沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 1月号

“兎年”睦月雑感

山里将典

介護老人保健施設 中城苑
山里 将典

21 世紀を迎え、早や10 年が過ぎ去った。激 動の時代というべきか、地球温暖化、世界規模 の異常気象、情報の氾濫、これまで人類が経験 したこともないような事象が起こっている。こ の不確実な時代に流されず、わが道を行くべき であろう。老体の常として、温暖であった昔が 懐かしく、遥かいにしえの想い出話で恐縮であ るが、十三祝いの友人たちとの楽しかった集い がまざまざと瞼に浮かんでくる。十三祝いは、 約200 年ほど昔、京都嵐山の法輪寺で行われた 「十三詣り」が始まりで干支が一周し、迎えた 祝事と伝えられている。我々のころには、友人 たちと各家庭を廻り、祝い、語り合った。物が なかった時代に、あちらこちら友人宅を訪問す るのが楽しみであり、父母たちが、大人への健 やかな成長を祝う行事だ。

あれから何度、兎年を迎えたことか。今、携 わっている老健施設でも様々な人間模様が繰り 広げられている。この年齢になって教えられる こともあり、首を傾げたくなることもあるが、 皆、愛すべき老体ばかりで、家族愛も薄れてき た昨今、施設で行われる、苑の祭り、敬老会、 クリスマス会、忘年会などでは、久しぶりに家 族に囲まれて、昔の元気を取り戻し、大いには しゃぎ、唄い踊って、日頃の退屈な生活から解 放されている。やはり、老人たちには、目を見 て語り、触れ合うことが大切であろう。そして、 この老人たちを支えている介護士、看護師、皆 若々しく溌溂とし、万人が認める、この過酷な 職務を黙々と真心こめてこなしている。ある者は 母娘で働き、ある者は夫婦で子育てしながら、 懸命に道を進み、そして、苑内では花を愛で、 夏はヒマワリ、秋はコスモスと、癒しの空間を 作り、老人たちを楽しませている。

さて、混迷の時代ではあったが、去年は目を 見張る驚きもあった。そう、全国高等学校野球 大会での興南高等学校の春夏連覇である。長 年、校医を務めているが、時に雨の中、カッパ を着て長靴を履いて走り回っている部員たちを 見て、何というバイタリティーと舌を巻いたこ ともある。監督始め、部員たちのチームワーク の賜だ。この努力は報われた。そして、ゴルフ の宮里美香君。在学中はおとなしく、やさしげ な少女であったが日本女子オープンでの優勝、 その後の活躍。彼らの弛まぬ努力と忍耐、そし て、限りなき闘魂に敬意を表す。

話はガラリと変わるが、すでに世界中で語り つくされたチリの救出劇。小生も一言添えた い。世の中が沈鬱の淵にある時、人々を驚嘆さ せた。彼ら一人一人の精神力の強さ、リーダー の強靭な統率力、ドイツ人シラーの名言「勇敢 な男は自分自身のことは最後に考えるものであ る」。本当に地球規模での感動の嵐を巻き起こ した。

最後に、これは単に私事であるが、去年は実 に喜ばしい出来事があった。それまで乗ってい た愛車(H)が13 年を過ぎ、走行距離も15 万キ ロに達していた。テレビドラマ“刑事コロン ボ”のおんぼろ車をご存知だろうか。15 万キ ロ走った車で間違って何度か廃車にされかけ た。小生の愛車もコロンボ並と心底 しんてい 苦笑い、愚 息が見かねて、古希の祝いにと年末に(L)車を プレゼントしてくれた。以来、有頂天で運転し ている次第である。

さあ、今年は如何なる年になるであろう。ひ とつだけ、うれしいニュースは東京に嫁いでい る小生と同じ兎年の末娘が結婚7 年目にして、 遂に夏、初孫を見せてくれる。三代揃って兎年 である。

兼好法師の言葉を拝借して、“心に移り行く よしなしごとを、そこはかとなく”書き綴って しまった。笑覧感謝!

新年を迎え、より良い年になるよう、パンド ラの箱から最後に飛び出した“エスペランサ” を胸に前進しよう。