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第110 回九州医師会総会・医学会及び関連行事

V.第110 回九州医師会総会・医学会

日 時:平成22 年11 月13 日(土) 午後1 時〜
 場 所:城山観光ホテル(鹿児島市)

第110 回九州医師会総会

九州医師会連合会会長挨拶 (池田哉鹿児島県医師会長)

先月20 日奄美大島で起きた記録的な集中豪雨による被災に対し、九州各県の皆様から激励 と心遣いをいただいたことについてお礼が述べ られた後、概ね次のとおり挨拶が述べられた。

この3 日間に亘る九医連のメインイベントが 地域医療を支える私どもにとって、実り多い成 果をあげ行く先に一筋の光明が見え、羨望が開 けていくよう期待している。

この上半期、尖閣諸島問題、ゼロ金利下の円 高不況や雇用の悪化と失業率の上昇等々、国政 は内憂外患の様相を呈している。医療界もま た、多事多難である。ますます深刻化する慢性 的な医師不足と、地域ごと診療科ごとの偏在の 問題を抱えながら、最近、降って沸いたように 浮上してきた新国家戦略に伴う、医療ツーリズ ム構想や、混合診療の拡大に伴っての医療界へ の株式会社進出が懸念される。これらの諸問題 は、公平性、平等性を根幹とする国民皆保険制 度を揺るがす大きな社会問題となっている。

細川律夫厚生労働大臣は、社会保障と医療の あるべき姿を、高らかに宣言しているが、国民 がおかれている厳しい現実の状況を踏まえ、公 平・公正なかたちで具体化・具現化するよう期 待している。菅直人首相も、自ら有言実行内閣 の出発と位置づけておられるが、医療・介護・ 福祉を担う現場の声なき声をきめ細かく吸い上 げて、熟期を重ねてほしいものである。

国民医療を取り巻く諸情勢と九州医師会連合 会としての取り組みについては、宣言(案)・ 決議(案)にくまなく盛り込んでいる。ご議 論、ご承認下さるよう、お願い申し上げる。

来賓祝辞

原中勝征日本医師会長
(代読:横倉義武日本医師会副会長)

第110 回の九州医師会連合会総会の開催を衷 心よりお祝い申し上げる。

我が国は国民皆保険制度のもと、世界的にも 高い評価を受けている。しかし、わが国の高齢 化は、世界に類を見ない速さで進み、それに伴 う医療費の増大が問題となっている。加えて、 少子化による生産年齢人口の減少と長引く経済 の低迷とが医療財源の逼迫に更なる拍車をかけている。こうした状況のなか、昨年8 月に発足 した民主党政権は、社会保障に重点を置く政策 マニフェストを打ち出し、我々医療従事者とし ても大きな期待を寄せるものである。

ところが、最近の新成長戦略の一環として打 ち出される医療政策を見てみると、営利企業の 関与による組織的な医療ツーリズムやデバイ ス・ラグ、ドラッグ・ラグの開帳などを理由に 混合診療全面解禁を後押しするような空気が出 てきたことは、誠に遺憾である。こうした政府 の動きを正し、日本の医療を立て直していくた めには、団結性、戦う医師会をつくり上げ、そ こから医師の誇りと医療への国民の信頼を取り 戻すための秘策を展開していくことが必要不可 欠である。

九州医師会連合会の先生方においては、こう した本会の方針をご理解いただくとともに更な る医師の団結に向けてより一層ご支援を賜るよ うこの場をお借りしてお願いを申し上げる。

続いて引き続き、伊藤祐一郎鹿児島県知事、 森博之鹿児島市長、吉田浩己鹿児島大学学長 よりそれぞれ来賓祝辞が述べられた。

宣言・決議

慣例により議長に池田九州医師会連合会会長 が選任され、池田議長進行のもと、宣言・決議 (案)について協議が行われ、異議なく原案ど おり承認された。

なお、宣言・決議の送付先等については担当 県に一任された。

次回開催担当県医師会長挨拶

来年度の総会、医学会、分科会、記念行事 は、平成23 年11 月19 日(土)、20 日(日)、 ホテルニューオータニ佐賀を主会場として、開 催するので多くの先生方の参加を賜りたい旨挨 拶が述べられた。

