理事 金城 忠雄
平成22 年7 月10 日(土)・11 日(日)の2 日間に亘り、鹿児島市医師会主催により城山観 光ホテルにおいて、720 名近くが参加し、みだ し協議会が開催された。
10 日の第1 日目は、各部門管理者会、分科 会司会・演者・座長打合会が行われた後、3 分 科会が開催され、「医師会病院部門」、「検査・ 検診部門」、「高齢社会事業部門」に分かれて、 発表・討論が行われた。
本会が参加した第2 分科会の「検査・検診部 門」では、4 医師会より報告が行われたので、 概要について報告する。
第2 分科会「検査・検診部門」
鹿児島市医師会より、医療施設は経営安定の ために種々の経費節減を行っているが、検体検 査の外注も例外ではなく、医師会検査センター と民間ラボとの競合が激化の一途をたどってい る。又、本年4 月の診療報酬改定で、DPC 導 入施設で従来は、包括されていた術中迅速病理 組織標本作成ならびに術中迅速細胞診が出来高 請求できることとなり、医療施設では既に制度 導入を予測した自前での病理医の確保等が行わ れており、当センターでも受託件数への影響を 受けている状況である。臨床検査センターの運 営が厳しい状況にある中、利用率の向上を含め どのように対処しておられるか、各施設へのア ンケート調査を基に報告させていただくことで 運営の一助となることを願いたいとして報告が あった。
なお、調査の回答率は65 %であった。1)会 員利用率の増加策、2)集配関連、3)新規開業者 の利用、4)営業担当者に裁量権をもたせること 等について調査した結果、今後、会員利用率を 上げるために必要な要素として、料金面とシス テム面、集配体制を挙げられる施設が多かった とのことであった。
長崎市医師会より、各種ガン統計で、長崎 県・市は全国ワース5 に入る現実がある。ガン 検診率の向上は急務であり、その一端として肺 がん検診を一般A ・B 会員医療機関に拡大し ている。
X 線画像の質、デジタル画像への読影体制な ど実施上の問題はあるが、より根源的問題は、 肺がんのみならず当県・市のガン検診の充実と 長期展望に立つシステム構築にあり、そのため ICT( Information and Communication Technology)導入による雲をつかむ様なシステ ムを目論むことにした。既に県下全体に展開中 の医療情報ネットワーク(あじさいネット)を 活用し、かつその構築に与したIT 技術者の全 面協力を得て、現在鋭意努力中である。提案内 容は1)クラウドシステムを使用し、データサー バーの機能を外部に置く2)各施設からの画像デ ータを「あじさいネット」を使い、各自送信す る。3)アナログ画像は市医師会に集め、デジタ ル化した後、同様に送信する。4)読影委員は、 それぞれの職場、自宅でその画像を読影する。 5)検診結果等の解析が容易となり、検証に利用 でき、市とデータの共有が可能となるよう提案 している。予測される莫大な費用の捻出は、国 のIT 事業資金公募への応募等構想中であると 報告があった。
那覇市医師会より、沖縄県は全国一肥満者の 多い県であり、特に男性で20 〜 30 歳にかけて の肥満者の爆発的な増加が見られ、肥満に起因 する生活習慣病をコントロールすることは喫緊 の課題である。健康診断の現状は、乳幼児・児 童・生徒の定期健診は行われているが、18 歳 から39 歳までの健康情報の空白期間があり、 その期間に生活習慣病が形成されていることで ある。又、医療情報の現状は、治療中の疾患に 対する定期検査の推移について、医療機関が変 われば経時的に医療情報を参照出来ないことが 多い。さらに、手帳の現状として、市町村が配 布している健康手帳、婦人がん検診手帳、母子 手帳などがあるが、母子手帳を除いては定着し ていない。
