沖縄第一病院 新井 弘一
40 歳を過ぎてから徐々に体の節々に変調を 感じるようになった。数年前、唐突に左肩の痛 みが出現。最初は夜間寝ているときに違和感が ある程度だったが、やがてズキズキとした痛み を感じるようになった。左肩を動かすとゴリゴ リ(錆びた鉄の板をすり合わせるような感じ) という轢音を感じる。夜中痛くて左側臥位をと ることができず、慣れない姿勢でなかなか眠れ ない。レントゲンは異常なし。MRI でも腱板断 裂を思わせる所見はなかった。四十肩だろうと 思いそのうち直るだろう、とたかを括ってい た。ある日、診察中に「じゃあバンザイしてみ てください」と患者さんに言いながら自分もバ ンザイしてみると、患者さんはバンザイしてい るのに自分はバンザイできていないことに気付 いて愕然とした。これではいかん、と自らが普 段患者さんに語りかけている言葉を実践するこ とにした。肩幅くらいの棒を見つけてきて両手 で端を持ち、仰向けに寝た状態で左肩を上下左 右に動かす。肩が軋むように痛むが、丁度痛く なる手前くらいで上下左右に少しずつ動かして いった。最初は90°しか挙がらなかったが、 やがて150°まで挙上できるようになった頃か ら棒をダンベルに持ち換えて仰向けの状態でバ ンザイの姿勢をとり、重力で更に肩を授動していった。不思議なことにリハビリ中は肩に痛み を感じるのに終わった後は逆に肩がスッキリす るような爽快感があり、夜間痛も日々良くなっ ているのがわかった。しかしここからがなかな か改善せず、完全にバンザイできるようになる まで自宅リハビリは3 カ月に及んだ。今ではた まに左側臥位をとったときに肩に軽い痛みがあ る程度で患者さんの前でも問題なくバンザイで きるようになっている。
2 年前から鈍った体を鍛えるべく自転車(い わゆるロードバイク)を始めた。数名の仲間と 共に月に1 〜 2 回集まって適当な距離を集団走 行する。高校卒業以来20 年に及ぶ不摂生の影 響は隠しようもなく、最初の頃は走り始めて 10 分もすると息が上がってしまう。坂道を登 っているときなどは傍目にはほとんど止まって いるように見えたのではないかと思う。それで も飽きることなく走り続けているうちに走る距 離が徐々に長くなり、自転車に乗っている時間 も次第に長くなってきた。ご存知のようにロー ドバイクの場合上半身をかなり前傾させた姿勢 をとるため、前方を見るために首は常に過伸展 された状態になる。長距離走行の翌日などには よく首の周りが痛くなった。それでもめげずに 乗っていると、次第に左手のしびれを感じるよ うになった。首の痛みも増悪し、左背部に差し 込むような痛みがある。もしや、と思ってレン トゲンを撮ってみると案の定第5 〜 6 頚椎間椎 間板高の狭小化あり、MRI では同部位に左方 凸の椎間板ヘルニアを認めた。今度は放置する ことなくすぐにリハビリで頚椎牽引を行った。 最初は20kg で牽引していたが、物足りなくな って徐々に負荷を増し、最終的には倍以上の力 で牽引した。これが思った以上に効果があり、 2 〜 3 日続けただけで嘘のように痛みが軽減し た。次に枕を変えた。首が痛いときは枕を低く して臥位でも頚椎が伸展位をとるのが理想的で ある。色々と調べて「医師が勧める健康枕 肩 楽寝」というのを買ってみた。実物をみると中 央部に後頭部が収まる窪みがついていて、至極 具合が良い。これを使うようになってから朝起床時の首の痛みが半分になった。これを考案し た先生はさぞかし儲かっておられるに違いな い。最後に原因行動を回避するためおよそ1 カ 月間、自転車練習を自粛した。これらの治療の 甲斐あってか、発症1 カ月後には無事練習に復 帰することができた。その後は練習と頚椎牽引 を繰り返し、ほぼ完治するに至った。
いずれも整形外科医として貴重な経験となっ たように思う。今では自らの体験を伝えるべ く、五十肩と椎間板ヘルニアの患者さんを心待 ちにしている。
新年早々、お目出度くもない話で申し訳な い。本年もよろしくお願い致します。