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「骨髄バンク推進」月間(10/1 〜 10/31)に寄せて

百名 伸之

琉球大学医学部附属病院骨髄移植センター 百名 伸之

T はじめに

白血病、重症再生不良性貧血、先天性免疫不 全などの造血器疾患は、40 年程前までそれこ そ不治の病でした。しかし今現在、決して死に 至る病ではありません。分子生物学、医学の目 覚ましい進歩は病態の解明と治療法の改善をも たらしました。中でも、医学史上特筆すべき業 績が骨髄移植です。そのことは、近代的骨髄移 植術を確立した米国のDonnall E. Thomas 博 士が1990 年にノーベル賞を受賞したことでも 明らかでしょう。彼は、1957 年に初めて健常 者からの移植を行いましたが、ことごとく失敗 しました。これは組織適合性、すなわちHLA を一致させるという概念がなかったからです。 これに屈することなく、彼はイヌをモデルとし て基礎研究を精力的に進め、ドナー選択におけ る組織適合性検査、移植前治療、GVHD 予防 法を開発しました。そして1970 年代はじめに は白血病、再生不良性貧血に対する近代的骨髄 移植が確立したのです。

U 骨髄バンクについて

さまざまな原因により骨髄、造血細胞が機能 不全に至った場合、先ず内科的治療が試みられ ます。化学療法、免疫抑制療法などです。しか しそれらが無効の場合、骨髄移植が考慮されま す。すなわち病的骨髄を健常人の正常な骨髄と 入れ換えるという治療です。その場合骨髄提供 者(ドナー)が必要ですが、その条件として HLA が一致していなければなりません。ご存 知のようにHLA にはかなり多様性があり、最 も一致率の高い同胞間でも1/4、非血縁となる と数百〜数万分の1 という確立です。現在のよ うに少子化の時代では一致同胞が得られる可能 性は低く、非血縁ドナーの重要性は今後確実に 増していくでしょう。

骨髄バンクは非血縁ドナー確保のために設立 されました。世界の40 の国と地域にあり、日本 では1993 年、それまでの各地域民間バンクを 統合する形でスタートしました。厚生労働省主 導のもと、骨髄移植推進財団が主体となり、日 本赤十字社および地方自治体の協力により公的 事業として行われています。その使命は善意か らの骨髄提供を仲介、推進することで、これま でに多くのドナー登録者を集め、患者さんとド ナーの橋渡し役を努めてきました。平成22 年7 月時点で、有効登録数364,616 人、累積移植実 施数は11,997 件に上っています(表1、2)。

骨髄提供希望者(ドナー)登録現在数364,616人

表1 骨髄提供希望者(ドナー)登録現在数364,616 人

非血縁者間骨髄移植実施数11,997例

表2 非血縁者間骨髄移植実施数11,997 例

V 沖縄県の状況

沖縄県では骨髄バンクを支援する会の代表で ある上江洲富夫氏(赤十字血液センター職員) を中心として、公的バンク設立前の1990 年に 九州骨髄バンク推進連絡会議沖縄支部として支 援活動がスタートしました。月1 回の定例会を 持ち、シンポジウムや講演会の企画、ポスター 掲示、パンフレット配布等の広報活動を行って 骨髄移植の啓蒙、公的バンク設立に大きな役割 を果たしました。またバンク設立後は血液セン ターの全面的協力で献血とリンクさせた登録受 付や、講演会会場での登録会を企画していま す。彼らの献身的活動により、対象人口千人当 りの登録数は全国平均の約3 倍と群を抜いてト ップです(図1)。これは県民として誇るべきこ とです。唯一の問題点は、本県においてバンク ドナーの骨髄採取が困難であったことです。こ れまで県内居住の提供者は168 人に上っていま すが、県内で採取が行れたのわずか25 人であ り、他は県外施設へ出向かれての採取でした。 このことはドナーの方に相当の精神的、肉体的 負担をかけることになっています。現在、採取 認定施設が琉球大学附属病院のみであること、 さらに諸種の事情により採取が一時中断したこ とに原因があります。しかし、今年4 月には同 病院内に骨髄移植センターが新設され、移植医 療の安定供給が図られるようになり、今後は大 幅な改善が見込まれています。

骨髄提供希望者都道府県別登録者数(平成22 年7 月末現在)

図1 骨髄提供希望者都道府県別登録者数(平成22 年7 月末現在)

W 骨髄バンク推進月間について

財団法人骨髄移植推進財団は、日本赤十字社 およびボランティア等の協力を得て、骨髄移植 の推進を図るための骨髄バンク事業を実施して います。現在、登録者数及び骨髄移植件数は 年々順調に伸びてきていますが、いまだに多く の患者の方が骨髄移植の機会を待ち望んでいま す。この事業の進展のためには骨髄移植に対す る国民の理解を深め、善意の提供希望者登録を 促進することが緊要です。そこで、沖縄県では 「骨髄バンク推進月間」(10/1 〜 10/31)を実施 し、広く県民に対して骨髄移植に対する正しい 知識を普及啓発するとともに、一人でも多くの 県民が骨髄提供者として登録するよう呼びかけ を行い、我が県における骨髄移植対策の推進を 図ることとしました。県医師会、日本赤十字社 沖縄県支部、県骨髄バンクを支援する会の共催 で実施されます。予定行事は以下の通りです。

  • (1)骨髄バンク推進月間の周知
    • ア ポスター・パンフレット等を関係機関に配布する。
    • イ 電光広報塔、ラジオ番組「ラジオ県民室」、
        県政広報番組「うまんちゅひろば」および広報誌
        「美ら島沖縄」等、県広報媒体を利用した広報活動を行う。
    • ウ 新聞広告を行う。
  • (2)骨髄バンク推進街頭キャンペーン
    • 日 時: 10 月1 日(金)16 時〜 16 時30 分
    • 場 所:パレットくもじ前イベント広場
  • (3)市民公開講座の開催
    • 日 時: 10 月16 日(土)13 時〜 17 時
    • 場 所:沖縄県中央保健所・3F 研修・大会議室 参加費:無料

X おわりに

骨髄移植で始まった造血細胞移植医療は、基 礎医学、医療技術の急速な進歩に伴い、大きく 変貌しつつあります。この20 年の間にも、末梢 血幹細胞移植、臍帯血移植、CD34 陽性幹細胞 移植、骨髄非破壊的移植、HLA 半合致移植な ど、造血細胞のソース、ドナー選択基準、移植 法は多様化しています。このことは患者さんに とってより適切な移植選択ができ、またそれま で不可能であった移植が可能となるなど、大き なメリットとなっています。しかし、新しい移 植技術はまだ年数が浅く、適応疾患、合併症、 長期予後等についてまだエビデンスが十分得ら れていないことも事実です。これに対し、HLA 一致骨髄移植は40 年近い歴史があり、医学上 の様々な検証を十分に経ているため、現在でも 移植の主流であることは間違いありません。

この度の「骨髄バンク推進月間」につきまし て、医師会会員諸氏のご協力を切に願うもので あります。