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平成21 年度沖縄県医師会勤務医部会講演会
「勤務医の疲弊を解消し、地域医療を再生させよう
  〜ビール片手に本音で語ろう〜」

沖縄県医師会勤務医部会部会長
城間 寛

去る3 月13 日(土)沖縄県医師会館に於い て標記講演会を開催した。

県内の公的病院や民間病院に勤務する先生方 から勤務医の疲弊を解消するために、各施設で いろいろ工夫されていることについて発表いた だき、全体で討論を行った。参加者は医師38 名であった。

シンポジウム

「勤務医の疲弊を解消し、地域医療を再生させよう
 〜ビール片手に本音で語ろう〜」

座 長:沖縄県医師会副会長 玉城 信光
   沖縄県医師会勤務医部会副部会長 宮城 正典

(1)琉球大学第一内科の現状とこれまでの取り組み

琉球大学医学部附属病院・第一内科医局長 平田 哲生

(2)何も変わっていない:県立病院小児科医に未来 はあるのか?

県立中部病院・小児科部長 小濱 守安

(3)初期研修・後期研修そしてその後の研修を見据えて

豊見城中央病院・副院長 城間  寛

(4)浦添総合病院の現状と今後の課題として取り組む べき勤務医の負担軽減策について

浦添総合病院・呼吸器外科部長・研修委員長 福本 泰三

シンポジウム

(1)琉球大学第一内科の現状とこれまでの取り組み
琉球大学医学部附属病院第一内科医局長
平田哲生

当科の現状として、診療は「屋根瓦方式」を 基本としたグループ診療(消化器・呼吸器・感 染症で計5 グループ)を行っており、一人の患 者を3 〜 4 人の医師で診療を行い、医師個人の 負担軽減を図っている。また、屋根瓦方式は教 育的効果のみならず、指導する側の学習習慣に もつながり専門医の育成に大きな役割を果たす 等効果がある。週末、夜間の消化器、呼吸器の オンコール体制もローテーションで行ってお り、特定の医師に過度の負担がかからないよう に工夫している。

医師の疲弊の原因として、「過度の勤務:肉 体的な疲労」「孤立感:相談する相手が少ない」 「不公平感:自分ばかり忙しいことによる意欲の 低下」「専門外の診療:興味がもてず診療意欲 が低下」「書類作成等の雑用」等が挙げられる。

地域医療での取組みとしては、当科で県立八重山病院3 人、県立宮古病院3 人、北部地区医 師会病院へ4 人常勤医師を1 〜 2 年単位のロー テーションで派遣し、離島・遠隔地医療に貢献 している。くわえて、地域の中核医療機関、検 診施設等にも医師を派遣している。離島・遠隔 地へ出向した医師については、次回の異動では 本人の希望に沿った施設へ派遣する等不公平と ならないよう配慮している。また、多忙や病気 等で、医師が疲弊した場合には負担のかからな い施設(検診センター等)へ移動を行い、他の 医師を補充しバランスをとっている。そして心 身の健康状態が回復した場合には本人の希望に 応じて中核病院へ移動を行う等、地域医療を考 慮したローテーションを行い医師の疲弊解消に 努めている。

現在の問題点として、医師の疲弊が生じない ように全県的な医療に配慮した医師のローテー ションを行っているが、近年入局者減少(平成 15 年迄は5 〜 10 人、平成16 年迄は1 〜 4 人) の影響を受け、離島・遠隔地への医師派遣の維 持が困難となりつつある。毎年綱渡り的な状態 で今後派遣が継続できない可能性も十分にある と考えている。当科の後期研修体制にも多くの 問題点はあるが、離島派遣があることで入局に 二の足を踏む医師がいるとも聞いている。ま た、屋根瓦方式についても、上級医が直接主治 医になることが多くなり、負担が増加傾向にあ り、当該方式の維持が困難になってきている。 また、新人が入らないことによる意欲の低下や 教育意欲の低下による診療などのモチベーショ ンの低下が懸念される。

内科医師の疲弊解消には、全県的な医師の配 置を考える。人気のある病院に医師が集まる傾 向にあるのは当然であるが、厳しい状況の病院 に配慮することも必要だと思う。ゆいまーるプ ロジェクトなどの活動に期待している。

また、医師が減れば業務量を見直すことも考 慮して欲しい。仕事を減らす簡単な例として は、内視鏡検査を開業医に依頼するなどの方法 もある。

中長期的には、今後地域医療を担う若手医師の育成が重要である。特に琉球大学出身の医師 は本学の理念「在島嶼環境などに由来する困難 な地域保健医療の充実に努めること」を心に診 療に従事して頂ければ、地域全体が活性化する のではないかと考えている。

