南部徳洲会病院 嘉数 朗
私の両親は相次いで病に倒れ、その後約6 年 間の闘病生活と介護に私は仕事の合間や時には 休みをとって頑張り、その最後は兄弟家族全員 で看取りました。それから一周忌の法事が一段 落した頃から心に穴が開いたような虚無感に襲 われると伴にそれまで抑えていた様々な感情が 一気に湧き上がりました。そして「今まで全く 考えもしなかったとんでもない事をしたい」と 思いました。
車を改造してレースに出ようかなどと考えな がらふと友人がサーフィンをしていることを思 い出し電話しました「今スポーツ店にいるんだ けどサーフィン始めるには何準備したらい い?」
もともとサーフィンには全く興味がなく、ど うせ遊び人の道楽ぐらいにしか思ってなかった ので、とりあえずやってみてつまらなかったら やめようと考えていました。
ところが実際に海に入ってみるとサーフィン どころではなく、全く何一つできませんでし た。波に乗ろうとしてもコケて巻かれて上も下 も分らない状態でまるで洗濯機の中に放り込ま れたように海中をグルグル回り続けるだけで す。息苦しくてやっと海面に顔が出たと思った らまた次の波が覆いかぶさってきてこのまま死 んでしまうんじゃないかと思いました。
これにはショックを受けました。何にも出来 ない自分が惨めで悔しくてその後も何度か海に 行きましたが結果は同じでした。
どうして自分は波の上に立てないのだろう、 もしかして一生立てないのでは?と挫折しかか りました。でも元々の負けず嫌いの性格もあり 何度も海に通いました。
体力が無いからだろうとジムに通い、筋トレ と水泳も始めました。
そして筋トレに明け暮れていたある日身体の 小さな女性が軽々と波に乗っているのをみて愕 然としました。なんであの子には出来て自分に は出来ないのだろう?
サーフィンには筋力と体力はもちろん必要で すが、体のバランス感覚も重要でした。あっと 言う間に崩れる波に、不安定なボードを浮かべ てさらにその上に立って乗るためには重心を意 識したバランスが取れないと出来ないのです。 それからバランスボールやスケートボードの練 習も始めました。こんな歳になってスケートボ ードするなんて想像もしなかったし、本当に恥 ずかしかったです。「オッサンいい歳して何して るの?」という視線を感じながら練習しました。
そしてそうこうしている内になんとか波の上 にボードで少し立てるようになりました。初め て自力でボードに立って海面をサーッと滑った 瞬間のあの感動は今も忘れられません。
そして同時におじさんでも諦めずにやれば出 来るだと密かに感動しました。
そんな時雑誌で衝撃的な記事を見つけまし た。ハワイに片腕の女子プロサーファーがいた のです。サーフィン中にサメに襲われ左腕を肩 から失ったにも関わらず、その後もサーフィン を続けプロになったレザリーハミルトンの話で す。両腕あっても大変なサーフィンを片腕だけ で、しかもプロサーファーになったなんて。い ったいサーフィンってなんだろう、もはや単な る道楽とは思えません。
サーフィンの発祥は8 世紀頃のハワイだと言 われています。記録上は1778 年キャプテンク ックがハワイアンが板の上に立って波に乗るの をみて驚き、日誌に「こんなに珍しく難しい危 険な操作が出来る大胆さは驚きに値する」と書 き記したのが最初と言われています。古代ハワ イでは王族も貧民も老若男女も皆がサーフィン を楽しみ、コンテストもよく開かれていたそう です。カメハメハ3 世はサーフィンの名手だっ たそうです。しかし1821 年ハワイを訪れたキ リスト宣教師達が裸同然で男女が海で遊ぶこと を不道徳として否定迫害してからそれから長い 間サーフィンは衰退して行きました。その後20 世紀初めにワイキキの白人観光客の注目を集め たことで再びサーフィンが復活したと言われて います。そして「近代サーフィンの父」と言わ れるデューク・カハナモクが登場します。サー フィンの名手でもある彼は1912 年ストックホ ルムオリンピックに水泳のアメリカ代表として 出場し100m 自由形で世界記録を塗り替えて金 メダルを取り、その後ハワイの親善大使として 世界中を巡り、各地でサーフィンを披露し広め ていきました。
今や世界中に大勢のサーファーがいます。人 生全てがサーフィンの本物のサーファーから趣 味程度の人まで様々です。中には何十メートル もある巨大波に乗る者、雪降る中極寒の波に乗 る者、また世界中の素晴らしい波を求めながら 旅をしているサーファーも沢山います。サーフ ィンをする人が増えるにつれ素行の悪い者も出 現しサーフィンのイメージを悪くしています が、ほとんどのサーファーは1 年中波のことば かり考えている純粋でいい人ばかりです。
そんなサーフィンにこの夏に皆さんも挑戦し てみてはいかがでしょうか?