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認知症クリニカルパス「脳の健康手帳」について

近藤毅

琉球大学精神病態医学講座 近藤 毅

高齢化社会を迎えて今後増加が見込まれる認 知症に対し、包括的な地域的取り組みが待望さ れています。伝統的に長寿県とされてきた沖縄 においては、お年寄りの方々が敬われ大事にさ れるという好ましい文化的土壌が存在する一方 で、ご家族が認知症の高齢者を抱え過ぎてしま う傾向も指摘されています。このため、認知症 があったとしても、早期発見・治療の機会を逸 してしまったり、ケアを提供する地域資源を十 分活用できていない場合もしばしば見受けられ ます。可能な限り質の高い生活を送っていただ き、ご家族との有意義な交流を保っていただく ためには、治療による認知機能の維持や周辺症 状の改善および経過に応じたきめ細かいサポー トを受けていただく必要があります。実際、社 会的には患者さんのみならずご家族をサポート する諸制度があり、専門的な介護ケアを提供す る多くの機関が地域の中に存在するわけです が、これらが効率的にネットワーク化されるこ とでニーズに応じたサポート資源の提供・活用 がより迅速に展開できるであろうと期待されま す。また、認知症の方々が複数の機関において 様々なサービスを受ける場合、各機関が情報を 一元化して共有したうえで、個別の重症度・進 行度に即したサポートがなされることがより望 ましいと考えられます。

沖縄認知症研究会では、認知症の方々および ご家族の皆様が複数の機関を利用された場合に おいても、安心して一貫した包括的支援が受け ることができるよう、数年来、地域連携型のク リニカルパスの作成に向けて取り組んでまいり ました。クリニカルパスは認知症の医学的治療 から介護ケアに至るまでの必要不可欠な道筋を 示すものであり、同時に各機関が漏れなく情報 を共有し合い、多角的な視点から個別の治療や ケアを考案するための貴重な資料となるもので す。最終的にはようやく、平成22 年4 月3 日 に開催された同研究会の企画運営委員会におい て、脳の健康手帳(図1)、運用マニュアル(図 2)、施設間の連絡票(図3)、認知症の一般経 過表(図4)の4 点を一つのセットとして認知 症クリニカルパスの完成をみましたので、沖縄 県医師会報の誌上をお借りいたしまして会員の 皆様にご紹介させていただきます。

図1

図1:脳の健康手帳(表紙)

図2

図2 : 脳の健康手帳運用マニュアル

図3

図3 : 施設間の連絡票

図4

図4 : 認知症の一般経過表

まず、脳の健康手帳(図1)の運用にあたり ましては、運用マニュアル(図2)をご参考に、 ご家族に脳の健康手帳(全20 頁)についてご説 明いただき、ご家族の同意書面および関係機関 の連絡先を記載していただきます。同意書の写 しは、かかりつけ医、専門医療機関、ケアマネージャー、介護サービス機関の各ポイントで保 存して下さいますようお願い申し上げます。ま た、ご家族向けにクリニカルパスの流れ、認知 症の分類・経過および検査・治療の概略を解 説、かかりつけ医および専門医が記載する検査 経過表を配置させていただいております(図5)。 介護保険の主治医意見書作成用には、ご家族、 介護機関、かかりつけ医、専門医の自由意見記 入欄を用意しました。最後に、認知機能・生活 機能に関してご家族または介護機関で確認して いただく症状チェック表(図6)およびその解 説をまとめました。

利用者およびご家族の方には、この脳の健康 手帳を常に携帯しながら、かかりつけ医、専門 医療機関、介護サービス機関に受診していただ くことで、各施設間の情報共有や診療連携が促 進されることを期待したいと思います。また、 かかりつけ医〜認知症専門医〜介護サービス機 関との間で速やかな情報交換・共有が必要な場 合に備えて、連絡票(図3)を作成しており、 簡便・迅速な形でのFax による通信またはご家 族に持参していただく情報提供書としてお役立 て下さい。さらに、重症度および経過の進行度 に応じて、ご家族と現状認識および今後の方針 をわかりやすく共有できるよう認知症の一般経 過表(図4)も用意いたしましたので、必要に 応じて適宜ご活用いただけますようお願い申し 上げます。

我々が作成したクリニカル・パスが、治療およ びケアを提供する側の機関において有意義な情 報として活用され、利用者の方々が可能な限り 早い段階で確実なサポートを得るために、少し てもお役に立てたならば大変幸甚に存じます。 また、今後においても、さらなる地域連携の効 率化を図るうえで、クリニカル・パスの見直しや 改良を図り続けていく所存でございますので、 ご利用をいただいた皆様におかれましては、ぜ ひ忌憚のない貴重なご意見およびご指摘を沖縄 認知症研究会(事務局:琉球大学精神病態医学 講座、TEL098-895-1157、FAX098-895-1419) までお寄せ下さいますようお願い申し上げます。

図5

図5:かかりつけ医・専門医による検査経過表(脳の健康手帳7頁)

図6

図6 : ご家族・介護機関による症状チェック表(脳の健康手帳17 〜 18 頁)