(2)何も変わっていない:県立病院小児科 医に未来はあるのか?
県立中部病院・小児科部長 小濱 守安

中部医療圏は人口464,371 人、小児人口 90,721 人の医療圏で、中部病院、中頭病院、 中部徳洲会病院の3 病院が分担して小児救急を 担っている。小児科医は合わせて14 名である。 救急患者総数は減少しているが、小児患者は増 加しており、この大部分を中頭病院、中部徳洲 会病院が対応している。

中部病院は1 次患者に加え、主に2 〜 3 次患 者を中心に年間13,000 人余の小児救急診療を 行っているが、現状の体制ではこれまでのよう な救急対応は困難である。単純に5 人のスタッ フで最低6 回の当直となる。4 人では月7 回以 上の当直になる。当直明けも通常勤務体制の 36 時間勤務では、心身ともに疲弊し医師自身 の健康を損ない、患者の診療どころではなくな る。医療事故の危険性も高くなってしまう。

また、中部地区救急告知病院の小児科医師の 減少に伴い、はたして我々だけで維持ができる のか非常に心配である。

緊急対応として、1)外来・救急の制限、2) 輪番制の導入、3)オンコール体制の導入など 業務軽減対策が必要である。

くわえて、県民の皆様へはできるだけかかり つけ医の診療時間内にかかりつけ医を受診し、 適正な夜間救急の受診をお願いしたい。

中部では夏のインフルエンザが発生した際、 医師会や診療所、病院、保健所等が非常にうま く連携して、乗り越えたと考えている。この連 携を活かしながら何か助けになるところはない かなと考えている。

小児科のスタッフが疲弊した状態で勤務をこ なせば、研修医は小児科に残ってやろうという気持ちにはならないと思う。疲弊したスタッフ を見て余所に逃げてしまうのではないかと思 う。研修医を病院に留めるためにも、小児科医 の当直回数の軽減など、勤務条件を軽減してい く方策を考えなければならないと思う。勤務小 児科医は疲弊し危機的状況である。

(3)初期研修・後期研修そしてその後の研 修を見据えて
豊見城中央病院・副院長 城間 寛

豊見城中央病院は昭和55 年に開院し、今年 ちょうど30 年目を迎える。開院当時13 名の医 師が在籍し、現在では医師総数127 名で、30 年で約10 倍の医師数となっている。また、平 成16 年臨床研修制度が必修化になることに合 わせて、臨床研修指定病院となり、群星沖縄プ ロジェクトの管理型病院の一つとして研修医を 受け入れるようになった。初期研修医が修了し た平成18 年度から、後期研修制度を立ち上げ 内科、外科、整形外科、麻酔科で後期研修医が 研修を始めた。

民間病院のメリットは、必要なところに必要 な人材を登用でき、いち早く実行することが出 来る点である。デメリットは予算が確保できな ければ実行不可能であり、補助金や寄附金等は 殆ど無い点である。

当院では、過重労働の改善のために、人材の 確保と、働き方の工夫が絶対に必要だと考えて いる。そのための方法として、臨床研修制度を 魅力的なものとするため1)臨床研修制度の充 実、2)メディカルアシスタント制度の拡充な ど重要と考え、これまで取り組んできた。

病院の特徴として、手術件数や入院患者数等 から考えて、豊富な症例がある。それから指導 医も82 人体制である。研修医や後期研修医は 研修委員会に所属し、何かあれば研修委員会で ガードする体制を整えている。何かあった際に は、研修委員長から診療科長へ相談するなどの 体制を整えている。

また、柔軟なプログラムを構築しており、院 外研修や学会活動も積極的に参加させるように している。なるべく束縛しないような形で、居 心地がよくなるよう工夫している。これも民間 病院の特徴だと思うが、毎週土曜日、診療科を 越えたER カンファレンスを行っている。スタ ッフも研修医も自由に参加出来、1 つの症例を 皆でじっくりディスカッションしている。

小松医師は自身の著書の中で「意欲ある若い 医師を医局や病院の垣根をなくして交流させ、 大きく育てようとする姿勢を示すことが、若い 医師を確保する最も重要なポイントである」と 述べている。

民間病院とはいえ沖縄の中で医療を行ってい る医療施設として、できるだけ地域に貢献でき るよう考えている。民間はやはり独立独歩でい かなければならないところもあるため、経営の 安定化が先ず無いことには何もできない。その 両方を兼ね合わせてできるような形で行ければ 一番良いかと思う。

「週刊東洋経済」に掲載された記事の内容で あるが、離島医療存続するためには医師の大循 環システムが必要で、官民入り混じって医師確 保対策にあたることが必要だとしている。沖縄 の特性を活かした社会システム(助け合いの 心)が地域医療再生に向けたヒントではないか と考えている。