宣  言

脱官僚・政治主導・「コンクリートからヒトへ」 のスローガンを掲げた民主党政権が誕生し、明るい 展望が開けるかに思えた。しかし社会保障政策、特 に医療政策は相も変わらぬ財政主体で財務官僚主導 の厳しいものとなった。今回の診療報酬改定も僅か なプラス改定に終わり、地域医療を担う中小病院・ 診療所にとっては極めて厳しい内容となり、地域医 療提供体制の崩壊が懸念される。

国は国民に公平かつ安心で安全な良質の医療や充 実した介護を提供する重大な責務を負っており、崩 壊寸前の地域医療を守るために、我が国の総医療費 増額による社会保障の充実を早急に図るべきであ る。

我々は現在の世界に冠たる国民皆保険制度を堅持 し、国民医療をさらによりよく推進することを九州 医師会連合会の総意としてここに宣言する。

平成22 年11 月13 日
  第110 回九州医師会連合会総会

決  議

我々九州医師会連合会は、政府に対し、次の事項を強く要求する。

一、国民皆保険制度の堅持と患者自己負担の軽減

一、社会保障の充実と質の高い医療・介護提供のための財源確保

一、混合診療に代表される「市場原理の医療への導入」の阻止

一、高齢者にやさしい医療制度の確立

一、地域医療の崩壊を阻止するための医師不足、医師偏在の解消

一、介護療養型医療施設の存続と必要な療養病床の確保

一、事業税非課税と租税特別措置法の存続

一、控除対象外消費税の解消

一、勤務医、女性医師の就業環境の改善・整備

一、准看護師養成制度の堅持と助成の拡大及び三層構造の堅持

以上、決議する。

平成22 年11 月13 日
第110 回九州医師会連合会総会

第110 回九州医師会医学会

去る11 月13(土)13 : 00 より、城山観光 ホテル4 階「エメラルドホール」において第 110 回九州医師会医学会が開催されたので、そ の概要を報告する。

特別講演Tは、坪内博仁先生(鹿児島大学大 学院医歯学総合研究科消化器疾患・生活習慣 病学教授)より、「肝炎診療の進歩と実際」と 題して講演があった。

わが国の肝癌死亡率は、ほとんどがB 型およ びC 型肝炎ウイルスに起因する肝細胞癌で、全 体のほぼ80 %を占めている。

B 型肝炎ウイルスは、主に母児間感染により 生じ、成人になるに伴い発症し、70 〜 80 %は 臨床的に治癒した状態になるが、20 〜 30 %が 慢性肝炎に移行し、その一部が肝硬変、肝癌 に進展する。B 型慢性肝炎に対し、2000 年に 認可されたラミブジンは、ウイルス変異による 耐性株の出現頻度が高かったが、2004 年に認 可されたエンテカビルは、その頻度が低く、現 在B 型慢性肝炎に対する第一選択薬となって いる。

C 型慢性肝炎は、1992 年より24 週間のイン ターフェロン治療の導入により、高ウイルス 量、ゲノタイプ1 型、線維化進展等が難治例の 特徴であることが明らかになった。2004 年よ り難治例に対するペグインターフェロンが保険 適応となり、難治例であっても持続的ウイルス 学的著功率は50 %に上昇し、現在では、治療 効果に関連するウイルス因子としてISDR、コ ア70 および91 番アミノ酸置換、IRRDR が明 らかになった。さらに、高ウイルス量、ゲノタ イプ1 型の初回治療例や、初回治療再熱・無効 の再治療例を対象とした、新規プロテアーゼ阻 害薬やポリメラーゼ阻害薬の開発が進められており、持続的ウイルス学的著功率の更なる向上 が期待されている。

