沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 3月号

県立宮古病院より発信(若き医師らへの温かいエール)

真栄田篤彦

沖縄県立宮古病院医療部長 本永 英治*
内科医師 耒田らいた 善彦

まだ自分の進路を決めかねている若い先生た ちへ、離島中核病院と位置づけされている沖縄 県立宮古病院で13 年間勤務している先輩医師 として、何か進路を決めていく上での参考にな ればと思い、老婆心に近いような気持ちで自分 の気持ちをここに書かせて貰います。そして同 時に当院で、いつも前向きに積極的に仕事を し、離島での生活を工夫しながら楽しんでいる 一人の内科医師からのメッセージも紹介させて 頂きます。

最初に当院で勤務している耒田善彦先生からのメッセージです。

こんにちは。現在、宮古島の県立病院で内科 医として勤務させていただいています。医学部 生の頃にはまさか自分が沖縄県で働くなんて考 えてもいませんでしたし、宮古島に来ることも 考えていませんでした。

何かの縁で沖縄にて初期研修医として来て、 気づいてみれば6 年目になっています。

初めて宮古島で医療にふれたのは、沖縄県立 中部病院の後期研修医の時でした。1 か月とい う短い期間でしたが、先輩医師にこないかと言 われ、少し不安もありながらも勤務させてもら ったのが最初です。当直で入院させた患者さん を疾患の種類にかかわらず自分で退院まで治療 させていくという総合内科スタイルは、今まで 専門科で細分化された病院を研修してきた自分 には新鮮なものでした。当直では一次救急から 三次救急を行い、また日頃の外来では自分の専門分野の外来を行い、救急・外来で診察して入 院になった症例は受け持つというシンプルなシ ステムです。

基幹病院の為、多くの疾患の患者さんに触れ ることができ、その都度、知識を整理しアップ デートできるので、現在まで2 年間宮古島で過 ごしています。離島の基幹病院の魅力はこれに 尽きる気のではないでしょうか。病院には琉球 大学、中頭病院、県立病院、その他の県外の研 修医が来ています。モチベーションの高い若い 先生が多く、彼らの良き医師になりたい、とい う姿勢は他の多くの医師に良い影響をもたらし ており、彼らの日々の臨床経験から出る疑問か ら我々も勉強させられるところも多いです。

初期研修医の2 年間は、その後の医師の思考 回路の形成に大きくかかわっている時期ですの で、彼ら自身も努力するのはもちろんですが、 我々スタッフにも大きな重積が生じてきます。 全国で医師不足の叫ばれている中、研修医に魅 力ある病院を作り、地域医療の活性化をはかろ うと努力されている病院スタッフ・宮古島地区 医師会の取組みは、いずれ大きな成果となって くるでしょう。日々楽しくまた時には重症の症 例で厳しい日々を過ごしながら充実した毎日を 過ごしています。

こちらに来てからは、プライベートの時間も 充実しています。休みの日は宮古島の海・自然 を楽しんでいます。宮古島トライアスロンのス タート地点である前浜ビーチは東洋一のビーチ と言われるほど美しいですし、来間島の満天の 星は子供の頃みたプラネタリウムのように見えました。

夕方は、家の裏の海からシーカヤックで沖に 出て伊良部島の夕日を楽しみ、休日は水上バイ クでアイランドトリップに興じています。

最後に離島医療に関しては、みなさんいろい ろ考えがあることと思います。私も決して、美 徳化はするつもりもないですし、離島医療には 様々な問題も抱えていることは事実です。しか し、多くの小さな診療所が存在するように、そ の地域に住民がいて社会生活が営まれている限 り医療の需要と供給は存在し、沖縄県が多くの 島で囲まれているという事実がある以上、離島 医療は避けては通れないのではと思います。逆 にこの特色は他の地域にはないものでもありま すし、独自の医療ブランドとして確立していけ れば、今後、全国的に医師不足と言われている 中、他の地域へのモデルとなりえるのではない かと考えています。

