥取大学医学部総合医学教育センターの塚 人志先生より、ヒューマン・コミュニケーショ ンの原点と題した講演が行われた。

講演は、コミュニケーションとは、お互いの 考えや気持を理解し合うことであり、「情報伝 達」= コミュニケーションと捉えると、他者の 気持ちを理解することが疎かになりトラブルの 元になることがあるとして、「情報を伝達する 力」と「感情を理解する力」の大切さに気づ くことを目的とした体験学習という形で行わ れた。

シンポジウムW
「クラウドコンピューティングと医療情報」

(1)「診察室からクラウドへ〜私の行っている ソフトウェア・サービス(SaaS)

渋谷区医師会情報担当理事の加山裕高先生 より、SaaS(Software as a Service)の活 用方法等について報告があった。

クラウドコンピューティングという概念は分 からない部分も多いが、SaaS を活用すること で、従来テキストエディタを用いて検索してい た文章情報はGmail に、携帯端末のPIM を利 用していたスケジュール管理はGoogle カレン ダーへ、ハードディスクに保存していたWeb クリップはEvernote へと、ソフトウエアは個 人で購入するものからネットワーク上のサービ スを利用するものに変化してきていると説明が あった。

しかし、クラウドコンピューティングは便利 な面がある一方大きな問題も潜んでいるとし て、医療情報の取り扱いと、ネットワークの障 害時に使えなくなるという点については、今後 検討していく必要があると意見された。

(2)「地域医療連携システム継続的運用の一手 法としてのクラウドコンピューティング」

大村市医師会理事の田崎賢一先生より、地域 医療連携システム継続的運用の一手法としての クラウドコンピューティングについて意見が述 べられた。

あじさいネットの運用を開始して6 年が経過 し、順調に利用実績を伸ばしてきているが、現 在、一部の中核病院の負荷が課題となってお り、また機器更新等のメンテナンスや医療情報 連携に関するガイドラインへの準拠等の対応を 迫られる事態が生じていると説明があり、これ らの諸問題を検討した結果、解決手段として、 NPO でVPN ルーターを保有する従来の形式か ら、ネットワーク接続のアウトソーシングとい う形態への変更を行い、また、複数の中核病院 へのアクセスを容易にするシングルサインオン のシステムについても、そのサーバーを自前で 構築することなくクラウドにより実現している と説明があった。

クラウドの利用により、膨大な初期投資を抑 制し、維持経費についても計画性がもてるよう になったが、意図を実現するためには入念な交 渉の上での契約が必要であるとの意見が述べら れた。

(3)「クラウドコンピューティングと医療情報
−地域医療連携における可能性−」

尼崎市医師会地域医療連携・勤務医委員会委 員長の長尾和宏先生より、クラウドコンピュー ティングと医療情報について意見が述べられた。

始めに、クラウドとは、ネットワーク技術、 ウェブ技術や仮想化技術を応用し、コンピュー タ資源の有効活用と物理的な制約の少ないサー ビス提供を行う仕組みであるが、近年、一定の 一般的なグループの間では喧伝されているが、 その実態が明確ではない“バズワード”的な使 われ方をされていると意見が述べられた。

今後、クラウド化による医療機関情報や診療 情報の「共有性」「共時性」が一気に高まり、 また超高齢化社会を考えれば、介護・福祉分野 との在宅医療における他職種連携や2 次医療圏 を含む広域での連携にも威力を発揮するだろう と意見が述べられた。

ただし、情報漏洩や管理医療というリスクも 存在するため、日本医師会主導で早急に「クラ ウド型連携モデル」を模索する必要があるので はないかとの見解が示された。

シンポジウムX
「新たな情報通信技術戦略(医療分野)への夢と希望」

(1)「新たな情報通信技術戦略(医療分野)の ポイント」

内閣官房情報通信技術(IT)担当室内閣参事 官の野口聡先生より、新たな情報通信技術戦略 (医療分野)のポイントについて報告があった。

医療分野におけるIT 化の取り組みについて は、電子カルテの普及やレセプト請求のオンラ イン化等のインフラ整備から、医療情報の利活 用重視へと大きく転換しているところであると 説明があり、現在、情報通信技術戦略の基本認 識として「国民主導の社会への転換」を体現す る「どこでもMY 病院」構想の実現や、慢性疾 患のモニタリングや医療と介護の連携等、新た な要素を取り込んだ地域医療連携を目指す「シ ームレスな地域連携医療の実現」、電子化された レセプトデータやDPC データを活用し地域医 療の見える化や保険者機能の活性化等を促進す る「レセプト情報等の活用による医療の効率化」 等の戦略を実現させるべく、政府全体で取り組 みが行われているところであると報告があった。

