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診療雑感

米田恵寿

沖縄県立宮古病院循環器内科 米田 恵寿

私は琉球大学で法律を学び浪人を経て鹿児島 大学にて医学を学んだ。その15 年もの長きわ たって、農業をしながらせっせと学費を送って くれた両親には深く感謝している。医師になっ て10 年目に、父が大腸癌を患い県立宮古病院 に入退院を繰り返していた。その頃、宮古病院 にアンギオ装置が導入されインターベンション 治療の出来る医師とのことで地元出身の私に就 職の話があり、親孝行も兼ねて平成13 年4 月 から県立宮古病院に赴任した。それから、10 年目になる。カテ台帳をめくりながら振り返っ てみた。

現在まで心臓カテーテル検査、インターベン ション治療、ペースメーカー植え込み術の総数 は約2,000 症例を優に越えている。それぞれの 患者に想いがある。赴任当初の頃の症例である。 59 歳の男性で糖尿病未治療患者、胸痛を伴うシ ョック状態で当院の救急室へ搬送されてきた。 心電図、胸腹部造影CT から急性心筋梗塞に伴 うショック状態を疑い、緊急で心臓カテーテル 検査を行なった。糖尿病患者に特徴的な枯れ枝 状の3 枝病変でインターベンション治療を行う には冠動脈が細く心臓バイパス手術の適応と判 断し、大動脈内バルーンパンピングを装着して、 自衛隊の小型飛行機に乗せて沖縄本島の心臓血 管外科施設に搬送したこともあった。他にも自 分の手におえないほど難しい症例も経験した。 こうした幾つかの重症な症例にあたるうちに、 心臓血管外科のない当院で全ての重症心疾患に 対応するのは難しいと考え、予防的な意味合い もあり、初期の頃は積極的に心臓カテーテル検 査を行なった。また、自己のインターベンショ ン治療技術の未熟さもあって重症化する前に早 く病気を見つけて、治療に結びつけたい気持ち もあったのだとカテ台帳からは読み取れる。

さて、離島でアンギオ装置が導入されてイン ターベンション治療のできるメリットについて 考えてみた。宮古島では、急性心筋梗塞患者の ほとんどは県立宮古病院へ搬送ないし受診され る。当院は宮古島圏域からであればどこからで も1 時間以内に到着できる位置にある。したが って当院を受診される急性心筋梗塞患者の多く は、心筋逸脱酵素(例えばトロポニンT など) の上昇をみることなく、急性心筋梗塞の症状と 心電図変化だけで診断され、早期のインターベ ンション治療が行なわれている。急性心筋梗塞 患者は退院前に心エコー検査を受けるが、心機 能はほぼ正常に保たれている症例が多い。合併 症もほとんどなく社会復帰されている。以前 は、急性心筋梗塞患者が発症すると末梢静脈か ら血栓溶解剤を投与して運よく冠動脈が再灌流 すると助かるが、助かっても心機能が低下し心 不全を繰り返す症例も多かった。また、急性心 筋梗塞患者を沖縄本島へ搬送となると、患者の 病気が発症して当院を受診し、医師が病気の診 断を下し、受け入れ先の病院を探し、それから 自衛隊に搬送を要請して、受け入れ先の病院に 到着するまでに6 時間以上もかかった。急性心 筋梗塞治療のゴールデンタイムである6 時間を 逸してしまうこともあった。自衛隊機ではベッ トに横たえた患者、医師と患者家族の一人が同 乗するが、飛行機内のスペースはかなり狭く、 エンジン音も大きくて、患者との意思のやりと りはむずかしい。患者の様態が一端、急変する と心肺蘇生術をするのはかなり難しい状況にあ る。筆者も自衛隊機での患者搬送に何度か付き 添ったこともあるが、飛行中は患者の血圧、脈 拍、呼吸の安定を祈るばかりであった。

胸痛を主訴として救急を来院される患者さん も多い。虚血性心疾患を有するかどうかは最終 的に心臓カテーテル検査を行わないと診断でき ない。以前は心臓カテーテル検査を受けるため に沖縄本島の病院を紹介し結局は大丈夫であっ たとの症例も多かった。現在では、当院の救急 室を受診すれば30 分以内に虚血性心疾患の有 無を診断をできる。

また以前にバイパス手術や経皮的冠動脈形成 術を受けた方で宮古に在住されている患者から は、いつ病気が再発するか不安であったが、宮 古病院でいつでも検査と治療ができると思うと 安心すると患者や家族からもよく聞かされる。

宮古島市は観光産業の一環としてスポーツア イランド構想、エコアイランド構想を掲げて島 興しに力をいれている。したがって島外からの 観光客も増えている。青い空、青い海、緑の芝 生のもとでゴルフのプレイ中に急性心筋梗塞を 発症して運ばれてくるケースも多い。インター ベンション治療が成功して無事に故郷に帰り感 謝の手紙を頂くこともある。離島の医療の充実 は観光産業を裏から支えるという意味もあり大 切のように思う。

とりとめもなく思い浮かんだことを書いてみ た。宮古島でインターベンション治療のできる 医師として赴任して以来、ずっと24 時間オン コール態勢で虚血性心疾患を含めた緊急の循環 器系疾患を診てきた。学会とか特別な用事がな い限り島を離れることはない。島にいる時は飲 酒しないように、体調も崩さないように努めて いる。適度の緊張と束縛された環境の中ではあ るが、地域の住民から頼られ感謝されて仕事す ることは医師冥利に尽きると思う。これから は、自己の健康にも気をくばり、大学病院から 派遣されてくる若い医師を鍛えて育ててみよう と思う今日この頃である。