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世界腎臓デー(3/10)(World Kidney Day)に因んで

井関邦敏

琉球大学医学部附属病院血液浄化療法部准教授
井関 邦敏

概略

国際腎臓学会(International Society of N e p h r o l o g y : I S N ) と国際腎臓財団 ( International Federation of Kidney Foundations : IFKF)は共同して平成17 年 (2006 年)以来、3 月の第2 木曜日を世界腎臓 デー(World Kidney Day)と制定して慢性腎 臓病(chronic kidney disease, CKD)啓発キ ャンペーンを展開しています。主な理由は下記 の2 点です。1)CKD とそれに伴う心臓血管障 害の罹患率や死亡率が高いことに社会がもっと 関心を持つ必要がある。2)CKD の早期発見と 予防が世界的に必要である。

わが国では日本腎臓学会、日本透析医学会、 日本小児腎臓病学会を中心として日本慢性腎臓 病対策協議会(Japan Association of CKD Initiative: J-CKDI)が設立され、CKD 対策 の重要性を社会的に広く認識を深めることを目 的に活動を続けています。さらに日本医師会、 日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学 会、日本高血圧学会など25 の学会・団体より賛 同・協力が得られています。日本医師会でも CKD 対策、ことに各地に於けるCKD 病診連携 を推進するために、各県・地方における協力体 制確立にむけて活動を進めています。

CKD 概念の提唱、発展

2002 年度に提唱されたCKD の定義と分類は 正常者から危険因子、早期〜末期腎不全に至る 経過と合併症の発症との関連を示しています。 CKD を3 カ月以上持続する腎障害(検尿・画 像・組織異常)または腎機能(GFR)の低下 (eGFR<60ml/min/1.73 m2)と定義し5 つのス テージに分類し、原因の如何にかかわらず腎機 能の低下のみでもCKD としました。2004 年に はKidney Disease: Improving global outcomes( KDIGO)により臨床応用、研究、一 般保健までCKD の意義が強調され、一気に世 界中に普及しています。

しかし、当初よりCKD の定義、分類につい ては批判があり論争が続いています。とくに高 齢者における過剰診断が問題となっています。 高齢者に比較的よく認められるステージ3 を腎 臓病としてよいのか、その根拠は何かなどが問 題となっています。CKD の早期(ステージ1 〜 3)では末期腎不全に至るリスクは低値であ り、多くは腎臓病の専門でない一般医家、循環 器内科医で診療されています。CKD の発症、 頻度には生活習慣、性、年齢、人種などが大き く影響します。2009 年10 月ロンドンにおいてKDIGO 主催による大規模メタ解析(45 コホー ト、約156 万人が対象)の結果が討議され、我 が国からは2 コホート(沖縄、宮城)が参加し ました。その結果、CKD 分類と死亡率(全死 亡、心血管死)の関係をヒートマップとして判 り易くまとめ、今後この図が使用されることに なります(図1)

図の説明。CKD の新しい分類(Kidney Int 2011)
CKD ステージ3 を前半と後半にわけ、それぞれアルブミン(蛋白)尿の程度で分類した。色が濃くなるに従って予後が不良となる。

今後の展開

わが国では一般住民、外来患者、心血管障害 (CVD)、急性腎障害患者などの集団別のCKD 頻度は必ずしも明らかでありません。またそれ らの集団での絶対危険度(死亡、心血管障害発 症率)およびCKD 自体の寄与度(attributable risk)は不明です。我が国ではRAS 抑制 薬がよく使用されておりCVD、ESRD の発症 率が諸外国と異なる可能性があります。住民健 診受診者や実地臨床ではeGFR、アルブミン尿 のカットオフ前後の患者が珍しくありません。 このような場合、とくに高血圧、糖尿病、肥満 を伴う場合、CKD へ移行する危険度は高いも のと考え、経過をフォローすることが勧められ ます。

現在進められている特定健診についてCKD の位置付け、試験紙法による蛋白尿、eGFR と の関連について厚労省の研究班で検討されてい ます。

沖縄県での活動:

全国健康保険協会沖縄支部主催、沖縄タイム ス社共催、日本腎臓病対策協議会(J-CKDI) および沖縄県医師会の後援をいただいて、世界 腎臓デーに合わせたイベント『世界腎臓デー・シ ンポジウム「腎臓ってすごい!」〜あなたの腎臓 を考える〜』(沖縄県:那覇市)を開催しました (2010 年3 月11 日(木))。県内各事業所や一般 の方々など300 名を超える参加がありました。

基調講演として、「腎臓ってすごい!〜腎臓の 機能と役割〜:和氣亨(沖縄県立南部医療セン ター・こども医療センター腎・リウマチ科部 長)」、シンポジウムでは玉井修(沖縄県医師 会理事)、宇栄原千春(沖縄県栄養士会)、新 垣清乃(全国健康保険協会沖縄支部保健グル ープ統括リーダー)、和氣亨の各シンポジスト により、それぞれの立場からCKD に関して講 演が行われました。

戦略研究

厚労省は国民の健康維持・増進のために優先 順位の高い慢性疾患・健康障害を標的として、 政策に関連するエビデンスを生み出すための大 型の臨床介入研究(戦略研究)を実施中です。 その一環として「かかりつけ医/非腎臓専門医 と腎臓専門医の協力を促進する慢性腎臓病患者 の重症化予防のための診療システムの有用性を 検討する研究」(Frontier of Renal Outcome Modifications in Japan: FROM-J)が沖縄県 医師会の4 地区医師会(南部、那覇、浦添、中 部)の協力を得て実施されています。

本研究は2012 年3 月に終了予定ですが、同年 10 月に沖縄で開催される日本腎臓学会西部学術 大会では医師会の皆さまや関係者を招待して報 告会を計画しています。ぜひご参加ください。