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膠原病の診断・スクリーニングと初期治療

沖縄県立中部病院内科
金城 光代
照屋 周造

■はじめに

プライマリケアにおけるスクリーニングと初期 治療について今回は以下の2 点を中心に述べる。

  • 1)膠原病を疑うための病歴と身体所見
  • 2)関節リウマチ(RA)における初期治療

■膠原病を疑う

プライマリケアにおいて膠原病を疑う状況に は大きく二つあると思われる。

1)関節痛、2)原因不明の発熱、である。

上記は一般的に頻度の高い膠原病であるRA と全身性エリテマトーデス(SLE)を診断する ための有力な手掛かりとなる。そしてそれ以外 のいわゆるリウマチ性疾患、すなわち変形性関 節症(OA)、結晶性関節炎(痛風、偽痛風)、 血清反応陰性脊椎関節症、乾癬性関節炎などが 関節痛の鑑別診断に入り、発熱の鑑別診断には 感染症と悪性腫瘍の他に血管 炎症候群、成人スティル病が 入ってくる。

その他の炎症性筋疾患、強 皮症、混合性結合組織病など の膠原病においてはそれぞれレ イノー症状、臓器障害、筋力低下、皮膚硬化な ど特徴的な臨床症状から診断に至ることが多い。

■膠原病のスクリーニングとしての問診・身 体所見の重要性(表1)

膠原病の診断(分類)基準をみていくと病歴 と身体所見に多くの項目が割かれていることが わかる。つまり、問診と身体所見だけで膠原病 の診断にかなり近づくことができる。まず関節 痛について述べる。

表1

■関節痛の診察:関節痛は関節炎なのか?

関節痛を診察するときに大切なことは、これ が局所の問題なのか全身性疾患の表現型なのか を判断することだ。具体的には、1)関節その ものの痛みなのか関節周囲を含むものか、2) 炎症性かどうか、また、侵されている関節の数 や対称性、関節外症状も確認する。

1)関節内の痛みか関節周囲の痛みか

他動痛(他の人に関節を動かしてもらい痛み が生じる)があるかどうかは痛みが関節そのも のから来るのか、関節周囲由来かを区別すると きに役立つ。他動痛がある場合は関節そのもの の痛みであることが多い。

2)関節痛か関節炎か(表2)

炎症性関節痛を起こす疾患の代表がRA や血 清反応陰性脊椎炎、非炎症性関節痛を来たす疾 患の代表がOA や整形外科的腰痛である。

表2

関節炎の場合は関節の腫脹・熱感を認める。 また、RA で起床後時間がたつにつれ朝のこわ ばりが徐々に改善するように、炎症性関節痛で は運動で軽快する要素があるのに対し、非炎症 性の関節炎の場合は運動で増悪する。

関節炎と判断すればそれが急性・慢性のいず れか、単関節なのか多関節なのかによって分類 する。また、関節外症状を伴うかにも重点を置 いて問診をすすめる。

急性の単関節炎では結晶性関節炎や化膿性関 節炎を考える。熱や全身症状がなくても化膿性 関節炎を除外できないため、関節穿刺の適応を 十分考慮する必要がある。糖尿病や関節の手術 歴などリスクのある患者での単関節炎は特に注 意を要するため関節穿刺を積極的に行う。急性 多関節炎では淋菌性関節炎(単関節炎として発 症)、ウイルス性関節炎、感染性心内膜炎、慢 性多関節炎(RA、他の膠原病)の早期などが 鑑別に挙がる。パルボウイルスは小児ではりん ご病を呈するが成人では四肢の淡いピンクの皮 疹やRA 類似の対称性関節炎を呈するので注意 する。その他、HIV ウイルス、風疹ウイルスや B 型肝炎ウイルスでも多関節炎が起こるため、 問診で感染暴露やリスクを評価する。早期RA ではこれらのウイルス性多関節炎との鑑別が難 しい。診察では関節炎以外の皮疹の所見がない か、気をつけて評価する。

4 週以上続く慢性の経過をとる場合、単関節 炎では結核を鑑別する。時にRA の症状が単関 節のみに認められることもあるが、まずは結核 の評価を積極的に行う。慢性の多関節炎では RA をはじめ多数の鑑別が挙がることになる。

