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強度変調放射線治療(IMRT)について

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター放射線治療科
伊良波 史朗、金城 正彦、玉城 邦彦、比嘉 良隆

【要旨】

強度変調放射線治療(IMRT : intensity modulated radiotherapy)は、1990 年代より臨床に応用されてきた三次元放射線治療を改良、発展させた治療法であ る。言い換えるとコンピュータおよびIT 技術によりもたらされた新たな放射線治 療であり、従来の放射線治療では不可能であった線量投与が可能となり治療成績の 向上や合併症の低減が期待されている。IMRT の特徴やその臨床的適応について当 院の状況も含め概説する。

1.はじめに

強度変調放射線治療(IMRT)は、実際の臨 床でここ数年、広く利用されるようになってき た。当院の現状も踏まえ、強度変調放射線治療 (IMRT)について解説する。

2.二次元放射線治療から強度変調放射線治療 (IMRT)への変遷

従来の放射線治療は透視にて腫瘍やその周囲 をレントゲン撮影し、放射線治療計画にてター ゲットを設定、治療を施行するのが常であった (二次元放射線治療)。この方法では腫瘍の正確 な形状や位置は明瞭ではなく腫瘍を完全にカバ ーするため広いマージンが取られていた。また、 膵などの深部臓器に関しては通常検査のCT や MRI などを参考に腫瘍位置を想定しターゲット 設定後、実際の放射線治療が行われていた。

その後、1990 年代あたりからCT 機器を用 い治療計画を行う三次元放射線治療が開発さ れ、臨床の場で広く用いられるようになった。 これにより、腫瘍の形状や位置が正確に把握で き、それまで困難であった多門照射、回転照射 や原体照射、頭部への定位的放射線治療などが 容易に行えるようになり放射線治療の幅が画期 的に広がった。

強度変調放射線治療(IMRT)は、90 年代 になって行われるようになった三次元放射線治 療をコンピュータ、IT 技術を用い、さらに発 展させた放射線治療である。今までの三次元照 射における照射内の線量投与に強弱を付けるこ とにより、標的臓器に多くの線量を照射し、近 接する危機臓器の線量を低減できる点が大きな 特徴である。2000 年以降、臨床に応用され始 めている1)

3.強度変調放射線治療(IMRT)の特徴

日本放射線腫瘍学会IMRT ガイドライン2)の 定義として、強度変調放射線治療(IMRT) は、「マルチリーフコリメータ(多分割絞り) などを用いて、空間的または時間的な放射線強 度の調整を同一部位に対する二方向以上の照射 について行い、三次元での線量分布を最適なものとする照射方法」とされている。

言い換えると腫瘍周囲に近接する危機臓器へ の線量低下を図りながら、腫瘍への線量集中性 を高め、結果として腫瘍制御率を高める治療と なる。

図1 は、従来型の三次元放射線治療とIMRT の模式図である。なお、前述したマルチリーフ コリメータ(図2)とは、通常、放射線治療装 置の照射口に設置されており、照射される放射線ビームの強弱をつける制御板であり、コンピ ュータやIT 技術によりもたらされた「強度」 を「変調」させる画期的な装置で、これにより IMRT が可能となった。

図1

図1 従来の三次元照射とIMRT の模式図2)

図2

図2 MLC の動き
照射口からの制御板を細かく動かすことにより、照射線量に強弱を付けることが可能。 図は前立腺照射の際の一例。

4.強度変調放射線治療(IMRT)の保険上の 適応

保険適応症例としては、原発性前立腺腫瘍、 原発性頭頸部腫瘍、原発性中枢神経脳腫瘍とさ れており、今後、適応症例が 徐々に増えていく可能性がある と考えられる。現在のところ、 全国的には圧倒的に前立腺癌に 対するIMRT が多く、全体の7 割程度が前立腺癌症例と報告さ れている。

