沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 1月号

第110 回九州医師会総会・医学会及び関連行事

U.九州医師会連合会委員・九州医師会役員合同協議会

日 時: 22 年11 月13 日(土) 午前10 時〜
 場 所:城山観光ホテル(鹿児島市)

司会より開会が宣された後、池田哉九州医 師会連合会会長(鹿児島県医師会長)より、概 ね次のとおり挨拶があった。

九州医師会連合会長挨拶

本日は、日本医師会原中会長からご講演をい ただくことになっている。原中会長には、大変 ご多忙の九州医師会連合会のために遠路当地ま でおいで下さったことを感謝申し上げる。私ど も医療界は非常に厳しい状況下にある。そうい う中でこれからどの様に対処し、乗り越えてい かなければいけないのかご示唆をいただけるの ではないかと思う。原中会長の講演の後に質問 の時間を設けているので、ご発言を宜しくお願 いしたい。

座長選出

慣例により、九州医師会連合会池田哉会 長が選出された。

講 演

「中央情勢について」
日本医師会長 原中勝征先生

新執行部は、国民のためになることであれば 絶対的に賛成すると同時に、医療に悪い影響を 与えることであれば誰に対しても反対する。ま た、基本になる国民皆保険を維持することに対 して、当面の問題と将来の問題を考えて財源の 問題にまで政府にしっかりと提言していくとい うことを共通認識のもと実行しているところで ある。民主党が与党慣れしていないこと、医療 に詳しい方がいないということから個人的な意 見が政策として行われており非常に危険な状態 である。私たちは、政府の案にきちんとした正 しい意見が出てくる様なシステムを作らなけれ ばならないということで、横倉副会長或いは藤 川常任理事が中心となって、毎月医系議員の 方々から政府内部のいろいろな政策の進行具合 を聞く会を作り、また、厚労省の委員会の方々 と定期的な話し合い持つ方向で、先月第1 回目 の会議を開いて意見を述べたところである。今 後これを繰り返すことによって政策の中に私た ちの意見が入っていくようなルートを作ってい きたいと説明され、次のとおり講演が行われた。

1.国民皆保険を堅持するための雇用環境の是正

2004 年に製造業への労働者派遣が解禁され た。その後、非正規従業員の割合が拡大し、 2009 年には3 人に1 人(33.7 %)が非正規労 働者で、25 〜 34 歳の若者でさえ、4 人に1 人 (25.6 %)が非正規従業員となっている。若者 の生活が不安定になっており、社会保険未加入 者が増大することが懸念される。2008 年には、 給与所得200 万円以下の所得者が1,000 万人を 超えている。雇用不安、生活不安を背景に、未 婚率も大幅に上昇し、2005 年には、男性30 〜 34 歳47.1 %、女性25 〜 29 歳59.0 %に達して いる。どの年齢階層においても正社員或いは年 収が高いほど配偶者のいる割合は高い。生活が 苦しく、家庭を持てる見通しもない中、保険料 を支払えない世帯が増加している。

国民全体の収入或いは職場での身分が相当影 響されている。小泉政権が行った雇用法の拡大 を一日も早く止めて、株式の配当で外国に持っ て行かれているお金を働いている若い人達に分 配すること。労働分配率が以前は54 %であっ たのが今は43 %になっている。これを10 %増 やせば昔の落ち着いた日本になれることを主張 する。

2.超高齢社会を見据えた社会保障全体の長 期ビジョンの提示

日本の65 歳以上の人口は、2042 年にピーク (約3,900 万人)を迎える。2055 年には65 歳 以上が41 %になるのに対し、就業人口(15 〜 64 歳)は51 %である。現在は、高齢者(65 歳 以上)1 人を若者2.8 人で支えているが、2025 年には若者2.0 人、2050 年では若者1.3 人で支 えなければならない。

超高齢化社会はかねてから予想されていた。 高齢者医療制度の見直しは、もちろん重要であ るが、目先の課題に翻弄されず、将来を見据え た長期ビジョンを早急に示すべきである。

3.医療費の引き上げと患者一部負担の引き 下げ

2007 年の対GDP 総医療費は、OECD 平均 8.7 %、日本は8.1 %で、29 か国中20 位であ る。民主党は昨年夏の総選挙の「政策集 INDEX2009」で、対GDP 総医療費をOECD 加盟国平均に引き上げると明記している。公約 であるので、出来るだけ早く医療費を上げるよ うにということを主張していく。