また、今般、沖縄では地域医療再生基金を活 用したメディカルシミュレーションセンターの 設立計画が進行中であるが、医学教育で画期的 なものになるだろうと期待している。魅力的な 研修制度、システム、ハード・ソフトをつく り、若い医師が沖縄で訓練や教育を受け、地域 医療に貢献していくという流れをつくって行け ば、勤務医の疲弊も変わってくると思う。

最後、勤務状況の改善は人が増えれば解決す るか。解決することが多いと思う。しかし、民 間病院では経営的な問題もある。是非それを成 り立たせながら、必要なところにヒトとモノを 投入して地域医療ができるようにしていきた い。その他の勤務環境の改善として、1)メデ ィカルアシスタントの促進、2)専門性の高い コメディカルチームの育成。また、事務的なアシスト、医療的なサポート等が勤務医の疲弊を 改善する方法ではないだろうかと考えている。

(4)浦添総合病院の現状と今後の課題とし て取り組むべき勤務医の負担軽減について
浦添総合病院・呼吸器外科部長・研修委員長
福本泰三

我々勤務医の労働における負担を少しでも軽 減するために、これまでにも様々な提案がなさ れ改善にむけて図られてきたのも事実である。 しかし現実にはこのような対応策で十分な効果 が得られないがために、昨今取りざたされるよ うな、いろいろな側面からの医療崩壊論が展開 されている。

当院で実際に行われている、あるいは今後の 課題として取り組むべき勤務医の負担軽減策に ついて4 点に分けて述べたい。

1)長時間継続勤務を解消するために、当院 の医師の夜勤体制はICU 夜勤(専従)1 人、 HCU 夜勤(専任)1 人、産直1 人、救命救急 当直1 人、救急外来夜勤 平日4 人、土日祝日 約5 人の合計8 〜 9 人の体制をとっている。そ れぞれの仕事量は若干異なるが初期研修医では 平均6 〜 8 回/月のER 夜勤、後期研修医(卒 後3 〜 5 年目)では約6 回/月、スタッフDR で はER 勤務も含め3 〜 4 回/月程度の夜勤が duty になる。長時間継続勤務は極力避けるこ とをモットーとして夜勤の翌日の午後はできる 限りduty free にできる体制を取っている。ま た、診療科によって温度差はあるが、ここ数年 間で徐々に徹底されてきている。

2)医師の業務を他職種でカバーするために、 当院では約1 年前よりメディカル・クラーク (MC)を302 床に対して15 人配置し各診療科に 割り振り医師の業務の補助を行っている。また、 2010 年度からは病床数と比が15 対1 のルール でMC の配置が可能になるためさらに増員し、 MC を20 人体制に整える予定で動いている。現 在は、新設される呼吸ケアーチーム加算に関し ても取得可能となるよう整備に入っている。

実際、我々がMC に期待するものとして、各 診療科における医師の業務を見直し、MC で代行 できる内容をしっかり割り出すことで、医療の質 も上がり医師も業務を軽減することが出来る。

3)子育て支援を行いながら、子育てのため に医療から離れている女性医師の助けを得る方 策として、当院では、平成19 年10 月に病児保 育を目的として浦添市委託事業並び仁愛会付帯 事業で小児デイケア“もこもこ”を開園した。 小児デイケアでは定員6 名で開園時間は月から 土曜日の8 時から18 時まで、祝祭日は休み。 保育士はテノ・コーポレーションから派遣。平 成20 年12 月には仁愛会“もこもこ”保育園を 開設し、育児支援に乗り出した。保育園は定員 16 名で開園時間は月から土曜日が8 時から20 時、日曜日も月2 回開園している。また週1 回 24 時間保育を行っている。出産後の女性医師 支援を自らの法人で完結できる準備が整ってい る。女性医師の出産後の復職状況については、 短時間勤務や隔日勤務からはじめ、通常勤務が 可能になるまで段階的に支援している。今後は 学童や学習塾など預かる施設を設置できれば素 晴らしいと思う。

4)医師の勤務医時間をフレックス制にする には、各診療科のスタイルに合わせて無駄をカ ットし、勤務時間にフレックス制を導入するこ とで、労働基準法で謳われている就労40 時間 制を守りながら出来る限り超過勤務を削り、う まく休息できる時間を確保することであるが、 今後の課題である。

指定発言

1.独立行政法人国立病院機構沖縄病院・院長
石川清司

離島県の沖縄においては医療資源の有効活 用については、施設完結型の医療ではなく、地 域完結型の地域医療を求めていくべきだろうと 思う。

各論でいくと、私どもの病院もかなり苦戦を 強いられているのが現状である。国の政策医療 も担っているが、福祉にとって魅力あふれる医 療を展開しないといけないところに苦労がある。障害者自立支援を受けて、患者負担も増 え、施設の負担もかなり増えている。結核医療 はベッドを持っているだけで1 ベッド当たり 100 万円もの年間赤字が発生する病院である。