生活習慣病の克服には、健診受診率の向上や 保健指導の充実も重要であるが、個人の自己管 理能力を高めるための仕組み作りも必要であ る。そこで、将来の展望として、ICT を活用 し、健診施設や一般診療所の情報を集約し、デ ータを手帳に出力する環境を整備することによ って、医療情報の経時的変化を自ら確認し、生 活習慣の改善につなげることのできる健康手帳 の普及を展開したい旨報告があった。
佐賀県医師会より、佐賀市の平成20 年度の 特定健診受診率は26.4 %、21 年度は24.2 %と 2 年連続して県内最低の受診率であった。そこ で、佐賀市では、受診率の向上を目指し、佐賀 市医師会の協力のもと、22 年度は、1)国民健 康保険被保険者証に高齢受給者証、特定健康診 査受診券整理番号を加えた新しい保険証の発行 と「健診スミシール」の活用、2)個別健診結果 説明と同時に、動機付け支援対象者に対し、特 定保健指導が可能となるよう工夫した仮利用券 の発行、3)特定健診に加え、希望者に対して追 加検査の実施と「がん検診(後日の集団方式)」 が実施できる「さがでるミニドック」の運用開 始、4)日曜・祝日在宅当番医時の個別健診の実 施、5)個別健診結果説明時の身体状況図(構造 図)の発行、6)戸別訪問での受診勧奨や未受診 者の意識調査を行う、専従職員の確保(ふるさ と雇用 再生基金事業の活用)等の体制で健診 を開始した。当センターもこれを全面的に支援 しているとして報告があった。
7 月11 日の第2 日目は、日本医師会の葉梨之 紀常任理事より「今後の医師会共同利用施設の あり方」と題して講演が行われた。
講 演
葉梨日本医師会常任理事より、概ね次のとお り講演が行われた。
< 医師会共同利用施設について>
医師会共同利用施設とは、地域医師会が学術 的基盤に立って、地域ニーズに対応した形で医 療・保健・福祉に関する活動、医師の生涯教育 を組織的に実施し、これを通じて地域の医療・ 保健・福祉の充実向上に貢献することを基本理 念とした施設である。具体的には、医師会病 院、医師会診療所、医師会臨床検査・健診セン ター等の他に訪問看護ステーション、在宅介護 支援センター、地域包括支援センター等の医 療・介護・福祉分野の施設があり、全国に計 1,351 施設が設立されている。
○定義
狭義においては、医師会が設立主体であると 同時に運営主体であり、かつ地域の医師会員に 施設、病床、医療機器を開放し、共同利用を図 る施設である。広義においては、狭義の概念の 他に、自治体(公設民営)ないし自治体と医師 会の共同出資による公社、財団(三セク)が設 立主体となり医師会が運営している施設の他、 福祉部門についても、医師会活動の一環とし て、医師会員が共同利用する施設を医師会が運 営している施設である。
< 医師会病院について>
医師会病院は、診療所が外来機能を担い、病 院は専門外来、救急や高度先進医療、入院機能 に特化することにより病診連携と機能分担を推 進し、限られた医療資源の有効利用により地域 における医療提供体制のあるべき姿を図ること を目的に設立された。全国に2009 年4 月現在 で85 病院あり、地域医療支援病院はそのうち 約45 %である。
○医師会病院の公設民営について
公設民営の医師会病院は約13.9 %(10 病 院)であり、主要病棟群に改修又は立替えを必 要とするものは、日医総研調査回答群の 56.9 %(41 病院)にも上がっている。しかし、 そのうち、独自で或いは条件付でも改修・立替 えの対応が可能かどうかについて問題があると 考えられる病院は、34.2 %(14 病院/41 病院 中)にも上る。公設民営化は、今後の対応方策 として前向きに評価されており、病院が今後と も地域で存在していくためには、一つの代替案 として検討すべきである。
ある自治体では、地域に欠かせない医師会病 院のうち小児医療部門の赤字分を負担(共有部 分は按分計算)するという、一部門のみの公設 民営方式をとり、地域医療提供体制に貢献して いる。地域医療の提供体制を維持・発展してい くためにも、このような公設民営方式も検討す べきであると考える。
