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日本産婦人科医会第33 回性教育指導
セミナー全国大会に出席して

村尾寛

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 村尾 寛

今年の性教育セミナーは、かの「伊勢神宮」 を擁する三重県の県庁所在地、津市で8 月1 日 に開催されました。私にとって初訪問となる三 重県への出張は、まず「津ってどうやって行く の?」から始まったのでした。

ルート検索の結果、まず那覇から中部国際空 港へ飛べばよいとわかりました。海上空港であ る中部国際空港には船着き場があり、そこで 「エアポートライン」という双胴の高速船に乗 って伊勢湾を横切ると40 分で到着したのでし た。次に津の港から市街地の津駅行きのバスに 乗りました。途中に11 ものバス停があるので、 いつも渋滞している那覇市のバスの感覚で「一 時間はかかるのかな〜?」と思っていたら、全 て「バス停通過」で見事9 分!で到着したので した。津駅に着いてその理由が判明しました。 駅周辺にデパート・スーパー・地下街・商店街 の類が絶無だったのです。そう、津市はいわゆ る繁華街の喧騒とは無縁の、とても静かな県庁 所在地でした。

今回の性教育指導セミナー全国大会は、例年 の如く野呂昭彦県知事の挨拶で始まったのです が、革新派知事のカリスマとして全国にその名 を轟かせた前任の北川正恭知事(現早稲田大学 教授)と比較すると、格の違いを感じる思いで した。

特別講演その1 は三重の精神科医師、長尾圭 造先生による「10 代の行動・感情、性に向か う背景心理」でした。思春期の心理的特徴はプ ラトン曰く「酒なしで酩酊しているようなもの だ」との言葉を引用して話を展開されました が、精神科の専門的なお話で、私には理解困難 でした。

教育講演その1 は三重病院長の庵原俊昭先生 による、「HPV ワクチン〜小児科医の立場か ら」でした。現在日本では二価HPV ワクチ ン・サーバリックスが先に認可されて全国で使 用されているが、諸外国ではこのようなことは ない。世界では4 価HPV ワクチン・ガーダシ ルが先に認可されている。4 価ワクチンならば 子宮頚癌だけでなく尖型コンジローマの予防に もなるので、どうせ打つならば4 価ワクチンの 方がよい、とのことでした。また、日本は水 痘・ムンプス・インフルエンザB 型・7 価肺炎 球菌結合ワクチン・HPV ワクチンの接種が制 度化されていないことによって、毎年余計に 1,500 億円の医療費用がかかっているとのこと でした。

教育講演その2 は、筑波大学の吉川裕之教授 による、「HPV ワクチン〜産婦人科医の立場か ら」でした。世界的にはHPV ワクチンは26 歳 以下限定で認可されているのに、日本では10 歳以上の全年齢に認められており、こんな国は ない。特に45 歳以上の接種は無意味である。4 価ワクチンの効果は、CIN(※1) 2,3,ASCUS(※2) を44 % 減少させるのであって、決してワクチンを打っ たからといって頚癌にならないわけではない。 また、妊婦にわざわざHPV ワクチンをうつ必 要は無い、とのことでした。

ランチョンセミナーは日本家族計画クリニッ クの名物所長である北村邦夫先生による、「知 らないのは愚か、知らせないのは罪〜緊急避妊 法をご存知ですか?〜」でした。話術の名手で あられる北村節は絶好調で、今年も会場は大爆 笑の連発だったのでした。緊急避妊法として は、これまでYuzpe 法が行われてきたが、昨年 レボノルゲストレル(LNG)が日本でも認可 された。LNG 法は、性交後72 時間以内に750 μ g のLNG を二錠服用するもので、こちらの 方が悪心・嘔吐などの副作用が少ないとのこと でした。

なお、そもそもピルを避妊目的で使用するこ とは、当初は認可されていなかったのですが、 これが黙認されるようになった経緯を始めて知 りました。それは昭和49 年1 月28 日(1974 年)参議院議員須原昭二氏が「家族計画の指導 方法の改善と経口避妊薬の承認に関する質問主 意書」を国会に提出したのです。この時の質問 とは、「避妊法としての適応のないホルモン剤 が婦人科医によって処方されている、これは違 法ではないか」というものでした。これに対し て当時の田中角栄内閣総理大臣が次のように答 弁したのでした。「安全性についてはなお疑問 があるので、現段階では経口避妊薬を認める考 えはなく、医薬品の製造販売業者が承認された 以外の効能効果を標榜することは法の禁じると ころであるが、使用者がその判断と責任とにお いて使用することは法の禁じるところではな い」。この総理答弁によって、事実上、避妊目 的の経口避妊薬の使用に道が開けたとのこと で、産婦人科医が田中角栄元総理にこんな恩義 を負っているとは知りませんでした。

午後のシンポジウムは愛育病院産婦人科部長 の安達知子先生を座長として行われました。今 年のキーワードは「きずな」でした。

最初にNPO 法人チャイルドラインMIE ネッ トワーク代表理事の田部眞樹子氏による「チャ イルドラインからみえてくる性」でした。チャ イルドラインとは18 歳以下の子供専用電話で す。日本では3 日に1 人、子供が虐待死してお り、毎日1.4 人の子供が自殺しているそうです。 相談内容からは、子供達が健全な性に関する教 育を家庭でも学校からも受けていない結果、成 人向けのポルノ情報からゆがんだ知識を得てい る実情が紹介されました。また、思春期に入る と自分自身の同性愛志向や性同一性障害に「目 覚める」一方で、学校現場では画一的な男女の 役割を押し付けられるために、苦しむ学生から の相談がみられるという現状が報告されました。

その後は、県警本部の落合千佳氏より性犯罪 の実態について、養護教諭の小林みどり氏から 保健室でのかかわりについて、助産師の崎山貴 代氏から思春期妊娠に求められる支援につい て、などのお話がありました。

三重県は、南に伊勢神宮や風光明媚な志摩リ アス式海岸があり、北に忍者の里・伊賀や鈴鹿 サーキットなどの観光地があるのですが、開催 地の津市からはどれも電車で1 時間以上かかる とのことで行くことは叶いませんでした。仕方 が無いので、おみやげに松坂牛でも買おうとし たら、値札を見て目の玉が飛び出てしまい、手 を出せずにすごすごと帰ってきたのでした。

※ 1 CIN : Cervical intraepithelial neoplasia

※ 2 ASCUS : Atypical squamous cells of undetermined significance