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環境汚染、食の安全性を考えさせる3 冊の本

石川清和

今帰仁診療所 石川 清和

「沈黙の春」
レイチェル・カーソン 新潮社 1962 年

1962 年に発刊された農薬・化学物質のよる 環境汚染・健康被害の拡大を警告した本であ る。害虫駆除や除草の為、農薬が畑や森にまか れ害虫と一緒に様々な昆虫が死に、続いて鳥た ちが死んで森に沈黙が訪れる。再読して最初に 読んだ時の強烈な印象を思い出した。現在も私 たちは微量ではあるが様々な化学物質・農薬を 無防備に摂取したり暴露され続けている。現在 年間10 万種類を超える化学物質が工業的に生 産され、その内約5,000 種類は1,000 トン以上 使用されている。それぞれの毒性は低くても、 複合汚染、食物連鎖による蓄積した時の毒性は きちんと評価はされていない。増え続ける不妊 症、子どもたちの問題行動、生活習慣病・癌、 鬱や衝動的行動等への関わりを問いかけさせ る。2006 年北海道産の有機栽培の南瓜から検出された残留農薬(30 年前に使用禁止になっ た有機リン系農薬)の問題は、自然環境への 様々な化学物質・農薬の散布・蓄積が深刻な問 題である事を物語っている。また最近の蜜蜂の 失踪事件は彼女がこの本の中で予言した「昆虫 がいなくなる実りのない秋」が現実になりつつ ある一つの現象なのかもしれない。

「ハチはなぜ大量死したのか」
ローワン・ジェイコブセン文藝春秋刊2009 年

原題「fruitless fall」はレイチェル・カーソ ンの最悪の未来図の一つであった。2005 年か ら始まったミツバチの大量死、あるいは巣箱が 空になる行方不明の蜜蜂たちが大きな問題にな っている。その原因の最も疑わしいのは有機リ ン系農薬に変わる新たな農薬として汎用される ようになったネオニコチノイド系農薬である。 これらの農薬は種子に浸透させるだけで、植物 が成長しても植物全体に浸透し、花粉や蜜を通 して昆虫に移行していく。大量に使用された農 薬、化学物質は土壌中に蓄積し、その農薬を植 物が吸収浸透することで花粉や蜜を通してハチ たちに取り込まれていく。農薬の量は極微量で 急性毒性はなくても、様々な農薬が慢性に作用 することで蜜蜂たちの免疫力を低下させ、疾病 にかかり易くしたり、また巣箱の位置が分から なくなったり、社会行動(成虫になりまずは育 児蜂・女王世話蜂・巣板建設蜂と仕事の分担が 分かれ、育児蜂が次に貯蔵蜂となり蜜や花粉を 加工するようになり最終的には採餌蜂となって 外で花粉や蜜をとりにいくようになる、仕事の 分担が変わっていく)が出来なくなったりして いる可能性がある。ネオニコチノイド系農薬はアセチルコリン受容体に結合しその機能不全を 引き起こす。人間においてのコリン受容体機能 不全の代表疾患はパーキンソン病とアルツハイ マー病であり慢性中毒は人類の未来へも暗い影 を投げかけている。

「生命の医と生命の農を求めて」
梁瀬義亮 地湧社 1998年

第2 次世界大戦で開発され生産された大量の 有機リン系毒物は戦後農薬として普及してい く。1950 年代からその毒性に警鐘を鳴らした のが梁瀬義亮である。(レイチェル・カーソン よりも早い)その当時は、収穫後の野菜を日持 ちがよくなるという理由でパラチオン(有機リ ン系農薬)を入れた水に漬けて出荷するのが流 行っていた。そのため、有機リン農薬の慢性中 毒による、肝障害、癌、精神障害による自殺が 急増し梁瀬医師は農薬の害だと指摘した。しか し、農家自身も保健所、厚生省ともに農薬によ る害を否定し続けた。そのため彼は自分自身で パラチオンを散布した野菜を食べる人体実験を したのである。その結果、農薬の慢性中毒には 「毒物自身の蓄積」以外に毒物が体内で分解さ れる過程で起る人間の軽微な体細胞の障害が蓄 積して起る「作用の蓄積」があるとした。不 眠、焦燥感、鬱等、ふるえ等の神経症状、肝腫 大、口内炎、下痢等の胃腸障害、手足の冷え、 低血圧等の自立神経失調症状、さまざまな症状 を呈すると指摘している。現在でも日本の単位 面積当たりの農薬の使用量は世界一であり、ア メリカの約10 倍である。現代の様々な健康問 題・社会問題化する行動異常が長期にわたる農 薬・化学物質の影響の可能性を指摘する。

今回紹介した3 冊の本は医療関係者の皆様に いま一度読んでいただきたい本である。