病院の立地条件を見ると、近接して大学附属 病院、公立・民間の総合病院に囲まれた、国の 政策医療を担う医療、焦点をかなり絞って質の 高い医療を提供するのが唯一の生き延びる道だ と考えている。

そこで考えたのは在院日数の縛り、比較的緩 い専門病棟の開設である。ガンと循環器疾患に 関しては専門病棟の概念があるため、一般病棟 をすべてガン専門病棟にした。終末期医療はエ ネルギーのいる医療であり、一般病棟からの緩 和ケアを独立させた。

また、病院機能評価も構造評価ではなくISO の機能評価にした。その理由は、1) 強力な内 部監査員の養成(医師の参加)、2)継続的改善 努力:毎年内部監査が行われる。(PDCA の回 転と是正の水平展開)。3)病院幹部の監査(運 営方針まで介入がある)、4)運営方針・職場目 標・個人目標の明確化が必要。5)内部監査を 通じて職員間のコミュニケーションが図られる ことである。

子育て中の女性医師対策については、1)レ ジデント枠での採用(週32 時間勤務)2)臨床 のリズムを保ちつつ子育てもしてもらう、3) 患者を持たずとも臨床研究も可能としている。

診療だけでは限界があるため、学会活動は自 由にできるよう配慮し、治験も可能な限り受け 入れて、研究費用を獲得するよう努めている。

また、当院では、職員の業績評価システムを 持っている。A 評価を受けると、ボーナスも1 割アップする。企業収支が黒字になると、年3 回のボーナスを院長の裁量で出すことはできる。 努力をすれば報いられる制度を確立している。

急性期医療だけが疲弊しているわけではな い。陽のあたらない分野も理解いただきたい。

診療報酬の点数を引くだけでは根本的な解決 にはならないと考えている。

まとめると、医療支援には限界がある。やは り軍事基地に関連した公費依存体質では将来は ないと考えている。診療の質を維持し向上させ るためには、それ相応の症例数の確保が必要で ある。まず機能分担を図り、個々の医療機関の 特徴ある診療と臨床研究を展開し、人材を投入 する。そして、政府として努力すれば報いられ る制度の仕組みをつくっていくべきだろうと考 えている。

2.県立南部医療センター・こども医療センター・副院長
松本 廣嗣

医療崩壊、病院崩壊を招いた要因として、1) 医療機能の高度化・専門家、2)寿命の延長と 終末期医療の病院依存、3)低医療費政策によ る病院医療への締め付け、4)医師の絶対数の不 足と強度の偏在現象、5)夜間・休日の当直業 務から翌日の勤務という過重労働が挙げられる。

離島・へき地の勤務医師確保に関する問題点 は、1)毎年50 〜 85 %の医師が入れ替わる。 2)当直要員の確保:医師の疲弊、3)短いロ ーテーション期間(2 年):患者の不安が大き い、4)中堅専門医の獲得が困難:施設認定や 研修医の問題、5)離島診療所の勤務形態:常 時オンコール状態(時間外、土日、祭日構わ ず)、6)代診医獲得の問題等が挙げられる。

救急医療で試される地域力(1)として、充 実した救急医療である。沖縄県にはたらい回し はない。これは日本全国に誇れる素晴らしいこ とであるが、それを支える医療者の努力は尋常 ではない。社会の傾向として、最近の若者たち は自分の生活を勤務より大事にしたい。だれも が避けたい救急医療となっている。救急医療の ある病院には行きたくないという声も聞こえる。

いろいろ問題はあるが、それを皆で支えてき たことは素晴らしく誇らしいことであるが、少 しずつ皆で負担しようという考えが、これから 重要になってくると思われる。例えば、1)診 療科ごとの輪番制:脳外科・循環器科、2)診 療科の集約化:脳外科・心臓血管外科、3)離 島医療の支援:県の政策だから県立でやらなけ ればならないのか。

救急部門における輪番制の提案だが、2 つの 大きな診療科に分け、急性冠障害治療を担う8 病院(那覇市立病院、南部徳洲会病院、沖縄赤 十字病院、浦添総合病院、琉大病院、豊見城中 央病院、南部医療センター、牧港中央病院)、 脳外科救急を担う8 病院(那覇市立病院、南部 徳洲会病院、沖縄赤十字病院、浦添総合病院、 沖縄協同病院、琉大病院、南部医療センター、 大浜第一病院)これらを4 グループに分けて輪 番制を敷けないかというアイディアである。

救急医療で試される地域力(2)として、沖 縄モデルを模索する提案である。1)救急医療、 2)離島医療、3)周産期医療、4)小児医療、5)循 環器医療、6)研修事業などである。もはや個々 の病院のみの対応では限界があり、各診療科毎 に全県レベルの視野で解決策を探る仕組みが必 要である。厳しい面は多々あるが、県医師会を 中心に今後、強力な活動が求められると思う。

