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「乳幼児突然死症候群(SIDS)対策
強化月間(11/1 〜 11/30)」に寄せて

屋良朝雄

那覇市立病院小児科 屋良 朝雄

はじめに: 乳幼児突然死症候群( SIDS : Sudden Infant Death Syndrome)とは、そ れまで元気であった赤ちゃんが、事故や窒息で はなく眠っている間に突然死 亡してしまう病気である。

趣旨:平成11 年度より、11 月を乳幼児突然死症候群 (SIDS)対策強化月間と定 め、社会的喚起を図るととも に、重点的な普及啓発活動を 実施している。平成22 年度 においても同様に、11 月の 対策強化月間を中心に、関係 行政機関、関係団体等におい て各種の普及啓発活動を行う など、SIDS の予防に関する 取り組みの推進を図る予定で ある。

主な取り組み:(1)あおむ け寝、(2)母乳哺育、(3)保 護者等の禁煙の3 つの望まし い習慣等について、ポスター およびリーフレットの活用に よる全国的な啓発活動。

「健やか親子21」国民運動 における全国的な啓発活動。

ガイドライン(平成17 年 度4 月公表)の内容の周知・ 普及(図1)

図1

図1 乳幼児突然死症候群(SIDS)の診断の手引き
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken06/index.html

乳幼児突然死症候群(SIDS)について

歴史:聖書にも記載があり、人類の歴史ととも に、古くからその存在は知られていた。1969年に乳幼児の突然死に関する第2 回国際会議 (シアトル)において一疾患単位として定義さ れ、各国に広く認識されるようになった。わが 国では1981 年に厚生省心身障害研究班によっ て、SIDS の定義を提示して以来、少しずつ変 更が加えられ、2005 年のガイドラインが最も 新しい定義である。1989 年6 月、当時相撲界 を席巻していた第58 代横綱千代の富士は突然、 生後4 ヶ月の三女をSIDS で亡くすという不幸 に見舞われた。マスコミがこの病気について大 きく報道し、一時的であれ多くの国民に認知さ れる疾患となった。

(*一時期、心身衰弱となった千代の富士ではあ ったが、直後の場所に優勝し、国民に多大なる 感動を与えた。しかし、先日学生の講義で得意 そうにその話をしてみたが、多くの学生が千代 の富士のことを知らないので少しがっかりした)

定義:「それまでの健康状態および既往歴から はその死亡が予測できず、しかも死亡状況調査 および解剖検査によってもその原因が同定され ない、原則として1 歳未満の児に突然の死をも たらした症候群」・・・2005 年、厚生労働省 研究班

診断:診断のためには、SIDS 以外に突然の死 をもたらす疾患および虐待による死亡、窒息な どの外因死との鑑別、さらに先天性QT 延長症 候群、先天性脂肪酸β酸化異常症にも注意する 必要がある。担当医は病理解剖をすすめなけれ ばならない。やむおえず解剖がなされない場合 および死亡状況調査が実施されない場合は、診 断が不可能である。従って、死亡診断書(死体 検案書)の死亡分類は「12.不詳」とする。決 して、SIDS やSIDS 疑いとしてはならない。

疫学・頻度:発症年齢は2 〜 6 ヶ月が最も多 く、稀に新生児期あるいは1 歳以上の発症があ る。我が国の頻度は1,000 出生に0.09 と工業 国では最も少なく、最も高いのはニュージーラ ンドで0.8、米国はその中間の0.57 という最近 の報告がある。我が国の発症は年々減少傾向に あり、SIDS 家族の会による「SIDS 予防キャ ンペーン」、厚生労働省による「SIDS 対策強 化月間」等の啓発活動が貢献しているかと思わ れる。しかし、平成19 年に発症は158 人まで 減少したが、平成20 年度は168 人と微増とな り、乳児(0 歳)の死亡原因の第3 位のままで あり、下げ止まりなのか、他に隠れたリスク因 子があるのか等、今後の病勢を含め、一層の病 態解明への研究が必要である(図2)。

図2

図2 乳幼児突然死症候群死亡者の推移(人口動態統計)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/10/h1028-3.html

病因:現在、最も有力な説は、脳幹部の微細な 異常による覚醒反応の遅延であると言われてい る。このような素因をもった乳児では、環境因 子や感染症などにより、睡眠時の呼吸調節が容 易に破綻し、無呼吸に対して覚醒反射が起こら ず突然死に至るとする考え方である。セロトニ ン系などの神経伝達物質の異常による関与が示 唆されている。

家族への対応:家族へのサポートは重要であ る。SIDS による子どもの死には闘病という期 間がなく、家族は突然の死という現実に大変な ショックを受ける。保護者自身は何らかの見落 としや過失があったのではないかと自責の念に 駆られたり、疾患が十分にまわりに理解されて いないため、特に母親が非難の目で見られるこ とがある。そのような遺族の方々を支援するSIDS家族の会( N P O 法人;http://www.sids.gr.jp/)の存在は大きい。

SIDS 予防キャンペーン

これまで我が国を含め世界各国でも、仰向け 寝、児の周囲の禁煙、母乳保育などのキャンペ ーンを施行し、SIDS 発症が明らかに減少して きている。

1.うつぶせ寝はやめましょう

SIDS はほとんどが、睡眠中に起こり、うつ ぶせ寝が約3 倍頻度が高く、またあおむけ寝を 推奨するキャンペーンを行うことによって、 SIDS が約50 %減少したという欧米の疫学調 査がある。上気道の解剖学的構造、口元の温度 や接触物の問題などが推測されている。

2.妊娠中や赤ちゃんの周囲での喫煙はやめま しょう

妊婦の喫煙によって約7 倍、受動喫煙で3.4 倍、出生後の児の受動喫煙で2.4 〜 10.4 倍に増 加し、両親が喫煙をやめるとSIDS の60 %が 防げるという報告もある。

3.母乳で育てましょう

母乳による育児は最適であるが、SIDS の頻 度も少なくなるという報告がある(人工栄養は 母乳栄養に比較して約4.8 倍発症率が高まる)。 母乳そのものが要因というよりは、母親の添い 寝〜添い乳、授乳回数など育児環境が関連して いるのかもしれない。

突然死、いかなる場合もそれは納得できるも のではない。何の陰りもなく元気に微笑んでい た子どもを突然失うという事実を、家族は決し て受け入れることはできない。慰める術もなく 言葉を失ってしまう。このような不幸が、子ど もたち、その両親、同胞そして彼(彼女)の誕 生を大いに喜んでいた周りの人たちに起らない ように、このキャンペーンは重要である。