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薬物乱用のない社会環境づくりを目指して
〜「ダメ。ゼッタイ。」普及運動(6/20 〜 7/19)及び
「6.26 国際麻薬乱用撲滅デー」に因んで〜

国吉広典

沖縄県福祉保健部薬務衛生課課長
国吉 広典

宮城信雄会長をはじめ、会員のみなさまにお かれましては、沖縄県の麻薬行政に対し、日頃 から深い御理解と御協力をいただき、厚くお礼 申し上げます。

さて、今日、薬物乱用問題は全世界的な広が りを見せ、人間の生命はもとより、社会や国の 安全や安定を脅かすなど、人類が抱える最も深 刻な社会問題の一つとなっています。

このため、国連では、平成21 年(2009 年) 3 月の国連麻薬委員会において、新政治宣言 「新国連薬物乱用根絶宣言」を採択 し、平成31 年(2019 年)までに薬 物乱用を根絶することを目指すこと としています。毎年6 月20 日から7 月19 日に実施される「ダメ。ゼッ タイ。」普及運動は、新国連薬物乱 用根絶宣言(2009 年〜 2019 年)の 支援事業の一環として、官民一体と なり、国民一人一人の薬物乱用問題 に対する認識を高め、併せて、国連 決議による「6.26 国際麻薬乱用撲滅 デー」の周知を図り、内外における 薬物乱用防止に資することを目的と して行っているものです。

我が国における最近の薬物情勢は、覚せい剤 事犯の検挙人員は減少傾向となっていますが、 依然として全薬物事犯の検挙人員の8 割を占め ており、覚せい剤事犯が薬物問題の中心的課題 である状況が継続しています。また、大麻事犯 の検挙人員は、10 年前の約2 倍に増加してい るほか、MDMA 等合成麻薬事犯については、 押収量が急増しており、いずれも検挙人員の8割強が初犯者であるなど、乱用のすそ野が広が っている状況です。一方、沖縄県の薬物事犯の 検挙人員についても10 年前に比べると約2 倍 に増加しており、その約半数は大麻の密栽培や 不法所持などの事犯となっております(図「麻 薬・あへん・大麻・覚せい剤事犯検挙者数の年 次別推移(沖縄県)」参照)。最近では、高校生 による大麻の不法所持及び吸引事件が発生し、 薬物乱用の低年齢化が危ぶまれており、今後も 予断を許さない状況にあります。

図

沖縄県では、薬物乱用防止対策として、知事 を本部長とする沖縄県薬物乱用対策推進地方本 部を設置し、国、県及び関係機関が連携して、 平成20 年度に策定された「第3 次薬物乱用防 止5 カ年戦略」の目標実現に向けて、取締りの 強化や、不正大麻・けし撲滅運動(4 月1 日か ら5 月31 日まで)、「ダメ。ゼッタイ。」普及運 動(6 月20 日から7 月19 日まで)や麻薬・覚せい剤乱用防止運動(10 月1 日から11 月31 日 まで)など、さまざまな啓発活動を展開してい ます。

特に、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動の期間中 においては、ガールスカウトやボーイスカウト の他、中学生や高校生などのヤングボランティ アや協賛機関に御協力いただき、街頭キャンペ ーンにおける啓発資材の配布や「ダメ。ゼッタ イ。」国連支援募金活動を実施しております (写真「平成21 年度「ダメ。ゼッタイ。」普及 運動街頭キャンペーンの様子」参照)。この活 動により、県民一人一人はもちろんのこと、青 少年の健全育成とボランティア活動への積極的 参加意欲の増進を促し、薬物乱用防止に関する 理解と認識を高めるとともに、善意の浄財を募 り、開発途上国等で薬物乱用防止活動に従事し ている民間団体(NGO)の活動資金として国 連を通じて支援することによって、薬物乱用の ない21 世紀の地球環境づくりを目指しており ます。

写真

写真:「平成21 年度「ダメ。ゼッタイ。」普及運動 街頭キャンペーンの様子」

ところで、薬物乱用とは、医薬品を本来の目 的から逸脱した用法や用量あるいは目的のもと に使用すること、医療目的にない薬品を不正に 使用することをいいます。もともと医療目的の 薬物は、治療や検査のために使われるもので、 それを遊びや快感を求めるために使用した場合 は、たとえ1 回使用しただけでも乱用にあたり ます。薬物を乱用したことによる心身への悪影 響は半永久的に続き、薬物の乱用でひとたび幻 覚・被害妄想などの精神の症状が生じると、治 療によって表面上は回復しているかにみえて も、精神異常が再びおこりやすい下地が残って しまいます。乱用をやめ、普通の生活に戻った ようでも、お酒を飲んだり心的なストレスな ど、ほんの小さなきっかけによって突然、幻 覚・妄想などの精神異常が再燃するフラッシュ バック(自然再燃)がおこってしまうこともあ ります。

平成20 年度に、アルコール以外の精神作用 物質使用による薬物関連精神障害患者を対象に 行われた研究報告(※)によると、対象患者の 現在の精神科的症状に関して臨床的に最も関連 が深いと思われる薬物を調査したところ、「覚 せい剤症例」が52.1 %と最も多いのですが、 「睡眠薬」、「抗不安薬」、「鎮痛薬」など医師か らの処方薬や、「鎮咳薬」などの市販薬による 症例の割合が合計で18 %にも上っています。

また、医療機関等からの麻薬や向精神薬の盗 難、横流し事件や、向精神薬を悪用した殺人事 件なども後を絶ちません。このような医療以外 の目的で医薬品が乱用されている実態が伺え、 さらなる薬物乱用防止対策を講じる必要があり ます。

会員のみなさまにおかれましては、薬物乱用 の無い社会環境づくりを目指し御協力いただく とともに、麻薬や向精神薬の取り扱いの不備に よる事故が発生しないよう、引き続き保管・管 理の徹底に努めていただきますようお願いいた します。

参考文献(※)平成20 年度厚生労働科学研究 費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリー サイエンス総合研究事業) 分担研究報告書

「全国の精神科医療施設における薬物関連精神 疾患の実態調査」

分担研究者 尾崎茂 国立精神・神経センタ− 精神保健研究所薬物依存研究部

研究協力者 和田清 国立精神・神経センタ− 精神保健研究所薬物依存研究部 大槻直美(同上)研究助手