また、保険上の制約としては、 保険適応施設は、放射線治療専 任医師が常勤で2 名いる場合に のみIMRT 加算が認められると いう規則があり、当院において は、当方1 名のみしか治療専任 医師がおらず、一般的な放射線 治療の保険診療でIMRT を行っ ている状況である。

5.強度変調治療(IMRT)の実 際の治療

通常の放射線治療は、CT や レントゲンなどの治療用画像を 撮影し放射線治療計画を行えば、 特殊な症例を除き、大部分の症 例が少なくとも2 〜 3 日程度で 開始できると思われる。

一方、IMRT では、放射線治 療用の画像を撮影する前に体位 の固定が重要となってくる。通 常の放射線治療であれば、2 〜 3cm 程度の十分なマージンを取 って治療計画を行うが、IMRT の場合には、腫瘍にしっかりと照射し正常組織の不要な線量を低減する ため固定具(写真1)を用い、当該治 療部位の体の動きを押さえ、不必要な 照射範囲を減らす工夫が必要となって くる。固定具を作成した後に治療用の CT 画像を撮影し、その後、放射線治 療計画(写真2)を施行する。治療計 画自体もinverse planning という方式 を用い、腫瘍と正常組織の境界に最適 な線量を配置するため、通常の放射線 治療の計画よりも数倍の時間が必要と なってくる。また、できあがった放射 線治療計画を再現し、ファントムとい う人体仮想モデル(写真3)に照射を 行い、計画された照射野や線量の誤差 がないかといった検証作業を行う。検 証に関しては、1)照射した領域の線量 分布、2)照射線量、を測定する。1) に関しては、計算値と測定値の差で評 価し、線量分布において投与線量の 50 %線量以上の領域で実測値との誤差 は± 3 %以内、30 %線量以上の領域の 誤差は± 5 %以内と規定され、2)に関 しても同様に評価点線量は、計算値と 測定値の差で評価し、全ての門を合計 して± 3 %以下、または各門毎の評価 点線量が計算可能な場合にはその門毎 で± 5 %以下であることと規定されている3)。こ れら、すべての行程が完了し、ようやく治療開 始となる。当院での平均的な前立腺癌のIMRT 治療開始までの所要時間は、平均10 日間〜 2 週 間程度であるが、通常の放射線治療と比較する とかなりの時間と労力が必要となる。

実際の治療においては、通常の放射線治療は 1 回の治療につき3 〜 5 分程度でセットアップ し照射を行うが、患者1 名あたりの時間は着替 えや寝台への移動時間など全部を含めると平均 的に10 分程度と考えられる。しかしながら、 IMRT の際には、毎回、体の補正や標的臓器の 位置ズレを補正するため、固定具の位置修正を 行いレントゲン画像等を用い標的部位の確認 後、照射を行うため患者1 名あたり30 分程度 の治療時間が必要となる。よって、IMRT にお ける1 回あたりの治療時間は通常の放射線治療 の3 倍程度を要し、その分、医師や放射線治療 技師、看護師の労力を要すると考えられる。

写真1

写真1 前立腺癌における固定具

写真2

写真2 放射線治療計画
撮像したCT画像に標的部位を作成し、線量を設定する。

写真3

写真3 人体モデル(ファントム)
計画線量(左下)を基に人体モデル(左上)に照射を行い、計画と実際の照射 に誤差がないか検証する(右図)。

6.当院での強度変調治療(IMRT)症例やそ の内容について

2007 年5 月より、IMRT をスタートした。 2010 年2 月時点で、74 例にIMRT を施行。内 訳は、前立腺62 例、頭頸部3 名、脳腫瘍8 名、 その他1 名である。

このうち、症例数の多い前立腺癌について概 説する。前立腺癌の全症例62 例の年齢は49 歳から82 歳(中央値は69 歳)。基本的に骨転移 やリンパ節転移がある症例は、IMRT の適応外 と考えられ、TNM 分類におけるT1 〜 T3 症例 に対して治療を施行した。また、前立腺癌のリ スク分類では、低リスク群3 例、中間リスク群 36 例、高リスク群23 例であった。放射線治療 前にホルモン治療が施行されていた症例は、55 例/ 62 例であった。

