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平成22 年度沖縄県医師会感染症講演会

宮里善次

理事 宮里 善次

去る4 月30 日(金)、本会館において標記講 演会が開催され、沖縄県新型インフルエンザ対 策本部(以後、対策本部)の元班長糸数公先 生より、「新型インフルエンザの経験」をテー マにご講演いただいた。

講演の要旨については以下の通りである。

今回の沖縄県におけるN1H1 ブタインフルエ ンザ流行と問題点などを総括して頂いた。

沖縄県は全国でも唯一第二波まで経験し、第 一波と第二波の間隔は18 週で、欧米の流行パ ターンと酷似している。罹患者は定点報告数の 5 〜 10 倍と推定されるが、少なく5 倍で見積も っても22 万人が罹患したと推定される。入院 は254 人、死亡は3 例である。流行パターンは 似ているが、欧米やメキシコなどの諸外国と比 べると、極めて少ない死亡率である。

中身の詳細は本文を参考にして頂きたい。

ところで、なぜ沖縄県だけ第二波まで流行し たのだろうか。

神戸・大阪で国内発生が報道された時点では 強毒型対応の対策だったため、全県下の学校が 一斉休校となった。結果として重症化症例や死 亡例が報告されていないばかりか、拡大期を二 ヶ月も延長できている。しかも最近のウィルス 遺伝子レベルの検証によれば、神戸・大阪で最 初に流行したウィルス株はあの休校処置で絶滅 したと報告されている。

つまり、二ヶ月後に関西で流行した新型イン フルエンザは後から入ってきた異なる株だった のである。ところが沖縄県で流行した段階では 厚労省の解釈が変わって、季節型並の対応とし て個別休校対策がとられた。両者の初動の違い による結果の差は歴然としている。『水際対策』 など批判の多かった公衆衛生対策であったが、 感染初期の一斉休校の教訓は今後に生かすべき であろう。

不幸中の幸いと云うべきか、今回沖縄県が全 国で最も感染者が多かったにも関わらず、死亡 例が少なかったのは会員の先生方の献身的な日 常診療と、対策本部のリーダーシップの賜物と 言えよう。

他県に先んじた対策本部のリーダーシップの 一部を紹介する。

1)臨床診断で構わない

2)十代へのタミフル投与奨励

3)『沖縄県新型インフルエンザ小児医療情報ネットワーク事業』の運用

4)治癒証明書の記載不要

5)幼稚園児への集団的ワクチン接種

6)浪人生へのワクチン接種前倒し(厚労省の圧力により不可となったが…)

等々、あげればきりがない。

最後に糸数先生がおっしゃった「現場では県 独自で判断して動くことがより重要だと思う」 と云う言葉が印象的であった。

新型インフルエンザの経験(講演要旨)
八重山福祉保健所健康推進班長兼国保・健康増進課副参事
糸数 公

新型インフルエンザの対応から学んだこと

新型インフルエンザ 対応に追われた1 年間 となったが、多くのこ とを学ぶことができた。 具体的には、咳エチケ ットの大切さ、リスクコミュニケーション(うつさない・うつらな い・つぶさない)、パンデミック時に通常の社 会機能や医療機能を維持に努めること、医療現 場との情報交換を怠らないこと、国の既定路線 にとらわれず現場で判断すること等である。特 に、他県と違う流行パターンを示した本県で は、現場からの情報に基づいて、県で暫定的に方針を決めて、国の指示とは異なる対策を講じ る場面が幾度もあったが、おおむね良好な結果 をもたらした。その大きな要因として、医師会 等の関係機関が県の方針に理解を示し、協力し て頂けたことがある。これらを踏まえて、次の パンデミックの準備を進めるべきであろう。