てるや眼科クリニック 照屋 武
皆さん、10 月10 日は何の日かご存知ですか。 戦争体験者の皆さんは、1944 年のアメリカ軍 が沖縄本島全域に爆撃を行い、特に那覇市では 市内の90 %の家屋が全焼または全壊してしま った、沖縄戦の「ジュージュー空襲」を思い出 すかも知れません。また以前は、「体育の日」 で祝日だったため、そのことを思い浮かべる方 も多いでしょう。しかし、もう一つ覚えておい てほしいものに10 月10 日は「目の愛護デー」 ということがあります。「目の愛護デー」の始 まりは、昭和6 年に失明予防の運動として、10 月10 日を「視力保存デー」と定め中央盲人福 祉協会主催、内務省、文部省後援で定められま した。10 月10 日が選ばれたのは、「10 10」 を横にすると眉と目の形になるからでした。
1938 年(昭和13 年)から1944 年までは、9 月18 日を「目の記念日」としましたが、1947 年(昭和22 年)に再び10 月10 日を「目の愛 護デー」と定め、1950 年(昭和25 年)から厚 生省(現:厚生労働省)が共催(現在では主 催)となり、毎年各県の眼科医会が中心となっ て、目の健康に関しての活動をしています。
沖縄県における「目の愛護デー」の始まりは 1960 年にさかのぼり、当時の琉球政府から協力 依頼があり、その後「目の愛護デー」の活動普 及はもとより、失明に関する調査と統計的研究、 アイバンク事業の普及促進、各種眼疾患の予防 に関する事業が行われてきました。2005 年まで は、大型スーパーやデパート等で目の無料検診、 福祉施設での検診を、それぞれ那覇・南部地区 と中北部にわけて実施しておりましたが、現在 では、諸事情により「目の愛護デー」の趣旨に 賛同する沖縄県眼科医会会員協賛による新聞広 告掲載が、主な普及活動となっています。
また、1963 年(昭和38 年)10 月10 日は日 本で初めて「アイバンク」が開設された日でも あります。移植のためには角膜提供者の死後6 時間以内に眼球の摘出を行わなければなりませ んが、1958 年4 月に法律が制定されるまでは、 遺体に対してこの処置を行えませんでした。そ して、1963 年、厚生省により眼球の幹旋に関 する許可基準が公示されたことにより、死後角 膜を提供する意思のある人と角膜移植を希望す る人の登録を受付、提供者と希望者との間を取 り持つアイバンクと言う機関の設置が可能にな ったのです。
また、10 月10 日は1972 年に東京盲導犬協 会が制定した「アイメイトデー」は「目の愛護 デー」に合わせて制定され、盲人と盲導犬への 理解を深めてもらうため盲導犬の活動を紹介す るビデオの上映や講演などが開催されています。 目が私たちにとって大きな情報源であること は、誰もが認めるところであり「外界から得ら れる情報の8 割が視覚から」といわれ、目から 入ってくる情報は、現代社会の人間にとって膨 大で大変重要なものになります。ですから、そ の目を大切にし、視覚障害を減少させようと言 うのが、「目の愛護デー」の趣旨なのです。
最近、視覚障害が個人や社会に与える負担や 社会的コストがどのくらいあるのかを、日本眼 科医会がまとめて報告しています。それにより ますと、2007 年現在、日本には164 万人の視 覚障害者が存在し、このうち約18.8 万人が失 明者、145 万人程度をロービジョン者が占めて います。そして、視覚障害に基づく経済コスト 損失の総額は推定2 兆9,217 億円/年と試算し ています。更に疾病負担コストは視覚障害者を 抱えることによる個人の健康年数喪失(QOL 低下分)として計算され、障害生存年数評価額 とほぼ同額で、推定5 兆8,636 億円/年と試算 しています。つまり経済コストと、疾病負担コ ストを合計して、2007 年における日本での視 覚障害による総コスト(疾病としての社会的総 負担)は、なんと8 兆7,854 億円と推定してい ます。つまり視覚障害者を減少させることや、 ロービジョン者が残された視機能を最大限に活 用して生活できるようにするためのロービジョ ンケアの重要性が大きく叫ばれるようになって 来ました。
日本眼科医会の公衆衛生委員会では、22 年度 の事業計画の中に、障害者対策とロービジョン 者に対するネットワーク確立が盛り込まれてい ます。沖縄県でも眼科医が中心になってロービ ジョンケアを行い、特別支援学校や視覚障害者 協会などとの早急なネットワーク作りが求めら れています。目の愛護デーは、健康な晴眼者に とっては、緑内障や加齢黄班変性症、糖尿病網 膜症など失明やロービジョンに至る疾患に注意 し、ご自身の目をいたわり、かけがえのない視 力を損なわないように、目の健康を考えていく 日です。また、一方では不幸にして失明やロー ビジョンに陥った方々は、残された視機能を十 分に活用していくロービジョンケアを知ってい ただき、どうしたらよりよい生活ができるのか を考えていくよい機会だと考えます。そしてそ ういった方々を社会全体がいかに支え、支援し ていくかを真剣に考えていく日だと思うのです。