照射線量は、現在当院においては、中間およ び高リスク群に対しては、2Gy / 38 回/総線 量76Gy、低リスク群には、2Gy / 36 回/総線 量72Gy を投与している。また、糖尿病患者は 放射線治療を施行により副作用が強く出る可能 性があり、2Gy / 36 回/総線量72Gy で治療 を行っている。

治療の効果判定はPSA、MRI 画像にて経過 を見ているが、経過観察期間が短いため現段階 では確定的なことはいえないが、局所再発や転 移症例は見られていない。また、PSA の再上 昇例が5 例あるが、軽微な上昇であり経過観察 中である。

副作用としては、照射中〜照射後1 ヶ月程度 の急性毒性として、膀胱刺激症状、頻尿などの 泌尿器症状が見られた症例は10 例、下痢、血 便など消化器症状が見られた症例は7 例であっ た。これらは有害事象共通用語基準である CTCAE(v3.0)4)におけるGrade1 相当であ り、とくに処置もなく改善した。また、IMRT 後1 〜 2 年後の遅発性障害として血便を主訴と する放射線直腸炎が2 例に見られたが、1 例は 対症療法で改善が得られたが、1 例はアルゴン レーザー焼却術が施行され、その後、止血が得 られている。

7.まとめ

IMRT について大まかであるが、当院の現状 も含め概説した。副作用を減らし標的臓器に対 しての線量集中性を高めるため治療直前にエコ ーやCT 等を用い、より位置照合の精度を増し た方法(画像誘導放射線治療)やMRI 画像や PET 画像などを放射線治療用の画像と融合さ せ、より精密に治療計画を行う方法など様々な 発展が見られている。

今後、IMRT を含め多様な放射線治療の適応 拡大が予想されるが、沖縄県における放射線治 療の環境は整っているとは言い難く、放射線治 療医や治療技師などの専門スタッフの充足が必 要で「正確」で「安全」な放射線治療を担保し ていくことが重要と思われる。

参考文献)
1)澁谷 均、他:放射線治療―専門医にきく最新の臨床 ―、中外医学社、東京、2004
2)日本放射線腫瘍学会: IMRT ガイドライン 2008
3)日本放射線腫瘍学会:多分割コリメータによる強度変 調放射線治療の機器的制度確保に関するガイドライン
4)CTCAE v3.0 : International Journal of Clinical Oncology Vol.9,Supp V: 1 − 82,2004




Q U E S T I O N !

次の問いに、○×で解答せよ。

  • 1.強度変調治療は、時間的、空間的な線量調 整をマルチリーフコリメータなどを用い、二 方向以上の照射で調整する放射線治療である。
  • 2.マルチリーフコリメータとは、放射線の線 量を調整する制御板である。
  • 3.原発性前立腺腫瘍、原発性肺腫瘍、原発性中 枢神経腫瘍が、IMRT の保険上の適応である。
  • 4.IMRT の治療計画後、分布や線量に関して の測定―検証を必ず施行しなければならない。
  • 5.保険適応施設としては、放射線診断専任医2 名がいる場合にのみ、保険適応が認められる。

CORRECT ANSWER! 4月号(vol.46)の正解

慢性咳嗽について

問題:咳喘息の病態、治療について
次の設問1〜5に対し、○か×印でお答え下さい。

  • 問1 . 気道過敏性は亢進しており、喘鳴 (wheeze)も認める。
  • 問2.治療薬として気管支拡張薬が有効である。
  • 問3.ほどんどの症例は自然完解し、気管支喘 息には移行しない。
  • 問4.重症の場合は、短期間の経口ステロイド 薬が有効である。
  • 問5.湿性咳嗽を呈する。

正解 1.× 2.○ 3.× 4.○ 5.×