琉球大学医学部附属病院手術部・安全管理対策室
久田 友治
医療安全推進週間とは、厚生労働省が位置づ けた毎年11 月25 日を含む1 週間であり、今年 は11 月21 日〜 27 日となっています。
医療安全の基礎:インシデントの報告
医療事故につながりかねない出来事(インシ デントやヒヤリハット)が大きな施設では日々 発生しています。その内容は、患者の転倒、薬 の間違い、チューブの抜去など多様です。医療 安全の基礎はインシデントを報告することで す。自らが関わった事例について報告し、強制 ではなく、任意とされます。落ち度(過失)が 無くても、不可抗力と思えても、また、患者に 大きな影響はないと思われても報告することに なっています。そして、インシデントの要因を 明らかにして、システムの不備として捉えて、 対策をとっていくことが安全管理の道なのです が、ここでは基礎であるインシデントの報告に ついてお話しします。
誰でも自分のミスを報告するのは嫌ですが、 最も多くインシデントを報告する職種はナース です1)。もちろん、ナースが“おっちょこちょ い”だからではありません。ナースは患者のお 世話をするので、例えば患者が転べば、ナース からの報告となります。ナースは配薬をします が、その際に、ある頻度でインシデントが起こ ります。一方、医師は手術などのリスクの高い 仕事が多いので患者に与える影響が大きくなる ことがあります。薬剤師、臨床検査技師、診療 放射線技師、臨床工学技士、事務員など病院職 員であったら、どの職種でも報告します(図: 文献1 を元に作成)。
しかし、自分のインシデントを簡単に報告で きるほど、ヒトは単純ではありません。一方、 インシデントが発生しても報告がなければその 実情は判りません。
医師は報告しているか
発生したインシデントがどれだけ報告されて いるかについての研究はないようですが、似た ような状況についての報告があります。
医療者が患者に使った針で自分の指を刺した 場合(針刺し)、医療事故ではなく、またイン シデントとも看做されませんが、似たような状 況と考えられます。米国の外科研修医の99 % が5 年間の研修中に針刺しを経験したが、針刺 しを担当部門に報告した割合は少なかった事が 明らかにされています2)。
私達も、医師と看護師の手術中の針刺しにつ いて全国調査を行なっています。その結果、過 去1 年間に針刺しを経験した医師は約3 割で看護 師と差がなかったのですが、届ける割合は看護 師に比し有意に少なかったことが判りました3)。
Makary らは、針刺しを報告しなかった理由 は“時間がなかった”ことが最多であり、“感 染のハイリスク患者が関係していない”、“他人 に知られたくなかった”等で有意な相関があっ たとしています2)。
針刺しの報告にはエピネットの書式が多くの施 設で使われています。針刺しを報告する事によ り、リスクの情報を共有して、より安全なシステ ムを構築する事が必要であると考えられます。
自らのミスを報告しチームで情報を共有する 事が、雑多な仕事で多忙な医師にも求められて いるのではないでしょうか。
文献
1)医療事故情報収集等事業第21 回報告書:日本医療機
能評価機構
2)Makary MA, Al-Attar A, Holzmueller CG, et al:
Needle stick injuries among surgeons in training. New
England Journal of Medicine, 2007; 356: 2693-2699.
3)Kuda T, Tanaka Y, Nakata S: Occurrence and
Prevention of Sharps Injuries in the Operating Room
Differences between occupations or subspecialties of
doctor. Jap J Operative Medicine, 2010; 31: 30-36.