同仁病院 上原 久幸
今回、干支に因んでということで随筆の原稿 依頼がありましたが、突然のことで驚きまし た。年男ということのようですが、年齢も40 歳代後半になり、経験的にはもうそういう時期 なのかなと思いました。私は平成元年に医学部 を卒業し、同年国家試験を通り医者となりまし た。平成とともに医者としての人生を歩みだ し、すでに22 年という年月が過ぎました。医 者として学ぶことは多く、まだまだ未熟な感が 否めませんが、これまでを振り返りさらに今後 のことを考えるにはちょうど良い機会かもしれ ません。
私の父は一開業医でしたが、私が医学部に進 学する前に他界したため、その職種についてい ろいろ話す機会もなく、私の医師像というもの は父親像であり、いわゆる町医者でしかありま せんでした。私が医者になった頃は、現在の研 修医システムとは異なり、医学部卒業後、まず はどこかの大学病院の医局に在籍し研修をこな し、医学博士を志す者は大学院にすすみ、さら に大学に残って基礎研究やリサーチなどを行 う。あるいは一定期間、大学病院と関連病院を 行き来しやがて希望する病院に就職していく。 そして、その間、学会発表をこなし、認定医な どの資格を習得するといったコースが一般的で あったように思います。私は研修医をしなが ら、独り立ちするまではいろいろな経験を積ん で、町医者以外にもいくつかの選択肢があると いうことに気づきました。私の場合、何とか医 学部を卒業し、何とか医師国家試験に合格して きた不器用さ故、医師の世界はやることが多く 忙しい毎日でした。臨床と学術的なことを両立 することは結構大変なことで、それならばどち らかを優先しようと思い、まずは臨床に重きを置き、臨床を中心に頑張ってきた感がありま す。そして、それが今日まで続いてきました。 研修医の時はそれで良かったと思いますが、今 になってややバランスの悪さを感じます。理想 的には、臨床をしながら時々症例をまとめて学 会などで発表し自らの知識を確実なものにして 行くことができればとても良いのでしょうが、 現実はなかなか厳しい。努力は必要かと思いま すが、自分を含め周囲の同業者を観察してみる と、やや向き不向きがあってそこにセンスの良 し悪しも表れてくるように思います。
また、現在、病院勤務ですが、年齢を考慮し 体力的なことも考えると今のままで良いのかと 考えるようになってきました。私ぐらいの年代 になるとあるいはむしろ遅いほうかもしれませ んが、開業していく先生も多くなってきます。 ならば自分も、とそんな考えが頭をよぎるもの の今の流動的な医療情勢を考えると大金を投じ ていくらかのリスクを背負ってそうすることが 果たして最良なのかと悩みます。“・・40 にし て迷わず・・”と言う孔子の言葉もあるようで すが、私の場合、この歳になってもまだまだ学 ぶことは多く、迷うことが多々あります。優柔 不断という見方もあるかもしれませんが、世の 中そう甘くはないというところが実感でしょう か。それにしても、ここに至るまで医療関係 者、患者さんを含め多くの人との出会いがあり その時々で多くを学び、ずいぶんと助けられて 来ました。現在こうしてあることを思えば感謝 すべきことと思っています。年齢的には丁度人 生の折り返し地点を回りきったところでしょう か。要領はいいほうではありませんが、モチベ ーションを維持しつつ、こつこつとこれからも 頑張って行こうと思っています。今後ともご指 導のほど宜しくお願い申し上げます。