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「結核予防週間(9/24 〜 9/30)」に因んで

藤田次郎

琉球大学大学院感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科) 教授藤田 次郎

結核予防週間とは?

1949(昭和24)年から厚生省(現在の厚生 労働省)と結核予防会が、毎年9 月24 日〜 30 日を「結核予防週間」と定めて、結核に関する 正しい知識の普及啓発を図り、これからの活動 を考える週間としている。結核予防会では周知 ポスターやパンフレット「結核の常識」 http://www.jatahq.org/siryoukan/torikumi/index.html からダウンロード可能)等を作 成配布するとともに、「全国一斉複十字シール 運動キャンペーン」として全国各地で街頭募金 や無料結核検診、健康相談等を実施して、結核 予防の大切さを伝えている。本稿では、結核予 防週間を迎えるにあたり、結核対策に関する 様々な最近の情報を紹介したい。

結核の伝搬のモデル(文献の紹介もかねて)

結核の伝搬は、肺に空洞性病変を有するよう な排菌例(図1 右下の胸部X 線)から空気感染 する。このまま発病することもあるが(primary progression、第一次結核症)、発病せず、 潜在性結核となることが多い(図1 のlatent)。 後に結核菌の再活性化、または別の結核菌が再 感染し、肺結核、または肺外結核を呈すること がある(第二次結核症)。

図1.

図1 結核の伝搬モデル(Science 328: 856-861, 2010 より引用)
 潜在性の感染はツベルクリン反応により認識できる。空洞性の病変はより感染性が高い。一方、肺外結核の感染性は低い。この論 文は世界の結核患者の動向を示した論文であり、一読をお勧めしたい。

世界の結核の現状

結核を減らすための様々なキャンペーンが実 施されているにもかかわらず、世界では、結核 の新規症例数は増加している。なぜなら、結核 の発生率は年1 %のペースで減少しているもの の、人口が約2 %のペースで増加しているためで あり、結核の患者数はむしろ増加している。 2010 年には世界で980 万人が結核を発病すると 見込まれている。これはこれまでで最高の数字 であり、また近い将来1,000 万人を超えることも 予測される。このうち80 %は22 カ国で占めら れており、また3 分の1 は中国とインドである。

結核は貧困層や弱者を襲い、また最も生産性 の高い15 〜 54 歳の人を直撃するため、貧困問 題の解消を妨げる原因となっている。世界の全 結核推定患者数の80 %が22 カ国で占められて いる。これらの国の多くでは、政府の関与の欠 如により結核制圧のために最も対費用効果が高 いDOTS(Directly Observed Therapy、 Short course)の普及が遅れており、患者のた った5 人に1 人がDOTS で治療されているにす ぎない。また病院における感染対策も不十分なこ とが多い(図2)。

図2.

図2 著者が2007 年2 月12 日に訪問したインドネシア大学 附属Persahabatan Hospital(ジャカルタにあり最新の設備の 整った病院)の呼吸器病棟。呼吸器外来を受診する患者の大 半は肺結核であり、外来においてDOTS が実施されやすいシ ステムを整えていた。ただし空気感染である結核に対する感 染対策は不十分であるように感じた。

日本、および沖縄県の結核の現状

平成20 年に感染症発生動向調査事業により 収集された結核登録者情報を基に、日本全体、 および沖縄県の「結核の現状」をまとめたもの が、図3 である。

日本の結核の状況は、結核対策の推進、医学 の進歩、生活環境の改善等により、平成18 年 26,384 人、平成19 年25,311 人、平成20 年 24,760 人と近年、患者数は減少してきたもの の、国際的にはまだ中蔓延国である。

沖縄県内の状況は、平成20 年新規登録患者 数277 人、罹患率20.1 で4 年ぶりに患者数が 増加し、罹患率が再び20 を超えた。本県の結 核患者数は減少傾向にあるものの、依然として 予断を許さぬ状況である。

図3.

図3 沖縄県における結核罹患率(結核の現状[平成21 年版]、 沖縄県福祉保健部医務課より引用)

複十字シール運動

複十字シール運動は、結核予防を目的に世界 の約80 カ国で行われているが、募金は、途上国 の結核対策や結核予防の広報、教育資材の作成 等に用いられている。ストップ結核大使に就任 していただいているビートたけし氏が「結核は現 代病である」と再認識を呼びかけている(図4)

図4.

図4 結核予防会の作成した結核予防週間のポスター(2009 年版)

ストップ結核世界計画U(2006 〜 2015 年)

ストップ結核パートナーシップは「ストップ 結核世界計画U(2006 〜 2015 年)」を継続し ている。この計画にはミレニアム開発目標と、 2015 年までに結核による死亡率と有病率を半 減するというストップ結核パートナーシップの 目標に沿って世界の結核の状況にインパクトを 与えるような活動が示されている。

また世界ストップ結核パートナーシップが作成 している世界結核デーのポスター(2010 年版)を 図5 に示す。その活動の詳細は、www.stopTB.org を参照されたい。

図5.

図5 世界ストップ結核パートナーシップの世界結核デーのポスター(2010 年版)

結核の治療に関する最近の話題

現在、日本結核病学会治療委員会(筆者も委 員の一人)においては、levofloxacin 500 mg 錠を結核の治療に用いることができるような活 動を展開中である。また多剤耐性結核に対する 治療指針も作成中である。

おわりに

平成22 年5 月29 日、青木正和先生(82 歳、 財団法人結核予防会会長、元結核研究所所長) がくも膜下出血で死去された。青木正和先生 は、インターンを終え結核予防会に入って以 来、半世紀以上、予防対策に携わった。また、 先進国としては死亡率が高い日本で、結核は過 去の病気とはいえないと警鐘を鳴らし続けた。 特に沖縄県の結核対策には熱心な先生であり、 森亨先生と一緒に、毎年のように沖縄県を訪 れ、我々の指導にあたっていただいた。心から ご冥福を祈りたい。