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異邦人・パリからの旅行透析者
―日仏の透析医療状況の比較―

大浦孝

医療法人十全会 おおうらクリニック
大浦 孝

パリから沖縄へ出張で3 週間滞在し、その間 透析治療を当院で施行する機会を得たので、そ の経緯を報告する。御本人は、仏人であるが、 日本人の代理人(同僚)がおり、仏語を日本語 訳し、mail、FAX、電話で交信した。御本人 との直接交信は、英語となった。準備期間の経 過で大きな違いが明らかになった。言葉・時 間・医療費及び社会保障制度は、当然の事なが ら透析条件においても、国際間において差異が ある事が判明した。

症例は、41 歳の男性。職業は、生物学研究 者。現病歴では、アルポート症候群を原疾患と して、腎不全となる。1994 年、血液透析導入。 2000 年、腎移植。2008 年1 月、透析再導入。 2008 年4 月、家庭透析となり、継続治療中であ る。沖縄県で国際学会があり、発表の為、来沖。

CONTENTS of Medical Information とし て、1)Medical History、2)Viral status (labo.data)、3)Dialysis、4)Medications の 医療情報が提供された。

1)病歴としては、アルポート症候群が原疾患 で、巨大血小板減少症及び難聴を併用し、副甲 状腺機能亢進症及び高血圧症を合併していた。

(図2)2)ウイルス感染症の有無では、HIV、 HCV、HBs とも陰性であった。(図3)3)透析 条件では、左前腕のA − V fissura を使用し、 1 回4 時間で週4 〜 5 回の血液透析を施行して いた。ヘパリン等の抗凝固剤は使用せず、血液 流量300ml/min、透析液流量500ml/min で、 目標体重は84kg となっていた。透析器(ダイ アライザー)は、フランス国産のブランドを使 用していた。(図4)4)薬物処方では日本と同 様、通常の透析患者用の処方であった。(図5)

以上、日本とフランスの透析条件を比較する と、フランスでは特殊加工のヘパリンコーティングメンブランの透析器(ダイアライザー)を 使用し、無ヘパリンの下、自己穿刺で家庭透析 を施行していた。(図6)尚、当院での臨床検 査所見では、通常の血球計算機で血小板は 5,000 であった。(表7)

図2
図3
図4

当院における透析治療上の問題点― アルポ ート症候群の巨大血小板減少症の為、ヘパリン 使用時は脳出血、消化管出血、外傷時出血等、 多量出血のおそれがあり禁忌である。その為、 フランスでは、特殊加工のヘパリンコーティン グメンブランであるAN シリーズの新製品、HeprAN ホローファイバー型EVODIAL を使 用している。ところが、当製品は本邦未承認の 為、同社のAN69 シリーズで積層型のH12 − 4000 を使用し、ヘパリンはリンス時、1.5ml の み使用する事で合意した。実際にはダイアライ ザー内残血やチャンバー内血塊を認めた為、ヘ パリンを2.0ml に増量したが、少々の残血とチ ャンバー内小血塊と穿刺部の皮下出血を認め た。(図7)

図5
図6
表7

結論: 1.医学理論と医療技術に関しては、国 境は無く那覇とパリとで地域格差も認めなっか た。2.家庭内で自己穿刺するという、医療技 術供給体制においては大きな相違点を認め、習 慣、国民性(Individualism)に由来している ものと考えた。3.仏国では特殊加工のヘパリ ンコーティングのメンブランを使用し、無ヘパ リン透析を施行していた。4.当院では通常メ ンブランで必要最小限2.0ml のヘパリンを使用 した。5.原疾患は古典的アルポート症候群の 亜型、メイ−ヘグリン異常(MYH9 異常)であ った。

図7