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第123回日本医師会臨時代議員会

玉城信光

副会長 玉城 信光

平成22 年10 月24 日(日)、日本医師会館に おいて標記代議員会が開催されたので、その概 要を報告する。

定刻になり、石川議長から開会、挨拶が述べ られた後、受付された出席代議員の確認が行わ れ、定数357 名中、出席350 名、欠席7 名で過 半数以上の出席により、会の成立が確認された。 その後引き続き、石川議長より議事録署名人と して、薬袋健代議員(山梨県)、永尾隆代議員 (香川県)が指名され、議事が進行された。

原中会長 所信表明

原中会長の所信表明で概ね以下のことを述べ られた。

私が4 月の会長選で獲得したのは、3 分の1 をわずかに超える票数だった。私が推薦しなか った先生も執行部に入り、いろんなところから 「ねじれ執行部」であるとの批判を受けた。し かし幸いなことに、全国すべての医師会の推薦 を受けた先生で構成される歴史的な執行部にな った。各役員は政界や厚生労働省に対し、非常 に活発に自分の担当分野の説明に回っている。 単に政策を押し付けられるのではなく、医師会 が自分たちの立場を提言するという意識を持っ て行動してもらっているのは非常に心強い。

6 月に鳩山内閣が総辞職し菅内閣ができた。 「おまえは小沢派だから、除外された」とよく 言われたが、決してそうではない。私は「政治 に左右される日医であっては国民が不幸にな る」との信念の下に行動している。この6 カ月 間、新執行部は予想した以上に心を一つにし て、会員と国民のために医師会がどうあるべき か論じてきた。結果は少しずつ出ている。今、 小泉内閣時代やそれ以前からの医療費削減が原 因となって地域医療が崩壊している。地域医療 の崩壊を1 日も早く直すことが私たちの使命で ある。全身全霊でこのことに力を注ぎたい。

官僚に医療を束縛しようという態度が見られた場合には医療崩壊が起こる。われわれ医師会 こそ国民を守っているという姿を国民に見せ て、国民を味方にしていくことが必要だ。一方 的な意見で医療費が右へ行ったり左へ行ったり することのないように、医療費が決まる前に医 師会が意見を述べなくてはならない。

会内の問題については、1 人1 人が医師会員 であるという自覚を持たなくては、医師会は強 くならない。外の問題では、消費税、同時改 定、医学部新設・メディカルスクール、医療特 区・混合診療・医療ツーリズム、特定看護師・ 看護師業務の拡大、指導監査など、これまで引 きずってきた問題が残されている。医療を良く しようとする厚労省の政策ではなく、経済産業 省や財務省、文部科学省など、比較的、われわ れと疎遠な省庁からの提案が多い。われわれは 国民皆保険制度を死守するために、これに害す ることは徹底して反対していく。

医師は保険医になるときに、地域の医師会に 全員が入会するような法律改正をお願いしない といけない。勤務医と診療所医師は同じ医師で ありながら、まったく違う仕事をしているかの ような印象をマスコミがつくってしまった。医 師はどこで働いていても、生命倫理に基づいて 行動している。医師は聖職であり、病気の苦し みから脱却させるための職業だ。勤務医だろう と診療所医師だろうと心を1 つにしたい。

地域医療は医師会と都道府県行政が一緒に構 築することが大切だと思う。地域医療の構築は、 都道府県の医師会が中心となって進めてほしい。

我々は今後も、会員のため国民のために仕事 をしていきたい。

原中会長の所信表明に引き続き、横倉副会長 から平成22 年4 月から現在までの会務報告が 行われた後、議事に移った。

議事は、下記の4 議案が提示され、第1 号議 案から第4 号議案まで一括上程された。

1)羽生田副会長よりそれぞれ提案理由(決算説 明)の説明が行われた。

2)議長より第1 号議案から第4 号議案まで一括 審議を付託する財務委員15 名の紹介が行わ れた。

なお、財務委員会は議事進行の都合により 設置されており、代議員会開催中または閉会 中でも開催できるよう第121 回臨時代議員会 で設置が承認されたものである。

(九州ブロック財務委員 福岡県:松田俊一 良代議員 佐賀県:横須賀巌代議員)