研修事業については、去年あたりから医師会 が音頭をとり、大学や県立、民間病院の研修医 をすべて招待し歓迎をしている。また、後期研 修医も含めて、より高度な研修につなげていけ るようなシミュレーションセンターの創設等の 動きがある。沖縄県全体で将来の構想を考える 素晴らしい働きだと思う。

ディスカッション

○座長(宮城副部会長):この問題は医師の 数だけではなくて、病院のシステム、あるいは 地域の医療、あるいは国の制度、いろんな問題 が絡み合って今の状況をつくり出している。問 題も複雑ではあるが、現場では少しでも医師の 疲弊をなくそうということで、いろいろな工夫 をされているとのことでした。

フロアから演者の先生方に質問、または、今 日のお話で感じたこと、あるいはご要望、ご意 見等があれば賜りたい。

○翁長(沖縄協同病院):一番大事なことは人 材の育成である。当病院では非常に上級医が忙 しすぎる。勤務の内容を軽減することが一番大 事である。忙しすぎて指導する時間がないというのが現状である。一つの案として開業医の先 生方に協力していただき、安定した患者は開業 医に任せて日中の業務をどんどん減らしていく 方が良い。

あと、モチベーション上げるための方策とし て、自身の評価と上司の評価、コメディカルの 評価の3 段階に分けて評価してもらいボーナス に色を付けて貰いたい。これだけ頑張っている のにも関わらず正当の評価をされないとモチベ ーションが下がってしまう。

○座長(宮城副部会長):新臨床研修制度 ができたのも多分、その辺りのところから人材 をしっかり土台をもって、その上にスペシャリ ストをつくろうという目的のもとで開始された と思う。先生のご意見は正しいと思う。

○新里(中部徳洲会病院):今回、小濱先生を 推薦したのは私であり、「勤務医の疲弊」という キーワードからパッと浮かんだのは、小濱先生 であった。

小濱先生のお話を聞くと、本当に危機感が募 る感じがしている。中頭病院も、うちの徳洲会 病院も来年度から小児科医が1 人ずつ減り、危 機的な状況になってくる。やはり一番心配なの は、研修医達が小児科のスタッフを見て、小児 科医になることを辞めてしまっているというこ とは恐いことだと思っている。

中部地区医師会としても平成22 年度は、中 部地区の小児救急医療の危機的状況を何とかし ようということを最重要課題として挙げている が、一つの案として患者さんのコンビニ受診を 減らすとか、あるいは輪番制とか、あるいは会 員に応援をお願いするか、そういったアイディ アはいろいろあるが、なかなか応援と輪番制に 関しては話がばらばらな状況で、決定的なこと は、マンパワー不足ということがある。地区医 師会としてもその辺のことを良くしようと考え ているので、是非、県医師会として、小児科医 の補充をお願いしたい。

○座長(宮城副部会長):小濱先生、なかな か実らないと話されていたが、どういう方向に 動いていけば改善できるか案があるか。

○小濱(県立中部病院):今できることから、 やはりコンビニ受診の解消だと考える。もし救 急の外来で呼ばれる回数、救急で当直でもしっ かり休める時間が少しでも増えれば、少しは楽 になると思う。それで県の委託で小児保健協会 の中で、コンビニ受診をなくすためのパンフレ ットを作成する等の対策を行っている。

将来的には本当に人を増やしていくことが、 最低限の条件で輪番制などまだしも、例えば救 急を1 つの病院で担うということは、そこにか なりの人間を配置しないと、必ず疲弊すると思 う。県立病院が救急をするのであれば、それに 見合うだけの小児科医を配置してもらう。また、 輪番制で民間の病院のほうにも応援を依頼する のであれば、その病院に何らかの支援をしてい かないと、多分全部倒れてしまう。とても難し い問題である。県立病院はいつも定数、定数と いうことで一度も増えたことはない。まず身分 の確保もあるし、それから定数を十分に県が示 していただくということが大事かなと思う。

○座長(宮城副部会長):もう中部地区だけ の問題ではなく、全県的な問題だと思う。医師 会が中心になり、民間、それから大学病院、県 立病院、すべてが小児科だけではないが、危機 的な状況にある小児医療に関して何らかの対策 を真剣に取らないと、本当に崩壊してしまうの ではないかと感じた。早い時期に全県を挙げて 対策をとる必要があると思う。

○座長(玉城副会長):中部地区の現状は厳し い。ハートライフ病院もあるが、実際には県立 中部病院、中頭病院、中部徳洲会病院の3 施設 で救急を支えている。どちらか1 つが欠けても かなり厳しい。ハートライフは中部だが、どち らかというと南のほうに向いている。南部には 小児科が少ないといっても、それなりの数はい る。開業医の先生もいるのでカバーできるのだ が、その地域における差がある。県の定数条例 が、今度変わろうとしているが、どうも7 対1 看護のナースのほうだけに向いていて、ドクタ ーはあまり関係ない。

