沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 我那覇 仁
小児救急電話相談事業#(シャープ)8000 は、平成14 年の広島県のモデル事業を受け、 厚生労働省による小児救急医療体制整備の一環 として発足しました。保護者が夜間に起こった 急な子どもの病気にどう対処したらよいのか、 いますぐ病院の診療を受けたほうがいいのかな ど判断に迷った時、看護師や医師へ電話で相談 しアドバイスを受ける事ができるシステムで す。全国同一の短縮番号#8000 をプッシュすれ ば、相談者の住む都道府県の相談窓口に自動転 送されます。過去、沖縄県でも県医師会と行政 担当でこの事業の実施について検討されました が、当時は見送られた経緯があります。しかし 全国的にはこの事業は広がり、これまで沖縄県 が唯一の未実施の県でしたが、今年7 月5 日か ら当県でも#8000 事業がスタートする事になり ました。
小児救急医療の現場から
小児救急医療の現場、県立南部医療センタ ー・こども医療センターでは殺到する小児救急 患者や、昨年度は新型インフルエンザパンデミ ックなどにより救急室に電話が集中し、看護師 や医師は電話対応におわれ、本来の業務に影響 が出ました。夜間時間外に救急室を受診する多 くの小児はいわゆるコンビニ受診と言われる軽 症例で、いかに不要不急の受診を減少させる事 ができるかが、今検討されています。県立南部 医療センター・こども医療センターには電話に よる相談は年間約6,000 件あり、その内こども に関する相談が7 割と圧倒的に多く、これは実 際に救急室受診者のこどもがしめる割合とほぼ 同じです。昨年の新型インフルエンザの大流行 では、一ヶ月で1,660 件(こどもが8 割)もの 電話相談が殺到し、救急医療を行ないながらの 電話への対応の限界は大きな社会問題にもなり ました。その時、看護協会ボランテイアによる 電話相談の協力により、救急室の業務が大幅に 緩和された事は特筆されます。最近、中央福祉 保健所が行なった650 人の保育園児の保護者へ のアンケート調査では、こどもの急性疾患につ いて76 %の親が「電話で専門家に聞ける体制 創り」を求めています。このシステムを沖縄全 域に適応する事により、各地域で行なわれてい る救急医療施設での負担が軽減される事が期待 できます。
電話相談事業の実際
小児救急電話相談事業は、厚生労働省と県か ら補助金を得て運営されています。#8000 は独 自に各都道府県で行なう方法と中央のコールセ ンターに依頼し行なう方法があります。沖縄県 は自ら地元の医療従事者による血が通った対応 が望ましいとの結論に達し、沖縄県福祉保健 部、県医師会、県看護協会は今年度初めから #8000 の事業開設に向け取り組み、6 月には大 分こども病院から講師(藤本保院長、大井洋子 看護部長)を招聘し、これまでの経緯や現状、 実際の対応などについて話してもらいました。 この事業を始める理由ともなった電話相談事業 により、救急室での軽症例の受診を抑制する効 果があるかどうかについては、大分県では開始 後救急室を受診する患者数は若干増加したとの 結果が出ています。一方、利用する家族からは 好評で意味のある事業と評価され、さらに急性 の病気に対し電話相談により救急患者のトリア ージを行ない、育児している家族に安心感を与 えるものと結論づけています。
現在電話相談事業に参加している医師は60 人、看護師は46 人で365 日午後7 時〜午後11 時までの4 時間行ないます。相談には看護師が 対応し、判断に迷う場合医師がバックアップす る方式です(231 例中28 例が医師の助言を求 めた)。統計的に分析する事は期時尚早ですが、 相談件数は開始後23 日間で231 件 (10 件/日)です。年齢別には1 歳未 満が28 %、1 〜 2 歳が25 %、2 歳〜 3 歳が16 %となり、3 歳未満では全体 の約70 %をしめます。地域別では本 島南部が124 件(53 %)、中部78 件 (34 %)、北部13 件(6 %)で離島は 4 件(2 %)です。北部や離島からの 相談件数は少なく、人口の分布や離 島の地域的な特徴とも思われますが、 県全体に#8000 の存在がまだ充分浸 透していない事が考えられます。相談 内容は図1 に示すように病気や事故、 薬に関するものなどがあり、その内発 熱が41 %をしめ、嘔吐、咳嗽、喘息、 発疹、下痢、耳痛、打撲など多彩で す。相談後どのような対応がなされた かについて37 %が心配なら救急室受 診、25 %がすぐに受診を勧められ、 21 %は応急処置の助言が行なわれて います(図2)。また相談を受けた保 護者97 人に対し、翌日どのような経 過を辿ったかについて電話で追跡調査 した結果では、電話相談した者の 35 %が夜間に救急室を受診、20 %は 翌朝まで経過をみてかかりつけ医を受 診し、45 %は診療所に行かずに経過 をみています。電話救急相談は、救急 室の医師や看護師の業務の軽減の他 に、当県でも少子化や核家族化の影 響により身内のものに相談する事が難 しくなった保護者への‘子育て支援’ の役割を持つ事や、救急疾患に関する 対応、処置法や啓発を行なうなど多面 的な役割を持つものと考えられます。
図1 症状別電話相談の件数(平成22 年7 月5 日〜 7 月22 日)総数231 件
(沖縄県医師会統計より)
図2 電話相談に対するアドバイスの内容(平成22 年7 月5 日〜 7 月22 日)
(沖縄県医師会統計より)
今後の課題
今後、電話相談事業は少なくとも4 年間は継 続しその評価を行なう予定です。検証が必要な ものとして1)救急室へ軽症患者の受診がどう変 化したか、2)トリアージにより治療が必要な症 例を早期に救急室に受診させる事が出来るか、 3)追跡調査により、どの程度夜間の受診を回避 し、かかりつけ医を受診したか、4)電話相談の 時間帯は適切であるか、5)保護者、社会からの 反応、評価はどうかなどを検証する事が必要で す。また、このシステムを効果的に活用するに は救急病院、診療所、保育所、コンビニ、公的 機関などへのポスターの配布やマスメデイアを 通して広く広報活動をする事が重要です。救急 室を受診する軽症例をこの事業だけではとうて い緩和する事は不可能です。今後とも日常みら れる小児救急疾患の保護者への情報提供、かか りつけ医の役割の強化などこの事業と共に行な うことにより、沖縄県の小児救急医療の質的な 改善が可能になると考えます。