2001 年を100 とすると、2009 年に消費者物 価指数98.82、実質賃金96.12、診療報酬(全 体)92.27 と下落しており、特に診療報酬の下 落幅の大きさが目立つ。このことを政治家は知 らず、説明をすると驚く。経済指標と大きく乖 離しない診療報酬の設定にすべきである。このことをきちんと政策に活かしていきたい。

日本医師会の調査によれば、国民の62.8 %、 患者の44.7 %が「窓口負担が高くなりすぎだ」 と回答している。通院日数の減少は、患者一部 負担が高いために受診抑制が起きているからと も考えられる。このままでは受診抑制を強めか ねない。少なくとも2 割負担に下げるべきであ ると政府に申し入れて実行してもらうというこ とを考えている。

民主党は、75 歳以上であっても収入のある 人は2 割、やがては3 割に引き上げると言って いるが、我々は大反対である。足りなければ、 消費税や保険料を上げ、国民全体で補うという ことが国民皆保険の基本であると主張している ところである。

4.2010 年度診療報酬改定を振り返る

民主党のマニフェストを作る際に、医師会が 反対していた5 分間ルールといったものを無く すことによって診療所のお金を病院に回すとい ったことはもうさせないということを強く決意 して、それを民主党も認め、診療報酬を上げる と言ったにもかかわらず、財務省は、底上げで はなく、配分の見直しという全く自民党時代と 同じことを主張し続けた。最終的には、財務省 は2 %程度引き下げると主張したが、0.19 %と 10 年ぶりのプラス改定になった。ネットで上 がったというのは本当に10 年ぶりである。

5.医師・看護師不足および偏在の解消へ

医学部新設という動きが起こり、全国で4 つ の病院が申し出た。新しい医科大学を作ること に350 人〜 450 人の新たな教員が必要となる。 そうすると2 次医療圏の医師がいなくなってし まう。

医師不足が言われてから医学部定員を増やし ており、2007 年度を基準とすると、2008 年度 には168 人増、2009 年度には861 人増、2010 年度には1,221 人増である。新設医学部の定員 数を仮に100 人とすると、2010 年度までに既存 医学部で増加した定員数1,221 人は、約12 大学 分に相当する。

今新しく医科大学を作っても、医科大学を作 るのに4、5 年、更に医師が一人前になるのに 10 年掛かる。今のまま医師を増やしていくと 15 年後の2025 年には2.8 人になると見込まれ る。これは現在のG7 平均の2.8 人に近い水準で ある。そこから先は医師過剰となってくるので、 新しい医科大学を作る必要はないと考える。

全国の医学部長・病院長会議で話しをした が、医学部はもう少し定員を増やせるというこ とであるが、私たちは地域枠を作って欲しいと 要求した。また、最後の1 年間を殆ど国試勉強 で費やされているという無駄な授業を止めて、 医学部の中で初期研修を行っていただきたいと 要望した。医学部も賛成し案を出すということ であるので、地域まで入れた初期研修が出来れ ば、後は日医の生涯教育で補っていければいい のではないかと考える。

2006 年度に「7 対1」入院基本料が創設さ れ、看護師不足も強まった。2009 年の日本医 師会のアンケート調査の結果、最近になって も、約6 割の医療機関で、看護職員の採用がま すます困難になったと回答している。

6.医療費抑制策の解消へ

厚労省は「社会的入院」患者を退院させ、療 養病床削減の方針を打ち出し、38 万床ある療 養病床を2012 年までに15 万床に削減すること が決定された。この時点で私たちは41 万床が 必要であると主張し、現実に療養病床の患者さ んを移しようがないこと、家に帰すことができ ないこと等をきちんと政府に説明した。その結 果療養病床の削減を凍結させ、民主党にこの法 律を無くすことを約束していただいた。

2006 年度の診療報酬改定で、発症後早期の リハビリテーションを重点評価するとの名目 で、算定日数の上限が導入された。必要な医療 を必要なときに受けられることが国民皆保険の 基本である。厚労省に見直しを求めているとこ ろである。

診療所と病院の再診料については、次回改定 には元に戻すようにしていかなければならない と考えている。

2010 年度の診療報酬改定では、急性期入院 医療に手厚く財源が配分された。「15 対1」は 慢性期とみなされて評価が下げられたが、その 7 割近くは不採算地区にあって、地域医療を支 えている。身近な診療所から病院への紹介、病 院での急性期医療、回復期医療、慢性期医療、 退院後の診療所への通院、在宅医療等、連携の ためには医療費全体の底上げが必要である。