ウイルス性肝炎に対する治療法が進歩する一 方、非アルコール性脂肪肝炎に起因する肝癌が 増加している。当肝炎は、脂肪肝を背景とした 生活習慣と関連する疾患であり、その病態の解 明等は今後の肝臓病の大きな課題である。

特別講演Uは、末吉竹ニ郎先生(国連環境計 画・金融イニシアティブ特別顧問)より、「地 球温暖化時代の医師の役割」と題して講演があ った。

印象記

安里哲好

常任理事 安里 哲好

九州医師会連合会主催の3 日間に及ぶ三つの行事である。九州医師会主催医学会の前日に九州 医師会連合会常任委員会(各県会長会)、同臨時委員総会と委員・各県医師会役員の合同懇談会が あった。中日に、委員・県医師会役員合同協議会による原中勝征日医会長による「中央情勢報告」 と各県から7 つの提案要望事項についての回答があった。午後の早い時間に、鹿児島県知事・鹿 児島市長・鹿児島大学学長をお招きして、九州医師会連合会総会があり、その会の終わりに宣言 文と決議文を承認した。午後の部は医師会医学会で、二つの特別講演があり、一つは医学に関す る講演で、もう一つは文化講演であった。3 日目は7 つの分科会と8 つの記念行事があった。

この度、印象に残ったのは原中会長講演で、医療制度や医療界の諸問題についてかなり見識を 有し、ご自分の意見を持って適切に発言されている感じを強く受けた。また、政府に対しても、 必ずしも医師会の代表を送らずとも、医療政策をきちっと提言して行くと同時に、情報交換や問 題提起の際における複数のパイプを作り利用して行くと述べており、実際既に実践しているよう だ。発言し実行する執行部との感を得て、内閣府や厚労省に対して真正面から取り組んでいる印 象を受けた。植松元会長は小泉政権からほど遠い距離を置き、唐澤前会長は自民党前政権と共に 生きて・一体となっていた感がした。現会長に関して、会員は民主党を支持して来たとの印象を 強く持っておられるようだが、各政党に対しても等距離で臨み、医療政策で持って提言して行く と述べていた。代理人(日医代表の国会議員)が居ないので、自らの足で情報を収集し、政策提 言や意見を主張して行くことは大変な労力を要すると思われるが、一方、常に国民の保健・医療 のためと言う使命感を堅持していれば日医の強い力となろう。

3 日目はいつも記念行事の懇親ゴルフだが、今回は来年3 月までの内科認定医の単位が不足し て、鹿児島大学医学部の鶴陵会館ホールの内科学会に参加し、高血圧の50 %のルールとCOPD は15 年後に死亡率3 位になるとの事、また肥満と糖尿病治療のパラダイムシフトについて学ん だ。桜島は今度も黄砂にて霞、最後までその姿は稜線がおぼろげであった。

印象記

大山朝賢

常任理事 大山 朝賢

九州医師会連合会委員・九州各県医師会役員合同協議会(鹿児島市)における原中勝征日本医 師会長の中央情勢報告は漸進ですばらしい講演であったと思う。エビデンスに基づくストーリー はどれもごもっともというものであったが、2 〜 3 のスライドについて印象を記した。

スライドのタイトル「これからの日本社会」をみると、日本の65 才以上人口は2042 年にピー ク(約3,900 万)を迎える。2055 年には65 才以上が41 %になるのに対し、就業人口(15 〜 64 才)は51 %である。65 才以上老人対就業人口の比は1 対1.3 となる。これに対しスライドタイト ル「医療費の現実」をみると、1 人当りの年間医療費は70 才未満15.7 万円、70 才以上75.8 万円 (2001 年のデータ)であった。つまり70 才以上の医療費は70 才未満の5 倍もかかっているので ある。このままでいくと近い将来、老人医療費は就業人口では支えきれなくなるのは明白である。 つまり現在のすばらしい国民皆保険制度を堅持していくにはいくつかの改革が必要になるであろ う。私は高齢者医療に携わって30 年以上になるが、まず頭に浮かぶのは、医療費の削減よりも Living will 法制定を優先させるべきと考えている。

