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“緑陰随筆”

向山秀樹

南部徳洲会病院泌尿器科 向山 秀樹

自分は19 歳で琉球大学に入学し、医師免許 を取得してから、かれこれ20 年を迎えようと しています。この間、沖縄をベースとしなが ら、いくつかの他府県での病院勤務、見学。ま た両親の病気に伴い、患者側の立場で都会での 医療を経験しました。これらの体験から沖縄の 医療について、この場をかりて簡単に述べても よいでしょうか。ひとことでいえば、

“沖縄医療レベルは高い。”

他県に関する印象ですが、県庁所在地を含め て街自体も那覇は他の県に比べて都会的で人口 も多いと思いませんか。特に若い世代の人間が 多い。つまり活気がある。(ただ沖縄の年を重 ねた人々にも他の県に比べて活気があるとは思 います。)

この若い世代を背景にして、才能のある人た ちが生まれている。才能のある人間が生まれる 確率というのはほぼ、人口に比例すると思いま す。だからこのことはとりわけ沖縄がすごいと いうことになるとは思えません。問題はそのあ とで、才能のある人たちが医学部を卒業して医 師になったときに、どこで仕事をするかという ことにあるのではと思うのです。どうも他県で はこれら才能のある人たちが医学部を卒業して 医師となったときに、地元に残るひとがすくな く、都会での研修を選択してしまう。研修をす る場所が都会であることは、まだ良いと思うの ですが、そのあと生まれ育った地元に戻ってこ ない先生方が多い気がします。

ところが沖縄の場合はいったん沖縄県外に出 ても、沖縄に戻ってくるかたが多いのではない でしょうか。これが医療技術の沖縄県へ導入、 つまり沖縄の医療レベルの向上に繋がっている と感じます。

患者の立場にたってみれば、どんなに最先端 の医療を導入したとしても、それを誰がどれだ け享受できるのかも問題です。経済的に豊かな 人だけが医療を受けられるのでは、日本医師会 長であった武見太郎先生が導入した日本皆保 険、世界に誇る日本の医療の素晴らしさが台無 しです。個人の経済力と医療サービスがほぼ平 行していたアメリカ合衆国でさえ、一部の州で は小児の医療は安くなり、今度は医療保険制度 の見直しがされてきているというのに、日本が 世界の流れに逆行してもしかたがない。国民の 健康があってこそ国家の繁栄があるはずなのに。

沖縄県の場合、確かに最新治験の数などは、 都会に比べれば少ないでしょうし、先端医療の 数も少ないでしょう。ただこれらの治療の恩恵 をこうむれる患者の数はどのくらいいるのでし ょうか。県民全体の健康維持のためには、地域 に根差した幅広い医療が必要なはずです。沖縄 の人たちの健康が維持できているのは、もちろ ん沖縄の人たちの食事であったり、環境ホルモ ン等を含めたストレスが少ないということであ ったりもするとは思うのですが、それだけでは なく、沖縄の健康を支えている医療従事者、そ の医療従事者を戦後から下支えしてきた県立中 部病院とそのOB さらに若い医師を育てている 宮城先生を始めとする臨床研修病院郡プロジェ クト群星沖縄に参加している病院と指導されて いる医師達。加えて地道に最前線で臨床を行っ ている一般開業医・一般病院の勤務医、このよ うな沖縄の医療スタッフが沖縄の医療レベルを 維持していると考える今日この頃なのです。

多くの沖縄県民はおそらく、実感はされてい ないとは思うのですが、この医療レベルを享受 できる沖縄県民は、ある意味幸せなのではない でしょうか。この幸せを維持、向上させること が私の使命であると感じています。ちなみにこ の文章はあくまで随筆でデータ等による裏付け はありませんのであしからず。ただ、あながち 間違ってはいないと思うのですが、いかがでし ょうか。