ぐしこどもクリニック 具志 一男
はじめに
2003 年度から始まった子ども予防接種週間 も今年で8 回目を迎える。日本の予防接種体制 もこの8 年間に大きく変わり、麻しん・風しん (MR)ワクチンによる2 回接種となり、世界標 準のヘモフィルスインフルエンザ菌b 型(Hib) ワクチンや小児用肺炎球菌(PCV7)ワクチン が使えるようになり、がん予防ワクチンである 子宮頚がん(ヒトパピローマ: HPV)ワクチ ンも導入されている。数年以内に定期接種化さ れる見込みだが、今年から接種料金の補助が始 まることになり、接種希望者が増加すると予想 される。市町村による対応のばらつきもあり混 乱も予想されるが、全額自費という現状より は、一歩前進と言える。今回は、これらのワク チンと同時接種について述べる。
Hib ワクチン(アクトヒブ(R))
Hib は、ヒトからヒトへ飛沫感染し、鼻咽腔 に保菌、肺炎や喉頭蓋炎、菌血症などの重症感 染症を引き起こす。特に、もっとも予後の悪い 髄膜炎は乳幼児(2 歳未満)に多く、国内では 年間約600 名の患者さんがおり、5 〜 10 %が 死亡、30 %に脳の後遺症がみられている。乳 幼児の髄膜炎の診断は難しく、耐性菌も増えて おり予防接種での予防が重要である。Hib ワク チンは、1987 年に米国で使用が始まり、1998 年にはWHO が標準のワクチンとしてすべての 国に推奨している。日本では、2008 年12 月に 発売されたが、供給不足で施設によっては、数 か月待ちのことがあった(2010 年10 月からは 順調に供給されている)。
接種スケジュールは、
1.初回免疫が生後2 カ月から6 カ月までは4 〜 8 週間の間隔で3 回接種(皮下注)、おお むね1 年後に追加免疫1 回。
2.初回免疫が生後7 カ月から12 カ月未満まで は4 〜 8 週間の間隔で2 回接種、おおむね1 年後に追加免疫1 回。
3.1 歳以上5 歳未満は、1 回接種。
PCV7 ワクチン(プレベナー(R))
PCV は、Hib と同じように鼻咽喉に保菌、肺 炎や菌血症などの重症感染症を引き起こす。中 耳炎の原因ともなり耐性菌により難治性となる こともある。髄膜炎は予後が悪く、年間200 名 の発生であるが、10 %が死亡、30 〜 40 %に後 遺症がみられている。肺炎球菌には約90 種類 の血清型があるが、そのうち小児の髄膜炎に多 い7 種類の血清型(4、6B、9V、14、18C、 19F 及び23F)に対するワクチン(PCV7)が 日本では現在使用されている(米国では13 種 類のPCV13)。PCV7 は、2000 年に米国で使 用が始まり、45 カ国で定期接種として採用され ている。日本では、2010 年2 月に導入された。
接種スケジュールは、
1.初回免疫が生後2 カ月から6 カ月までは27 日間以上の間隔で3 回接種(皮下注)、追加 免疫は、初回免疫最終回から60 日間以上の 間隔を空けて12 〜 15 ヶ月に1 回接種。
2.初回免疫が生後7 カ月から12 カ月未満まで は27 日間以上の間隔で2 回接種。追加免疫 は、初回免疫最終回から60 日間以上の間隔 を空けて12 〜 15 ヶ月に1 回接種。
3.1 歳以上2 歳未満は、60 日間以上の間隔を 空けて2 回接種。
4.2 歳以上9 歳以下は、1 回接種。
注意:高齢者に使用される肺炎球菌ワクチン (ニューモバックス(R))は、細菌莢膜血清型ポ リサッカライドで、主にT 細胞非依存性メカニ ズムによって抗体を誘発するため、ほとんどの 肺炎球菌莢膜血清型に対する抗体応答は、免疫 系が未熟な2 歳未満の幼児では一般に乏しいか 不安定である。従って、ニューモバックスは2 歳未満には無効なので、取り違えに注意する必 要がある。
HPV ワクチン(サーバリックス(R))
子宮頸がんは、前がん病変と早期がんは20 〜 30 歳代から見られ、日本でも年間約15,000 人の発病者があり、約3,500 人が死亡してい る。発病にはHPV 感染が関与しており、持続 感染すると子宮頚部の細胞が異形成をおこし、 多くは自然治癒するが、一部の異形成が進行し 数年から数10 年をかけてがん化すると考えら れている。検診による早期発見により、侵襲の 少ない治療で治癒することもできるが、若年者 の検診率は低く、HPV 感染を予防することが より効果的である。HPV には100 種類以上の タイプがあるが、その中でも子宮頸がんに関与 するのは15 種類(16,18,31,33,35,45,52,58 な ど)で、比率の多い16、18 型(約60 %、若年 者では80 %)に対するワクチンが日本では認 可されている。他のタイプのHPV 感染による 子宮頚がん発症の可能性はあり、接種後も検診 は忘れてはならない。
接種スケジュールは、11 〜 15 歳の女子を中 心に3 回接種する(上腕三角筋部に筋肉内接 種:初回から1 ヵ月後、6 ヵ月後)。接種にあた っては、他のワクチンに比べ痛みが強いため血 管迷走神経反射として失神することがあり、接 種後は座らせたまま、30 分程度院内で経過観 察する必要がある。失神が予想されるときは、 最初から迎臥位で接種したほうがよい。
同時接種
上記のH i b ワクチンとP C V 7 ワクチン、 DPT ワクチンは接種時期がほぼ同じであるた め、同時に接種することができる(Hib ワクチ ンとPCV7 の添付文書には医師の判断で同時接 種が可能なことが明記されている)。同時に複 数の病原体の抵抗力をつけることは、国内でも これまでに混合ワクチンなどで行われている。 DPT は、ジフテリア、百日咳、破傷風の3 種 混合であり、MR は、もともと別々であった麻 しんと風しんの混合ワクチンである。インフル エンザのワクチンもA 型2 種、B 型1 種の3 種 混合ワクチンである。ドイツでは、ジフテリ ア+破傷風+百日咳+不活化ポリオ+ Hib + B 型肝炎の6 種混合ワクチンを使用しており、 PCV7 も一緒に接種すると13 種類の病原体の ワクチンを同時に接種している。それでも乳幼 児は、感染防止の抵抗力をつける能力を持って いる。日本にはこのような混合ワクチンはなく、 別々のワクチンを混ぜて使用することはできな い。複数の部位に接種せざるを得ないが、毎週 のように接種に来院することを考えれば、同時 接種の方が、児にも保護者にとっても有益であ る。接種部位は、現在のところ皮下注では上腕 伸側上1/3 と下1/3 であり、数センチ離すこと を考えれば、左右で4 か所が限度となる。副反 応も複数のワクチンをしたことによって多くな ることはなく、効果が落ちることもない。
おわりに
Hib やPCV による細菌性髄膜炎予防のワク チンは、乳幼児の健康を守るだけではない。重 症な細菌感染症が減るため、不要な抗生剤の使 用が減り乳幼児の医療費の削減にもつながる。 重症な細菌感染症が減ることにより、念のため 救急を受診しようという動きも減れば小児救急 の負担も軽くなる。子宮頚がんも治療に比べれ ば、予防接種や検診の費用の方がはるかに軽微 であり、医療経済的にも有用である。これらの ワクチンが早く定期接種化されることを望む。 これらの予防接種をもっと知りたい方は、VPDのホームページ(http://www.knowvpd.jp/index.php)にアクセスするとよい。