関節炎の分布に関して、DIP 関節が侵される のはRA ではなく、変形性関節症(OA)と乾 癬性関節炎である。OA では骨ばったゴツゴツ とした結節を触れ、関節痛はあっても関節炎に なることは少ない。OA の分布はDIP, PIP, CMC 関節に、下肢では大関節(股関節や膝関 節)に起こる。乾癬性関節炎ではDIP 関節の 他はRA と類似した関節炎の分布をとるので、 乾癬の所見がないかを評価するために皮膚(耳 介、頭皮、肘や膝の伸側、臍部)や爪(点状陥 没や白癬様爪肥厚)の所見をとる必要がある。

関節外症状では皮膚所見(頭皮・耳介を含む)、 手指、眼、口腔、呼吸の症状について検索する。

皮膚所見が見つかればSLE、乾癬性関節炎、 皮膚筋炎、スティル病などの診断に役立つし、 眼や口腔内の所見はベーチェット病やシェーグ レン症候群を診断する鍵となる。手指でレイノ ー症状を認めれば、強皮症、混合性結合組織 病、SLE などが診断の候補となる。爪周囲紅 斑や手掌紅斑は膠原病を疑うきっかけになるの で手の診察はルーチンに行うようにしたい。先 にのべた関節症状に加え乾性咳嗽や労作時呼吸 困難があれば間質性肺炎を疑い、RA、皮膚筋 炎、シェーグレン症候群、強皮症などを考える。

■早期関節炎: RA ・膠原病のスクリーニング 検査(表3)

血算、生化学検査、尿検査はルーチンで行 う。胸部レントゲン写真も関節炎を認める患者 でRA や膠原病を疑うとき、また結核の評価な どを行う上でも有用である。炎症反応の評価で はSLE においてはCRP の上昇を伴わないこと も多いため、血沈も測定するようにしたい。

上記のような炎症性関節炎の所見からRA を 疑うとき、リウマチ因子(RF)と抗CCP 抗体 をチェックする。RA 患者での陽性率は70 〜 80 %であり、陰性であってもRA を否定出来な い。抗核抗体(ANA)は膠原病とくにSLE の 診断において有用である。シェーグレン症候群 や皮膚筋炎では必ずしもANA が陽性にならな いことがあるので注意する。ANA が陰性だか らといって膠原病すべてを否定したことにはな らない。一方、ウイルス性関節炎では一過性に RF やANA が陽性になることがあり、関節炎の診断で混乱を招きやすい。ウイルス性関節炎 は4 週間以上持続することは稀であるため、関 節炎の持続期間を確認した上でこれらの検査を 行うようにしたい。

表3
表4

■関節リウマチの診断および初期治療

関節リウマチは膠原病の中でも、もっとも頻度 が高く有病率は0.5 〜1 %程度と推定される。

さらに新しい治療薬として生物学的製剤が登場 したことにより早期診断・早期治療にスポットラ イトが当たり、米国、欧州の各学会でも早期診断 を目的とした分類基準ができている。(図1 参照) この基準では関節炎の所見を認めたらRA 以外 の診断も同時に行うよう意図された分類基準とな っている。

関節リウマチと診断されれば早めにメトトレ キセート(6mg/週から開始し、徐々に増量、 肝機能障害予防のため葉酸5mg/日を48 時間後 に内服する)、サラゾスルファピリジン(1 日 1,000mg)などの抗リウマチ薬を開始する。こ の際、未治療の関節リウマチであれば抗リウマ チ薬の開始から効果が出るまでの橋渡し的な対 症療法として非ステロイド性抗炎症薬やステロ イド(プレドニゾロン10mg/日程度を限度とす る)を併用する。

症状のフォローは圧痛腫脹関節数と患者の全 身状態、血液検査上の炎症反応(CRPやESR) を行い、内服の調整をする。DAS28 はRA 疾 患活動性を評価する上で有用である。少なくと も3 カ月おきに評価し、治療方針を決める。抗 リウマチ薬を投与開始直後はとくに副作用の出 現を定期的にチェックする。

メトトレキセートによる肝障 害や血球減少、サラゾスルファ ピリジンによる消化器・皮膚 症状、ブシラミンによる蛋白尿 などが主な副作用として挙げら れる。

メトトレキセートやサラゾス ルファピリジンを十分な期間使 用しても効果が不十分な場合 や副作用で使用できない場合 に生物学的製剤を考慮する。

図1

図1 2009ACR/EULAR リウマチ分類基準

文献
1)上野征夫:内科医のためのリウ マチ・膠原病ビジュアルテキス ト、医学書院、2002
2)Pinals RS : Polyarthritis and fever. New Engl J Med330 : 769- 774, 1994
3)John H Klippel : Primers on the Rheumatic Disease, 13th ed, Springer, 2008