3)三宅直樹財務委員長より、本日の代議員会に 先立って前日(10/23)開催した財務委員会 について、15 名の委員中14 名出席が出席 し、関係役員から説明を受け、慎重に審議し た結果、出席者全員が適正と認め提案通り承 認決定した旨の報告があった。

4)三宅財務委員長の報告を受け、第1 号議案〜 第4 号議案一括表決を行った結果、賛成起立 者多数で承認可決した。

第1号議案 平成21年度日本医師会一般会計決算の件

第2号議案 平成21年度医賠責特約保険事業特別会計決算の件

第3号議案 平成21年度治験促進センター事業特別会計決算の件

第4号議案 平成21年度女性医師支援センター事業特別会計決算の件

会長の所信表明、会務報告並びに各ブロックか らの代表・個人質問

議事に引き続き、会長の所信表明、会務報 告、ブロックからの代表・個人質問が行われた。

原中会長の所信表明に対する質問について は、「医師は保険医になるときに、地域の医師 会に全員が入会するような法律改正をお願いし ないといけない」と述べたことに対し、「どの ような形を考えているのか」との質問があり、 原中会長は、「医師会への加入が義務付けられ ているドイツやフランスなどの制度を想定して いる。地域の医療は開業医と勤務医が協力した 地域の医師会が守らなければならない。統制の 取れた活動をするために、弁護士会や欧州の例を参考として、日本も一つの医師会がたばねる ことが必要である。全員加入が実現すれば公的 な扱いを受けることができると利点であり、国 民のための医療を全うすることができる」又、 「実現には困難を伴うが、今後、全国知事会や 4 病院団体協議会等との話し合いが必要」と答 弁した。

会務報告に対する質問としては、会務報告に 関する資料の配付が無かったことから、次回か ら資料を配付するよう要望があった。

執行部に対する各ブロックからの質問は、代 表7 題、個人15 題で、「政府のライフ・イノベ ーション・新成長戦略への日医の対応」、「医師 負担軽減策対策としてのメディエータ養成、 ADR(裁判外裁判)の導入」、「新高齢者医療 制度についての日医案」、「指導大綱・監査要綱 見直し、保険指導等」、「医療連携」、「受診抑 制」、「診療報酬改定の方向性」、「中小病院・有 床診療所支援」、「消費税問題」、「介護保険問題 (介護療養型医療施設廃止撤廃、介護サービス 医療制度廃止等)」、「公益法人制度改革」、「日 医広報のあり方」、「医療ツーリズムと特区体 制」、「日医広報のあり方」、「弱くなった医師会 を強くするための提言」等、多岐にわたる質問 が取り上げられた。

なお、主な質問の回答は以下のとおり。

■指導大綱・監査見直しについて

指導監査は、確かにすべて経済的な理由から 行われていることは明白である。今年9 月、厚 労省の元指導官が汚職で非常に問題になった ところだが、藤村修副大臣と岡本充功政務官を 中心に、この2 つの要綱を見直そうということ になっている。これを機会に経済という観点か らではなく、医療という観点の指導監査に切り 替えてもらう努力をしていこうと思っている。 また、日医として指導大綱・監査要綱の改正案 を提示し、厚労省の三役と協議する。

■政府のライフ・イノベーション・新成長戦 略への日医の対応

医療・介護に経済成長の牽引産業としての役 割を担わせることは間違っている。それを期待 した途端、医療・介護は営利産業化へ突き進む ことになる。混合診療の全面解禁、自由診療市 場の拡大に向けて、政治を含めた大きな力が働 くことは明白である。医療の営利産業化は日本 国民が受ける医療に格差をもたらす。日本の医 療を市場と見なすことは、混合診療全面解禁の 後押し、株式会社参入の突破口になり国民皆保 険の崩壊に繋がる。