○借入金の連帯保証人について
日医総研調査より、医師会関係者が保証人の 割合は77 %となっている。
鹿児島県曽於郡医師会から、1)債務保証をA 会員が限定根保証という形式で、5 年間限定で 均等に3,000 万円ずつ分け合った。2)地域医師 会の役員のみが連帯保証という過大な負担を受 け持つのではなく、地域の医師会員全体で債務 保証を分け合ったとの限定根保証が報告されて いる。どのような方策を採ることが適切かは、 地域により異なると思われるが、医師会病院の 経営が厳しくなっている現況化では、このよう なことも視野にいれておく必要がある。
また、医師会病院への融資は民間の銀行等が 多いが、これを公的機関による新たな保証制度 の整備、既存の都道府県中小企業信用保証協会 の保証制度の拡充、福祉医療機構等の公的融資 機関からの融資に借り換えることも検討する必 要がある。
○医療法31 条に基づく公的医療機関認定につ いて
現在、医師会の法人格は、公益法人制度改革 の経過措置である「特例民法法人」である。将 来的に医師会病院を開設する全ての医師会が必 ずしも公益認定を受けるかどうかは不透明であ るが、医師会病院は、診療所と病院の連携によ る地域医療の拠点であり、極めて公益性の高い 医療機関であることは論を持たない。
しかし、「公的医療機関」には、行政より多 額の補助金が出ているが、地域医療提供体制に 多大な貢献をし、同様に公益性の高い医師会病 院には補助金はほとんどない。
医療法31 条に基づき厚生労働大臣が定める のは「公的医療機関」自体ではなく、その開設 者である。そのため、それぞれの地域医師会を 「公的医療機関の開設者」として定める必要が ある。
このような状況で公益法人制度改革を控え、 「公的医療機関の開設者」として、今後厚生労 働大臣告示において医師会病院ではなく「地域 医師会」を医療法第31 条の中でどのように位 置づけるかについて、検討が必要である。
○地域医療を担う医師会病院等の運営課題につ いて
医師会病院を取り巻く問題点を分析し、今後 の対応のあり方を検討することに資することを 目的に、日医総研が実施した調査をふまえ抽出 した医師会病院の運営課題は、1)悪化する財政 状況と医師・看護師不足等への対応、2)今後の 運営継続に問題がある医師会病院の存在とその 対応の必要性、3)医師会一般会員の医師会病院 利用と運営への参画について徹底的な協議の必 要性、4)公的融資機関からの融資の少なさと公 的融資機関による長期・固定・低利融資の必要 性である。
< 臨床検査・健診センターについて>
臨床検査・健診センターは、医療の高度化へ の対応と地域医療の向上を目的とし、会員の診 療を支援する共同の検査室として開設されてい る。現在、診療報酬における検体検査実施料の 引下げ、健診事業における競争入札、健診シス テムや検査システムにかかる高額な更新費用、 民間検査センターとの競合、会員利用率の低下 等、様々な運営上の問題を抱えている。このよ うな状況の中、今後の方向性としては1)会員や 地域医療・地域保健に貢献できるような事業展 開、2)特定健診・特定保健指導への積極的な関 与、3)その他、健診(検診)制度の改革・変革 への迅速な対応、4)検査試薬共同購入、5)地域 住民の検診・検査データの蓄積による地域保健 への貢献、6)診療報酬の適正な評価が何よりも 必要であると考えられる。
< 特定健診・特定保健指導について>
平成20 年度から実施された特定健診・特定 保健指導については、早急に解決が求められる 様々な課題がある。1)制度についての国民への 周知不足、2)特定健診の低い受診率、3)特定保 健指導のさらに低い実施率、4)健診項目の減少 (従来基本健診で実施されてきた健診項目が実 施できない)、5)特定健診等データの電子化に 関する取扱いの煩雑さと必要経費、6)総合的な 生活習慣病対策の必要性(対象疾患を内臓脂肪 症候群に特化したことの是非)等である。未解 決課題等について検討すべく厚労省「保険者よ る健診・保健指導の円滑な実施方策に関する検 討会」が平成22 年度に再開予定である。
