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文章を書くのが苦手なあなたへ
「伝わる・揺さぶる!文章を書く」山田ズーニー

宮里恵子

浦添総合病院 外科 宮里 恵子

皆さんが文章を書くとき、それはどんな文章ですか?

日常的に書く文章で一番多いのはカルテでしょうか。診断書、紹介状、メモ、それから?

誰かに何かを伝える文章か、あるいは記録か、文章を書く目的は主にその二つです。

記録やメモは、もれなく分かりやすいこと、それに保存する場所の要件がそろえば十分です。

ところが誰かにあてて書く文章は、記録とは 大きく違います。読んでくれる相手を意識する 必要があるからです。同じ内容で手紙を書く場 合も、相手によって書き方や文章の組み立てが 変わります。たとえばお詫び状は、友人に宛て る場合とお世話になった方への場合とでは、心 構えからしてずいぶん違うものになります。

それではお詫びの文章の要件は何でしょうか。この文章はどうですか?

「このたびは、ご迷惑をおかけして本当に申 し訳ございません。平素万全を尽くしておりま すが、今後はこのようなことのないよう精進し てまいりますので、引き続きご指導・ご鞭撻の ほどお願い申し上げます。」

この謝罪文の形式は、1.謝罪、2.原因究明、 3.これから気をつけます、4.これからもよろし く、となります。でもこの謝罪文をもらって も、本気で謝っているのかしら、形式だけじゃ ないの?と感じる人が多いと思います。

本気を疑う原因は何でしょう。この文章には 読み手への配慮がありませんし、この失敗につ いての原因や対策の掘り下げがありません。そ れに償いの気持ちが伝わってきません。謝られ る立場にある読み手が、「これなら許せそう」 という文章にするにはもっとよく考える必要が ありそうです。また、気持ちは大切ですが、謝 罪を繰り返すだけでは、自分の気は収まっても 相手に伝わらないことも多々あります。気持ちを伝えるためのテクニックは別にあると思われ ます。

そこで、『誰かに何かを伝える文章を書くに は、「誰に」「何を」「どうやって」伝えるかが 大切』、ということを教えてくれたのがこの本 です。

私は、本を読むのは好きなのですが文章を書 くのは苦手です。もともと考えが浅はかでそれは 簡単には変えられませんが、持てる文章力でこ の気持ちをどうやって相手に伝えようかと悩む ことはしばしばです。ごめんなさい、ありがと う、この前こんな楽しいことがあった、ただそれ だけのことを伝えたいのに文章が空回りしてい るような、そんな感じになってしまうのです。

作者は、通信教育の小論文の元講師、考える 力・書く力の育成のプロで、現在は独立して大 人のための表現講座も企画しています。当然で すが、うわべのテクニックだけで読み手を動か すことはできません。そのために必要な主張、 目的、論点と論拠はもちろん、読み手の立場、 自分の立場、それから自分を動かしている根本 思想は何なのかの七つの要件を見直すことが大 切だと作者は言っています。相手を動かすに は、読み手の視点を理解することが必要で、そ の視点から見た自分の主張や論拠はどうなの か、自分の考えに揺さぶりをかけることが必要 なのだそうです。自分を揺さぶること無しに作 者の伝えたい「動かす・揺さぶる!文章」を書 くことはできないということなのでしょう。

では今私が書いている文章が、読み手にとっ てどんな意味があるかといいますと、私と同じ ように文章を書くのが苦手な方も、これを読め ば自分の文章を進歩させるポイントがどこなの かきっと見えてくるだろう、ということです。 時間のない方でも大丈夫です。拾い読みでも十 分ためになるオススメの一冊です。ぜひどうぞ。