病院団体の一部には、医療ツーリズムに賛成 するところがある。背景には、特に中小病院の 経営難があり、経営努力の中で医療ツーリズム にも活路を見い出そうとしているのではないか と思う。日医はこれを批判するつもりはない。 今回の診療報酬改定でも、大病院中心の手当て に終わっているからだ。政府はこれ以上、診療 報酬を上げられないから、外国から富裕層を連 れてきて経営原資にしろと言っており、本末転 倒である。病院団体には引き続き理解を求めて いくとともに、診療報酬の全体的底上げも徹底 して求めていく。

■医療ツーリズム・特区構想について

患者が日本人か外国人かを問わずに診察、治 療するのは、人道的見地から見て医師の当然の 責務である。しかし、政府が新成長戦略として 掲げる国際医療交流や特区構想は「アジアなど の富裕層を医療目当ての観光客として来日させ る」というビジネス優先に偏った極めて狭く低 い視点から発想されている点に大きな問題があ る。高い診療費を支払う外国人患者を優先的に 扱う医療機関を行政が後押しし、営利企業が投 資行動などを通じて関与するという組織的な医 療ツーリズム。それが実現すると、地域医療の 現場のニーズに応えられるバランスの取れた再 投資が困難となるリスクがある。また、患者の 選択や不採算部門からの撤退も強く危惧される。

自由診療や自由価格の医療市場の拡大によっ て、混合診療の全面解禁、公的医療保険給付範 囲の縮小、患者負担の増大が進行すると医療全 般の質も低下し、地域医療崩壊を止めようがなくなる。医療ツーリズムという1 分野に偏った 視点で論を進めることは、地域医療の実情から 目をそらし全体の制度をゆがめ、築き上げられ てきた日本の医療制度を崩壊に導くことにほか ならない。

■診療報酬改定の方向性について

日医2010 年度レセプト調査結果報告では、 今回の診療報酬改定は大規模急性期病院に資源 が集中した一方で、診療所や中小規模病院は苦 戦する状況になっていることがうかがえる。地 域医療を支えるためには、すべての医療機関の 底上げが必要だ。今回の改定に際して「社会保 障費2,200 億円の削減方針」を撤廃したことは 評価したとしても、現政権の大病院に偏った政 策を改めさせる必要がある。

日医では、次回12 年度の診療報酬と介護報 酬の同時改定に向けて、医療と介護の同時改定 に向けたプロジェクト委員会と、基本診療料の 在り方に関するプロジェクト委員会を設置し た。2 回連続で診療報酬が大病院に大きく配分 された結果を受けて、次回改定では中小病院や 診療所にしっかり配分させるために、中医協を はじめあらゆる場で主張する。

■高齢者医療制度見直しについて

世界に誇れる国民皆保険を堅持し、医療再生 を実現するには、高齢者の医療保険制度だけを 見直すのではなく、若者も含めた全世代の医療 保険制度を一体的に改革し、再構築する必要が ある。執行部であらためて医療保険制度の抜本 的改革の議論を深めてきた。

現在の進捗状況としては、「日本医師会国民 の安心を約束する医療保険制度」(仮称)を作 成し、常任理事間での数度の議論を経て、先 週、理事に概略を説明した。この中でも、高齢 者の医療を手厚くという方針は貫かれている。 「すべての国民が同じ医療を受けられる制度」 「すべての国民が支払い能力に応じて公平な負 担をする制度」を基本理念として、段階的に改 革を進め、最終的には2025 年以降に公的医療 保険制度の全国一本化を目指している。実現に はさまざまな課題もあるが、年齢や地域、所得 の違いによる格差のない制度でなければならな い。改革の基本方針と道筋、公的医療保険の給 付範囲、診療報酬体系、医療費水準、患者一部 負担割合、財源の在り方に詳しく言及した。国 民の理解を得られるよう想定される課題につい て一つ一つ検討を重ねてきた。

日医の新たな医療保険制度改革案は来月早々 にも発表する予定だ。内容をご確認いただき会 員の先生方のご意見を賜りたい。医療を守りた いという思いがしっかり届くよう、国民や与野 党国会議員の理解を得る努力をしていく。