< 訪問看護ステーションについて>
医師会共同利用施設における介護関連施設 は、老人保健施設や地域包括支援センター、在 宅介護支援センター、訪問看護ステーション等 様々である。いずれも今日の課題である「地域 包括ケアにおける医療・介護・福祉の協働」に 大きく貢献している。高齢化の進展の中、訪問 看護ステーションは、最も多くの地域医師会が 取り組んでいる事業であり、平成21 年4 月現 在、全国で475 ヶ所設置されている。
訪問看護ステーションの現状は、人材不足・ 過重な業務負担や経営上の問題があるが、今後 の取り組みとして、1)在院日数の短縮による緩 和ケアの需要が増大し、療養病床の再編による 医療依存度の高い患者の在宅での看取りが増え てくる中、人材不足と過重な業務負担の2 課題 の克服が急務であること、2)ステーションの特 性を生かすために会員の先生方の協力を最大限 に求めていくこと、3)今後の超高齢化社会に備 え、地域医師会としても在宅医療の推進に積極 的に取り組んでいく必要がある。
主治医との緊密な連携のもと訪問看護を実施 する医師会訪問看護ステーションは、地域包括 ケアにおいても、極めて重要な役割を果たすこ とは間違いない。
地域社会における今後の医師会共同利用施設 のあり方としては、医師会共同利用施設は連携 と継続による地域医療体制の再構築における中 心的存在として活動することである。
印象記
理事 金城 忠雄
鹿児島市医師会が担当し会場は城山観光ホテルである。会場界隈は、島津家の鶴丸城跡や明治 維新動乱期の歴史と文化を偲ばせる地域である。そのうえ、ホテルの露天風呂からの錦江湾・桜 島の眺望は抜群であった。参加人数の多さを考慮すると、必要な経費とはいえ会場費の予算確保 に苦労したと想像する。
九州各県から医師会立施設のスタッフが集まり、病院部門、検査部門、高齢社会事業部門の総 勢700 余名の連絡協議会である。
那覇市医師会の崎原永辰検診センター所長の発表は印象的であった。沖縄県は、肥満、糖尿病、 早世率が日本一。おまけに、人口10 万あたりの居酒屋数が日本一ときている。特に男性は、20 〜 30 歳にかけての肥満者が爆発的な増加である。この年齢層の健康教育が必要であることと、自 己管理能力を高めるためにも、検査項目を「経済的に変化が追えるように一冊にまとめた健康手 帳に記帳」の発案には、非常に良いアイディアだと思う。
特別講演の「鹿児島大学における焼酎学講座開設」には、大学に焼酎学かと不思議に思ったが、 鮫島吉廣教授による焼酎学講座の開設されるまでの経過講演には、説得力があり納得した。
鹿児島県の芋焼酎産業は、1,000 億円産業で畜産業に並ぶ産業であり、これからも発展させね ばならない。しかし、肝心の「杜氏」は高齢化して後継者がいなくなってしまう。この状況に、鹿 児島県や業界が危機感を共有して焼酎学講座を誕生させた。講座は、寄付により県が5,000 万円、 酒造組合5,000 万円、県内メーカーが4 億円 総額5 億円で鹿児島大学に開設された。「鹿児島の 芋焼酎文化の伝承と新技術開発、麹菌・酵母の開発、本格焼酎の歴史と地域発展に寄与する焼酎 学講座」と興味深い講演であった。教授の「酒類に対する薀蓄」特に地元の芋焼酎の歴史や豊富 な知識と味わい方の情熱にはほとほと感心した。鹿児島県の芋焼酎業界に対する並々ならぬ意気 込みは印象的であった。
全般的に医師会立施設の経営は厳しいが、会員が連携して入院や在宅介護と工夫をしながら活 動している。各県医師会は、大変な苦労をしながらも地域医療に一生懸命に尽力していることが 伺えた。