7.市場原理主義の医療への参入阻止

現政権下において、保険外併用療養の範囲拡 大や医療ツーリズムなどの考え方が出てきてい る。保険外併用療養の範囲拡大については、現 在の評価療養等の機動性を高めるという趣旨で あれば賛成であるが、最終的に混合診療の全面 解禁を狙ったものならば反対である。医療ツー リズムについては、医師が診療をすることは、 日本人、外国人にかかわらず当然の責務であ る。しかし、医療ツーリズムという、産業とし て営利企業が医療に参入することは、混合診療 全面解禁につながる可能性が大きく、容認でき ない。

現在も厚生労働大臣が定める「評価療養」と 「選定療養」は保険診療との併用が認められて いる。この現行制度を有効に活用すべきである。

8.提案要望事項等について

1)特定看護師(仮称)に対する対応について

日本医師会では全国の大病院、中小病院、外 科系、内科系と多方面を選定して調査をした結 果、医療の現場では、チーム医療の中で、医師 の教育・指導によって看護師が積極的に医療行 為を行っていることが分かった。特定看護師を 決めてしまうと今やっている看護師が医療行為 を出来なくなり、日本の医療に悪影響を及ぼ す。当調査結果を中医協、厚労省へ持参して検 討をお願いしたところである。

2)来年度の医療・介護保険同時改定に向けて

改定の原案が出る前に早めに医師会から案を 提示出来るよう二つのワーキンググループを作 った。一つは、医療と介護の位置づけについ て、もう一つは、医療費と介護費の技術の原 価、物の原価、こういうものをきちんと精査し た上でこれだけのものが必要であるときちんと 示せるようにしたい。

3)介護型療養病床の全廃法案は、いつ法的廃止 が決定されるのか

民主党はきちんと撤廃すると約束しているの で、必ずやっていただけると思う。

4)療養病床再編について

療養病床は41 万床が必要だと主張しており、 高額な医療費を必要としない許可病床を多くす ることを提案している。

5)有床診療所の行方

有床診療所は、往診や訪問介護等が最も適し た施設であるという有用性を主張し、有床診療 所が成り立つだけの入院料にして欲しいと要望 している。

6)日本医師会の組織力について

保険医は全員医師会に入るべきであると考え る。地域医療を守るために全員参加の下に医師 という同じ立場で行動してもらうような組織に することが大切であるので、今後医師会の中で 協議を行うと同時に、全国の知事と話しをした いと思っている。国民のためのきちんとした地 域医療の責任者は県医師会長と知事だというこ とを明確にしながら運営するような仕組みを作 っていかなければいけないと考えている。

7)医師会推薦候補に関して

当面は組織内候補は考えていない。基本的に は今のように私たちが厚労省或いは政府の方々 と直接話しをすることができない場合に、そう いう人が必要だと思っている。

質疑応答

フロアーからの質問に原中会長が次のとおり 回答された。

○質問:薬剤費はもっと下げられるのではない か。新薬はしょうがないが、ゾロ新はもっと 下げられるだろうし、長期で服用する慢性疾 患の薬は他の薬よりやや高くなっている。患 者さんのためでもある。薬剤費のことを日医 から提言していただきたい。

●回答:今の制度自体が正しいかどうかをきちんと提案しなければならないと考える。

○質問:事業税等の問題については、日医が努 力されていることは承知している。若干不確 定情報かもしれないが、日医が診療報酬を大 幅にアップすれば、事業税は払ってもいいと いう考えであるという声が入っているので、 そのような取引は是非止めていただきたい。

●回答:初耳である。薬の損税の問題、事業税 の問題等、税制に係ることを政府と話してい るところである。取引には絶対使わない。両 方を解決する努力をしている。

○質問:診療報酬改定の年と日医の会長選挙の 年がぶつかっている。そうすると厚労省等と 交渉する場合に会長選挙の最中では、なかな か全神経を集中させることが出来ないのでは ないかと考える。会長選挙と診療報酬改定の 時期がずれるようにしていただきたい。

●回答:代議員の先生方にその点を検討いただ くことにしたい。大切な6 年に1 回の同時改 正に関しては、そのようなことは考えずに一 生懸命成果を上げるために努力する。

○質問:日医連の推薦候補の存在意義について どう考えているのか。今後選挙があるが、そ の時にはどういう態度で臨むのか、現時点で の考えをお聞きしたい。

●回答:一番大切なのは票の数である。誰を推 すかということ以上に日医連が何票持っている かで判定される。組織内候補が本当に必要か どうか。日医の医師を政府に到達させることが 日医連の役目だとすれば、日医連の活動は、別 な面の活動の方がとても有効なことが多い。