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第20 回沖縄県医師会県民公開講座
ゆらぐ健康長寿おきなわ
〜転ばぬ先の杖と知恵−寝たきりを防ぐために− 〜

玉井修

理事 玉井 修

平成22 年6 月19 日ロワジールホテル那覇天 妃の間において第20 回沖縄県医師会県民公開 講座〜ゆらぐ健康長寿おきなわ〜が開催されま した。今回のテーマは転ばぬ先の杖と知恵、寝 たきりを防ぐためにと題し、琉球大学医学部整 形外科の金谷文則教授と東京大学教育学部長の 武藤芳照先生にご講演いただきました。金谷教 授にはまず転倒予防が寝たきりを防ぐためにい かに重要かをお話し頂き、ロコモティブシンド ローム(運動器症候群)についてお話し頂きま した。最近よく聞くようになったロコモティブ シンドロームですが、まだまだ一般にはよく知 られていません。メタボリック症候群がメタボ などと呼ばれて一般に浸透したのも、マスコミ や健康食品会社の後押しもありますが、何度も 何度も一般の方達に訴える場があったからだと 思います。ピンピンコロリといきたいと多くの 人は願っておりますが、そのためにもロコモテ ィブシンドロームに関してもっと理解を広めて いく必要があると思います。今回の県民公開講 座はこれまでと趣を変えて、金谷先生と武藤先 生のお二人だけの講演と致しました。じっくり と金谷先生と武藤先生のお話を聴きたかったか らに他ありません。武藤先生は昨年の沖縄県医 師会医学会総会において非常に印象的なご講演 をして頂きました。私自身、その講演を拝聴 し、このお話しを是非沖縄県民に向けてお願い したいと思い今回の県民公開講座を計画致しま した。沖縄タイムスと共催で行う県民公開講座 は今回記念の20 回目を迎えます。この節目に あたり、どうしても武藤芳照先生にご講演頂き たく願っておりました。ご多忙の中、超過密ス ケジュールを調整して頂きご講演頂いた事は大 変嬉しく、願いが叶った喜びでいっぱいであり ました。また、武藤先生は講演会の前に首里城 まで足をお運びになり、その時の事を講演会で 直ぐにお使いになり『首里城を散策できる方は 絶対転倒しない』などと沖縄県民にも非常に解 りやすいお話しを随所にちりばめられていまし た。何しろ武藤先生の講演は解りやすくて、面 白い。難しい話を難しく話す事は誰でも出来 る。難しい話を面白く話す事が大切だと武藤先 生は言われていました。私もそのとおりだと思 います。550 人の聴衆を前に、1 時間全く居眠 りする人も無く、皆さんが武藤先生の講演に釘 付けでした。まさに圧巻の講演会でした。

講演の抄録

運動器の元気を維持しよう
−コロばぬ前のロコチェック−

金谷文則

琉球大学医学部整形外科 教授
金谷 文則



A.運動器ってなに

1.骨、関節、靱帯、血管、神経、脊椎・脊髄

2.直接生命には関係しないが、生活するた めには必須。運動器の元気が循環、呼吸、 代謝(メタボ)などを改善し健康長寿を推 進する。

3.運動器疾患は介護が必要となる最も多い 原因(図1、2)

図1


図2

B.ロコモ(ロコモティブシンドロム= 運動器 症候群)

1.運動器の障害による要介護・要介護リス クの高い状態

2.ロコチェック(一つでもあればロコモを 疑う)

  • 1) 片脚立ちで靴下がはけない
  • 2) 家の中でつまずいたり滑ったりする
  • 3) 階段を上るのに手すりが必要である
  • 4) 横断歩道を青信号で渡りきれない
  • 5) 15 分くらい続けて歩けない
  • 6) 2kg 程度の買い物(1 リットルの牛乳パ ック2 個程度)をして持ち帰るのが困難 である
  • 7) 家の中のやや重い仕事(掃除機の使用、 布団の上げ下ろしなど)が困難である

C.骨折は寝たきり原因の第3 位(関節疾患を 含めれば1 位)(図3)

図3

D.骨折を防ぐには

1.転倒予防

  • 1】転倒予防教室
  • 2】ロコトレ(自宅でも行え、日々継続して 運動療法を実施することが大切。転倒予 防、骨折予防)
      1) 開眼片足立ち訓練
        (ダイナミックフラミンゴ療法)
      2) スクワット
        (股関節の運動;ロコモン体操)
      3)その他のロコトレ
        (ストレッチ、関節の曲げ伸ばし、ラ ジオ体操、ウオーキングなど)
  • 3】 Vit D

2.骨粗鬆症の予防(骨強度を増やす)

  • 1】運動
  • 2】食事
  • 3】薬物療法(ビスフォスフォネート・ SERM など)

転ばぬ先の杖と知恵
−高齢者の転倒・骨折・寝たきりを防ぐために−

武藤芳照

東京大学教育学部長(転倒予防医学研究会世話人代表)
武藤 芳照



お年寄りが転ぶと股関節部の骨折などで、そ のまま寝たきり・要介護状態に至ることも少な くありません。転倒を防ぐことができれば、骨 折、寝たきり・要介護状態を防ぎ、いつまでも 健やかで実りある心豊かな日々を過ごすことが できるのです。