(2)「新たな情報通信技術戦略(医療分野)へ の夢と希望」

東京都医師会理事の大橋克洋先生より、新た な情報通信技術戦略(医療分野)への夢と希望 について意見が述べられた。

東京都医師会の医療連携システム「HOT プ ロジェクト」の運用から8 年が経過し、そこか ら得られた重要なポイントとして、「ヒューマ ンネットワーク」、「極力シンプルな仕組み」の 2 点が挙げられると説明があった。

また、「個人情報の取り扱い」についても、 従来から患者情報の取り扱いは慎重に行われて きたが、個人情報保護法の発行により状況は複 雑化してきていると説明があり、セキュリティ と利用の快適さは相反するものとして、状況に 応じた適切なセキュリティ対策と、必要に応じ それらを階層的に重ねるべきであるとの意見が 述べられた。

最後に、「残念ながら『夢』は語れなかった が、『希望』というより『リクエスト』として、 国でも医師会のような組織でも、その運用には 『ルール』が必要であるが、ルールのためのル ール等、現場の仕事が妨げられ、非常に効率が 落ちることがよくあるように感じる。ルールを 決める場合は必ず現場の人間を中に入れていた だき、現場の意見をよく聴き、よく理解してい ただいた上で、そのルールによって現場が円滑 に動くようにしていただきたいということが、 切なる願いである。」と意見が述べられた。

(3)「新たな情報通信技術戦略(医療分野)に 対する日医の見解」

日本医師会常任理事の石川広己先生より、新 たな情報通信技術戦略(医療分野)に対する日 医の見解について説明があった。

現在議論が行われている「どこでもMY 病院」 や「シームレスな地域連携医療」については、 従来から、情報の帰属や取り扱い、運営主体の 在り方、セキュリティレベルや関連法令の検討 を優先すべきであるとの問題点を指摘している ところであると説明があり、各戦略への具体的 な日医の見解として以下通り報告があった。

○レセプト情報の活用に対する対応

レセプト発出者としての責任・権限として、 医療機関のプライバシーを守ることや、他の利 益団体への流用を許さない、またレセプト利活 用に対しての法整備を進めることが必要。

○シームレスな地域医療連携に対する対応

地域医療再生基金等による純医療に対しての 投資を活用可能、医師会のリーダーシップが発 揮できると考える。地域医療活性化により、更 なる住民の健康保持が期待できる。医療連携の もとにIT 化を勧めることが可能となる。

○「どこでもMY 病院」に対しての対応

個人の健康管理推進や検診・検査データ、医 療情報の一部を個人の責任で提示できることは 有用だが、従来の「お薬手帳」、「糖尿病手帳」、 健診データの結果手渡しを十分に超えるメリッ トがあるかは不明と考える。また個人データの 保存手段や蓄積場所、セキュリティの問題につ いて十分な議論が出来ていない。

○「社会保障・税に関する番号制度」に対する対応

医療等の現物給付部分までのつきぬけは、現 場の混乱や個人情報を守る点でリスクが多く、 現時点では時期尚早と考える。国民が番号制度 の活用に十分慣れ、リスク回避の手立てが可能 となる過程でゆっくりと議論すべきと考える。

印象記

佐久本嗣夫

理事 佐久本 嗣夫

去った2 月12 日、13 日の2 日間、日本医師会館にて「IT は人間の心と身体の健康を守るため に如何に活用されているか?−そしてIT 医療の更なる発展に夢と希望を−」をテーマに上記協議 会が行われた。

今回は本会からの発表はなく各地区の医師会や事務局、日医総研、その他個人診療所からの発 表を聴講したが、各々に創意工夫がなされIT 医療の発展の早さを痛感した。その反面、現在も未 だセキュリティーやコスト、管理等問題は種々残されているが、それらの問題はIT 医療の発展を 妨げるものではなく、IT 技術の発展と共に徐々に改善されて行くものと思われた。

本県医師会でも、H23 年度事業計画として、1)医療情報の収集とデータベースの構築・管理、 2)ウェブアーカイブ推進事業、3)県医師会ホームページのリニューアル等予定しており、4 月に は会員が利用できる「文書映像データ管理システム」がスタートする。

今後も政府が進める医療費抑制や管理医療のアイテムとしてのIT ではなく、医療界のため患者 のための安全で正確、効率的なIT 医療を推進して行きたいと考える。