■公益法人制度改革に伴う母体保護法指定医 師の指定権移行に関して

日医は、「母体保護法指定医師の指定権に関 する検討小委員会」をプロジェクトとして立ち 上げ、現在、審議継続中である。小委員会で は、これまで都道府県医師会が母体保護法指定 医師の指定という社会的使命を果たしてきた実 績があり、これを正当に評価すべきである。公 益社団や一般社団などの法人形態にかかわら ず、従来通り、都道府県医師会が母体保護法指 定医師の指定権限を保持すべしという意見が上 がっている。

日医として、国や都道府県に指定権が移るこ とは断固として阻止していく。現実的な対応と して、法改正までの暫定的措置で引き続き都道 府県に指定権を残すというような交渉も必要と 考えている。

■医療連携のための方策

かかりつけ医機能を中心に据えて地域連携を 推進することが、地域医療を再生につなげる方 策だと思う。地域連携の基本的制度と診療報 酬・介護報酬は全国的な視点で考えるべきであ るが、各地域の実際の連携体制は、国による画 一的なものではなく、都道府県医、郡市区医を 中心に地域の実情に応じて構築すべきである。 国民皆保険による全国的な医療の保障と地域の実情に応じた医療提供体制構築を両立させるこ とが日医の大きな役割である。日医では、再来 年の同時改定、高齢者医療制度見直しに向け、 医療と介護全体の底上げが最重要課題だと考え ており、かかりつけ医が十二分に役割を発揮 できるよう努めていく。

2013 年度から第2 期の4 疾病5 事業の医療計 画が始まる。医療計画は、医師会が中心となっ て地域の特性を十分に反映し、基本的には地域 で完結した連携を構築できるものであるべきだ と考えている。地域医療再生基金へのかかわり 方は地域で濃淡があるが、地域医師会主体の連 携が構築しやすい制度を実現することが日医の 役目である。地域連携クリティカルパスについ ては、地域全体をカバーする医師会が拠点病院 と連携し、かかりつけ医と勤務医が共同で、地 域全体として標準的な医療を構築していくこと が必要である。

■中小病院・有床診療所支援

中小病院や有床診療所の経営基盤の安定化に は、日医も財源確保や診療報酬の面から努力し ている。しかしながら収入増は簡単ではなく、 「税に対して支援を」という提言には同感であ る。2011 年度の税制改正要望には社会保険診 療の非課税問題、事業税の非課税問題、4 段階 税制、医療機器・建物の減価償却など、中小病 院や有床診療所にも重要な要望をしている。こ れらの要望が実行されることが中小病院や有床 診療所の経営安定化につながる。実現に向けて 都道府県、あるいは地区医師会でも関係議員ら に働き掛けをしてもらいたい。

■消費税見直し

日医は重点項目の第1 に医療機関の消費税問 題を挙げている。医療機関の消費税負担の実態 は極めて深刻な状況である。抜本的な税体系の 見直しの前に道筋を付けたいというのが原中執 行部の考えであり、その第一歩として日医、四 病院団体協議会が連名で税制要望書をまとめ、 消費税の見直しを最重要項目に掲げて関係機関 に働き掛けているところである。

■介護療養型医療施設の撤廃について

介護保険でも医療のかかわりが一層重要にな ると考える。先般、厚生労働省が公表した医療 施設・介護施設の利用者に関する横断調査の結 果を見ても、施設の医療区分は介護療養の患者 では医療療養の患者よりも医療区分1 の割合が 高く、医療区分2 ・3 の割合が低い状況であ り、医療療養では医療区分3 の患者が増加し、 介護療養と医療療養の機能分化が進みつつある ことが分かる。

同時に公表された厚労省の療養病床の転換意 向等調査の結果を見ると、転換が行われた約2 万1,000 床のうち、介護療養型老健は約1,000 床と極めて少ない。今後の転換意向も「未定」 と答えた施設が約60 %あり、転換ができない 理由として「地域のニーズや、利用者の状態で ほかの介護施設などへの転換が難しい」として いる施設も多いことから、地域での医療と介護 のニーズを把握した上で、介護療養病床を存続 すべきと考えている。