私が日本医師会の地域医療対策委員をしていた時(平成18 年)、日本医師会の役員の方々には 誰ひとりとして医師の絶対数の不足を声にする者はおられなかった。病院の医師が足りないのは 医師の偏在によるものであり、医師の絶対数は足りているという算段であった。それからしばら くして、平成16 年からはじまった新臨床制度のあおりを受けて医師不足が叫ばれるようになっ た。この医師不足に対応して2010 年までに医学部の入学定員は従来よりも1,221 人増加したが、 新たな医学部の増設やメディカルスクールの新設の必要性をとなえるものも出てきた。これに対 する原中会長のスライドタイトル「今後の医師数の見通し」は説得力があるように思われる。 2010 年の我が国の医師数は人口1,000 人に対し、医師数2.2 人である。これが2025 年には2.8 人 と見込まれ、これは現在のG7 平均医師数2.9 人に近い水準であるというのである。つまり医学部 やメディカルスクールの増設や新設は不要であり、むしろ医師過剰にならないようある時点から 現在の医学部の入学定員を削減せねばならなくなるということである。これらの事例をあげてみ てもわかる通り、ほぼすべてのスライドはアカデミックであり、バラバラに進軍する民主党軍団 幹部や他の“大物”を説得するに足る資料と思われた。

印象記

稲田隆司

常任理事 稲田 隆司

印象記という事で3 点程挙げておきたい。

原中勝征会長の堂々とした御講演は新執行部の活力を感じさせたが、医政に関して「一番大切 なのは票の数である。誰を推すかということ以上に日医連が何票持っているかで判定される。組 織内候補が本当に必要かどうか」という発言は気にかかった。はたしてそうか。信頼で構築され た組織内候補の活動は票数が一つの要因となるにせよ、それを越えて有形無形の力となるのでは ないか。この点は今後大きな議論になると思われた。

次に末吉竹二郎先生(国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問)の御講演は、「地球温暖化 時代の医師の役割」と題して二酸化炭素を軸に現在、近未来の世界情勢、経済を論じて鮮やかで あった。「悪>二酸化炭素>善」のルールがグローバルとなり産業が再編成されるとして、その大 きな流れの中で医師もその社会的責任を自覚して欲しいと問いかけられた。最後に池田哉会長 を中心に鹿児島県医師会の皆様の温かな心配りはありがたかった。

焼酎の数々、薩摩料理の美味、綿密な会務運営が心に残り、桜島の噴火を観ながら帰路に着いた。

印象記

平安明

理事 平安 明

去った平成22 年11 月12 日から14 日の3 日間にわたり、鹿児島市において開催された九州医 師会連合会総会・医学会関連諸行事に参加してきたので報告する。

平成22 年6 月から九医連委員をさせてもらっているが、実は私はこの九州医師会総会・医学会 への参加は今回が初めてである。これまで、スポーツ等の記念行事に参加するわけでもないので、 自分とは縁がないものとして特に関心を寄せることもなかったが、今回参加してみると他県の理 事との生きた情報交換を主とした、とても有意義な収穫がたくさんあった。

臨時委員総会、合同協議会、九州医師会総会の内容については前述の議事録に詳細が書かれて いるので参照していただきたい。医学会については其々の分科会毎に内容を工夫してもたれてい たが、分科会に含まれていない診療科の先生方は、ほとんどこの医学会には参加する機会がない のではないだろうか。日医会長原中勝征先生による「中央情勢報告」や鹿児島大学の坪内博仁先 生による「肝炎治療の進歩と展望」、国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹二郎先 生による「地球温暖化時代の医師の役割」など、特別講演はどれも内容が濃く非常に勉強になっ たため、今後より多くの先生方が参加できるように工夫してもよいのではないかと感じた。