昔から「転ばぬ先の杖」と言いますが、転倒 予防の知恵としてのソフトと環境・建物構造や 杖、帽子、履き物などのハードの工夫をまとめ たのが、「転倒予防7カ条」です。

1.歳々年々人同じからず

年令と共に誰もが、姿、形(体格)が変わ り、からだの機能(体力・運動能力)も変わる ことを理解することが大切です。

2.転倒は結果である

転倒は、加齢、運動不足、病気などのからだ の内なるひずみの結果として起こるのです。一 度転んだ経験がある人は、再び転びやすく骨折 を起こしやすいため、転倒の原因を発見するこ とが必要です。

3.片足立ちを意識する

朝起きてから夜寝るまで、パジャマのズボン や履物の着脱、お風呂の出入り、階段昇降、そ して、歩く動作、いずれもが片足立ちを基本と しています。それらを意識して、しっかり行う ことが大切です。それと共に、それが不安定な 場合は、脚力、バランス能力が衰えていること を示しています。

4.転ばぬ先の杖

一方の脚での片足立ちが不安定な場合には、 脚への負担を軽くするために、早めに杖を使い ましょう。弱った方の脚と反対側に杖を突くの が正しいやり方です。

5.無理なく楽しく30 年

「過ぎたるはなお及ばざるが如し」です。い くらからだに良い運動でも、やり方が間違って いたり、強すぎたり、量が多ければ、ケガ・故 障を起こします。三日坊主にならないように、 楽しく3 年は続けられる運動に親しみ、30 年後 も続けていれば、健康で幸福な人生を過ごして いる証拠です。

6.命の水を大切に(年寄り冷水)

「年寄りの冷水」ではなく「年寄り冷水」 であるところが、ミソです。トイレに行くのを 敬遠して、過度に水分を制限するのは、脳梗塞 や心筋梗塞などの危険性を高めます。コップ 「あと二杯」、健康のため水を飲もう。ただし、 腎臓や心臓の病気などで水分を制限されている 方は、医師の指示に従って下さい。

7.転んでも起きればいいや

転んでケガしても、仮に骨折したとしても、 「また起きればいいや」という明るく前向きな 気持ちで、治療やリハビリテーションに励みま しょう。「転んだらおしまい」ではなく、「人生 七転び八起き」なのですから。

【参考図書】
1.『転倒予防らくらく実践ガイド』武藤芳照監修、学習 研究社、2009.
2.『転倒予防医学百科』武藤芳照総監修、日本医事新 報社、2008.
3.『高齢者指導に役立つ転倒予防の知識と実践プログラ ム』武藤芳照総監修、日本看護協会出版会、2006.
4.『患者指導のための水と健康ハンドブック−科学的な 飲水から水中運動まで−』武藤芳照、太田美穂、田澤 俊明、永島正紀編、日本医事新報社、2006.
5.『転倒・骨折を防ぐ簡単!運動レシピ』武藤芳照監修、 主婦の友社、2005.
6.『転倒予防教室−転倒予防への医学的対応−』改訂第 2 版、武藤芳照、黒柳律雄、上野勝則、太田美穂編、 日本医事新報社、2002.
7.『武藤教授の転ばぬ教室−寝たきりにならないため に−』武藤芳照、暮しの手帖社、2001.

会場の様子

写真1:会場一体となって日本健康運動指導士会沖縄県支部の ご指導による運動指導です。皆さん真剣な眼差し


写真2:会場の皆さんはみんな素直にバンザイ!軽いストレッ チです。


写真3:当日ロコトレの指導に当たって頂いた日本健康運動指 導士会の方達に手伝って頂き武藤芳照先生によるユー モラスな運動指導です。身体全体を使ったジャンケン、 ちなみに右側の女性がグー、左の男性はパーです。


写真4:今度はフロアの皆様とのジャンケンです。ただし、負 ける条件でのジャンケンです。 さて、正しく負けられたのはどなたでしょうか?身体 も脳もフル回転。会場は爆笑の渦でした。

当日お越しいただいた方々の中から、2 名の方にインタビューをさせていただきました。質問は次 の2 項目です。

インタビュー1):本日の講演会に参加されての感想をお聞かせ下さい。 また、今後の日常生活でどのような事に気をつけようと思いますか。

インタビュー2):医師会への要望をお聞かせ下さい。

(69 歳・女性・農業)
1) 講演していただきましたお二人の先生方に心より感謝いたします。離島からの参加ですが、1 泊2 日の日程を惜し むことなく参加して良かったと思います。
    2 人先生のお話の中で、身体について知らなかったことがわかり大きな喜びです。日常生活に取り入れていきた いです。
2) 各地域に医師会病院が開設されたことは大変嬉しいことですが、各診療科が各地に設けられることを望みます。

(54 歳・男性・公務員)
1) 81 歳の母が転倒し、骨折したので、新聞で講座を知り参加しました。「転ばぬ先の杖と知恵」という題に惹かれて 参加しましたが、やはり歩くのが一番いいという印象を受けました。母のように転んで怪我をしないための対策に ついて、片足立ちの具体的な方法を教えていただいたので、早速母へ教えたいと思います。
2)怪我をした後のリハビリを対象にしたウォーキング教室を開いてほしいです。

本会の広報活動にご協力いただきまして、誠に有難うございました。