だけど本当は中部病院で考えるべきことは、数が増えないときに、小児科を優先して他の科 もそれだけいる必要があるかどうか。今いる人 を減らせとは言わないが、地域における機能分 担と、小児科の疲弊を解消するためには、何処 かから定数を増やすのも必要だが、院内のバラ ンス、地域のバランスをどうするか考えるべき こともあると思う。

○石川(沖縄病院):松本先生にお伺いしたい が、医者は皆増やせ増やせであるが、県立病院 の中で思い切ってダウンサイジングできる場所 は、ある程度それに振り向けるべきではない か。増やせ増やせでは県はもたないと思う。

○松本(南部医療センター・こども医療センタ ー):なかなか言いにくいです。

例えば病床の利用率とか、そういうものに視 点をあてると、宮古・八重山はそんなに高くな い。そうすると、そこを減らして医者でも看護 師でも本島のほうに振り向ければ良い。定数を 調整すれば良いじゃないかという発想がある。 これと似たようなことが北部病院でも言える。

昼間はそんなに患者はいない。だけど救急を 常にサポートしなければならない。当直の回数 は、3 日に1 回とか、4 日に1 回では、もうこの 年齢では持たない。

その際たるものは、久米島病院だと思う。私 は久米島病院を設立するときの委員の1 人であ る。作らせないという委員だった。久米島病院 の予定は、最初は40 床で4 人での医師体制で あった。そしてあろうことか、内科、外科、小 児科、産婦人科で24 時間救急医療をやると言 ってきた。

そういう診療をするならば、17 人必要だと 訴えた。院長1 人、あとは診療科が4 人ずつで ある。そしたら4 日に1 回の当直で済むわけで ある。11 人の医者がたった40 床の病院ですよ。 昼間はそんなにないはずだが、これを毎日やれ るのかということである。ちょっと大きな診療 所としてやるべきであった。病床利用数の視点 で物事を考えると、もう余っているじゃないか という発想になるが、実際上はそんなことはな い。それは非常に厳しい状況で動いているということは、理解していただきたい。

○座長(宮城副部会長):離島の問題に触 れるが、新しく入る医師たちが、離島勤務がロ ーテーションにあるということで敬遠するドク ターも、いるということでしたが、新しい人が 入らないと先生方も非常に困るところで、何ら かの対策、離島研修は決してネガティブなもの ではなく、ポジティブな問題というようなこと での対策もとられているか。

○平田(琉球大学医学部附属病院):離島勤務 を嫌がる理由はいろいろあると思うが、専門医 は取るのが遅れるとかいう点に関しては、まず 大学病院で1、2 年勉強し、研修登録医というも のになってもらえれば、離島勤務が大学でやっ たのと同じに扱われるので、そこは解消できる。 専門医登録に関しては問題がないと思う。大学 病院であれば、離島に行っても自分の将来のキ ャリアにはあまり問題がないというのを、今後 もう少しアピールしていきたいと思っている。

○座長(玉城副会長):麻酔科の教室として離 島で勤務することを義務づけている。その代わ り離島に勤務した後は、本島内に戻ってきてか ら自分の好きな病院にいって良いというインセ ンティブを与えている。

離島が嫌だということではなくて、離島プロ 等のシステムを通じて離島の現状がわかる。た った1 人でぽつんと離島の診療所へ行かされた ら、それは駄目だが、宮古病院や八重山病院で あれば、県内にある病院とほとんど変わらない だけのことができると思う。逆にある程度でき あがった外科には、手術ができるという嬉しさ がある。

○座長(宮城副部会長):離島のほうは僕ら も経験したが、確かに昼もそんなに多くなくて も、夜の救急をやると数は少なくても、例えば 7、8 人だけ診るが、それが1 時間おきに来られ ると、一睡もできない状態になる。翌日通常の 勤務ということで、結局、救急医療というのを 担っていると、どうしても夜間に問題があり、 疲労度は決して本島の忙しい病院とほとんど変 わらないような状況である。

城間先生のところは、今、後期研修医を離島 に派遣されているが、これは今後、科を広げて いくとか、例えば指導医もできたらセットで送 って、長い期間あるいは定期的にやるという計 画があるか。

○城間(豊見城中央病院):うちの病院では去 年からやり出したばかりで、まだたいしたこと もやっていないが、まず研修に行ってもらう。 強制という形ではないが、いろんなところに行 って非常に経験になるよというふうな、そうい う言い方で彼らに勧めている。実際に行って帰 って来た連中が、自分1 人でいろんな経験がで きたから良いというような形が良い循環になり つつある。