以上、耒田先生から、宮古病院での勤務状況 や、病院を離れて暮らしの中で余暇を楽しむ様 子などを紹介して貰いました。私自身も医師と しての離島での勤務経験が大半を占めていま す。莫大な医学知識を修得していくために、また新しい医学技術を身につけ一人前の医師にな るためには、私ら医師は多くを学んでいかねば なりません。この道がどれほど遠く困難である かは、その前に立ってみると解ります。身震い するほど果てのない途と険しい壁が自分自身の 前に立ちはだかっているのです。

有限の時間、有限の人生、家族のこと・・ 色々なことが頭に浮かびます。その中で、「俺 のこれからの医師としての人生が、離島にいく ことで回り道となり、現代医療に遅れてしまう のではないか・・大丈夫なんだろうか・・」・・そんなことを考えてしまうのも無 理はないと思います。

でも、よく考えてみようではないでしょう か。私らが受けてきた教育の本来の目的は何で しょうか?

自分自身の力で学び、そして自らの頭で物事 を考え、自立の精神を身につけ、自己の力によ って自分自身の人生観、世界観を形成し打ち立 てること・・・それを可能にし、それによって 人間と人間の連帯社会を築きあげていくように すること・・・それが教育の目的だと思ってお ります。

これまで大きな病院で多くの先輩医師等の助 言や自ら学んだことを元に、臨床現場では、診 断・治療の意思決定がなされてきたと思いま す。これまで決して一人の力ではできていなか った意思決定は、本来は、自分自身の頭で、こ れまでの知識を自らの頭の中で分解し、現実と 照らし合わせながら、再度ふるいにかけ構成そして論理化し、責任ある自己の判断がなされな ければならないのです。また、そのように自ら を鍛えていかないと、なかなか自立した医師に はなれないような気もしています。そのトレー ニングをどこで行うのか・・・私は県立宮古病 院のような離島の病院やさらには医師一人しか いない離島診療所などは、まさに最適だと考え ております。最初は戸惑うかもしれませんが、 だんだんと慣れていくに従い、これまでの経験 と知識を分解し、再度、頭の中で論理化し再構 築化していく作業を繰り返し行いながら、自ら の力で物事を判断し決定できるようになってい くと思います。

さらには、人間社会のもうひとつの重要であ る医療の姿が、離島の病院にこそ、目にみえる ように転がっているのです。少ない資源で、私 ら医療従事者はお互いに助け合いながら、コミ ュニケートし、そして一方、本来の目的であ る、地域で暮らしていく住民たちの健康をより よりものにしていく、という大きな社会性を持 っているのです。忙しい環境にしては見失いが ちになることです。

医療の現場では、医療従事者らひとりひとり が連帯・協力し、そして社会的弱者と呼ばれる 健康を損なった人たちを、より良い人生が送れ るようにと後押ししています。医療従事者らがこれまで学んできたことを実践できるのです。 これこそが本来の医療従事者としての喜びなの です。共存し、相互扶助していく地域社会の実 現への姿を、病院での救急室や外来・入院を通 して、直に感じることが出来ると思います。地 域に医療の原点はあるような気がします。そん な地域医療の原点を感じる閾値が下がっている ところが、離島の病院ではないでしょう か・・・生活感に溢れているのです。

ぜひ、1 ヵ月でも、半年でも、それから1 年 でも2 年でも、さらには5 年でも10 年でも、離 島医療を体験し、自分の医師としての人生設計 に役立て欲しいと期待しています。1 年や2 年 の遅れは、私はいつでも取り戻せるのではない かと思いますが・・・こればかりは、自分自身 の考え方に負いますので、何ともいえません。 とにかく、離島の病院へ行ってみよう・・・そ んな積極的な行動から夢ある期待できる未来医 療の姿が多く生まれると思います・・・未来医 療はあなたたちの手に在るのです。

最後に、離島での勤務の最大の良さは出勤に 時間がかからず、自己健康管理にはもってこい の場であり、さらに癒し系の南西諸島特有の自 然が待ち構えていますので、人生を振り返り眺 めるのにもってこいの場だと確信しています。