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教えるということ
−理想の医師像−

浦添総合病院 伊志嶺 朝成

明けましておめでとうございます。昨年は、 政治も経済もあわただしい年でしたが、今年は 誰もが安心して暮らせる年になればと願ってお ります。

今年は、私が年男ということで、執行部より 投稿依頼があり、この機会に日ごろ考えている 事を少しお伝えしたいと思います。

医学部を卒業し約20 年、少しは社会の役に たっているのかなと思う反面、まだこの程度か とも思い、若い時に思い描いていた「理想の医 師像」とは大分違ってしまいました・・・。

さて、2004 年には新しい研修医制度が始まり ました。医学部を卒業し医師となった研修医は、 それぞれ「理想の医師像」を思い描いて研修医 時代を過ごしている事と思います。一方、大学 の医局制度で育った我々の世代の多くは教える 立場となり、「教えるとは?」と自問自答しなが ら後輩の指導に苦慮している事と思います。

今まで教えるということを深く考えていなかった私は、研修医制度が始まり、戸惑ってしま いました。指導医講習会なるものに参加し、理 論的に効率よく教える教え方を習い、昔の我々 が教わってきた方法とは、こんなにも違うのか と驚きました。

我々の世代(大学医局世代?)は、「外科は 丁稚奉公と同じだ!」と教わり、「技術は習う ものではなく、盗むものだ!」と教えられまし た。そのため、上級医の一挙手一同、目を皿の ようにして覚え、「俺はこんなにできるんだ ぞ!俺にもやらせろ!」と身体で表現したもの です。手術中に、上級医にメスを取り上げられ ないよう、上級医の癖等を覚え、時にはおべっ かを使い自分の手術症例を増やしたものでし た。また、手術症例が少ないと、直接「手術を させてください」とお願いに行きました。その 時の上級医は、「俺の助手ができたら、手術を させてやる」とのこと。必死になって、助手を したものです。もちろん、第2、第3 助手から ですが・・・・・。そして、手術をさせてもら った時には、前回と比べ上達しているところを 見せなければ、次回は、させてもらえません。 必死になって助手をしました。もちろん、手術 だけが、外科のすべてではないのですが、今振 り返ると、そのハングリーさが、技術を上達さ せる根底にあったのではないかと思います。

しかし、今の時代、そのような教え方をする と研修医、専修医には敬遠されるでしょう。や はり時代とともに変わらなければならないので しょうか?!

医師になって4 〜 5 年目のころ、結腸癌の有 名な先生の下で研修していた時のことです。直 腸癌の手術の第一助手をしていた時のこと、狭 骨盤のため結紮点まで手が届かずにもたもたし ていたとき、「何をもたもたしているんだ!糸 結びもできないのか!」と怒られ、「手が届き ません!」と答えると、「そんなことあるか ー!手を細くしろー!・・?」と怒鳴られまし た。今思えば、いかに理不尽な怒られ方をされ ていたんだと思います。また、「手術をもっと させてください」とお願いに行くと、「患者はな、命をかけてきているんだ、俺に手術しても らいたくて来ているんだ、決してお前らに手術 してもらいたくてきているわけではないんだ ぞ!」と怒られたものです。怒鳴られながらも 執刀させてくれましたが、その先生の患者に対 する思いが分かり、心が引き締まり、より真剣 になったものでした。その先生の技術を盗みた い、近づきたいと思い、何度怒られても、手術 に入るのは好きでした。尊敬できる先生だから 我慢できたのだと思います。今では、大変感謝 しております。

もちろん、上記のような理不尽な怒り方がよ いとは、決して思いませんし、そのような指導 をしたいとも思いません。しかし、そのような 個性的な先生がいてもいいのかな?とも思いま す。どのような、指導マニュアルができても、 医師の患者さんに対する強い思いがないと、人 間味あふれる指導はできないと思いますし、感 動もないと思います。

最近は、ますます教えるという事はとても難 しいと感じています。どのような医師が理想 か?今の若い医師にどのような医師になってほ しいか?・・・正しい答えは分かりませんが、 患者さんを大切に思い、それぞれ理想の医師像 を思い描き努力してほしいと思います。

私はまだ、「理想の医師」にはなれていませ ん。また、「私の理想の医師像」も、時ととも に少しずつ変わってきています。それでいいの かなと思います。

私も、まだまだ未熟で、反省することも多々 ありますが、信頼できる先輩、同僚、専修医、 研修医に囲まれながら、日々学び続けたいと思 います。

今後も、「理想の医師像」を追いかけ続けた いと思います。

2011 年 「兎年」皆様にとって飛躍の年に なりますように!!