そこの病院の指導する先生方に、3 年目、4 年目、まだ自分1 人ではできない状況で行くの で、困ったときに相談相手になってもらいたい とお願いしている。若い連中でも勉強しにいき たいというのは多くいる。

3 年前に全国医師会勤務医部会を沖縄で開い たときに、勤務医へのアンケート調査を行った が、20 代では約6 割から7 割の医者が離島に行 って経験してみたいという答えをしている。

セットで派遣ということに関しては、地域医 療貢献という形で議論する時期がきたら、する ことになるだろうと思う。

○座長(宮城副部会長):今日は八重山か ら今村先生が参加いただいているが受ける側の 立場として、日常業務との兼ね合いで、少しは プラスもあるが負担もあるのか、プラスがすご く大きいのか。

○今村(県立八重山病院):常にプラスになっ ていると思う。人数がいないと当直もまわせな い現状がある。私も56 歳になるので、当直・ 日直、4 回やっており、やっと解放されている が、やはり夜の勤務は、かなりストレスになっ ている。

ほとんど自分でできる年代になっているの で、ある程度のフォローはあるが、本当に助か っている。

先ほど定員の話があったが、実は中部病院や医療センターの定員というのは、そこの業務だ けではなくて、離島の応援も相当していただい ているということを勘案すると、今の県立病院 の定数はかなり少ない。かなり大幅に増やして ちょうどいいぐらいになると思う。もちろんコ ストの問題はあるが、是非医師についても定員 増、それから離島に来たときに臨時制度ではな くて、離島にいる間も正職員として、待遇面を 考えていかなければいけない。これは県に訴え ていかないといけないかなと思っているところ である。

○石川(今帰仁診療所):北部もかなり疲弊し ており、まさに医療崩壊しかかっている状況で ある。

1 つ我々の視点から見るだけではこの問題は 解決できないと思う。お金のかからない医療に 取り組むには、更に予防医療を徹底してやって いかなければならない。科学は進んでいるが、 私たちの病気は非常に増えている。その辺の取 り組みも含めて根本的に考えたい。

根本的なところまで患者への健康指導の取り 組みを急がなければ、病気は増える一方で、医 療費も増える一方である。最終的には国民皆保 険制度まで潰れてしまうのではないかと思う。 もっといろんな切り口からこのビジョンの問題 を考えていかないといけない。

○座長(宮城副部会長):今年の4 月から診 療報酬が改訂になり、勤務医の負担軽減という ところにポイントが置かれ、少し追い風にはな っているが、メディカル・クラークの業務内 容、今後の方向性について、福本先生に教えて 頂きたい。

○福本(浦添総合病院):実際には302 床で 12 人のメディカル・クラークさんが働いてい るわけだが、やはり足りないのが現実である。 特に整形外科の診療においてメディカル・クラ ークさんは活躍していて、ほとんど書類書きで ある。診断書から入院証明書とか、ほぼメディ カル・クラークさんのほうで作成して、あとは ドクターのほうが印鑑を捺すという形でやって いる。

全国でヒアリングした内容を踏まえると、任 せる業務内容も増えて来ているので、かなり医 師の雑務が減ってくるのかなと思う。

整形外科は紹介状もできる限り、例えば簡単 なものであれば定型の文書をつくっておいて、 それを載せるというような形でやっている。あ るいはドクターが喋ったものをそのままタイプ するような格好で打っていくとか、そういう形 もある。例えば私のところは、呼吸器関係のい わゆるカンファレンスの内容というのは、ほと んどメディカル・クラークが全部電子カルテに 入力してもらって、リアルタイムで仕事が終わ っている。

○松本(南部医療センター・こども医療センタ ー):制限なくもっと多くのメディカル・クラ ークが手に入れられるような方向性で動いてほ しい。県立病院の状況では、メディカル・クラ ークは嘱託でしか採用できない。期間は3 年で ある。半年ぐらい教育して、それから2 年経て ばまたゼロから雇わなければいけない。非常に 不都合であると感じていたが、先日那覇市立病 院から連絡があり、雇ったメディカル・クラー ク同志を病院間でバーターしようという提案が あった。6 年やったらもうプロである。人材を 活かす意味で派遣会社的なものをつくり、そこ で各病院に貢献する方法があると思う。その辺 りを医師会主導で創設出来れば、非常にありが たいと思う。彼らを育てていくという視点が非 常に重要だと思う。やっぱり素人ではなくてプ ロが欲しい。そういう人たちの集団をどんどん 増やすというのは、負担軽減に繋がると思う。

○城間(豊見城中央病院):当院では診療報酬 でもらえる人数以上のメディカル・クラークを 配置している。以前から整形を中心にやってお り、やはりオーダーメイドで育てることが一番 大事である。

