沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 5月号

世界禁煙デー(5/31)にちなんで

山代寛

沖縄大学人文学部福祉文化学科教授
山代 寛

世界禁煙デーとは

毎年5 月31 日は、1988 年にWHO(世界保 健機関)が制定した禁煙を推進するための記念 日 世界禁煙デーだ。WHO では、毎年「世界 禁煙デー」に関するスローガンを定めている。 23 回目となる今年のテーマは「Gender and tobacco with an emphasis on marketing to women 女性へのタバコの売込みをやめさせよ う。」だ。タバコ会社は女性をターゲットにす ることでその子供まで顧客に取り込もうという 戦略を持っている。女性へのタバコの流行を阻 止することは、包括的タバコ対策戦略の重点の ひとつだということがFCTC(タバコ規制枠組 み条約)でも認識されている。

FCTC とは

医療専門家が知っておくべきFCTC につい てご紹介したい。FCTC は喫煙による健康被害 の防止を目的とした公衆衛生分野で初の国際条 約だ。

WHO の報告によると、世界全体で毎年540 万人がタバコによって死亡しており、今後さら に増えると予測されている。今すぐ対策を講じ なければ21 世紀には10 億人がタバコによって 殺されると警告している。この深刻なタバコの 害から世界の人々を守るため、WHO はFCTC を発効した。日本を含む世界168 カ国が締約し てる。この条約の第8 条は、屋内施設の100 % 完全禁煙を実現するための法的規制をとること などを求めるもので、本年2 月26 日までにそ れをなす法的義務が発生していた。罰則規定の ない健康増進法があるだけで具体的な動きが見 られなかった我が国も、この日にあわせ厚生労 働省は屋内全面禁煙の通知を出した。

受動喫煙を完全になくすには、屋内禁煙以外 有効な策はない。私たちも沖縄県民の健康と命 を守るため全面禁煙条例の施行を沖縄県に求め ていくことが必要だと思う。

JT の利益を優先させる国の施策により日本 の喫煙対策は先進国で最低レベルだ。受動喫煙 対策だけでなく、国が履行しようとしない FCTC の条項はほかにもいろいろある。タバコ 税を大幅に上げることもFCTC に盛り込まれ ているが、我が国では10 月の値上げ後もなお、 ほかの先進国の半分以下の値段でタバコが手に 入る。また多くのFCTC 締約国がタバコパッ ケージの50 %以上に写真入警告をして(写真 1)、喫煙率低下に結びつけているが、我が国で は若い女性がほしがるようなパッケージが平然 とコンビニで売られる(写真2)。しかし我が国 の施策として他の国から評価されていることも ある。それは禁煙治療への保険適応だ。

写真1

(写真1)FCTC 締約国のタバコパッケージ(タイ)

写真2

(写真2)コンビニで売られる景品付きタバコ
出典『タバコは美容の大敵!』http://www.tobacco-biyou.jp/

禁煙治療について

沖縄大学に勤務のかたわら沖縄市のちばなク リニックと西原町のセブンスデーアドベンチス トメディカルセンター(AMC)で禁煙外来の お手伝いをしている。ちばなクリニックは年間 100 人以上の禁煙成功者を出し、ニコチンパッ チ処方量全国一の実績を持つなど、禁煙学会等 で脚光を浴び、私も岡山にいるときから注目し ていたが、実際働いてわかったことは、パッチ でやめられない人が大勢いること、そしてその 人たちが禁煙をあきらめず、一昨年の5 月から 発売されている経口の禁煙補助薬バレニクリン (商品名チャンピックス)を求めて受診され、 そしてどんどん禁煙していることだ。バレニク リンは中枢神経にあるα 4 β 2 ニコチン型アセ チルコリン受容体に選択的に結合し、拮抗薬お よび弱い作動薬として二面的に作用する。つま り、喫煙によりもたらされる多幸感・満足感を 抑制(拮抗薬作用)し、非喫煙時の禁断症状を 抑制(弱い作動薬作用)するので「薬を飲むと タバコを吸いながら止められる」ことが大きな 特徴なのだ。ニコチンパッチの治療では「この 治療を始めたら1 本も吸ってはいけませんよ。」 と言わなければならないのに対してチャンピッ クスではまず薬物療法を開始し、「どんどん吸 ってかまいませんよ。」という助走期間をおい た後に禁煙を開始できるので、禁煙に対する恐 怖心や警戒感を軽減でき、自分で喫煙の無意味 さを実感できる。これが結果的に高い禁煙成功 率につながり、昨年度はちばなクリニックがバ レニクリンの処方量においても全国一となっ た。ニコチンパッチを主に処方していた時の約 2 倍の禁煙成功者も全国一だろうが、決め手は バレニクリンの効果だけでなく、同院の人間ド ック受診喫煙者をうまく禁煙外来に誘導してい ること、そして医療チームから禁煙をあきらめ るなというメッセージがきちんと伝わっている ことだと思う。

未来の世代を守るために

ちばなクリニックでは未成年の禁煙外来にも 取り組んでいるがその成績は成人に比べてはか ばかしくない。AMC も未成年の喫煙対策に長 く積極的に関わっているが困難さに直面してい る。未成年者の禁煙が難しいからこそ、タバコ 値上げや、コンビニやネットでのタバコ販売問 題や学校敷地内禁煙、タバコスポンサーシップ、 プロダクトプレースメントの排除などの周辺対 策がより重要だ。未来の世代を守るため、タバ コの害を知る医師の積極的な喫煙対策への関わ りが、教育、行政の現場から求められていると いうことを沖縄に来てより強く感じている。

沖縄ニコチン依存症研究会

そうした求めに応じるためにもきちんとした 依存症理解が必要だという思いから禁煙支援、 喫煙対策で活躍されている先生方とともに、沖 縄ニコチン依存症研究会(ニコ研)を立ち上げ た。立ち上げの会として昨年の5 月29 日に沖 縄県医師会館で、禁煙デーのテーマ「Tobacco Health Warnings」に即してちばなクリニック 健康管理センター医長清水隆裕先生により 「タバコの健康警告」について、そしてリセッ ト禁煙で著名な磯村毅先生を招いて「ニコチ ン依存症に対する心理療法」について講演して いただいた。タバコの真実と依存症への理解を 深める立ち上げにふさわしい内容だった。今年 はやはり沖縄県医師会にて5 月27 日木曜日、 沖縄県立看護大学の新城正紀教授による沖縄県 のタバコについての疫学データのご紹介と、済 生会滋賀県病院健康管理部長稲本望先生(日 本禁煙学会評議員)に医療従事者がすぐに取り 組める喫煙対策について講演頂く予定だ。医師 に限らず広く医療従事者においでいただき、喫 煙対策や禁煙支援の楽しみを共有したいと思っ ている。ともにSmoke Free Island をめざし 夢を語りあいましょう。

問い合わせ先:沖縄大学地域研究所内
沖縄ニコチン依存症研究会 yamasiro@okinawa-u.ac.jp