患者との調整や手術までの段取りまで対応し て貰えるので、本当に助かる。是非、公的病院 でもいろいろなアイディアを駆使して活用でき るようになれば、勤務医の負担軽減に繋がると 思う。

○座長(玉城副会長):うちはクリニックであ るためメディカル・クラークを置いても何も制 度もないがナースが手術の予定とすべての検査 を全部組むようにしている。県立病院で先生方 が嘆いているのは、自分たちがどれだけの自由 度をもって、どれだけ自分たちの能力を発揮し てものができるかに全てかかっている。我々は こういうものが欲しい。ではそれを生み出すシ ステムはどのような方法でやっていくかという ことを考えないと、民間のほうがはるかに進ん でいる。非常勤ではなく、いるほうが絶対プラ スであるので、常勤としてどんどん育ていく。 国療の石川先生は苦労しながらもすべて責任は 俺がとる。そういう形の人がいると、組織はう まくいく。

県立病院全体が、今後どこにいくか。やはり 先生方が考えている素晴らしい事柄と、それを 基にして自分たちであれば何が出来るかを見極 めても良い。

だいぶ時間をオーバーしたが、消化不良だっ たような気もするので、本勤務医部会でいろい ろなアイディアを皆さんから頂戴して、地域医 療でどのように連携してやっていくか、勤務医 の疲弊というのは勤務医ではない、我々開業の 医師も、診療所の医師も、病院の医師も、お互 いいろんな苦労しながらやっているので、それ が連携してうまくいく沖縄の地域医療をどのよ うにつくるかというところに最終的にいくと思 う。それを是非とも来年度、もう少しバージョ ンアップさせて議論をしたいと思う。

最後に、来季は3 期目となる宮城会長にコメ ントをお願いしたい。

○沖縄県医師会(宮城):沖縄県医師会の宮城 です。

話を聞かせていただいて非常に参考になりま した。ようやく沖縄の医療界全体が纏まってき たと感じた。沖縄の医療をどうしようかと考え る会ができたということは、非常にこれは大前 進だと思う。

医療人というのは、公も民も無い。医療を提 供する医療人というのはみんな同じ。そういう 意味では、それが専門の先生が集まり、自分た ちの医療をどうするかという考える場ができて きた。できつつあるという意味では、沖縄の医 療というのは明るいのではないかと思う。こう いう議論をまた更に積み重ねていき、実際に沖 縄の地で実現できる松本先生が提案された沖縄 モデルというものを実際にできるというふうに 確信している。今日は非常に参考になった。そ れを進めていきたいと思っている。

○座長(宮城副部会長):先ほど会長がコメ ントされたように、やっと沖縄の医療界が1 つ に纏まっていくという期待が持てるシンポジウ ムだったと思う。本日は遅くまでお疲れ様でし た。どうもありがとうございました。

印象記

城間寛

沖縄県医師会勤務医部会部会長
城間 寛

沖縄県医師会勤務医部会では年間行事の一つとして、これまでいろいろな著名な先生方を招い ての講演会を開催してきた。講演会はそれなりに意味のあるものではあったが、沖縄での現実の 問題を解決するところまでは行かなかった。今回、これらの状況を踏まえて、勤務医部会として、 どう取り組んだら良いかを話し合った結果、まず現状を知り、その上で語り合おうではないかと いうことになり、「勤務医の疲弊を解消し、地域医療を再生させよう〜ビール片手に本音で語ろう 〜」というシンポジウムを去る3 月13 日(土)沖縄県医師会館に於いて開催した。

4 人のシンポジストにまず発表してもらい、その後討論という形になった。4 人のシンポジスト とも発表時間をオーバーする熱の入れようであった。特に県立中部病院小児科の小濱先生は大変厳 しい現状を発表して頂き、このままでは小児科医療の崩壊につながるのではないかと危惧される報 告であった。民間病院の私(城間)や浦添総合病院の福本先生の発表では、研修制度の充実が医師 の確保のためには欠かせいないこと等が伺えた。また、民間病院は、メデイカルクラーク(アシス タント)等の導入が進み始め、医師の負担軽減に大いに役立っている事が紹介された。大学病院で は、一部負担過重はあるものの、医局の努力と工夫で、個人が潰れてしまわないような配慮をして いること等が報告された。詳しい内容は、同シンポジウム報告をご覧いただくとして、いろいろな 病院の現状と、取り組みを知ることにより、工夫が生まれるのではないかと期待したい。

今回のシンポジウムの演者がすべてを語れたわけではないので、今後さらにいろんな分野につ いて報告して頂き問題点を共有して行きたいし、また、病院単独での取り組みだけでは解決でき ない問題もあり、それらについては、今後医師会を中心として県全体で取り組む必要があるので はないかと強く感じた。